特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

 今朝の東京の朝の気温は8度。寒かったです。いきなり冬がやってきた感じです。
 秋物の服が売れないという話も聞きますが、春と秋がどんどん短くなっている。地球温暖化の影響は確実に出てきているのでしょう。

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 その一方 人間は愚行を繰り返す。WW2の反省が足りないのは日本だけじゃないようです。ホロコーストの被害を受けたイスラエルが今度は自分でホロコーストを起こしている。人間の愚かさには終わりがない。

 でも愚かなことが起きたら何とかしようとする。それもまた人間です。この週末 ロンドンでは警察の制止を振り切ってガザ停戦を求める人が30万人。これが普通の発想だと思います。


 と、いうことで、六本木で映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

 20世紀初頭のアメリカ。生まれ故郷のミズーリ州から白人に追い出された先住民族のオーセージ族は居留地に指定されたオクラホマ州で石油を掘り当てて莫大な富を得る。ところが、その財産を狙う白人たちはオーセージ族を言葉巧みに操ったり、娘と結婚して財産を次々と取り上げ、やがて命までも奪っていく。悪事が加速していく中、オクラホマを訪れたアーネスト・バークハートレオナルド・ディカプリオ)は、オーセージ族の女性モーリー・カイル(リリー・グラッドストーン)と出会い、恋に落ちる

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 実話を基にしたデイヴィッド・グランの小説「花殺し月の殺人--インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」を実写化した作品です。監督はマーティン・スコセッシ。出演はレオナルド・ディカプリオのほか、ロバート・デ・ニーロ、リリー・グラッドストーンなど。

 上映時間3時間半、インド映画もビックリの大作です。

 お話は実話です。先住民族のオーセージ族は元々住んでいたミズーリ州の土地を白人に追い出されます。昔のTVドラマ『大草原の小さな家』の一家はオーセージ族の土地を強奪した白人入植者だったそうです。今から考えれば、とんでもないドラマで、放送禁止間違いなしです(笑)。

 故郷を追われたオーセージ族はオクラホマ州居留地に流れ着きます。ところが彼らは偶然 その土地から石油を掘り当てる。当初は石油も大した価値がありませんでしたが、自動車が発明されると価値が急騰、オーセージ族は莫大な富を得ることになります。

 その富を狙って、今度は有象無象の白人たちが集まってくる。この映画の主要登場人物であるデ・ニーロ演じる村の顔役のヘイルディカプリオ演じる甥のアーネストもその一人です。
 WW1帰りの復員兵で職を探していたアーネストに、ヘイルは石油の権利を持つ先住民の娘と結婚するよう焚きつけます。アルコールと女性、金儲けが好きで頭の弱いアーネストは本気で彼女に恋し、めでたく結婚しますが、その後 何故か石油の権利を持つ彼女の一族が次々と怪死を遂げていきます。 

●復員兵で職がないアーネストは運転手を始めますが、上得意客の先住民、モーリーに恋をします。

 村はヘイルら権力者が実権を握っていますから、捜査はまともに行われません。次々と先住民が亡くなっていくなか、出来たばかりのFBIが悪名高いフーバー長官の下、捜査に乗り出してきます。

 何と言っても、この映画の見どころはデ・ニーロ、ディカプリオの演技です。
 どちらも悪人だし、感情移入できるような人物ではありません。ディカプリオ演じるアーネストはとことんクズ男です。バカで無能で情けない。だけど人が好い。ディカプリオの人間の酷薄さ、だらしなさ、それに優しさを表現した演技は深みがあって素晴らしいです。ディカプリオってあまり好きじゃありませんでしたが、この映画での彼は素晴らしい。

 デ・ニーロ演じるヘイルもとんでもない狸おやじです。やってることは先住民の味方を装って石油利権の強奪です。だけど自分では先住民の味方をしている、と心の底から信じているようでもあります。ただの狸ではなく、狸ぶりが二重三重にもなっているから、見ている側は訳が分からなくなってくる。それくらいすごい。

 あと妻、モーリーを演じるリリー・グラッドストーン。役柄もあって台詞は多くありませんが、だからこそ複雑な表情で矛盾を抱えた気持ちを表現している。アカデミー助演女優賞間違いなしじゃないですか。
 誰もが善人ではないが、極悪非道の悪人でもない、強気でもあれば弱さを抱えた、一筋縄でいかない登場人物を見事に表現しています。

●村の有力者である叔父(デ・ニーロ、左)と甥(ディカプリオ)

 3時間半というドラマでも全く飽きない。インド映画だったら次から次へとアクションや踊りが飛び出してきますから判るのですが、こういうドラマで長さを感じさせないのですから、演技や演出が本当に素晴らしいのだと思います。

 あと、音楽。先住民の血を引くギタリスト、ロビー・ロバートソン(元ザ・バンド)が手掛けています。これがまた、渋くて実にカッコいい。一聴しただけで彼が弾いていると判るギターとエスニックな音楽が組み合わさっていて、実に効果的でした。今年亡くなったロビー・ロバートソンの実質的な遺作です。映画には彼に捧げるテロップがつけられています。

 映画には様々な伏線が散りばめられています。ヘイルやアーネストの人となりや時代背景、富を得て豊かになったように見える先住民の処遇、アーネストの妻になるモーリーを始め先住民たちがなぜ糖尿病やアルコール中毒になる人が多いのか、捜査を進めるFBIの真の狙い、これら全部を追いかけるのは大変です。
 よく出来ているから予備知識が無くてもお話はすっと入ってきますけど、情報量が多いから本当の全貌を捉えるには何度も見なければいけない映画かもしれません。

 夫婦のラブストーリー犯罪サスペンス先住民弾圧を描いた社会派など様々な側面がある映画です。奇をてらったストーリー展開があるわけではありませんが、様々な要素が緻密に組み合わされて人間を表現している。同じ社会派的な側面を持っていても、最近の邦画で言えば『福田村事件』なんかとは大人と子供くらいレベルが違う。これぞドラマ、これぞ人間描写と思いました。

 3時間半という時間に怖れを為す人も居るかもしれませんが(笑)、長さは全く感じません。あっと言う間でした。完成度が高い素晴らしい映画です。


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