特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

FORGIVE/UNFORGIVEN:イントゥ・ザ・ワイルド

ショーン・ペン監督作の’イントゥ・ザ・ワイルド'http://intothewild.jp/top.htmlを恵比寿で。
成績も優秀、家庭も裕福と、一見恵まれた環境にあるかのように「見える」青年が、ハーバード・ロースクールへの進学も銀行預金も何もかも捨て、アラスカの荒野を目指して放浪の旅に出る、そんな話だ。何でも90年代初頭の実話をもとにしたものらしい。
放浪の旅で描かれるアメリカの光景は厳しくも美しい。見渡す限り何もない荒地、広大な畑と水平線、霧に煙る砂浜、ヒッピーの少女、それにロバート・アルドリッチが「北国の帝王」で描いたようなホーボーの列車無賃乗車が今でも残っているのにはびっくりした。不正乗車を阻止する車掌までどことなくリー・マーヴィンに似ている(気がする)。
特にストーリーに大きな起伏があるわけでもないのだが、アラスカでの隠棲と放浪の旅がうまくクロスして描かれているので、3時間近い上映時間も短く感じる。挿入される幾つものエピソードは、ただただ最後に用意された静かなクライマックス=「アラスカの青空」に向かって収束していく。まるで崩れ落ちる滝に向かって、いくつもの川の流れがゆっくりとまとまっていくかのようだ。ショーン・ペンという人は激情型、天才型の人だと思うが、いざ自分が作る側に回ると抑制したタッチになるのは面白い。
主人公は、この世界を許せない人間だ。その世界は自分が認識しているからこそ存在している。だから主人公が許せないのは偽善にまみれた両親でもなく、(挿入されたニュース映像に写っている)白々しく湾岸戦争の開戦演説をするブッシュ(親父のほうの戦争屋)でもなく、何よりも自分が許せないのだ。
主人公がアラスカにたどり着く直前に知り合った、家族を失い孤独に暮らしている老人のセリフは印象的だ。「いつか自分で自分を許すことができたら、君の周りの世界には光彩がきらめくだろう」
きっと、そうなのだろう。許すことが出来ない者は許されることもないのかもしれない。でも、それは言葉で言うほど、簡単なことではないのだ。だからこそ原作を読んだショーン・ペンが直ぐ映画化権を獲得したのだと思う。