特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

I do'nt like Monday:映画『ゴッド・ブレス・アメリカ』

あ〜あ、また月曜日になっちゃったよ。休み明けの月曜日(泣)。
この前 イジメで問題になった地域の教育長を襲ったバカが居た。大学生だという犯人のあまりの幼稚さに驚いたのだが、ニュースによると役所などに犯人に同調するような声が結構、寄せられているそうだ。事情は詳しく知らないが、この教育長はイジメ被害にあった少年の家庭に問題があるのでは?と公言していたような奴で、多分 救いようがないアホなんだとは思う。だけど本当に殺しに行ってどうするんだよ(笑)。お笑い芸人の生活保護バッシングもそうだったし、日本で時折起きる、こういう集団リンチみたいな社会の不寛容さは実に恐ろしい、と思う。だからボクは自分も含めて日本人というものをあんまり信用できない、のだ(笑)。

                                   
そういうことを考えながら渋谷で映画『ゴッド・ブレス・アメリカhttp://www.gba-movie.com/
●一見 B級映画に見えますが、B級映画です。

リストラに逢ったばかりで、しかも脳腫瘍で余命いくばくもないと告知された×1の中年男。前途を絶望した彼は自殺しようとするが、そのとき偶然 TVのリアリティ・ワイドショーで見かけた大金持ちの我儘女子高生と家族をぶっ殺す。そんな彼に共感してついてきた女子高生と一緒にアメリカを旅しながら世の中にはこびるバカをぶっ殺していく。

                          
こう書くと、月曜日の気分にぴったりのどうしようもないクズ映画(笑)のように思えるが、全然そんなことはない。この映画で描かれる『世の中にはこびるバカ』ってこんな感じだからだ。
狂信的に保守的なティーパーティーの連中、イスラム教を排撃するキリスト教原理主義者の牧師、映画館で上映中に携帯かけてる若者、パリス・ヒルト●みたいな我侭でアホなTVセレブにワイドショーのコメンテイター、知的障害者を笑いものにしたり、ゲイや黒人やユダヤ人を差別するような連中。
主人公と女子高生がブっ殺していくのはこんな連中だ。納得感、ちょっとはあるでしょう。特に映画館で上映中に携帯いじってるようなバカだったら、しょうがないじゃん?(笑)。
それに、今の日本には似たような連中は山ほど居る。東京電力の上層部とか、SPEEDIのデータの発表を止めた文部省の役人とか、フクシマから真っ先に逃げ出した保安院の連中とか、日本のダニ『在●会』とか。あと、この時期にわざわざ尖閣に日の丸挙げに行ったバカ。お前らは石原慎太郎に煽られて尖閣におしかけた中国のプロ活動家の同類かって。戦没者の慰霊を口実にしたところが実に卑怯だ。遺族の人にはさぞ迷惑だろう。更に言えば、石原や森田健作に投票した奴とか、しらけているんだかなんだか知らないがいつも選挙に行かない奴だって、ボクはどうなんだと思う。きりがないので、この辺で止めておきますけど(笑)。
                                          
そういうバカの共通項は他人、特に弱者に対する不寛容と自分に対する寛容(笑)だ。この映画はそういう連中をブラック・コメディという形で痛快に指弾する。でも、それだけで終わらない。
舌鋒はアカデミー賞映画の『JUNO』や今年公開された映画『ヤング・アダルト』の脚本家のディアブロ・コディ(元ストリッパーでアカデミー脚本賞を取ったということで朝日新聞などにも取り上げられた人)とかウディ・アレンなど、リベラルに対しても容赦がない。主人公や女子高生の台詞という形で日常に隠された偽善性をバッサリ切り捨てる(賛否は別)。土曜の夜NHKで放送している高校生の合唱部を描いたドラマ『グリー』は人種問題だけでなくゲイや性同一性障害の問題まで堂々と扱っていて、かねがねボクは感心していた。だが、この映画の女子高生にかかると『グリーはゲイの人をパターン化して描いているからダメっ』と 一刀両断だ。ただのおバカ映画ではない。

●凛々しい女子高生役のタラ・ライン・バーちゃん

主人公役のジョエル・マーレイは今年のアカデミー賞映画『アーティスト』で主人公を救う警官役をやっていた人。ビル・マーレイの弟さん。兄貴同様、生真面目で冴えない中年男役がぴったり。
女子高生役のタラ・ライン・バーちゃんは第2のクロエ・グレース・モレッツキック・アス)といわれているらしいが、これからスターになるのではないか。目が覚めるような美人と言うわけではないけれど、目の力が強くて、とても魅力的だ。
              
                                            
最近の映画は暴力シーンが多い。今の弱肉強食社会という現実を考えると暴力と無縁でいられないというのは判るが、CGによって表現が嗜虐的になっている傾向ってあると思う。『ホット・ファズ』とか『キック・アス』とか良い映画だったけど、そういうところはボクは我慢がならない。
この作品はバカを殺しまくる映画だが(笑)、嗜虐的な傾向は全くない。その部分の描写は非常に淡白だし不快感はなかった。それはこの映画は主人公たちの行動に対して常に第三者的な視線で見つめているからだ。むしろ最近珍しいくらい禁欲的かつ道徳的で、それがこの映画の弱点にすら、なっているくらいだ。ちなみに監督のボブキャット・ゴールドスウェイトはコメディアン出身で、かってロビン・ウィリアムスとコンビを組んでいたそうだ。

                                    
過度な真面目さゆえに現実になじめない主人公と女子高生。旅と殺人を重ねるうちに彼らは同志のように心が通じあっていく。そういう描写はかなり丁寧に描かれていて、見ている側も心が柔らかくなる。寝る前にひとしきりディアブロ・コディの悪口を言い合ったあとに、主人公が女子高生に『お休み、JUNO』とやさしく声をかけるシーンなんか素晴らしかった。だが バカを殺していくだけでは何も解決しない。彼らに殺されたようなバカは世の中に害悪を垂れ流すだけのウルトラ・バカであることは間違いないけれど、彼らの存在を全否定するだけでは彼らと同類になってしまう。なによりも怒りの炎は他人だけでなく、自分をも焼き尽くしてしまうからだ。現実に直面した主人公は女子高生を無理矢理に帰らせ、自ら旅に終止符を打とうとする。


              
このストイックでプラトニックな悲喜劇は現代版『俺たちに明日はない』ということを意識して作っているし、それは結構 成功していると思う。
ラストシーンで警官隊に囲まれた主人公の前に、再び現れた女子高生。彼女が主人公から自動小銃を取り上げる際のなんとも言えない優しい表情は忘れがたい。そうやって、ほっこりさせたあとの展開と言ったら(笑)。今まで保っていたクールな視線が崩れ落ち、一気に当事者の感情が解放される。サイコーです。これぞカタルシス。久々に感動の涙というものを流しました。