特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『記者たち 衝撃と畏怖の真実』と『バイス』

 ボクの住んでいる地域でも区長選、区議選が始まりました。14日に告示して21日に投票、なんておかしいですよね。こんなに選挙期間が短くては候補者のことなんか判る筈がないし、まして多くの人にとって関心が湧くわけもありません。投票率だって上がるわけがない。誰も不思議に思わないのでしょうか。
だから組織や宗教絡みの候補や地元のボスみたいな役立たずのジジイばかりが当選するんです。
●日本側だけにジジイが並んだ写真を見ても、この国はお先真っ暗!ということが良くわかります。

外務省 on Twitter: "日EU経済連携協定第1回合同委員会の開催(結果)
10日,午後6時25分から約30分間,東京において,日EU経済連携協定に基づき設置された合同委員会の第1回会合が開催されました。
https://t.co/DUSi0xLP5Q… "


 小選挙区制だけでなく、日本の選挙制度は根本的におかしい。運動の期間だけのことを考えたって1か月、いや半年くらいかけてやればいいんです。それだったら、市民の関心だって高まるでしょう。左右を問わず、どの政党も投票率を高めようと真剣に考えてない。ブタ🐷どもめ(笑)。いや豚さんに失礼です。
選挙制度の見直しは日本の重要課題、それも、かなり優先度が高い課題じゃないですか。
●この週末は朧月夜でした。
f:id:SPYBOY:20190414171815j:plain


と、いうことで 今回はイラク戦争を描いた対照的な作品二つです。まず、映画『記者たち 衝撃と畏怖の真実

f:id:SPYBOY:20190410201755j:plain
reporters-movie.jp

2001年9月11日、ニューヨークでテロが発生する。アルカイダの仕業ということが判明するが、ブッシュ政権はなぜかイラクへ侵攻しようとしていた。いくつもの地方新聞を傘下に持つ新聞社、ナイト・リッダー社ワシントン支局の記者、ランデー(ウディ・ハレルソン)とストロベル(ジェームズ・マースデン)は政権に疑念を抱き、取材を進めるが- - -

 『スタンド・バイ・ミー』や『ミザリー』のロブ・ライナー監督が事実を基にした新作です。昨年の『LBJ ケネディの意志を継いだ男』と同様、ウディ・ハレルソン主演の政治劇。他にもトミー・リー・ジョーンズミラ・ジョヴォヴィッチ、それに監督本人が出演、気合が入っています。
監督はこの作品を作った理由を『ベトナム戦争体験者として、嘘の理由で戦争が始められ、戦死者が大勢出たことが許せなかった』とNHK(BS)のインタビューで述べていました。

LBJ ケネディの意志を継いだ男 [Blu-ray]

LBJ ケネディの意志を継いだ男 [Blu-ray]

spyboy.hatenablog.com


 映画は911のテロから始まります。激昂するアメリカ国民。犯人はどうやらアルカイダらしいということが報じられます。
 ところがテロが起きた翌年、いくつもの地方新聞を傘下に持つ新聞社、ナイト・リッダー社のワシントン支局の記者たちは、ブッシュ政権の一部から『イラクを攻めるべきだ』という声が出ていることを聞きつけます。
●ランデー(右、ウディ・ハレルソン)とストロベル(左、ジェームズ・マースデン)。撮影には実在の二人も参加して台詞や事実関係の再現を行ったそうです。
f:id:SPYBOY:20190410201852j:plain

 アルカイダフセインが結びついているなんて、政府関係者も中東専門家も記者たちも信じられませんでした。イスラム原理主義的なビン・ラディンと世俗的な独裁者、イラクサダム・フセインは水と油、むしろ対立する存在だったからです。
 監督のロブ・ライナー自らが演じる支局長は半信半疑ながら、記者たちに徹底調査するよう命じます。


 ところが政府の関係者は政権の中枢に『イラクを攻めるべきだ』という声があることを証言します。記者たちはそれがラムズフェルド国防長官、チェイニー副大統領ら政権のトップが震源であることを突き止めます。
●記者たちは政権の関係者に取材を試みます。すると良心の葛藤に苦しんでいた彼らからは驚くべき話が浮かび上がってきます。
f:id:SPYBOY:20190410201826j:plain

f:id:SPYBOY:20190410201955j:plain


 ナイト・リッダー社はそれを記事にしますが、ローカル紙故か、他のマスコミはあまり取り上げない。むしろラムズフェルドやチェイニーなど政権幹部がカメラの前でフセインへの疑惑を公言するようになると、『フセインアルカイダが結びついている』などの敵意を煽るようなニュースがNY・タイムスやワシントン・ポストなど一流マスコミでも取上げられるようになります。
●支局長(右、ロブ・ライナー)とベテラン記者(左、トミー・リー・ジョーンズ
 f:id:SPYBOY:20190410202020j:plain

 特にリベラルな筈のNYタイムスが『イラクがウラン濃縮に必要なアルミニウム管数千本を入手しようとしていた』という記事を流したのが決定打となりました。NYタイムスにもNHKの岩田明子みたいな女性記者(ジュディス・ミラー)が居たんです。後に彼女もチェイニーのスタッフに騙されたことが判るのですが。

 ウォ―タ―ゲートを暴いたワシントン・ポストやNY・タイムズですら政府の手先になった。マスコミがダメなのは日本だけと思いがちですが、そうではない。彼らは記事が売れることを優先させる。その点は日本もアメリカも大した違いはありません。営利企業ですから、トップと安倍晋三が一緒に飯を食ったくらいじゃ大して変わりません(笑)。
もちろん日本の情報公開は酷いけれど、それは別の話です。報道の自由は与えられるものではなく、マスコミと国民が一緒に勝ち取るものですから。
f:id:SPYBOY:20190412085328j:plain

 スノーデンの事件でもイラク戦争でも政府に屈しなかったイギリスのガーディアン紙の経営母体は非営利の財団でした。マスコミの堕落は営利企業が報道をやっているというメカニズムの問題の方がはるかに大きい。商業誌でも政府に屈しなかったナイト・リッダーは稀有な例です。日本でもそうかもしれませんが、地方紙だったということもあるかもしれません。


 NYタイムスの報道を契機に世論ではイラクへの戦争やむなしという声が高まっていきます。政権内唯一の良識派、元将軍の国務長官パウエルも嫌々賛成します。ブッシュ政権はわざわざパウエルに国連でイラク大量破壊兵器があることを演説させる。後日 パウエルは、その誤りを認めます。彼は『生涯最大の恥』と言ってましたっけ。

 米議会もオバマなどわずかな例外を除いて、民主党クリントンやケリーも開戦に賛成します。映画の中に引用された当時の記録フィルムを改めて見ると、これだけでもクリントンには大統領の資格はない、と思いました。

 その中で『大量破壊兵器の存在は証拠がない』と報道し続けるナイト・リッダー社への圧力は高まってくる。政府から、傘下の新聞社から、読者から、編集部には有形無形の圧力が加えられます。記者たち個人も身の危険を感じるようになる。
●東欧生まれの記者の妻(ミラ・ジョボヴィッチ)は旦那に『政府は家まで盗聴している筈』と警告します。独裁政権のやり口は体験しているからです。
f:id:SPYBOY:20190410202052j:plain

f:id:SPYBOY:20190410202442j:plain


 それでも圧力をはねのけ、戦争中もナイト・リッダー社は真実を伝え続けます。支局長はこう言って部員に発破を掛けます。
『NY・タイムズやワシントン・ポストが政権の手先になりたいのならやらせておけばよい。我々は地方紙だ。間違った戦争が始まれば、我々の地元にある米軍基地に無駄死にした兵士の死体が帰ってくる。我々はその手助けをするのは断じてごめんだ。』
f:id:SPYBOY:20190410202325j:plain

 やがて真実は明らかになります。NYタイムスはフェイク・ニュースを流したことを検証、謝罪します。ここは日本のマスゴミとは違います。NYタイムスの岩田明子こと、ジュディス・ミラー記者も辞任せざるを得なくなる。

 一方 ナイトリッダー社の記者たちは真実を守った、として称えられます。しかし、ラムズフェルドが数週間か数か月で終わると言っていたイラク駐留は17年たった今も続いています。イラク国民は100万人近くの犠牲者を出し、米軍も3万人以上の死傷者を出しました。依然 イラクにはアメリカ軍が常駐しているし、戦争への巨額の出費は今も米国の財政赤字という形で後を引いています。
●サイド・ストーリーとして、イラクへ送られ、クルマ椅子で帰国した若い兵士の話が挿入されます。
f:id:SPYBOY:20190410202403j:plain

 当時の記録フィルムを織り交ぜた映像は、日本の凡百のドキュメンタリーとは違って、一方的に片方の言い分を垂れ流したり、誰かを責めたりするような内容ではありません。
 ただ お話しとしては平坦なので物足りなく感じる観客もいるかもしれません。演技力に定評があるウディ・ハレルソントミー・リー・ジョーンズの無駄遣いという考え方もあるでしょう(笑)。

 しかし、ボクは非常に面白かった。というのは、これは今の日本にそのままあてはまる話だなーと思ったからです。
 普段の仕事でも大勢の反対がある事案を決断するのは大変です。他人の感情なんか全く気にしない(笑)ボクだって、多少は心理的な葛藤がある。まして紛争や事件が起きたとき、多勢に抗するのは本当に難しいと思う。
 特に大衆の感情に火がつくともう、止まらない。太平洋戦争当時の日本もそうだったし、イラク戦争アメリカでも同じでした。NHKが腐ってるどころの話じゃなくて、ワシントン・ポストやNY・タイムスでも止められないんです。むしろ、マスコミがその火を煽る。
 
 国民がヒステリーを起こしている時に、冷静に判断してNOと言える人って滅多にいません。場合によっては自分を犠牲にして『NO』と言う知性と勇気がなければ組織のリーダーの資格はありませんが、おそらく日本のリベラル派の政治家の誰よりも優れているであろうクリントンだって全くダメだった。

 そのような中 ナイト・リッダー社は冷静に事実を伝え続けた。特に支局長は大変だったはずです。アメリカも日本もマスコミはひどいと思いますが、それを罵る暇があったら、自分だったらどうか ということを考えた方が良いと思う。

 日常生活の中で集団ヒステリーに取り巻かれることは今でも、いくらでもあるじゃないですか。北朝鮮のミサイル然り、嫌韓嫌中然り、ピエール瀧然り(笑)、甲子園然り(笑)。戦前の鬼畜米英だって、そうだった。これからだって、またあるでしょう。
 ボクは、イラク戦争のような集団ヒステリーの中でも正気を保っていた人が居た、ということを心の支えにしたいと思います。彼らに出来ることなら、我々にだって出来るかもしれませんからね。

『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』特別映像


『スタンド・バイ・ミー』ロブ・ライナー監督初来日!新作を語る 映画『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』来日記者会見



もうひとつ、日比谷で映画『バイス
f:id:SPYBOY:20190410202502j:plain
longride.jp

 ブッシュ政権で副大統領を務めたディック・チェイニーを描いた実録物、先日のアカデミー賞でも作品賞、監督賞を始め8部門にノミネートされた(受賞はメイクアップ賞だけでしたが)、話題の作品です。

 とにかく監督のアダム・マッケイはボクは大好きです。過去の監督作、ゴールドマン・サックスを告発した『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事! 』、極右のTV番組を笑い飛ばした『俺たちニュースキャスター 史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク 』、リーマン・ショックの内幕を暴いた『マネー・ショート 華麗なる大逆転 』、権力と戦いながら笑って泣かせる、はっきり言って全部 バカで知的な名作揃いです。

spyboy.hatenablog.com
●この作品の主演、ウィル・フェレルが今作ではブラッド・ピットと一緒にプロデュ―サーを務めています。


 今作で取上げられたディック・チェイニーブッシュ政権の黒幕』『史上最悪の副大統領』など様々な異名を持つ保守政界の大物です。しかし、彼の内実はそれほど有名ではありません。この映画でも冒頭に『本作は事実に忠実に描いているが、完全ではない。チェイニーは極端な秘密主義者だから』という前置きが出るほどです。だから、この作品が作られたのでしょう。


 若き日のチェイニー(クリスチャン・ベール)は名門イエール大に進学しますが酒浸りになって学校についていけず、退学を余儀なくされます。ついでに徴兵も逃れています。仕方なく肉体労働に従事しますが、酒は止められず度々警察のお世話になる有様。

 ダメ人間になり下がったチェイニーは高校時代から付き合っていた恋人リン(エイミー・アダムス)に発破をかけられます。
曰く『私に相応しい人間になれ』(笑)。成績優秀で野心家だったリンでしたが、当時の女性は世に出ることは難しかった。彼女はチェイニーを出世させることで、自分の野心を満たそうとするのです。
●チェイニーとリン。鈍重でアル中だったチェイニーの尻を蹴飛ばして、リンは出世街道を歩ませます。

 発奮したチェイニーはワイオミング大に編入、卒業して、議会のインターンになります。


 そこで当時気鋭の下院議員だったラムズフェルド(スティーブ・カレル)と巡り合います。
 タカ派ラムズフェルド軍産複合体を体現したような人物、と言われています。頭はキレますが傲慢で毒舌、人を人とも思わない、権力の為なら何でもやります。
 チェイニーは頭は鈍重でしたが、社交好きなリンの強力なサポートと『余計なおしゃべりをしない』、『忠実に指示を守る』、『忠誠心が篤い』ことでラムズフェルドに気に入られ、彼の仕事のやり方を学んでいきます。
●優秀ですが、敵味方を問わず、人を人とも思わないラムズフェルド

 
 やがてチェイニーはホワイトハウスのスタッフに昇格、ニクソンウォーターゲート事件で辞任した後のフォード政権ではラムズフェルドは国防長官、チェイニーは大統領首席補佐官に出世します。
ラムズフェルド(右)のかばん持ちで若き日のチェイニーは頭角を現します。


 
 民主党のカーター政権に代わって下野したチェイニーは下院議員を目指します。ここでもリンが活躍する。演説がド下手で心臓に持病があるチェイニーに代わって、リンが巧みな演説で人気を集め、下院議員に初当選します。
●野心家の妻、リンは自ら選挙運動の先頭に立ちます。エイミー・アダムスは実在のリンにそっくりです。

 そしてブッシュ(父)政権下でチェイニーは国防長官に就任します。ここまでくれば、将来の大統領の座も夢ではありません。
●TVで開票を見守るキッシンジャー、チェイニー、ラムズフェルド

 しかしチェイニーには娘が二人いました。次女はレズビアンであることを親に告白、共和党の、しかも保守派としては難しい立場です。チェイニーは大統領を目指すより、娘を選ぶ。
 彼は国防長官から民間の石油&軍需会社ハリバートンの会長に天下り、大金を儲けるようになります。のちにハリバートンは後日イラクで兵士たちへの給食や石油採掘、復興事業まで幅広く請け負い、暴利をむさぼったことは有名です。
●チェイニーはハリバートンに天下って大儲けします。


 やがてブッシュ(息子)が大統領選に出馬、副大統領候補を父の政権で気心の知れたチェイニーに打診します。
●ブッシュを演じるサム・ロックウェルは全然似てないんですけど、その馬鹿っぽさを表現することで本人そっくりに見えてしまう。


 副大統領は実権がない事実上の名誉職です。当初は断る気だったチェイニーでしたが、頭が悪いだけでなく人が良いブッシュを丸め込んで自分が実権を握ることを思いつきます。しかも、そうなってもブッシュは嫌そうじゃありません(笑)。
 チェイニーは自分の師匠ラムズフェルドを国防長官に、そして自分の気心が知れたスタッフを政府の各部門に配置して情報と実権を握る一方、ブッシュにはフェイクニュース流布で悪名高いカール・ローブ等わずかな補佐官をつけて単なる操り人形にしてしまいます。
●チェイニーはブッシュを丸め込んで人事から実務まで、自分が握ってしまいます。

スティーヴ・カレルラムズフェルドの傲岸不遜さを本当に良く表現していると思います。


 
 そして911の事件が起きると、緊急事態を盾にしてチェイニーはブッシュを避難させる形にしてホワイトハウスから追い出し、政府の権力を一元的に握ってしまいます。あとは盗聴でも人事でもやりたい放題です。
 チェイニーとラムズフェルドは全然関係ないイラクフセインに戦争をしかけようとします。大量破壊兵器の証拠をねつ造し、マスコミにデマを流し、反対する者はクビにしたり、場合によっては命まで奪おうとする。内容は判りませんが戦争前にチェイニーは石油会社の面々と会談したことも判っています。そしてチェイニーがかってCEOを務めていたハリバートンイラク関連の大量の仕事を請け負います。


 この映画の見所は何といっても俳優陣です。元来はスリムなのに数十キロ太ってチェイニーを演じたクリスチャン・ベール、頭が足りない元アル中のブッシュ(息子)を演じるサム・ロックウェル、それに傲岸不遜な超タカ派ラムズフェルドを演じるスティーブ・カレル。野心家の妻リンを演じるエイミー・アダムス、みんな、そっくりに見える。
●どれも左が本物。元の顔は大して似てないのに映画(右)で見るとそっくりであるだけでなく、彼らのキャラを判りやすく表現している。見事な役者魂。

●1枚目、バットマンを演じたときのクリスチャン・ベール。2枚目は現在の彼。10キロ以上の増量と特殊メイクでチェイニーを演じました。


 役者さんたちの徹底的な役作りは見ているだけで楽しい。本当に脳味噌が足りないブッシュを演じるサム・ロックウェルには大笑いさせてもらいましたが、敵にも味方にも傲岸不遜にふるまって敵だらけのラムズフェルドを演じるスティーブ・カレルはもう本人より本人じゃないかと思うくらいの名演でした。ルックスだけじゃなく、特徴をつかむのが上手いんですね。画面でみるキッシンジャーやウォルフォウィッツ、パウエルなども思い切り笑ってしまいました。
●ブッシュが選挙対策のためにカウボーイのイメージを作るために買った牧場(笑)で、二人は会談をします。
f:id:SPYBOY:20190410203142j:plain

 前作の『マネー・ショート』で見せた、難しい問題をお笑いにして、判りやすくしつつ、本質をとらえるアダム・マッケイの手腕も健在です。長年 コメディ番組『サタデイ・ナイト・ライブ』に関わっていた人ですが、お笑いのセンスと頭の良さ、それに権力には屈しない、日本の芸人とは志とレベルが全然違います。

 今作でも、チェイニーたちがでっち上げた大量破壊兵器疑惑の演説で、たまたま名前を挙げられた麻薬の売人ザルカウイがテロリストの大物に祭り上げられ、当人もその気になってISを結成(笑)、今日に至るまで多くの犠牲者と恐怖を作り出していることがお笑いのなかで暴露されています。酷い話ですが最高におかしかった。
 911を起こしたアルカイダは元々ソ連のアフガン侵攻に対抗させるために、当初アメリカが資金を出して育成したことは良く知られています。ISまでチェイニーのせいだったのか - - -

f:id:SPYBOY:20190410203153j:plain

 普通の映画であればチェイニーやラムズフェルドの行動の理由、訳を若干なりとも描くものです。どんな極悪人だって行動には大抵 理由がありますからね。
 しかし、この映画ではチェイニーやラムズフェルドの内面はそれほど描かれません。彼らは自分の権力の為ならなんだってやる。ただそれだけ。フェイク・ニュースでも証拠の捏造でも、政敵の追い落としでもなんでもやる。大量破壊兵器の証拠はないと報告したCIA諜報員の命さえ奪おうとする。
 
 道徳とかモラルを口にする保守派の彼らですが、彼らには道徳もモラルもない。国も企業も大衆も自分たちのためにある。その原理は徹頭徹尾 徹底している。ブッシュだったらオヤジに褒めてもらいたい、とか、ニクソンやパウエルだったら彼らなりの理想があったとか、そういう人間味は一切ない。
f:id:SPYBOY:20190410203117j:plain


 マッケイ監督は今回は権力を笑いのめすだけでなく、むしろ権力亡者たちを淡々と描き続けます。酔っぱらって散弾銃を撃って他人に大けがを負わせても、イラク戦争が嘘だとバレても、インチキな国連演説で結果的にISを育成し、今日に至るまで世界が滅茶苦茶になっても、チェイニーは一切謝罪しない。心臓麻痺で死にそうになっても、しぶとく生き続ける。

 チェイニーは極悪人ですが、バカではない。保守派ですがイデオロギーには左右されず、現実を見据えている。その恐ろしさをこの映画はひたすら描き続ける。先ほどの『記者たち』もそうですが、勧善懲悪で一方の言い分だけを取り上げる三上智恵などの日本の頭の悪い作品とは違います。そんな映画じゃ、見る側は得るところがないんですよね。


 切れ味鋭いギャグの連発の中でウスら寒い物を感じさせる、凄い映画です。アメリカの悪人は確かに桁外れの悪ですが優秀です。だけど、それを告発する側の知性も勇気もユーモアのセンスも桁外れです。
 監督も俳優も素晴らしい技量を発揮して、政界の大立て者や極右の大金持ちにも平気で喧嘩を売る(笑)。そういう作品をブラッド・ピットウィル・フェレルのような大スターがプロデュースで支え、アカデミー賞の候補になるような、思い切り笑える大ヒット作をつくってしまう。

 トランプに投票するような人がこの映画を見るとは思わないけれど、観客の質も作る側の質も日本とは全然レベルが違うことを思い知らさせてくれる映画でした。とにかく、面白いです。

主演クリスチャン・ベール×監督アダム・マッケイ!『バイス』予告編


【解説動画】アカデミー賞8部門ノミネート映画『バイス』を町山智浩が徹底解説‼



『バイス』4.5(金)公開/『バイス』クリスチャン・ベール_町山智浩氏インタビュー映像《本年度アカデミー賞受賞!》

読書『平成デモクラシー史』と『0412再稼働反対!首相官邸前抗議』

 今週は思いもがけぬ寒さでびっくりしました。4月になりましたけど、冬のスーツをしまうタイミングが中々ありません。
 このままゴールデンウィークまで、スーツをしまわずに耐え忍びたい!そうすれば、もうクールビズで、春夏物のスーツを出さなくて済みます(笑)。新たなスーツを出すのは良いんですが、気まぐれな春の雨に見舞われてズボンの折り目が消えちゃうのがいやなんです(貧乏性)(笑)。
●雨上がりの木曜日の朝、舞い散る桜の花びら。寒い今年は桜が長持ちしました。
f:id:SPYBOY:20190409065820j:plain


 さて元号だの、お札だの、ピエール瀧氏だの、ゴーン氏だの、TVのニュースでは相変わらずくだらないことばかりやっています。ボク自身はTVはそれほど気にしてません。ちゃんと物事を理解するには自分で調べて自分の頭で考えなければムリと思ってるからです。

 一方的に情報を垂れ流すTVはその反対の存在ですから、最初からあてにしてない(笑)。たまにニュースを解説しても幼稚だったり、浅い意見ばかりじゃないですか。深夜のドキュメンタリーやドラマを別にすれば、TVの存在価値は速報性だけです。あとは観なければいいんですよ(笑)。
f:id:SPYBOY:20190410082748j:plain

 でも、流石にこの2,3年 NHKの夜7時、9時のニュースはやっぱりおかしいと思います。ボクは見てませんが民放はもっとひどいんでしょ?いずれにしても次から次へと、TVではくだらないニュースばかり流している。

 かって韓国の軍事政権は3S政策(スポーツ・セックス・スクリーン)で、国民の政治への関心を逸らしました。今の日本のTV放送もそれと同じです。スポーツ、スキャンダル、あと何だろ(笑)。韓国では国民は3S政策に飽き足らなくなって軍政は倒れた。日本人はどうでしょうか。

 いずれにしても経済/外交失政だけでなく、国民の政治への関心を逸らせ、統計すら改竄し、私利私欲に走る今の日本政府は途上国の独裁政権に近い。それくらいの認識で間違いないのではないでしょうか。極右のソフト独裁かな。
f:id:SPYBOY:20190410082818j:plain


 今週は 読書の感想です。『平成デモクラシー史』。と言ってもまだ、全400ページの半分、小泉内閣のところまでしか読んでないんですが、先週の選挙の結果を見て思うところがあったので。

平成デモクラシー史 (ちくま新書)

平成デモクラシー史 (ちくま新書)

 日経の政治部記者が、デモクラシーというか、平成になってからの政治史を描いたものです。政治家だけでなく、佐々木毅飯尾潤など、実際に政治に影響を与えた学者たちにも取材しており、内容はなかなか深いです。一方的になんらかの立場を押し付けるようなものではありません。

この本を読んで、ボクは以下のような感想を持ちました。

1.90年代の『政治改革』は大失敗だった。
 小選挙区制を中心とした『政治改革』は万年与党と万年野党、自民党社会党がいわば馴れ合いで政治を進めていた55年体制の『コンセンサスモデル』からイギリス型の『多数決モデル』にさせるための制度でした。

 確かに55年体制は『物事を決めているのは政府なのか、与党なのか判らない』、『高度成長期のように経済のパイが増えることは考えにくいので、これからは従来の利益分配政治を続けるのは難しい』、『中選挙区制は金がかかる』などの問題がありました。
 しかし、小選挙区制ではあまりにも死に票が多すぎて、多様な国民の意志が反映されにくい党執行部の権限が強すぎて独裁体制になりがち、などのデメリットはあまりにも大きい。また多様化し利害が複雑に入り組んだ成熟国では多数決で右か左に極端に方向がぶれるのは望ましくありません。成熟国が急に方向転換するのは難しいし、犠牲になるものも多すぎる。
 
 結果として、小選挙区制は小泉然り、安倍然り、首相の権力維持の道具に使われるばかりでした。その一方 死に票は増えて投票率は下がるばかり。確かに政権交代はありましたが、それ以上に小選挙区制のデメリットばかりが目立ちます。
ちなみに『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を書いたエズラ・ヴォーゲルは『小選挙区制になってから議員は目先の選挙に追われて、大物の指導者が生まれにくい時代になった』と言っています(東洋経済 4月20日号)

 この本では『成熟国では他党制、比例代表制の『コンセンサスモデル』の方が優れている』と、当初 小選挙区制を提唱した米政治学会会長、レイプハルトが政治状況を見て意見を変えたことが紹介されています。海外の学者が言ってることを上っ面だけ輸入するのが明治以来の仕事になっている日本の学者はだから、ダメなんです。政治だけでなく経済学者も含め、自分の頭で理解できてない奴が多すぎるから、環境に応じた見直しや修正が中々できない。

2.小沢一郎は疫病神
 『多数決モデル』をビジョンとして提示したのは小沢一郎ですが(佐々木毅などの学者の力を借りて)、結果として小沢は政争を繰り返すばかりで政治的には何も成果を上げられませんでした。
 そもそも多数決モデルは手段で、目的である『日本をどうする』というビジョンは与野党ともに甚だ薄かった。最初は竹中平蔵小沢一郎のブレーンだったんですから(笑)、小沢一郎は権力を取るためなら何でもいいんですよ。小選挙区制に反対した小泉、森などが首相になったのに対して、小沢一郎は多くの敵を作り政党の離散集合を招いた『だけ』なのは皮肉でした。

3.野党は常に分裂したまま。
 小沢一郎にかき回された面もあったにしろ、野党は常に分裂していました。左派系(社民、共産)、中道/中道左派系(新進、民主、さきがけetc)、公明。これでは絶対に小選挙区制で勝つことはできません。
 しかも、この状況は90年代、00年代、そして今に至るまで変わっていません。民主による政権交代は一度 実現しましたが、所詮は寄せ集め、分裂したのは皆さんもご存知のとおりです。自民の中も政治的立場は幅広いですが、『権力維持』という一点では明確に結びついています。

4.どういう日本を目指すかのビジョンがない。
 小選挙区制にしろ、郵政改革にしろ、与野党ともに、どういう日本を目指すかのビジョンは有りませんでした。だから政治改革も行政改革も小手先の技術論に終始した。民主党が当初は新自由主義的な『緊縮財政・小さな政府』を目指していたのが、中道左派的な『生活が第一』を包含する形に変わって行ったのがそれを象徴しています。権力維持だけが目的の自民と同じことをしていても勝てない。

 唯一 安倍晋三は『改憲』、『美しい日本』(笑)というビジョンというか、妄想/ルサンチマンはあります(笑)。それが安倍晋三にとって吉と出るか、凶と出るかはまだわかりません。ちなみにボクが安倍晋三だったら『脱原発』を宣言します。そうすれば野党も論点を失って壊滅だし、改憲だって楽勝ですよ(笑)。

f:id:SPYBOY:20190411171338j:plain


 今回の地方選を見ていて思ったのはこの『平成デモクラシー史』で感じたことが、今もそのまま再現されている、ということです。特に野党は分裂したままだし、相変らず小沢一郎は疫病神じゃないですか。
 地方議会でも立憲民主だけは議席を増やしたとはいえ、旧民主党、共産・社民・自由なども合わせた野党系の議席は前回、前々回の選挙より減り続けています。知事選を見ても、大阪でも北海道でも野党共闘』だけでは勝てません。以前の新潟知事選など、このところの選挙はずっとそうですよね。
●なぜ維新は勝ったのか。色々な意見がありますが、『議員定数削減など維新のある程度の実績?』や『対立候補の組織が分裂状態』ということは共通しています。対立候補は『反維新』というプアなビジョンしか打ち出せなかった。
hbol.jp
●北海道知事選。立憲が野党共闘に加えて、新たな『旗印』を立てない限り北海道の二の舞になると、ボクも思います。
webronza.asahi.com

 そもそも野党は共闘してるのかすらはっきりしないし(笑)、小沢一郎が言ってるような比例区の統一名簿』なんて最初からピントがずれています共闘しなくてはならないのは比例区ではなく1人区です。
 まして野党間の共通ビジョンが『安倍やめろ』『安保法廃棄』だけでは国民の支持、特に将来が心配な若い人の支持を得られるとはとても思えません。普通に考えたって『野党共闘』なんて、もう飽きたでしょ(笑)。特に経済・社会保障でどういう社会を目指すかがはっきりしなきゃ厳しいですよ。
●そうなんです。『野党共闘』なんて一般の国民には関係ない。単なる手段=選挙戦術に過ぎません。
f:id:SPYBOY:20190412112655j:plain


 そう考えると、安易な共闘をしないという立憲民主のやり方は時間はかかるかもしれないが、正しいのかもしれません。政策も組織も野党第1党としての中心軸を作って、そこに弱小政党が相乗りするという形でしか野党共闘は機能しないでしょう。
●頭の悪い菅直人こそ、さっさと政治家を辞めろ。かえって票を減らすばかりだから。
www.j-cast.com

www.asahi.com


 ただし現実には、立憲民主は野党共闘どころか与野党相乗りも地方では散々やっているし、ヘイト候補や『ヨーソ剤の替りにイソジンを飲め』と命に関わるようなデマを公言するおしどりマコのような詐欺師を選挙に擁立している時点で全く信用できません。
 他の候補よりマシなら戦略的に投票することはあるかもしれませんが、ボクは立憲民主は支持しない。というか、今の野党は全て支持はできないな。
●もともと共産党支持だったデマ芸人のおしどりマコを立憲民主に引き込んだのもクズの菅直人。どっちもどっち、似た者同士か。
菅直人事務所忘年会 - 菅直人公式サイト


 

 どうせ、アベノミクスなど長年の放漫財政と少子高齢化を放置してきたツケでこの先 数十年は日本は浮かび上がれません
 戦術的に少しでも自民や極右の票を減らしつつ、国民のあいだで『どのような日本を目指すのか』(ボクは北欧型の重福祉・重課税・集団的自衛権道州制国家が良いと思いますが)、現実的な議論をしていかなければいけないんでしょう。
f:id:SPYBOY:20190412164321j:plain


 今のような極右のソフト独裁はごめんですが、55年体制に戻るわけにもいきません。経済も、税制も、安全保障も、選挙制度も、地方分権も、考えるべきことは沢山ある。結局 希望は自分たちの力で作っていくものですね。

f:id:SPYBOY:20190411171253j:plain



ということで、今週も官邸前へ #金曜官邸前抗議
このところの東京は花冷えもいいところです。午後6時の気温は10度。4月とは思えません、寒ーい。参加者は360人。
写真4枚目、浪江町『希望の牧場』は街宣車よろしく、伊福部先生のゴジラのテーマを流していて感動しました😁。
●抗議風景


 今週10日に福島県大熊町の避難指示が一部解除されました。

 大熊町の一部、放射線の年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが想定される地域が解除されたわけですが、特に年配の人だったら住み慣れた地域に戻るのは嬉しいですよね。良かったと思います。

 ただし、年間20ミリシーベルトという基準に対してはこのような意見↓があることは忘れてはならないと思います。事故前は政府は年間1ミリシーベルトまでって言っていたのに、急に20ミリシーベルトと言い出したんですからね。
 避難指示解除は報じられますけど、こういうことはあまり報じられない。日本の報道機関は本当に複数の視点から見ることをしない。

www.nikkei.com

 日本政府は大丈夫と言っていますが、何かあっても政府や東電がまともに責任をとってくれるわけではありません。
 言葉は悪いけど、帰還する人はある意味『実験台』として政府に扱われているのかもしれません。日本社会お得意の『自己責任』という訳です。結局 各自が自分の年齢や事情に応じて判断するしかない。

 実際 避難指示が解除される『大川原、中屋敷両地区の面積は約30平方キロで、町全体の38%を占める。一方で住民登録(3月末)は138世帯367人と町全体の3.5%に過ぎない』。
<全町避難>大熊町避難指示解除、町に人や車復興徐々に 活気回復へ高まる機運 | 河北新報オンラインニュース

 もちろん、何事も究極は自己責任です。しかし、この国では、国も国民も公的な責任というものをあまりにも軽く考えていないか、ボクは不思議でなりません。

それでも諦めない:映画『ビリーブ 未来への大逆転』

 やっと春らしい陽気になってきました。
 昨日の選挙は酷かったですね(笑)。それにしても維新に投票するような人の気持ちは1ミリも理解できません。大阪地域の事情は知りませんが、いけしゃあしゃあと政治を私物化するような連中に投票する人とは全く会話もできないだろうなあ。そんな奴だったら犬と話していた方が1億倍もマシってなもんです。こういうのを『分断』というのでしょう。


 全国的に見ても道府県議員の数は自民は過半数維持、旧民主減(立憲増、国民民主減)、共産&社民減、維新増、公明全員当選という結果です。投票率は過去最低だった前回2015年の45.05%を下回る44.08%。最悪といえば最悪ですが、納得できる結果と言えばそう言えなくもない。

 自民が良いわけじゃないですが、野党こそ国民を見ていない。国民より党利党略を優先させているように見える。野党共闘なんて単なる最低条件で、それだけじゃダメです。唯一の与野党対決となった北海道知事選でも野党の統一候補は『小沢氏の資金管理団体陸山会」を巡り政治資金規正法違反事件で有罪判決を受け、13年に議員辞職』。それじゃあムリですよ(笑)。
 
 ボクは大人だから(笑)、棄権なんて子供が駄々をこねているような低能なことはしないし、あくまで冷静に戦略的投票(当選可能性がある中で最もマシな候補に入れる)をしますけど、まともな投票先ができなければ今みたいな独裁政権は続いてしまうのかもしれません。日本人の民度ですよ、民度(笑)。それで日本が衰退していくのも自業自得です。
●桜は皆さん、飽きたでしょう。先週末の日比谷公園です。
f:id:SPYBOY:20190406105423j:plain

f:id:SPYBOY:20190407215550j:plain

 
 もう少し マシな話をしましょうか。ブログ友のyonnbabaさんが仰っていたように近ごろテレ東の深夜枠が面白い『きのう何食べた?』 - よんばば つれづれ、先週金曜夜に放映が始まったテレビ東京の深夜ドラマ『きのう何食べた?』は凄く面白かったです。

www.tv-tokyo.co.jp

 2LDKのアパートに同居する弁護士(西島英俊)と美容師(内野聖陽)の男性カップルの生活を食卓を中心に描くもので、原作は漫画だそうです。

 主夫役の弁護士を演じる西島英俊の料理の手際の良さもさることながら、『スーパーの買い物は底値をチェックする』、『同居人がコンビニで無駄な買い物をすると怒る』、『ニンニクを使った料理は休前日にしか出さない』など、ボクには親近感のあることばかり描かれていて楽しかった。
 出し汁や牛乳など普段買うものはスーパーの底値を覚えておくのは当然ですが、同じものが自分が買ったより値段が安く売っていたら、金額以上に損した気がするってありますよね(笑)。

 ドラマの冒頭にあった『昨日何食べた?』と周囲に聞かれて、詳細に話し過ぎて『かえって退かれる』シーンは、まさに身に覚えがあります(笑)。残業や宴会は無視して、夕飯の支度のためにさっさと家に帰ってしまうのもボクと一緒です。
 ただ、混ぜご飯のために炊飯器に入れた昆布は大きすぎ、と思いました(笑)。昆布の質を考えたのかもしれませんが、ちょっと勿体ない(笑)。
●2合炊きでこんなに大きな昆布を入れるってあり得ないとボクは思う。

 昨日は何を食べたか?といった生活の細々したことって結構 大事なことだと思うんですが、普段は真剣に考えたり、他人と話したりすることは中々ありません(笑)。もしかしたら、これこそが限りがある人生の宝物かもしれないのに。

 ドラマはそれに加えて、カミングアウトに対するカップル双方の立場の違いなどLGBTならではのエピソードも描いて(男性カップルの子育てを描いた名画『チョコレート・ドーナッツ』でも同じエピソードがありました)、視聴者をほろりとさせます。週末の夜にふさわしい適度な重さ/軽さです。

 当たり外れはありますけど、今 まともなドラマってテレ東の深夜ドラマとNHKの一部だけ、じゃないでしょうか。風俗業をテーマに渋い演者を並べた前作の『フルーツ宅配便』も、ラッパーをテーマにした一昨年の『サイタマノラッパー マイクの細道』も良かったですが、マニアックな映画監督を使ったり、冒険的な題材を取り上げたり、テレ東の深夜ドラマはとにかくクリエイティブです。攻めている。

フルーツ宅配便 DVD BOX(5枚組)

フルーツ宅配便 DVD BOX(5枚組)

SR サイタマノラッパー~マイクの細道~ DVD-BOX

SR サイタマノラッパー~マイクの細道~ DVD-BOX

 所詮は安っぽいTV番組と言えども新鮮な驚きであったり、巧みなプロットだったり、自分の知らない世界を描いていたり、何か付加価値がなければ見ても仕方ありませんよね。時間がもったいない。
 『きのう何食べた?』は第1回がことのほか面白かったので、これからが楽しみです。


更にもっと 元気になる話題を行きましょう。日比谷で映画『ビリーブ 未来への大逆転
f:id:SPYBOY:20190407135319j:plain
gaga.ne.jp

 舞台は1956年、ハーバードに女性が入学できるようになって間もない頃。貧しいユダヤ人移民の娘、ルース・ベイダー・ギンズバーグフェリシティ・ジョーンズ)はハーバード・ロースクールに入学する。当時在学していた女性はたったの9人。しかも彼女は年下の法学部生、マーティン(アーミー・ハマー)と結婚、一児を設けていた。しかもマーティンは在学中 生存率が一桁という精巣がんを発症する。しかしルースは看病と育児をしながら勉強を続け、大学を首席で卒業する。彼女は弁護士の道を目指すが、当時は女性というだけで法律事務所に就職することが出来なかった- - -
●オリジナルのポスターの方が100倍も良いです。相変らず邦題も酷い。
f:id:SPYBOY:20190407140808j:plain


 アメリカ史上初めて『男女差別は憲法違反である』という判例を導き出した法律家、ルース・ベイダー・ギンズバーグの生涯を追った実録物です。彼女は現在 米国最高裁判所の判事9名のうちの1人。頭文字をとって『RBG』と呼ばれる有名人だそうです。終身制のアメリ最高裁判事同性婚や人種差別などの判例を大きく左右します。任期が決まっている大統領より社会への影響力が大きい。
www.cafeglobe.com

 米国最高裁判事9名のうち現在 リベラル派はルースを含めて4名。トランプのバカが保守派を2人も入れたからです。現在 86歳と最高齢の彼女に何かあったら大変なことになります。トランプ政権以降 彼女の名声は余計に高まり、現在 有名TV番組『サタデー・ナイト・ライブ』で彼女を模したコーナーが作られたり、昨年 彼女のドキュメンタリーが公開されて100万ドル以上の大ヒットを記録するほど、社会的な尊敬を集めているそうです。丁度 先週金曜の朝日朝刊に彼女が取り上げられていました。
f:id:SPYBOY:20190406232654j:plain
f:id:SPYBOY:20190406232836j:plain
www.asahi.com


  そのRBG=ルースを演じるフェリシティ・ジョーンズスター・ウォーズの『ローグ・ワン』の主役が印象に残っています。ボクはスター・ウォーズって、何でもフォースで解決する、バカみたいな映画なので嫌いですが、無名の人々の英雄的な行為を描いた『ローグ・ワン』は本当に素晴らしい、感動的な映画でした。

 今作の監督はミミ・レダー。最近はあまり音沙汰がありませんでしたが、素晴らしかったジョージ・クルーニー主演の『ピース・メーカー』や『ディープ・インパクト』の女性監督です。特に、巨大隕石の衝突に直面した群像劇『ディープ・インパクト』はバカSFと思われがちですが、色々な要素を包含した大傑作と思っているんです。今まで何十回 繰り返して見たことか。

ディープ・インパクト [DVD]

ディープ・インパクト [DVD]

 
 事前の期待のハードルが目茶目茶高い今作ですが(笑)、それを上回るほどルースという人のインパクトが強烈でした。主役のフェリシティ・ジョーンズ自ら、実在のルースを『マントのないスーパーヒーロー』と評していますが、まさにその通り。
●実際のルースとフェリシティ・ジョーンズ。最初は似てないと思ったのですが、雰囲気は良く出ています。
f:id:SPYBOY:20190407140838j:plain

 貧しいユダヤ人移民の娘だったルースは『全てに疑問を持て』という母の言葉を胸に苦学を重ね、当時 学生500人中9人しか女性がいなかったハーバード・ロースクールに入学します。
当時 女子学生は教員にすら差別されまくりです。『女性がなんで男子学生の席を奪って入学したんだ』と学部長に言われるような時代です。めげない彼女は勉強だけでなく、在学中に年下の男子学生と結婚し出産。
●右が主人公ルース役のフェリシティ・ジョーンズ、左が旦那役のアーミー・ハマー
f:id:SPYBOY:20190407135453j:plain

 卒業寸前 当時は生存率5%だった難病、精巣ガンにかかった旦那の看病と育児をしながら、ハーバード・ロースクールで首席を取る。奇跡的にガンから生還した旦那が大学を卒業後NYの法律事務所に就職すると、近いところで勉強を続けたいと大学を説き伏せて、NYにあるハーバードのライバル校コロンビア大へ移籍する。で、名門コロンビア大でも首席(笑)。超人です。
●彼女はガンの旦那(左)の看病と育児を両立させながら勉強を続け、首席を取ります。
f:id:SPYBOY:20190407140942j:plain

 かといって、ギスギスしていたり、性格が歪んでいると いうわけでもない。勿論 頭脳は超優秀なんでしょうけど、徹底的な努力家です。もう、恐れ入るしかない。
●大学の教室は男ばかり。発言の機会を捉えるのも一苦労でした。
f:id:SPYBOY:20190407135708j:plain

 しかし、そんな人物でも当時は弁護士になる道を閉ざされていました。ハーバードでもコロンビアでも首席なのに『女性だから』(しかもユダヤ人で母親だから)という理由で、弁護士事務所に就職できないんです。1950年代~1960年代前半ですから、そんなに昔の話ではない。それどころか当時は女性の名義ではクレジット・カード一つ作れなかった。驚きです。
●法律事務所に向かうエレベーターの中も男だらけ。
f:id:SPYBOY:20190407135656j:plain

 仕方なくルースは大学教授になります。しかし弁護士になって社会をより良くしていきたいという思いは募っていました。当時は最高裁判例も男女差別を認めるようなものばかり、女性の側から訴えることなんか全くムリな状況です。
 『法律は天候に左右されないが時代の空気には左右される』 このセリフが劇中 度々繰り返されます。ルースにとって法律は道具であって、目的ではない。ここが凡百の法律家とは違うところです。


 ある日 彼女は祖母の介護をしている男性が税金の控除を認められなかったことに異議を唱えていることを税制専門の弁護士だった旦那から教えてもらいます。これもまた男女差別です。ここでは男が差別されている。これなら勝てるかもしれない。弁護士経験のない彼女ですが、弁護費用無料で訴訟を買ってでます。
f:id:SPYBOY:20190407141151j:plain

 彼女の事績は、普通は『ムリ』(笑)と思うようなことばかりです。名門校2つで首席、それに結婚、出産&育児、難病の介護を両立させた学生時代もそうでしたが、今度は弁護士経験もないのに国を男女差別で訴える- - -
 しかも味方はほとんどいない。国の代理人はハーバードやコロンビアの恩師たち。法曹界の大物たちです。またアメリカの場合、同性婚や差別などで戦う際は全米自由人権協会などサポートする団体があります。しかし、当時の自由人権協会は公民権運動に夢中で、男女差別にはそれほど関心はなかった。当時はそんなものだったのも驚きです。それでも彼女は、やる
●ルースは自由人権協会に助力を求めますが、『勝ち目はない』と最初は断られます。
f:id:SPYBOY:20190407135757j:plain 

 でも映画を見ていると、そんな彼女も我々と同じ市井の一般人と同じように見えてきます。愚痴もこぼすし、夫婦げんかもする。また娘とも対立する。ラディカルな時代に育った娘から見ると彼女は古臭く、微温的にすら見えてしまう。超優秀なルースも自分が弁護士になれなかったことに対して、弁護士の旦那に怒りとコンプレックスを抱いている。法廷で散々ミスも犯す。でも、たった一つ違うのは彼女は『諦めない』。


 そんな役を説得力あるものにしているのが主演のフェリシティ・ジョーンズです。女優さんだから綺麗だけど、とびぬけて美人という訳でもないし、超天才にも見えない。ただ、諦めず戦い続ける。
 良く考えたら、この役は『ローグ・ワン』と一緒です。ローグ・ワンではフォースも超能力も何も持っていない一般人たちが、最後まで希望を捨てずに帝国と戦いました。市井の一般人が理想のために粘り強く戦い続ける姿はこの映画とまさに共通しています。二つの映画が途中から重なってしまって、余計に涙が出てきてしまった(笑)。
●今度は法廷と机の上が戦場です。
f:id:SPYBOY:20190407141528j:plain

 昨年の『君の名前で僕を呼んで』でティモシー・シャラメ君の恋人役だったアーミー・ハマー君も適役だったと思います。
spyboy.hatenablog.com

超イケメンだけど、そんなに頭が良さそうに見えない(笑)。ハーバードを出た優秀な弁護士の役ではあるんだけど、ルースには適うべくもないんだから、それでいいんです(笑)。
f:id:SPYBOY:20190407135822j:plain

 もっと大事なことは、ここで演じられる彼の姿です。家事や育児を共通に分担し、時には弱ったルースを励まし続ける。自分が病魔に襲われた時はルースの腕に抱かれて臆面もなく泣きくずれるのもいい。順風にのりかけた弁護士事務所での地位を危うくしても、彼はルースと一緒に国を訴えます。
 現実にそういう人だったらしいですが、良い役です(笑)。女性が自立した像が描かれることはまだまだ少ないと思いますが、こういうまともな男のアイコンが描かれるのは更に少ない男でも女でも家事とキャリアを両立させようとするって人間として当たり前の姿だと思うんですが、今の世の中 当たり前が当たり前ではないんです。
●彼は弁護士を続けながら、ルースの代わりに育児と料理を担当します。
f:id:SPYBOY:20190407141454j:plain
 

 クライマックスの裁判シーンも良かったのですが、ボクが感動したのはルースと娘との雨の中のシーンです。折しも時代は1970年代。グロリア・スタイネムなど過激なフェミニズムの集会に出るようになった娘にはさすがのルースもついていけません。しかし、娘もどうしたって頭脳ではかなわないルースには非常なコンプレックスを抱いています。
●母と娘は老活動家(右、キャシー・ベイツ)に会って裁判への協力を頼みますが、いったんは断られます。『今はまだ時代が変わっていない』と。
f:id:SPYBOY:20190407141320j:plain 

 雨の中、母と娘はたまたま、道端でクズ男どもから粗野な言葉を掛けられます。バカは相手にしない母でしたが、娘は低能男どもを怒鳴りつけます。それを見てルースは『時代は変わった』ということを学ぶ。コトバでうまく説明できないんですが、このシーンがなんとも感動的でした。ミミ・レダーの演出の勝利でしょうけど、『時代の変化&母と娘の和解』を一瞬で表現した、まるで魔法のようなシーンでした。
 ルースに『私の未来のために戦って』と訴える娘のセリフは涙なくしては見れません。
f:id:SPYBOY:20190407135836j:plain


 最後に本物の85歳のルースがカメオ出演します。この顔を見て、うわーと思った。激しいと言う訳ではないんですが、超強そうな眼。こんな眼力がある人は今まで見たことがありませんし、人の姿を見ただけで感動してしまったことも中々ない。ネルソン・マンデラなみのオーラです。彼女の姿を見ただけで涙が出てきてしまっただけでなく、全ての事が納得できた。この人、確かに本当のスーパー・ヒーロー(ヒロイン)です。
f:id:SPYBOY:20190407141942j:plain

 アメリカの話ですけど、こういう人たちがいてくれたおかげで、日本だって少しは世の中がマシになっている。バカどもがでっち上げた、男の性役割なんか押し付けられてたまるか。男はどうとか、女性はどうとかとらわれずに、ボクは自分の好きなことをやりたいんです。ったく、ふざけんな。男社会でバカでマヌケで偉そうな役を演じるのはごめんです。もっと自分の気持ちに素直に振る舞いたい。
 ボクらが今居るのは、ルースのような人たちがいてくれたおかげです。
f:id:SPYBOY:20190407141252j:plain


 ということで、RBGの事績を知ることが出来て良かっただけでなく、エンタメとしてもミミ・レダーの手腕で充分楽しめるものになっていました。社会派の作品にしては、お客さんが入っているわけがわかりました。見る人に勇気を与える感動的な映画です。何度も泣きました。 
 5月10日からは昨年アメリカで公開されて100万ドル以上の大ヒット、今年のアカデミー長編ドキュメンタリーにノミネートされた『RBG 最強の85歳』が公開されます。そちらも楽しみです。

映画『ビリーブ 未来への大逆転』予告編

『ビリーブ 未来への大逆転』主題歌 KESHA “Here Comes The Change” MV※字幕入り

www.finefilms.co.jp

現役女性最高裁判事“最強の85歳”の半生描くドキュメンタリー/映画『RBG 最強の85才』予告編