特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『沖縄の選挙』と遠い夏の記憶:映画『みんなのヴァカンス』

 はっきりしないお天気が続いていますが、少なくともクーラー無しでは眠れるようになりました♪
 歳を練るにつれ感受性も劣化して(笑)、季節の変化でワクワクするようなことは少なくなりました。それでも、過ごしやすい気候になるのは嬉しいです。秋の美味しい食べ物だけでなく、クソ暑い夏には考えられない、服を着る楽しみも戻ってきます。

●今日 朝5時の月。確かにこの時期の月は美しい。

 
 沖縄の知事選はデニー氏の勝利で良かった、とは思いました。

 心配していた県議選もオール沖縄側の候補が当選して、県政与党がギリギリ多数派を維持しました。最近は衰退傾向と言われるオール沖縄ですが、議会では保守系・無所属の差は1議席しかないんですね。

ryukyushimpo.jp

 知事選自体は保守陣営が分裂していたし、佐喜真氏が統一教会と関係があったのも明らかでしたから、デニー氏が勝つのは当たり前ではありました。票差が問題でしたが、全体の1割近い6万票の差は何とか及第点だったのではないでしょうか。

 辺野古の問題だけではありません。マスコミはまだ、それほど騒いでいませんが、これから沖縄では長距離ミサイル配備の問題が持ち上がってきますアメリカは要請してくるし、日本政府も日本製ミサイルを配備しようとしてくる。政府はミサイル1000発とか言ってますが、多くは沖縄に配備しようとするはずです。それも軍事的には狭い孤島ではなく、本島でなくては意味がない。

 果たして日本人は冷静で現実的な議論が出来るでしょうか?また、沖縄の人たちはどのように判断するでしょうか?
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 気になったのは出口調査を見ると、30代以下は佐喜真氏の方が支持が高いこと。


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 若年層の支持が自民党に向いているのは沖縄だけの現象ではありませんが、やはり、この点は気になります。いずれ、30代以下の層が社会の多数派になることは目に見えているからです。

 オール沖縄だけでなく、野党側はなぜ30代以下の支持が薄いのか
 最近の若者にとっては最も保守的なイメージなのは共産党、だそうですが、保守的とみられている野党のイメージの問題なのか、現役層向けの政策が不足だからなのか、経済や安保などの政策が現実的ではないからなのか。

●野党に問題があっても与党がマトモ、と言うわけでは全くありません。

 正確にはLGBTなどに寛容だったり、環境問題への意識も高い10代、20代と維新の支持率が高い30代、40代は一緒に考えるべきではないと思います。
 しかし若い層にとって野党が遠く感じられるのは間違いない。ボクから見ても、デモや集会の主要参加者は年寄りばかりです。しかも言ってることも非論理的だし、絶望的なレベルでカッコ悪いから(笑)、若い人が惹き寄せられるはずがない。

 ここを真剣に考えないと、野党の勢力はいつまでたっても伸びない。国会は形骸化して政府のチェックが効かない権威主義的な政治が続いてしまうのではないでしょうか。

●国民無視で強行するバッタモンの国葬なんて、所詮はこんなもの



 と、いうことで、渋谷で映画『みんなのヴァカンス

フェリックス(エリック・ナンチュアン)はパリの屋外パーティーで見知らぬ女性、アルマ(アスマ・メサウデンヌ)と楽しい時間を過ごし、恋に落ちる。
 翌朝、家族とのヴァカンスでパリを離れたアルマを追って、フェリックスは親友のシェリフ(サリフ・シセ)、相乗りアプリで知り合ったエドゥアール(エドゥアール・シュルピス)と一緒に南フランスの田舎町へ向かうが。

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 ボクの大好きな故エリック・ロメールの作風そっくりという評判のフランス映画。フランスの長いヴァカンス、美しい自然、太陽の光、平凡で不器用な登場人物たち、瑞々しい肉体、恋の予感。悪人が出てこない、何気ない日常を淡々と描いた作品です。
ギヨーム・ブラック監督は初めてですが、『女っ気なし』『やさしい人』などの作品で近年話題の監督です。今回は主なキャストやスタッフを、フランス国立高等演劇学校の生徒たちが担っています。

 フェリックスはセーヌ河のほとりの野外パーティーでアルマという女性と知り合います。楽しい一夜を過ごした後、アルマは家族とヴァカンスを過ごすためにパリを離れてしまいます。居ても立ってもいられなくなったフェリックスはスーパー勤めの親友、シェリフを無理やり誘い、女性のふりをして相乗りアプリで知り合ったエドゥアールの車で南フランスの田舎町へ向かいます。

●文字通り3バカトリオ。左から、自分勝手で不器用なフェリックスと気の優しいシェリフ、生真面目なエドゥアール

 ロメール監督の映画は殆どが女性が主人公です。良い意味で男性的な価値観から逸脱しています。ボクにとって、そこが共感できるポイントの一つではあるんですが、この映画は男性が主人公。自分勝手で激しやすいフェリックス、バカでマザコンエドゥアールのキャラがあまり好きではないことも相まって、最初は感情移入できませんでした。激したフェリックスが強引にアルマの家に乗り込むなど悪い意味の男性性が垣間見えるところもあります。

 ただ、アルマも自分勝手でヒステリックだから、バランスが取れている(笑)。
●女の子たち。右側がアルマ

 ロメール監督の映画だったら主人公は白人だし、長期のヴァカンスだったら家を借り切ったりします。ところが今回の映画は男性たちは有色人種だったり、ヴァカンスと言ってもキャンプ場でテントを張ったり、

 市民プールやサイクリングやカラオケに勤しんだりする。

 60年代とは時代が違う。フランスの中産階級も大きく様変わりしている、ということなのでしょう。

 人種も環境も大きく異なる男たちの関係も、フェリックスとアルマの仲も、最初は空中分解寸前でした。その中に気のいいシェリフも巻き込まれる。しかしヴァカンスで共通の時間を過ごしていくうちに、友情や恋が芽生えてくる。
●フェリックスとアルマ

 何気ない日常をクスリとさせる描写で描きながら、登場人物たちが性格や生まれ育ちの違いを自然に乗り越えていく。その過程はかなり感動的です。

 立派な人間も悪人もいない。良い点と悪い点、強さと弱さを併せ持った人間がいるだけです。そして、夏の日のヴァカンスという特別な時間が、少しだけ人間を素直にさせる。
 

 見終わったあとの感触も非常に良い、佳作です。スターも出てこなければ、事件も起きない。絶景も出てこない地味な映画ですが、かなり心に残ります。まるで魔法みたいだった遠い夏の記憶(笑)が蘇ってくるような作品。面白いです。


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『2年前の佃煮とバッタモンの国葬』と『香辣魚』

 ゲゲッ。関西では有名な昆布の佃煮屋、神宗が2年前に作った古い佃煮を新品に混ぜて売っていたそうです。確かに、あの真っ黒な昆布の佃煮は2年くらいは腐らないだろうけど(笑)、流石になあ(笑)。

 昔 大阪に度々出張していた頃、地元の人に教えてもらったら美味しくて、度々お土産にしてました。老舗だから安心してたんだけど、こんなことをするとはなあ。大阪へ行くことも少なくなったし、もう食べることもないかな(笑)。


 先日 家に届いたおせち料理の案内を見ていたら、価格がなんと昨年の1.5倍に跳ね上がっていました(笑)。
 蟹だの、イクラだの、おせちの食材は特に値上がりしているものばかりで値段は上がるだろう、とは思っていましたが、1.5倍というのは流石に驚いた。案内を送ってきた料理屋も罪悪感があるのか、『昨年購入したお客様には一般予約開始前にお電話してご意向を伺います』というメモが入っていました。

 ま、おせちなんか他の選択肢もあるし、別に食べなくてもいいから構いませんが、これから秋にかけての様々な値上げはかなり厳しいものになるんじゃないか、と思いました。


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 値上げの根本的な原因は資源高だけじゃなく、アベノミクスの円安。資源高は産油国の増産や戦火が収まれば収束する可能性はありますし、現に石油はピーク時の3割安、1バレル80ドルまで下がりました。でも、円安はそうはいかない。アベノミクスで散々カネをばらまいて、円安に歯止めが効かない状況です。

 円安で儲かる業種、金融や輸出企業など物価上昇に見合うペースで給料が上がる人はいいけど、そんな人は少ないでしょうから、世の中の格差は一層広がります。政府は5万円配るなんて言い出しましたが、一時しのぎに過ぎません。

 アベノミクスは円安で物価高を起こしてデフレを退治する、と言ってました。その結果が案の定(笑)。誰か、生活が良くなった人いますか?(笑)。ついでにMMTとか言ってた山本太郎とか正真正銘の白痴でしょう。財政出動してインフレになっても、コントロールできるんだろ(笑)。

 このアホな物価高の原因を作った安倍晋三をなんで16億も使って国葬なんかしなくちゃいけないの?

 そんなことより、金返せって。

 ただ、エリザベス女王が死んだことで、『本物の国葬』と『バッタもんの国葬』の差がはっきり出るのは良いことかもしれません。

 

佃煮も経済対策も国葬もバッタもん(笑)。しょせん、日本なんてその程度の国なんだ。


 ついでに自民党統一教会と国会議員との関係の『点検』(笑)結果を公表しましたが、全くお話になりません。

 関係があったとする議員のリストには、かねてから関係が囁かれている衆院議長の細田だけでなく、統一教会が長年、重点候補としてきた『山谷えり子』、

文芸春秋に載った『ジェンダーという言葉を使わせないよう安倍晋三山谷えり子にチェックさせろ』という統一教会関連団体の文書

bunshun.jp

 統一教会から支援を受けていると公言し、関連団体で講演もやっていた『杉田水脈』の名前さえもない。

www.chunichi.co.jp

 こんな調査、信ぴょう性ゼロに決まってます。
●クリックすると議員名が続きます。

 そもそも地方議員だって入ってないんだし、アホらしい。
●香川のワニもリストから漏れてた。

 
 このざまで自民党統一教会と関係を切れるのかどうか、誰が見ても甚だ疑問です。それには理由があります。
 それは自民党だけの問題じゃなく、国民が変わっていないからです。
 信者が5万とか10万とか、他の新興宗教と比べても僅かな信者しかいないカルト宗教がこれだけ政治と関係が持てるのか。それは国民が政治に関心を持たず、選挙に行かないからです。

 安倍晋三統一教会の関係だって今に始まった話じゃありません。確かにマスコミは大々的に報道しなかったけど、官房長官当時の安倍が統一教会関連団体に祝電を送ったりしていたのは僅かながらニュースにはなっていた。山上が暗殺を決意した安倍晋三の昨年の統一教会関連でのスピーチだって、鈴木エイト氏などは報じていたし、ボクもチェックしてた。けれど世間的には関心は殆ど惹かなかった。

spyboy.hatenablog.com

 今になって統一教会の問題を騒ぐのは悪いことではないけれど、『国民の政治への無関心』という統一教会をのさばらせた構造的な原因が変わっていないのだから、これからも統一教会、もしくは似たような連中がのさばり続ける可能性は高い霊感商法はしないかもしれないけど、創価学会だって似たようなものでしょ(笑)。


 さて、コロナの感染状況はまだまだ油断できませんが、仕事では宴会・会食の予定をやたらと入れられるようになってきました。
 自分から誘うことは一切ないし断れるものは極力断っているのですが、1ヶ月で3件も入れられてしまった。多い人はもっと多いでしょうけど、ボクにとっては信じられない頻度です。はっきり言って、誘ってくる奴にはめちゃめちゃ腹が立ちます。仕事の延長とはいえ、業務時間外になんでクソ面白くもない奴らと飯を食わなきゃいけないんだ。

 元来 懇親や情報収集のためにやるわけですが、宴会を誘ってくるような奴には正直、憎しみの感情しか湧いてきません(笑)。時間の無駄もいいところです。ホント、宴会とか会食を誘ってくる奴って死んで欲しいです。

 一方 プライベートで美味しいものを食べるのならいいんです(笑)。
 三軒茶屋湖南料理を食べてきました。四川料理より辛いといわれている湖南料理のこの店、度々ランチには行くのですが、夜に行ったのは初めて。

 ちなみにガチ中華で野蛮な店かと思いきや、AKBだか何だかの女の子がこの店に行った記事が雑誌に出てました(内容はくだらないです)。ま、こういうガチ中華は安い、うまい、ヘルシーなものが多いと三拍子そろってますから、女性の人気が出るのは不思議ではない。
www.leon.jp

 これは店の看板料理の『香辣魚』。『臭魚』とも言って、一匹丸ごと10日間 塩水漬けにして発酵させた魚を湖南の唐辛子と野菜で蒸したものだそうです。独特の発酵臭とさっぱりした唐辛子にハーブが絡んだ面白い味です。ま、ボクは発酵臭OKなので美味しかった。
 この日の魚は黒ソイ。下に溜まったスープをご飯と一緒に食べるとサイコーでした。

 以下は付け合わせです。
 擂辣椒皮蛋(青唐辛子のピータン和え)。すり鉢に皮蛋と青唐辛子、辣椒が入っています。上にはパクチー。“すりこ木”で潰しながら食べろ、と言われましたが、辛くないし普通においしいので潰す必要なかったです。めちゃめちゃ美味かった。

 紫蘇煎黄瓜(きゅうりの大葉ロースト)。これは普通にきゅうりと大葉を炒めたもの。さっぱり系のおつまみです。キュウリの消費には重宝な料理法なので、さっそく家で真似してます(笑)。

 

彼らは時代を変えることを選んだ:映画『時代革命』

 東京でも夜になると、時折虫の声を聴くようになりました。虫の声も昔に比べれば明らかに少ないですが、それでも嬉しいものです。

 先週 土曜日の放送で金平キャスターの交代を告げたTBS『報道特集』、番組公式は事前にこんなtweetをしていました。

 このtweetと実際の放送で交代を報告する金平氏の顔を見ていた限りでは、ボクは『上からの降板圧力を金平氏と現場が突っぱね、特任キャスターで不定期出演という形でなんとか継続させた』と想像しました。
 『金平氏は特任キャスターとして長期取材を中心に』とTBSは言っていますが、この日の放送も含め、今までも『報道特集』では数年間かけて取材した、という例はいくつもあります。長期取材は理由になりません。金平氏の降板は圧力なのか、68歳と言う年齢なのか、真相はどうなんでしょうか。

●月刊住職って、まさに『業界紙』ですね(笑)。



 と いうことで、渋谷でドキュメンタリー『時代革命

2019年、香港政府による「逃亡犯条例改正案」への反対は200万人もの人々が参加する大規模なデモに発展する。あまりにも激しい市民の反対に逃亡犯条例は撤回されるが、警察の取り締まりは暴力を伴うようになり、香港のありとあらゆる場所でデモ隊と機動隊が激しくぶつかり合うようになる。やがてデモ隊は香港理工大学に立てこもり、警察が構内に突入した結果、多くの参加者たちが逮捕されるが
jidaikakumei.com

 2019年の「逃亡犯条例」改正案への反対運動以降、中国当局の締め付けで自由がそぎ落とされていく香港で、警察と衝突しながら最前線で戦った市民による抵抗運動の様子を映し出したドキュメンタリー。

 監督は香港では著名というキウィ・チョウ、他の制作スタッフの名は安全上の理由のため、明かされていません。またインタビューを受けた人たちの多くは顔を隠していますが、一部の人たちは亡命や刑務所に入れられ連絡が取れなくなっています。

 昨年 カンヌ国際映画祭東京フィルメックスで上映直前まで作品名・内容共に伏せられたまま、サプライズ上映をしたことによって国際的にも大きな反響を呼びました。大ヒットした台湾では最優秀ドキュメンタリー賞も受賞。
www.excite.co.jp

 それでも中国本土や香港では上映することはできません。まだ香港にいる監督自身も映画館のスクリーンで自分の作品を見たことがないそうです。

cinemore.jp
 
 映像は「逃亡犯条例」反対運動が始まった19年の春から11月まで、そしてその後を追っています。
 犯罪容疑者の中国本土への送致を可能にする逃亡犯条例を切っ掛けに市民たちから抗議が始まります。6月には香港の人口700万人中、200万人がデモに参加するようになる。7月には立法府に人々が突入、占拠する事態になる。

●警察は人々に向かって催涙弾を1発や2発ではなく数千発も乱射し、デモ参加者はヘルメットやマスクを被らないと参加できないような状況になります。人々はマスクやヘルメットなどのデモ用の装備を「文具」と呼ぶようになりました。
 

 その後 警察は暴力を使うようになります。7月には香港のマフィアが鉄パイプを使って抗議参加者を襲う事件が起きる。警察は全く見て見ぬふりです。警察がマフィアに指示していたことがその後明らかになる。8月には警察が市民を直接襲撃するようになります。11月には交通警察が非武装の市民二人に至近距離から発砲、重体になるという事件まで起きます。そして学生たちが立て籠もる大学に警察が突入、大量の逮捕者が出ます。

 そしてコロナ禍が起きると一切のデモや集会は禁止され、20年の6月に抗議活動を封じ込める『国家安全維持法』が施行、新聞の幹部や多くの活動家が逮捕されます。

 映画は現場での映像と抗議の参加者、獄中にいた民主化運動指導者などのインタビューで構成されています。インタビューに答えるのは反対運動に参加した市民、70過ぎの老人から10代前半の子供まで、それに放送局のキャスターや学者など。危険があるため、市民は皆 顔を隠しています。


 最初から最後まで映像の迫真感は凄い。警察がデモの参加者を引きずり倒してガンガン殴っているところだけでなく、非武装の参加者に発砲するところも何度も写されている。抗議で自殺する人の映像もある。さらにドローンによる上空からの撮影まである。これらの映像を一体どうやって撮ったのか、驚くばかりです。

●香港を見下ろす山にも抗議のネオンサインが掲げられます。

 香港で起きた出来事、市民たちの逃亡犯条例反対運動や香港マフィアの市民への襲撃や警察の市民弾圧、大学への立て籠もりなど断片的にはTBS『報道特集』などで見ていましたが、こうやって時系列で追って描かれると大変分かり易い。

 抗議運動は「分権化されたリーダーシップ」、集まっては散り、散っては集まる柔軟な戦術「水になる」、香港全体を使った運動を展開する「どこでも開花する」などの特徴や指針を持っていました。映画は運動家たちの現場に入り込んで、実際に分権化された活動や役割分担など人々の多様な動きの全体像を捉えようとしています。


 
 重苦しい話ではありますけど、なぜか暗いところは感じられません。
 人々が語る話と何が起きたかを示す実際の映像があまりにも印象的だからです。『美しい』とすら思える。
 様々なエピソードが示されます。例えば香港の抗議は14年の雨傘運動の頃から、強硬手段に訴えることを辞さない『勇武派』と平和的な手段で抗議しようとする『和理非派』の間で立場が別れていました。それが今回の抗議ではお互いが率直な議論を重ねて、次第に協力し合うようになる。

 抗議の仕方も様々です。街頭にデモに出たり、大学に立て籠もったりする人たちだけではありません。活動家たちを警察から逃がすために自家用車を提供したり、それを組織するボランティアがいました。警察が市民に暴力をふるったニュースを聞いて自宅から救護に駆け付ける医療ボランティアの学生、抗議の現場で自分が警察に対する盾になり若者を優先して逃がそうとする70過ぎの老人もいる。

 この映画は権力に対峙する香港の人々が自主的に助け合う話が幾つも積み重なってできている。見ながら何度も涙が出てきました。

 

 もちろん監督は抗議の側に立って描いています。だからこんなリアルな映像を撮ることが出来たわけですが、抗議に懐疑的な人や親中派の声は殆ど描かれてはいません。途中 『抗議が長期になると商売が出来なくなって困る』とデモ隊に食って掛かる外国人が出てきますが、程度の差こそあれ、そう考える人も大勢いたでしょう。
 なんと言っても抗議に出たのは700万人のうち200万人です。残りの500万人は何を考えていたのか、という問題は残っています。

 ボクが見た上映後、『なぜ君は総理大臣になれないのか』の監督、大島新氏のミニ・トークショーがありました。大島氏は『自分がいくら権力に都合の悪い映像を撮っても命までは取られないが、この作品ではその前提が成り立たない。そういう緊張感、切実さを感じる』と述べていました。

 
 国家安全維持法という強圧的な法律が出来て、香港の自由は失われました。『一国二制度』という約束を中国は守らなかった。この映画は中国が何をやったか、見事に記録しています。今 香港では大規模な人口流出が起きています。

www.asahi.com
 
 この映画に出てくる人たちも、ある者は香港に残り、ある者は台湾や外国に逃れました。彼らは絶望はしつつも、香港の自由を諦めていないのが非常に印象的でした。  
 人々の香港人』というアイデンティティは一層強くなっている。

 映画の中で抗議の参加者はこう言っていました。
時代は私たちを選びませんでした。しかし、私たちは時代を変えることを選んだのです。


 
 この映画で描かれていることは勿論 他人事ではありません。日本の政治だって権力は何をやってもいい、という、中国共産党の目指す方向と同じ向きへ動いています。この映画を見るとやはり、自分に何が出来るのだろう、と思います。

 2時間半の長尺が全く長く感じられなかった。今年見た中では断トツのドキュメンタリー。単に質が高いドキュメンタリーであるだけでなく、見ることが出来て実に良かったと思える感動的な作品でした。

 台湾の蔡英文総統は「すべての台湾人が見るべき映画だ。香港の経験は我々に、民主主義と自由は守るべき価値のあるものだと教えてくれる。それは社会にとって最大の共通認識でもあり、そこに譲歩の余地は一切ない」と語ったそうですが、日本人にとっても同じだ、と思いました。


jp.taiwantoday.tw



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