特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

ボクの心の内底にも:『タブーの正体!』


2月に報じられたフクシマ2号機の温度上昇は温度計の故障ということで片付けられて報道もされなくなってしまったが、2月24日付けの保安院の発表ではまだ温度上昇は続いているようだ。http://kinkyu.nisa.go.jp/kinkyu/2012/02/3622241400.html
2号機圧力容器底部温度が他の圧力容器温度上昇と異なる挙動を示していることから、当該計器を含めて同様の挙動を示している計器5つの点検を実施(2月23日12:21から14:48)。各計器の直流抵抗測定を実施した結果、2つが断線、3つが断線ではないと判断。また、再臨界していないことを確認するために原子炉格納容器ガス管理システムによるサンプリングを実施し、キセノン135が検出限界値(1.0×10の-1乗Bq/cm3)未満であることを確認。
 なお、断線ではないと判断した温度については、現状、使用可能ではあるが、直流抵抗値が前回測定値と比較して上昇しており、今後、監視を強化していく。

要するに(笑)、依然原子炉の温度は上がっているし再臨界の可能性もある、ということだ。
         

昨晩放送されたNHKスペシャルは 地震がおきた瞬間の東京やフクシマ、仙台の生々しい記録映像を流していて大変興味深かった。個人宅にしろ、海沿いの町にしろ、高層ビルにしろ、自分が体験しなかった状況を改めて見ると、どれも想像を超えるものだった。生き残った人間はこれからも忘却に対する戦いを続けていかなければいけないのだから、こういう放送は意味があると思う。昨年のETVの『ネットワークで作る放射能汚染地図』もそうだが、さすがNHK、受信料を取ってるだけのことはある(笑)。

だが原発を巡るインチキ報道を散々垂れ流したのはNHKも例外ではない。これはどういうことか。『マスゴミはバカで無能』だけで片付けてしまっていいのか、それも正直 違和感を感じる。たまたま手に取ったのがそれを論じた本だった。

原発、政治家、官僚、検察、宗教団体、同和、大企業などの問題が何故 日本のメディアできちんと取り上げられないかを今は亡き雑誌『噂の真相』元副編集長 川端幹人氏が論じたもの。 センセーショナルな標題だけど、真面目な本だった。
      

まず巻頭で筆者は、『噂の真相』に在籍していた当時 右翼団体の暴行を受け、その恐怖から自分の中にタブーができてしまったことを告白する。だからこそタブーの実態やそれが生じる理由を知っておくのは意味があることなのではないか、と。
そのあと原発、政治家、官僚、宗教団体、同和、大企業、ユダヤなどに関するタブーがどのように生まれてきたか詳細に記述している。 話が具体的なので大変わかりやすい。これらの問題を究明しようとすると、報じる側は暴力、権力、経済面など様々なプレッシャーを受ける。違法なものもあれば、法に則ったもの、グレーなものもある。それが強ければ強いほどマスコミ側もそのような問題を報道すること自体がタブーになってしまう。

例えば小泉純一郎への批判がマスコミのタブーになっていった経緯は大変興味深かった。小泉が税務調査で読売を脅したのはかねがね思っていたとおりだった。その他にも電力会社の広告費が各社併せると年1000億、民間では最大という具体的な数字も初めて知った。1000億ってなんとトヨタの広告費の2倍!だ。それじゃ確かに原発に対して及び腰になるわけだ。『記者クラブが悪い』、『マスコミがバカだから』と言った単純な話だけでなくて(笑)、それなりの理由があるのを痛感させられる。 ある意味 みんな利益共同体で、問題はその構造なのだ。


本の締めくくりで筆者は『財務省や検察、大企業に関するものなど報道に関するタブーというものは今もあるし、どんどん強まっている』と半ば絶望的に述べている。それに対しては『(今までもそうだったように)個人が少しずつ破っていくしかない』としている。『その瞬間だけでもタブーを破ることができればいいじゃないか』とも。確かにその通りだ。
ちなみに先ほど触れたNHK ETVの『ネットワークで作る放射能汚染地図』は現場が勝手に突っ走って制作したものだそうだ。自主規制を無視して現地へ入ったディレクターは始末書を取られたらしい。(朝日新聞の連載記事『プロメテウスの罠』より)。
              

刊行されていた当時は『噂の真相』という雑誌は下品!と思っていたから(笑)殆ど手に取ったこともなかったが、この本では著者の誠実な語り口に感銘を受けた。
世の中のタブーを形成する種は利害関係であったり、恐怖であったり、無知や知的な不誠実さであったり、する。つまり真実を覆い隠すものは我々一人一人の心の内底にある、ということだろう。