特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

それでも諦めない:映画『ビリーブ 未来への大逆転』

 やっと春らしい陽気になってきました。
 昨日の選挙は酷かったですね(笑)。それにしても維新に投票するような人の気持ちは1ミリも理解できません。大阪地域の事情は知りませんが、いけしゃあしゃあと政治を私物化するような連中に投票する人とは全く会話もできないだろうなあ。そんな奴だったら犬と話していた方が1億倍もマシってなもんです。こういうのを『分断』というのでしょう。


 全国的に見ても道府県議員の数は自民は過半数維持、旧民主減(立憲増、国民民主減)、共産&社民減、維新増、公明全員当選という結果です。投票率は過去最低だった前回2015年の45.05%を下回る44.08%。最悪といえば最悪ですが、納得できる結果と言えばそう言えなくもない。

 自民が良いわけじゃないですが、野党こそ国民を見ていない。国民より党利党略を優先させているように見える。野党共闘なんて単なる最低条件で、それだけじゃダメです。唯一の与野党対決となった北海道知事選でも野党の統一候補は『小沢氏の資金管理団体陸山会」を巡り政治資金規正法違反事件で有罪判決を受け、13年に議員辞職』。それじゃあムリですよ(笑)。
 
 ボクは大人だから(笑)、棄権なんて子供が駄々をこねているような低能なことはしないし、あくまで冷静に戦略的投票(当選可能性がある中で最もマシな候補に入れる)をしますけど、まともな投票先ができなければ今みたいな独裁政権は続いてしまうのかもしれません。日本人の民度ですよ、民度(笑)。それで日本が衰退していくのも自業自得です。
●桜は皆さん、飽きたでしょう。先週末の日比谷公園です。
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 もう少し マシな話をしましょうか。ブログ友のyonnbabaさんが仰っていたように近ごろテレ東の深夜枠が面白い『きのう何食べた?』 - よんばば つれづれ、先週金曜夜に放映が始まったテレビ東京の深夜ドラマ『きのう何食べた?』は凄く面白かったです。

www.tv-tokyo.co.jp

 2LDKのアパートに同居する弁護士(西島英俊)と美容師(内野聖陽)の男性カップルの生活を食卓を中心に描くもので、原作は漫画だそうです。

 主夫役の弁護士を演じる西島英俊の料理の手際の良さもさることながら、『スーパーの買い物は底値をチェックする』、『同居人がコンビニで無駄な買い物をすると怒る』、『ニンニクを使った料理は休前日にしか出さない』など、ボクには親近感のあることばかり描かれていて楽しかった。
 出し汁や牛乳など普段買うものはスーパーの底値を覚えておくのは当然ですが、同じものが自分が買ったより値段が安く売っていたら、金額以上に損した気がするってありますよね(笑)。

 ドラマの冒頭にあった『昨日何食べた?』と周囲に聞かれて、詳細に話し過ぎて『かえって退かれる』シーンは、まさに身に覚えがあります(笑)。残業や宴会は無視して、夕飯の支度のためにさっさと家に帰ってしまうのもボクと一緒です。
 ただ、混ぜご飯のために炊飯器に入れた昆布は大きすぎ、と思いました(笑)。昆布の質を考えたのかもしれませんが、ちょっと勿体ない(笑)。
●2合炊きでこんなに大きな昆布を入れるってあり得ないとボクは思う。

 昨日は何を食べたか?といった生活の細々したことって結構 大事なことだと思うんですが、普段は真剣に考えたり、他人と話したりすることは中々ありません(笑)。もしかしたら、これこそが限りがある人生の宝物かもしれないのに。

 ドラマはそれに加えて、カミングアウトに対するカップル双方の立場の違いなどLGBTならではのエピソードも描いて(男性カップルの子育てを描いた名画『チョコレート・ドーナッツ』でも同じエピソードがありました)、視聴者をほろりとさせます。週末の夜にふさわしい適度な重さ/軽さです。

 当たり外れはありますけど、今 まともなドラマってテレ東の深夜ドラマとNHKの一部だけ、じゃないでしょうか。風俗業をテーマに渋い演者を並べた前作の『フルーツ宅配便』も、ラッパーをテーマにした一昨年の『サイタマノラッパー マイクの細道』も良かったですが、マニアックな映画監督を使ったり、冒険的な題材を取り上げたり、テレ東の深夜ドラマはとにかくクリエイティブです。攻めている。

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SR サイタマノラッパー~マイクの細道~ DVD-BOX

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 所詮は安っぽいTV番組と言えども新鮮な驚きであったり、巧みなプロットだったり、自分の知らない世界を描いていたり、何か付加価値がなければ見ても仕方ありませんよね。時間がもったいない。
 『きのう何食べた?』は第1回がことのほか面白かったので、これからが楽しみです。


更にもっと 元気になる話題を行きましょう。日比谷で映画『ビリーブ 未来への大逆転
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gaga.ne.jp

 舞台は1956年、ハーバードに女性が入学できるようになって間もない頃。貧しいユダヤ人移民の娘、ルース・ベイダー・ギンズバーグフェリシティ・ジョーンズ)はハーバード・ロースクールに入学する。当時在学していた女性はたったの9人。しかも彼女は年下の法学部生、マーティン(アーミー・ハマー)と結婚、一児を設けていた。しかもマーティンは在学中 生存率が一桁という精巣がんを発症する。しかしルースは看病と育児をしながら勉強を続け、大学を首席で卒業する。彼女は弁護士の道を目指すが、当時は女性というだけで法律事務所に就職することが出来なかった- - -
●オリジナルのポスターの方が100倍も良いです。相変らず邦題も酷い。
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 アメリカ史上初めて『男女差別は憲法違反である』という判例を導き出した法律家、ルース・ベイダー・ギンズバーグの生涯を追った実録物です。彼女は現在 米国最高裁判所の判事9名のうちの1人。頭文字をとって『RBG』と呼ばれる有名人だそうです。終身制のアメリ最高裁判事同性婚や人種差別などの判例を大きく左右します。任期が決まっている大統領より社会への影響力が大きい。
www.cafeglobe.com

 米国最高裁判事9名のうち現在 リベラル派はルースを含めて4名。トランプのバカが保守派を2人も入れたからです。現在 86歳と最高齢の彼女に何かあったら大変なことになります。トランプ政権以降 彼女の名声は余計に高まり、現在 有名TV番組『サタデー・ナイト・ライブ』で彼女を模したコーナーが作られたり、昨年 彼女のドキュメンタリーが公開されて100万ドル以上の大ヒットを記録するほど、社会的な尊敬を集めているそうです。丁度 先週金曜の朝日朝刊に彼女が取り上げられていました。
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www.asahi.com


  そのRBG=ルースを演じるフェリシティ・ジョーンズスター・ウォーズの『ローグ・ワン』の主役が印象に残っています。ボクはスター・ウォーズって、何でもフォースで解決する、バカみたいな映画なので嫌いですが、無名の人々の英雄的な行為を描いた『ローグ・ワン』は本当に素晴らしい、感動的な映画でした。

 今作の監督はミミ・レダー。最近はあまり音沙汰がありませんでしたが、素晴らしかったジョージ・クルーニー主演の『ピース・メーカー』や『ディープ・インパクト』の女性監督です。特に、巨大隕石の衝突に直面した群像劇『ディープ・インパクト』はバカSFと思われがちですが、色々な要素を包含した大傑作と思っているんです。今まで何十回 繰り返して見たことか。

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 事前の期待のハードルが目茶目茶高い今作ですが(笑)、それを上回るほどルースという人のインパクトが強烈でした。主役のフェリシティ・ジョーンズ自ら、実在のルースを『マントのないスーパーヒーロー』と評していますが、まさにその通り。
●実際のルースとフェリシティ・ジョーンズ。最初は似てないと思ったのですが、雰囲気は良く出ています。
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 貧しいユダヤ人移民の娘だったルースは『全てに疑問を持て』という母の言葉を胸に苦学を重ね、当時 学生500人中9人しか女性がいなかったハーバード・ロースクールに入学します。
当時 女子学生は教員にすら差別されまくりです。『女性がなんで男子学生の席を奪って入学したんだ』と学部長に言われるような時代です。めげない彼女は勉強だけでなく、在学中に年下の男子学生と結婚し出産。
●右が主人公ルース役のフェリシティ・ジョーンズ、左が旦那役のアーミー・ハマー
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 卒業寸前 当時は生存率5%だった難病、精巣ガンにかかった旦那の看病と育児をしながら、ハーバード・ロースクールで首席を取る。奇跡的にガンから生還した旦那が大学を卒業後NYの法律事務所に就職すると、近いところで勉強を続けたいと大学を説き伏せて、NYにあるハーバードのライバル校コロンビア大へ移籍する。で、名門コロンビア大でも首席(笑)。超人です。
●彼女はガンの旦那(左)の看病と育児を両立させながら勉強を続け、首席を取ります。
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 かといって、ギスギスしていたり、性格が歪んでいると いうわけでもない。勿論 頭脳は超優秀なんでしょうけど、徹底的な努力家です。もう、恐れ入るしかない。
●大学の教室は男ばかり。発言の機会を捉えるのも一苦労でした。
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 しかし、そんな人物でも当時は弁護士になる道を閉ざされていました。ハーバードでもコロンビアでも首席なのに『女性だから』(しかもユダヤ人で母親だから)という理由で、弁護士事務所に就職できないんです。1950年代~1960年代前半ですから、そんなに昔の話ではない。それどころか当時は女性の名義ではクレジット・カード一つ作れなかった。驚きです。
●法律事務所に向かうエレベーターの中も男だらけ。
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 仕方なくルースは大学教授になります。しかし弁護士になって社会をより良くしていきたいという思いは募っていました。当時は最高裁判例も男女差別を認めるようなものばかり、女性の側から訴えることなんか全くムリな状況です。
 『法律は天候に左右されないが時代の空気には左右される』 このセリフが劇中 度々繰り返されます。ルースにとって法律は道具であって、目的ではない。ここが凡百の法律家とは違うところです。


 ある日 彼女は祖母の介護をしている男性が税金の控除を認められなかったことに異議を唱えていることを税制専門の弁護士だった旦那から教えてもらいます。これもまた男女差別です。ここでは男が差別されている。これなら勝てるかもしれない。弁護士経験のない彼女ですが、弁護費用無料で訴訟を買ってでます。
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 彼女の事績は、普通は『ムリ』(笑)と思うようなことばかりです。名門校2つで首席、それに結婚、出産&育児、難病の介護を両立させた学生時代もそうでしたが、今度は弁護士経験もないのに国を男女差別で訴える- - -
 しかも味方はほとんどいない。国の代理人はハーバードやコロンビアの恩師たち。法曹界の大物たちです。またアメリカの場合、同性婚や差別などで戦う際は全米自由人権協会などサポートする団体があります。しかし、当時の自由人権協会は公民権運動に夢中で、男女差別にはそれほど関心はなかった。当時はそんなものだったのも驚きです。それでも彼女は、やる
●ルースは自由人権協会に助力を求めますが、『勝ち目はない』と最初は断られます。
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 でも映画を見ていると、そんな彼女も我々と同じ市井の一般人と同じように見えてきます。愚痴もこぼすし、夫婦げんかもする。また娘とも対立する。ラディカルな時代に育った娘から見ると彼女は古臭く、微温的にすら見えてしまう。超優秀なルースも自分が弁護士になれなかったことに対して、弁護士の旦那に怒りとコンプレックスを抱いている。法廷で散々ミスも犯す。でも、たった一つ違うのは彼女は『諦めない』。


 そんな役を説得力あるものにしているのが主演のフェリシティ・ジョーンズです。女優さんだから綺麗だけど、とびぬけて美人という訳でもないし、超天才にも見えない。ただ、諦めず戦い続ける。
 良く考えたら、この役は『ローグ・ワン』と一緒です。ローグ・ワンではフォースも超能力も何も持っていない一般人たちが、最後まで希望を捨てずに帝国と戦いました。市井の一般人が理想のために粘り強く戦い続ける姿はこの映画とまさに共通しています。二つの映画が途中から重なってしまって、余計に涙が出てきてしまった(笑)。
●今度は法廷と机の上が戦場です。
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 昨年の『君の名前で僕を呼んで』でティモシー・シャラメ君の恋人役だったアーミー・ハマー君も適役だったと思います。
spyboy.hatenablog.com

超イケメンだけど、そんなに頭が良さそうに見えない(笑)。ハーバードを出た優秀な弁護士の役ではあるんだけど、ルースには適うべくもないんだから、それでいいんです(笑)。
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 もっと大事なことは、ここで演じられる彼の姿です。家事や育児を共通に分担し、時には弱ったルースを励まし続ける。自分が病魔に襲われた時はルースの腕に抱かれて臆面もなく泣きくずれるのもいい。順風にのりかけた弁護士事務所での地位を危うくしても、彼はルースと一緒に国を訴えます。
 現実にそういう人だったらしいですが、良い役です(笑)。女性が自立した像が描かれることはまだまだ少ないと思いますが、こういうまともな男のアイコンが描かれるのは更に少ない男でも女でも家事とキャリアを両立させようとするって人間として当たり前の姿だと思うんですが、今の世の中 当たり前が当たり前ではないんです。
●彼は弁護士を続けながら、ルースの代わりに育児と料理を担当します。
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 クライマックスの裁判シーンも良かったのですが、ボクが感動したのはルースと娘との雨の中のシーンです。折しも時代は1970年代。グロリア・スタイネムなど過激なフェミニズムの集会に出るようになった娘にはさすがのルースもついていけません。しかし、娘もどうしたって頭脳ではかなわないルースには非常なコンプレックスを抱いています。
●母と娘は老活動家(右、キャシー・ベイツ)に会って裁判への協力を頼みますが、いったんは断られます。『今はまだ時代が変わっていない』と。
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 雨の中、母と娘はたまたま、道端でクズ男どもから粗野な言葉を掛けられます。バカは相手にしない母でしたが、娘は低能男どもを怒鳴りつけます。それを見てルースは『時代は変わった』ということを学ぶ。コトバでうまく説明できないんですが、このシーンがなんとも感動的でした。ミミ・レダーの演出の勝利でしょうけど、『時代の変化&母と娘の和解』を一瞬で表現した、まるで魔法のようなシーンでした。
 ルースに『私の未来のために戦って』と訴える娘のセリフは涙なくしては見れません。
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 最後に本物の85歳のルースがカメオ出演します。この顔を見て、うわーと思った。激しいと言う訳ではないんですが、超強そうな眼。こんな眼力がある人は今まで見たことがありませんし、人の姿を見ただけで感動してしまったことも中々ない。ネルソン・マンデラなみのオーラです。彼女の姿を見ただけで涙が出てきてしまっただけでなく、全ての事が納得できた。この人、確かに本当のスーパー・ヒーロー(ヒロイン)です。
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 アメリカの話ですけど、こういう人たちがいてくれたおかげで、日本だって少しは世の中がマシになっている。バカどもがでっち上げた、男の性役割なんか押し付けられてたまるか。男はどうとか、女性はどうとかとらわれずに、ボクは自分の好きなことをやりたいんです。ったく、ふざけんな。男社会でバカでマヌケで偉そうな役を演じるのはごめんです。もっと自分の気持ちに素直に振る舞いたい。
 ボクらが今居るのは、ルースのような人たちがいてくれたおかげです。
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 ということで、RBGの事績を知ることが出来て良かっただけでなく、エンタメとしてもミミ・レダーの手腕で充分楽しめるものになっていました。社会派の作品にしては、お客さんが入っているわけがわかりました。見る人に勇気を与える感動的な映画です。何度も泣きました。 
 5月10日からは昨年アメリカで公開されて100万ドル以上の大ヒット、今年のアカデミー長編ドキュメンタリーにノミネートされた『RBG 最強の85歳』が公開されます。そちらも楽しみです。

映画『ビリーブ 未来への大逆転』予告編

『ビリーブ 未来への大逆転』主題歌 KESHA “Here Comes The Change” MV※字幕入り

www.finefilms.co.jp

現役女性最高裁判事“最強の85歳”の半生描くドキュメンタリー/映画『RBG 最強の85才』予告編