特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『GDPショック』と『沖縄知事選』+映画『聖者たちの食卓』と『ガーディアンズ オブ ギャラクシー』

今日発表になった7月〜9月のGDPの数字はボクも一瞬、目を疑った。さすがにマイナス成長とは夢にも思わなかったからです。

 内閣府が17日発表した7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比-0.4%、年率換算で-1.6%だった。4月の消費増税後の個人消費の停滞が長引き、2四半期連続のマイナス成長になった。
2期連続マイナス成長 7~9月年率1.6%減 :日本経済新聞

株も急落して『GDPショック』という言葉がニュースの見出しになっていたが、景気は想像以上に悪化してます。消費税の反動が一段落した7〜9月でも実質成長率がマイナス、という結果は民間のどの予測よりも低く、衝撃的な数字です。しかも名目成長率までマイナスになってしまった。これで『2014年度はマイナス成長になる』という声まで出てきているくらいです。
●年間もマイナス成長の予想をするロイターの記事。
焦点:GDP悪化で14年度マイナス成長か、アベノミクス正念場 | ロイター

アベノミクスが始まってからの経済成長率(年率換算)

                   
この1年半、実質賃金が下がり続けていることは度々書いてきたが、GDPの成長率もほぼ同じ傾向を示しています。消費税の駆け込み需要を除けば、経済成長率は1年半以上ずっと下がりっぱなしだ。グラフを見ればわかるけどアベノミクスとか偉そうに言ってても(笑)、まともに成長したのは2013年最初の3か月だけ。あとは落ち目の一方。唯一 失業率は下がったが正規雇用は減っている。総じて国民は貧しくなった。結局 アベノミクスは失敗だったんです。

民主党は経済無策でしたが、安倍政権ではやらなくても良い、ロクでもないことばかりやって経済は落ち込んでいます。それが事実。民主党政権末期には自然回復基調にのっていましたからね。これなら何もしないほうが良かったんです。仔犬やパンダに総理大臣をやってもらった方がマシ、というボクの仮説がここでも裏付けられました(笑)。






さて、昨日の沖縄の知事選の扱いは東京のTVでは小さかったです。投票が終了して直ぐ翁長氏当選の速報が流れましたが、どの局も冷ややかな扱いだったと思います。唯一、TBSのBSが3時間の特別番組(笑)をやったくらいでしょうか。ボクはその特番を少し見てましたが、コメンテイターは『日米地位協定入門』を書いた沖縄国際大学の前泊教授と元防衛相の森本でした。選挙結果を受けて、前泊氏とTBSの杉尾キャスターが明らかに高揚しているように見えたのに対して、森本がどこの国の大臣だかわからないようなことを言いながら、終始 苦虫をかみつぶしたような顔でスタジオに座ってたのが印象的でした(笑)。
日米地位協定は非常に関心があるんだけど、前泊氏が書いたこの本は内容が薄くてがっかりした

本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」 (戦後再発見」双書2)

本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」 (戦後再発見」双書2)

その番組で放送した鳩山元首相のインタビューは面白いことを言ってました。首相在任当時 彼は、アメリカの反応に対する外務省の官僚たちの意見を聞いて、県外移転は無理、と判断したそうだが、今にして思えば、『それは官僚のねつ造だったかもしれない』と言うんです(カメラの前で彼ははっきりそう言った)。今は『官僚に任せきりにせず、自分が直接アメリカと話していれば良かった』と後悔しているそうです。ちなみに彼は現在 贖罪のため、顰蹙を買いながらも沖縄へ通い続けているそうです。

元来 鳩山は知性も教養もある人間だと思います。グラッドストンを引用した施政方針演説には知り合いの大学の名誉教授が本気で感動していました。だが鳩山は組織をどう動かすか、マネジメントの基本的な訓練すらできてなかった政治家としては無能だったわけです。
一方 元自民党県連幹事長の翁長氏は自分が直接 政府やアメリカと会話をすると言っています。
企業でも自治体でも良いから大きな組織を動かす経験、知識は政治家として必須でしょう。以前にも感想を書いた『民主党政権 失敗の検証』という本で『民主党が失敗した原因の一つは組織のマネジメント能力がある人間が殆どいなかったことにある』という指摘がありました。それは大いに言えていると思います。政治主導とか言っていきなり官僚を敵に回してりゃ、うまく行くものも行くわけがない(笑)。民主党に限らず、他の野党もそれは同じです。社民党は連立内閣当時、それこそ基地の問題では、福島瑞穂抗議の辞任をする以外は何もできなかった(笑)。共産党は自分の組織統制はきっちりしてるだろうけど、彼らの得意なのは『統制』であって、民主的な組織運営じゃない(笑)。
●当事者へのインタビューを纏めたこの本は面白かったです。編者はスプリングスティーンのコンサートを度々見に行っている(笑)船橋洋一

民主党政権 失敗の検証 - 日本政治は何を活かすか (中公新書)

民主党政権 失敗の検証 - 日本政治は何を活かすか (中公新書)

今回の沖縄知事選は本土の人間こそ、学ぶべき点が多いと思います。
それは、もはや保守とか革新、リベラルとか新自由主義、右とか左とか言っている場合ではないということです。今 我々が直面している問題、経済もエネルギーも外交も、方向性は国民の間にそんなに大きな違いはないでしょう。誰だって景気が良くなってほしいに決まっているし、原発は7割近くが反対。まともな人間なら戦争したいと思ってる奴はいない。だったら右も左も関係なく、大方針では手を結べるのではないかと思うんです。
                                             
実際問題、野党が選挙に勝っても、それだけでは原発を止めることはできないと思います。だってバカばっかりなんだもん(笑)。もっと正確に言うと、いわゆる野党の側にも賢い人はいる。だが政治家としてマネジメント能力がある人材が少ない。理念が良くても実行能力がなければ何の役にも立たない。能無しです。自民党が利口とは全く思いませんが、官僚にしろ、自治体の元首長にしろ、元経営者にしろ、よりマシな人材がいることは確かです。議員の教育システムも野党に比べれば充実しているそうですし。
結局 世の中を本気で変えようと思ったら右とか左とか関係なく保守側とも連携していくこと、有権者もそれを見極める眼が必要なように思えます。

翁長氏は『(野党と)腹六分でつながった』と言っているが、共通の大方針さえ一致すれば保守だろうが革新だろうが一緒にやっていくことはできる。それを沖縄の知事選は示しています。原発も米軍基地と同じで、たいていの人は反対です。だったら連携の道は必ずあるはずです。
                                          
沖縄はこれからが大変でしょう。翁長氏は様々な妥協をしながら、そして様々な毀誉褒貶にさらされながら一歩ずつ進んでいかなければならない。翁長氏が言っていることは自分たちのことは自分たちが決める、ということです。それは自分たちの責任は自分たちで引き受けるということでもある。彼だけでなく、沖縄県民がそれをやっていけるかどうか、ボクは注目しています。喜納昌吉なんか全く相手にしなかった沖縄県民は賢い(笑)とは思うけれど(笑)。

今回 沖縄で吹き出た芽が大きく育てられるかどうか、沖縄だけでなく本土の人間にも課せられた課題でもあります。自分たちのことは自分たちで決める。その言葉はそのまま本土の人間にも向けられているのでしょう



                                
前書きが長くなりました。
新宿で映画『聖者たちの食卓

インド、パンジャーブ州シーク教の総本山 黄金寺院で行われている無料の給食を描いたドキュメンタリー。そこでは信徒たちに毎日10万食のカレーが無料でふるまわれ、カーストや貧富の差にかかわらず、皆 同じ場所で座って食べる。これが600年間続いているそうだ

シーク教は男性信者がターバンをかぶることで有名なインドの少数宗教だそうです。プロレスラーのタイガージェット・シンもシーク教徒だそうです(笑)。この映画を見るまでそんなことすら全然知らなかったんだけど。映画館には前の方の席にターバンをかぶった家族連れがいて否応にも雰囲気が盛り上がります(笑)。


映画ではまず黄金寺院とそこに集まってくる人たちが写されます。凄い数の人、そして大理石造りで広大な池に囲まれた壮麗な寺院。池と言っても海みたいな広さです。そこに人々が集まり、毎日10万人分の無料の食事(何種類かのカレーとチャパティ)が供されます。
●黄金寺院:寺の周りには湖のような池が広がり、更にその外側にでかい建物が広がっている。

食事は信者たちがボランティアで作っています。老人も子供も男も女も広場に座り込んで、玉ねぎを刻み、にんにくの皮をむく。マキを大量に集めて火をつけて巨大鍋で煮込む。小麦粉を練って鉄板の上でチャパティを焼く。食堂を掃除し、食器を配り、食事を配る。食器を洗い、鍋を磨き、カーペットを掃除する。皆で分業しながら作業をしているが誰かが指示しているようには見えません。自発的な意思に基づいているからでしょう。毎日10万人分を用意する為に朝から晩まで作業が続きます。
チャパティを焼く

●鍋で煮て、鍋を洗う

                                
驚いたのは、綺麗で衛生的だったということです。鍋や食器は信者たちがムキになっているかのようにゴシゴシ洗っている。食堂の掃除も丁寧ではないけれどきちんとしているし、人々は並んで自分たちの番が来るのをおとなしく待っています。日本でもここまで整然とはいかないでしょう。インドの一般の暮らしと言うと衛生面でどうか?と思ってしまいますが、意外な光景でした。
●階級や貧富の差も、食という行為の前では平等だという。

シーク教では食べ物を作り、食べることは神の行為であり、階級が異なる人が同じ場所で一緒に食べることはカーストが厳しいヒンドゥー教へのアンチテーゼらしい。元来 食事というものは作る⇒食べる⇒後片づけというプロセス全体からなる『聖なる行為』なのかもしれません。良く考えてみれば、それは即ち生きるってことです。そこには子供も大人も男も女も関係ない。そういうプロセスを破壊するファーストフードも、女性に料理を作ることを押し付ける性役割も犯罪的なものなのかも。
そういうことまで考えさせる、シンプルだけど、非常に面白い映画です。退屈なんか微塵もない。とても面白いです。見た後は勿論、カレーを食べに行きました(笑)。



                                                
日本橋で映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』。マーベルコミックスのマイナーコミックスを原作にしたというこの作品はスルー予定だったが、あまりの評判の良さに見に行ってみました。

子供の時に母と死に分かれた地球の少年は宇宙人によって宇宙へさらわれてしまった。成長して宇宙の賞金稼ぎとなった彼はダメダメ人間で喧嘩ばかりしているならず者たちと、ひょんなことから宇宙を征服しようとする宇宙人に立ち向かうことになる。
                                                                                      
ま、あらすじがどうのこうの言う話じゃないから(笑)。一言で言うと面白かったです。巷ではスターウオーズの再来という話もあるようだけど、ボクはスターウオーズは3作目のくまちゃん族?が帝国をやっつけるシーン以外は面白いと思ったことがないので、この映画はスターウオーズの100倍面白かった。

監督はピーター・ガン。前作『スーパー!』で、仕事もルックスもぱっとしない40過ぎの妄想男がヒーロー気取りで私設自警団を始めて、スパナ片手に街中で暴れまわった挙句、麻薬の売人に殴り込みをかけ、わざわざエレン・ペイジちゃんの顔を半分吹き飛ばすというシーンを撮った男です「正しいこと」なんかないと思う。:映画『未来を生きる君たちへ』と『スーパー』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)

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要するにマニアックで現代を反映した映画を撮る人らしい。それが莫大な予算のSF映画を撮るとどうなるか。
                                  
映画はSFには似つかわしくない、10CCのロマンティックなI'm not in loveが大音量で流れるシーンから始まります。主人公が、瀕死の母から渡された初代ウォークマンとお気に入りの曲をセレクトしたカセットテープを聞いています。ここから映画はロケットが空へ打ちあがって行くように、すごいスピードでお話が進んでいく。事件の発端から、仲間たちと知り合うまで、そしてメンバーそれぞれの挫折と再起、ラスボスとの決戦。その中に織り込まれた外すか外れないかぎりぎりのオフビート気味のギャグもおもしろいし、アクションもすごいし、とにかく退屈しない。ボクの苦手な残酷なシーンがないのも安心して見られます。
●ダメダメ人間とダメダメ・アライグマが宇宙を救うお話

お父さん狙いであろう、70年代後期から80年年代のB級ヒット曲という選曲は今いち、ボクには判らなかったけど、画面に懐かしさが漂っているのはわかります。そこに最新のCGとセンスの良い斬新な演出をぶち込んだのがこの映画です。登場人物の造形も結構細かい。主人公の仲間はアライグマに、その相棒の木人間(モンスター)、女性型の人間兵器、家族を殺された筋肉バカだが、どれも細やかに描写されている。特にアライグマ(ハンサムなブラッドリー・クーパーが顔を出さずに声だけ出演)の表情豊かな演技(というかCG)がすごかった。泣きそうで泣かない微妙な表情とか、風に揺れる体毛だとか、CGでこれだけできるんだから、最近の技術は恐ろしい。とにかく可愛いんだもん。あと毒舌で有名な司会者、ジョン・スチュワートがそのままの芸風で出てくるのも嬉しかったです。
●ボクは主人公は興味なし(笑)。

●主役はクマちゃん!(声は男前のブラッドリー・クーパー


●木人間も実にいい味を出してた。切ない表情で本気で泣かせます。

●特撮シーンも見事だった。

                             
殆ど欠点がなくて、あまり感想を書くことがないんです(笑)。マニアも一般人も誰が見てもめちゃくちゃに楽しいという、出来そうでできない高品質の作品。あくの強いマニアックな才能を発掘して、メジャー映画の監督を任せてしまうアメリカの大資本の強かさを改めて思い知る感じがします。誰も責任を取らないことが目的の、各社相乗りの制作委員会ばかりの日本映画じゃあり得ないでしょう。こういうことができるからこそ、あの国からはイノヴェーションが生まれてくる。社会の流動性が高いからこそ、新しいものが創造されてくるんでしょう。総理大臣も議員も2世3世ばっかりの日本じゃ、未来永劫 イノヴェーションなんて無理、無理(笑)。この映画、ブルーレイ出たら買っちゃうだろうなあ。