特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

怖くて素敵なお姉さまたち:映画『女神の見えざる手』と『アトミック・ブロンド』

週末は2週間続けての台風。10月ももう終わりだと言うのに奇妙なお天気でした。だから今日のように、たまに天気が良くなるとすごくうれしいです。木枯らし1号が吹いたそうですね。
●先週、六本木で久しぶりに食べた『パヤ』。羊の脚の塊を骨付きのまま、レモンと大量のスパイスで煮込んだインド北部〜パキスタンのカレーです。二日酔いの土曜の朝にぴったりの飲み物(笑)


さて 今週 総理大臣指名などを行う臨時国会が開かれるというのですが実態はこうです↓。安倍晋三はよほど審議がしたくないようです。今にも戦争が起きるかもしれない、という時にですよ。


おまけに政府は今後の野党の質問時間を減らす、と言っています。



自民党はどこまで議論するのが嫌なんでしょうか。それを無能なマスコミと無関心な国民がサポートする。日本の北朝鮮化はますます進行しているようです。議論は民主主義の根幹なんだから、マスコミも国民ももっと怒らなければいけないと思います。


と、いうことで、今回はダークなヒロインカッコいいお姉さまをテーマにした映画です。どちらも美しい女性が主人公ですが、女を武器にしない、男に媚びない。バカなクズ男とその体制に対して、したたかに戦っていく。先日の『ワンダー・ウーマン』もそうでしたが、今はそういう時代なんでしょう。どちらもほれぼれするような、超かっこよかったですガキがバカな男に媚び売って商売してるAKBみたいなのがエンターテイメントになってるのは日本だけですよ。




六本木で映画『女神の見えざる手

目的のためなら手段を選ばない敏腕ロビイストと業界で恐れられているエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は、大物議員から持ち込まれた銃所持のイメージアップの仕事を断り、銃規制法案を後押しするロビーイング会社に移籍する。非合法手段もいとわない彼女の強引なやり方で規制法案は実現の可能性が出てくるが、銃所持派は彼女のプライヴェートも含めた個人攻撃を始める- - -



アメリカの政界を動かしているのはロビイスト、と言われています。大企業や業界団体、外国などの意を受けて議員に働きかけをしたり、政治献金を仲立ちしたり、法律を起草したりもする。それだけではありません。誰かの替わりにロビイストが隠密裏に草の根団体を組織したり、広告代理店やシンクタンク、御用学者を使って人々の支持を拡大しようとしたりもします。例えば兄弟の資産を併せればビル・ゲイツをしのぐ世界最大の金持ち、極右のコーク兄弟がティーパーティーを組織したのが良い例です。当初は草の根運動を装いながら勢力を広げ 約50人もの国会議員を抱えるまでに成長しました。それを作ったのがカネで雇われたロビイストたち。ワシントンにはそのようなロビイストが3万人もいるそうです。



ジェシカ・チャスティン演じるエリザベスは手段を選ばない敏腕ロビイストとして業界で恐れられてきました。クライアントは外国でも構わない。右も左も関係ない。目的のためなら、なんだってやる。そんな彼女を見込んで、銃規制に反対する議員、業界団体が銃所持のイメージアップの依頼を持ち込んできます。

現実にも全米ライフル協会(NRA)は資金力の豊富さから全米最強のロビー団体と呼ばれています。この映画でも名指しはされませんが誰が見ても判る圧力団体として出てきます。業界の大量の資金を使って草の根団体!を作り、銃に対する女性のイメージアップを図れ、と言うオファーです。
●華やかなパーティーでも裏で激しい戦いが繰り広げられます。


ところが野心満々のエリザベスはその依頼を断り、反対に銃規制派のロビー会社に移籍してしまいます。何故かははっきり語られません。ただ、彼女は自分の手腕を証明したい、という欲望に駆られていることだけは判ります。
●彼女をスカウトした銃規制派のロビー会社社長とエリザベス。彼女は独断専行、ボスの言うことも聞かずに自分のやり方を押し通します。




エリザベスという女性は仕事一筋のワーカホリックです。相手の手口を先の先まで読んで、公私を問わず弱点を突く。スパイも非合法な手段のプロも使う。広告代理店やマスコミを操ってニュースを作り出す。上司も部下も一切信用しないばかりか、時にはおとりにすら、使う。上司も部下も、仕事という目的のために利用するだけの存在です。でも彼女はお金が目的ではありません。経費で落とせないようなことを自費でやることも全く厭わない。食事は時間の節約のために毎日同じ中華料理屋でとっています。不眠症に悩まされながらも寝る時間を節約するために薬物も使用しています。家族も恋人もいない。欲しいとも思わない。性欲はエスコート・サービスでマッチョな男性を買うことで発散します。
ジェシカ・チャスティンはクスリで顔色が青白くなっているところまで再現しています。


超強烈なキャラクターです。この作品でゴールデン・グローブ賞を受賞したジェシカ・チャスティンはそれを見事に演じきっています。薬物を使っている時の痩せこけた顔から、仕事を遂行する際の血も涙もない彼女、政治家や関係者とのパーティーでの華やかな姿まで、全く飽きさせない。このエキセントリックな主人公のキャラそのままに、血も涙もなく(笑)演じています。すごい〜。アカデミー作品賞を取った『ゼロ・ダーク・サーティ』でアカデミー主演女優賞候補になった彼女ですが、この作品は今までのキャリアでもベストかもしれません。


映画の中の架空のキャラクターです。が、ここまでではないにしても、彼女のようなワーカホリックな人、目的のためなら手段を選ばない人って現実にいます。ボクはワーカホリックではないけれど、効率第一・目的優先のエリザベスの心理は良くわかります。でなければ、世の中と戦えませんから。彼女の役柄にはまったく共感できてしまう。絶対に近寄りたくないキャラクターに対して共感させてしまうところはまさに、ジェシカ・チャスティンの演技の凄味です。




それだけではありません。この映画、プロットも見事なんです。銃規制推進派と反規制派、それぞれ熾烈な戦いを続けます。エリザベスはあっという手を使って銃規制法案を通すための票固めをしていくのですが、それが観客をも驚かす仕掛けにもなっている。ネタバレになるのであらすじを書けないのが残念です
脚本はこれがデビューというジョナサン・ペレラという女性だそうですが、この人の名前は今後 要注目です。ちなみに監督は『恋におちたシェイクスピア』『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』などのジョン・マッデンアメリカ政界をテーマにしたこの映画、フランス資本が加わって作られています。主人公の一筋縄ではいかない複雑なキャラクターは確かにそんな作風です。



バカで薄汚い男たちを相手にしたたかに戦っていくエリザベスの姿は爽快です。美人でセクシーなジェシカ・チャスティンですけど、女を武器にしない。知性と先を読むことで権力を握る男たちに立ち向かっていく。まったくハードボイルドです。ジャンルは違いますが、先日の『エル ELLE』のイザベル・ユペールを思わせるようなカッコよさ映画『エル ELLE』と『ワンダーウーマン』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)。いや、もっとカッコいいかも。


と、同時にロビイストと言う存在の恐ろしさ。元来ロビーイングは悪いことではありません。政治家へ市民が困っていることや要望を陳情することもロビーイングです。でも度が過ぎると、この映画のように議員に影響力を行使するだけではなく、マスコミや市民団体のデモや抗議、ネットのフェイク・ニュースまで操って世論をでっち上げていくようになる。金持ちや企業からの政治献金に上限がないアメリカだからこそ、の存在かもしれませんが、日本だって広告代理店や御用評論家等、そういう連中は居るわけです。これだけネットでデマやフェイク・ニュースが流されているんですから。一人一人の判断力というものがますます重要な時代になっているのだと思います。
お話は最後の最後まで全く目が離せません。ジェシカ・チャスティンの美貌と演技力、それに見事なプロット。これも今年のベスト10に必ず入る見事な作品でした。ちょっと世の中が怖くなるけど、面白くて、痛快で、ためになる。サイコーです。





もう一つ 六本木で『アトミック・ブロンド

舞台は80年代 ベルリンの壁が壊れる寸前。イギリスの情報機関、MI6ですご腕のスパイとしてその名をとどろかすロレーン・ブロートン(シャーリーズ・セロン)に奪われた最高機密のリストを取り戻すというミッションが下った。ベルリンを向かったロレーンは世界各国のスパイとすさまじい争奪戦に巻き込まれる


いつも書いてますが 現代の女優さんで誰が一番 美しいかと言われたら、まず、シャーリーズ・セロンじゃないですか。1昨年の『マッド・マックス 怒りのデス・ロード映画3題:『アリスのままで』、『マッドマックス4 怒りのデス・ロード』、『海街diary』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)の実質的な主人公はスキンヘッド&ノーメイクの彼女でしたが、マッド・マックスも今作も、ただ美しいだけでなく、肉体的にも精神的にも美を体現している。


映画は80年代の超大ヒット曲、ニュー・オーダーの『ブルー・マンデー』が流れる中 何者かに追われるスパイが自動車にぶつけられて殺されるところから始まります。『ブルー・マンデー』はイギリスの歴代1位か2位の超大ヒット曲ですが、テーマは自殺です(笑)。見事なシンクロ加減でしょ(笑)。そのあと 傷だらけの体を氷風呂に着ける筋肉もりもりのシャーリーズ・セロンの姿が現れて、観客の度肝を抜かせます。あの美女が、こんな姿に?

ベルリンの壁が崩壊する寸前を舞台に映画はヒット曲が次から次へと流れる中、ミュージカル調に物語は進んでいきます。
●80年代末期のベルリンの光景


監督は、愛犬を殺された殺し屋が犬の仇のマフィアを皆殺しにする復讐劇『ジョン・ウィック』でキアーヌ・リーブスを再生させた人だそうですけど、この映画の中のシャーリーズ・セロンの格闘もすごい。男たちをある時は素手で、ホースで、銃で殺しまくります。殴り合いは本当にやってるんじゃないでしょうか。動きが超速いだけでなく、彼女のパンチや蹴りはあまり重くないから、でかいゴリラ男を倒すには何発も攻撃しなければならないところまで再現している。
●間違いなく本気でやってます(笑)。


ボクはスパイ物もアクション物も興味ないですから、お話しは何とも思わなかった。英仏米ソのスパイが互いに相手の裏をかきながらの争奪戦ですが、そこは興味ない(笑)。鬼のように美しいシャーリーズ・セロンのお姿と凄まじい格闘、それに一癖ありそうな人間味を独特の薄暗い色彩の画面と80年代のボク好みの選曲で表現しています。


シャーリーズ・セロンの演じるヒロインは超美しいんですけど、女を武器にしません。男にも媚びない。ただ美しいだけ。ウォッカをロックでがぶ飲みしながら、ふてぶてしい表情としなやかな筋肉で闘い続ける。


スパイ物にお決まりのラブシーンもありますが、相手は女の子。さすが(笑)。これだけ強くて美しいヒロインだったら、男も女も関係ないですよね。惚れてしまいます。ここでそっち系のヒット曲、ティル・チューズデイの『Voices Carry』がかかるところもばっちり決まってる。


ただ、この人、尋常じゃない美しさですし、身長も180くらいあるでしょうから、町を歩いてたら目立ちすぎる。これじゃ絶対スパイにならないだろ、とは思います。格闘はリアルですけど、この映画はあくまでもシャーリーズ・セロンお姉さまの究極の美を鑑賞させていただくための映画なんですね。
●こんな目立つスパイは居る訳ないです(笑)。


お話しはいまいちだし、映像も音楽の使い方もスタイリッシュなところを狙ってスタイリッシュになり損ねた感じもあるんですが、シャーリーズ・セロン美貌を鑑賞し、彼女が本気で暴れまわっているお姿を拝観するだけで十分に元は取れます。間違いなく面白いし、カッコいいです。現代のヒロインってこういう感じなんだろうな。続編がありそうな感じですが、間違いなく、また見に行ってしまうと思います。