特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

刹那のロマンス:映画『ドラゴン・タトゥーの女』

ボクだって橋下徹が言っていることに賛成できる部分は、もちろん、ある(笑)。原発に対してもそうだし、資産課税を打ち出しているのもそうだ。シングル・イシューを優先して一時的に支持してみる、という考え方もあるかもしれない。だが根本的に問題があると思うのは、人々の考え方には色々あるってこと、多様性を認めようとしないところだ。
橋下はこれからの日本は外国と競争しなければいけない、とも言っている。現代の競争とは人間の知恵、つまり付加価値だ。付加価値は色々な人の考えを認める多様性から生まれる。船中八策なんかで、日本に競争力なんか生まれるはずが無い。あんなのを真に受けたら、日本は外国の低コスト競争に低コストで対抗する貧乏国家に逆戻りするだろう、たぶん(笑)。
  

新宿で映画『ドラゴン・タトゥーの女http://www.dragontattoo.jp/site/
こういう映画は元来パス、なのだが、『ソーシャル・ネットワーク』でデビッド・フィンチャー監督の手腕に感心したのと、打ち込みがビシバシの『移民の歌』(オリジナルはレッド・ツェッぺリン)が流れる予告編がかっこよかったので見に行ってしまった。
大企業の不正を追うジャーナリスト、ミカエル(ダニエル・クレイグ)は名誉毀損で敗訴し休職に追い込まれる。そんなときに大財閥の総帥から、40年前に起きた孫娘の殺人事件を探るよう頼まれる。ミカエルは全身にタトゥーをした天才ハッカー、リスペットの助けを借りて真相究明に乗り出す。そんなお話。


個人的にミステリーって興味ないので謎解きとかそういうところはスルー。話はR+15でかなりおどろおどろしいが、ハリウッドらしく暴力シーン、猟奇的なシーンも控えめ?なので、ミカエルとリスペットのロマンスとして結構 楽しく見ることができた。
                   

映画全体を通して、男性優位な社会の成り立ちと、それに対する怒りが強く感じられる。舞台である北欧、スウェーデンというと男女平等社会というイメージが強いが、ここでは一皮剥けば女性は相変わらず理不尽な差別や暴力にさらされている。リスペットはそれと戦う、一風変わったヒロインだ。
その、リスペットの造型がとてもよい。天才的なハッキング能力と記憶力を持ちながら、過酷な環境で孤独と凶暴性を抱え込んで生きてきた彼女が、今まで自分が出会ってきたのと異質な人間、ミカエルとの出会いで感情を取り戻すところ、そして、それをしまい込むところにはほろりと来た。現代のダーク・ヒロインとして描かれる彼女の像にはすごく感情移入してしまった。
演じたルーニー・マーラは『ソーシャル・ネットワーク』で冒頭、主人公を袖にする女子大生役だったそうだが、良家の子女風だった外観が今回は、鼻&眉ピアスにタトゥーに革ジャンでその面影は全くない。また終盤のウィッグをつけたセレブ姿の変装シーンも見モノだった。
                     
ダニエル・クレイグの彫りの深い顔は格調高くハンサムだけど、どことなく頼りなげで、ヒロインの相手役としてぴったりはまっている。大きいスクリーンでこういう男前を見るのは眼の保養というものだ。
                    
ただ、一部のシーンで挿入された不自然なモザイクはサイテーだった。まさに作品を破壊している感じ。いっぺんに興ざめした。あと、先週見た『人生はビギナーズ』でゲイをカミングアウトする父親役をやってたクリストファー・プラマーが一週間経ったら重々しい財閥の総帥役をやってるので奇妙な感じがした(笑)。

                   
音楽も『ソーシャル・ネットワーク』と同じ、ナイン・インチ・ネイルズトレント・レズナー。クールなノイズが滅茶苦茶にかっこよかった。映画に不可欠な、その場の雰囲気、空気を作るという上で、すごく良い仕事をしていると思う。氷のように冷たく、過剰に暴力的。この人の音楽は現代を描くのにぴったりだと思う。いや、音楽だけではない。


グローバリゼーションの中で、溢れるほどの情報にさらされながら、今も物凄いスピードで終わりの無い競争が続けられている。国家も、企業も、個人も、だ。その激流から一歩外れてしまえば突然 理不尽な暴力に晒される。救いはない。あるのはただ、刹那的なロマンス
映画『ドラゴン・タトゥーの女』に描かれているのはそういう世界だ。その世界はボクらが生きている現実からもそれほど遠くない、と感じてしまう。