特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

やるしかない。:アンヴィル!

渋谷のアップリンクで『アンヴィル!』(The Story of ANVIL)
映画『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』公式サイト
ヒットに恵まれないまま約30年間続いているアンヴィルというカナダのへヴィメタルバンドを描いたドキュメンタリー。
まず、ボクはへビメタという音楽が大嫌いだ。
メロディもアレンジも歌い方もファッションも全てがワンパターンで、はっきり言って古臭い。男性優越主義みたいな台詞が多い歌詞も内容がないだけでなく、文字通り頭が悪い、としか言いようがない。『資源のムダ』以外にヘビメタを形容する言葉はボクは思いつかないのだ(それでもメタリカだけはストイックで内省的なところを感じるので好きなのだが)。とにかくへビメタが大嫌いだから、今いち この映画も見る気がしなかった。

 話は1984年 日本の西武球場のロック・フェスティバルで演奏するバンドの姿から始まる。大観衆の前で、ディルドー!(笑)を振り回してシャウトするヴォーカルのリックスは確かにロックスターだ。
そのリックス、今は郷里の給食センターで働いている。給食の配送で生計を立てながら、ドラマーのロブと一緒にバンドを続けている。バンドのほうは新作がご無沙汰状態なだけでなく、演奏するのもバーや結婚パーティの会場などの場末ばかり。ヨーロッパへツアーに出ても、1万の観衆が集まると言われて勇んで出演したら集まった客は167人だったり、ギャラが未払いだったり、文字通り悪戦苦闘状態。家族のほうも呆れ顔だ。
それでもリックスが凄いのは音楽を続けていくことに対してまったく迷いがないところ。
変な欲も色気も使命感もなく、ただ俺はこのバンドをやっていきたい、やるしかない、ということだけ。うまくいかない活動に疲れて、ロブと子供のような大喧嘩もするが音楽を続けることには揺るぎはない。
映画を撮ったサーシャ・ガバン監督は凄い。スピルバーグの『ターミナル』の脚本を書いた人だそうだが、バンドにまつわる印象的な出来事が起きた瞬間を見事に捕らえているだけでなく、それをテンポよく構成している。
リックスは姉に借金して、やっと新作をレコーディングする。

This Is Thirteen~夢を諦め切れない男たち~

This Is Thirteen~夢を諦め切れない男たち~

だが 市場的にはまったく反応がない(こんな間抜けなジャケットじゃ当たり前だ)。相変わらずメジャーなレコード会社からは拒否されてばかり。だが、ヘビメタが盛んな日本から、大会場での演奏のオファーが来る。30年ぶりに来日し、客が居なかったらどうしよう、という不安に駆られながらステージに出て行く彼ら。今までさんざんそんな目にあってきているのだから無理もない。しかし 待っていたのは大観衆。

ラストシーン、渋谷のスクランブル交差点で目をかがやかしながら立ち尽くす二人の姿が忘れられない。50過ぎのおっさんの目がきらきら輝いているのだ、本当に(笑)。
そう、この映画が素晴らしいのは話の面白さや監督の力量だけでなく、主人公二人の心根が本当に優しいから、なのだ。
映画の宣伝に使われている、ダスティン・ホフマンがこの映画を評したという『この映画を見るまでヘヴィメタは大嫌いだった。しかしこれは、今まで見たなかでもっとも心が揺さぶられた映画だ』はまさにそのとおり。
魔法のような映画だ。

ヘビメタの映画を見て、まさか涙が出るとは思わなかった。