特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

わが教え子、ヒトラー

ウルリッヒ・ミューエ主演の『わが教え子、ヒトラー「わが教え子、ヒトラー」公式サイト
善き人のためのソナタ』の俳優さんの遺作と言われたら、見に行かざるを得ない。
敗戦直前の状況下で欝になったヒトラーを、強制収容所に押し込まれていたユダヤ人俳優が演説を指導する、そんな話だ。
 良くも悪くも、よくぞ ここまで明確な悪意を持ってヒトラーをコケにした。ここではヒトラーは引きこもりで、不能で、誇大妄想だ。犬の真似をさせられ、ボクシングのふりで強がっても、主人公に簡単に殴り倒される。ユダヤ人虐殺のモチベーションは幼少時に親に暴力を振るわれたから。実話かどうかは知らないが、まあ独裁者なんて、多分そんなもんだろう。確か加瀬俊一だかの本で、ヒトラーエヴァ・ブラウンスパンキングをねだったという話があった。この映画で描かれた、黄色いジャージで体操したり、添い寝してもらわないと眠れないヒトラーの姿は結構 可愛かったぞ。
 原題は’’Mein Hurer''。劇中、ヒトラーユダヤ人の主人公に一瞬 友情が芽生える、暖かな瞬間に述べられる言葉だ。そのあと、すぐシニカルな現実に引き戻されてしまうのだけれど。このあたりの演出は見事だった。
 それにしても権力者をこれだけ笑い倒せる、のはご立派。権力に対峙する笑い、は民主主義の証ではないか。何もドイツに限った話ではない。カエサルの禿を笑ってたローマだってそうだ。それに引き換え、日本ではザ・ニュース・ペーパーくらいしか思い浮かばないが、あれはちょっと痛々しさを感じてしまう。強いて言えば大川興業くらいか。日本だったら太平洋戦争時でも、現在でも、腐った権力者のネタはいくらでもあるだろう。最近思いつくだけでも『レイプは元気でいい&消費者はやかましい』農水大臣に、自分で補助金もらっちゃったよ農水大臣に、絆創膏くん、『私は権力の頂点に居る、でも、お漏らしちゃん』総理大臣に、DV首相、大雨は岡崎でよかった次期首相?、と政治家の不良在庫のオンパレード、おっとと。
 口直しに、ウルリッヒ・ミューエのこと。抑えに抑えた演技の後、最後に一瞬だけ笑顔。なんて笑顔が温かく、素敵な人なんだろう。これが遺作になってしまったのが残念でならない。