特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『ピクニック』と『グローリー/明日への行進』

このところ東京はずっと雨が降り続いています。昨年は毎週金曜の官邸前抗議は全く雨に降られなかったと記憶しているから、毎週 雨に悩まされている今年とはずいぶんな違いです。まあ、その分 気温が低くて過ごしやすいのは何よりですけれど。
                                                                                                
ギリシャがデフォルトするかで揉めているけど、こればっかりは先のことは判んない。無理な緊縮策は国民の生活を破壊するし、かといって公務員が労働人口の4人〜5人に1人(笑)、年金は55歳からもらえる、なんてことをやっていれば国が破たんするのも自業自得ではある。昔 総理大臣だった菅直人が『日本経済がギリシャみたいになったら困る』と言った時、『こいつ、バカじゃねえの(日本は債権国、ギリシャは債務国、経済構造が全く違う)』と思ったんだけど、政治家は問題点を後回し、国民は知らんぷりというのは日本も同じだと気が付いた。マスコミを動員した『景気回復』の掛け声で目をくらませながら、人為的なインフレによる実質賃金の低下で国民から企業や政府に所得移 転を進める、それがアベノミクスだ。そんなセコイ手に引っかかって、それにギリシャ以上の財政赤字なのに財政再建のスタートラインに立つことすらできないのだから、日本はギリシャのことはバカにできない。むしろ国民が不平不満を表現するだけギリシャの方がマシ、なのかもしれません。

虚構新聞より(笑) 「民主主義」特許使用料、各国に請求 ギリシャ
事実上の債務不履行(デフォルト)に陥ったギリシャ政府は2日、同国発祥の「民主主義」を国際特許として出願、政体として採用する世界各国に使用料を求めていく方針であることが分かった。(中略)政府関係者の発言によると、中国やキューバなどの社会主義国や、独裁体制を採用しているアフリカ諸国には使用料を請求しない一方、国名に「民主主義」を含んでいる北朝鮮からは商標使用料のみ請求したいとしている。また日本についても当面使用料は請求できないだろうと伝えている。


●やっと安倍晋三の支持率は下がりつつある。っていうか未だに支持している奴って頭の中どーなってるの?
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2533608.html 毎日では不支持が支持を逆転。http://mainichi.jp/shimen/news/20150706ddm001010163000c.html



青山で映画『ピクニックジャン・ルノワール監督『ピクニック』公式サイト 6月13日(土)ロードショー!
印象派の画家オーギュスト・ルノワールの息子ジャン・ルノワール監督が1936年に撮影、その後フランスを占領したドイツ軍がプリントを破棄したが、隠されていた別のプリントが戦後公開されたもの。今回はそのデジタル・リマスター版が公開。助監督はルキーノ・ヴィスコンティ

                                                                  
舞台は1860年代、パリに住む商売人の男が妻、母、それに娘と許嫁を連れて田舎へ馬車でピクニックに向かう、というもの昼食に立ち寄った川辺のレストラン。食事を終えた一家の妻と娘に、田舎の若者がボートにのらないかと声をかける。
●昼食を終えた妻と美しい娘に村人は声をかける。


●きっと父親が書いたこの絵がモチーフなんだろうな。
                                                                                                    
美しい自然が中心の話かと想像していたが、それだけではなかった。人間の性(さが)と過ぎていく時間の流れを40分という時間で雄弁に描いた美しいドラマだった。まるで躍動するかのようにブランコに乗る少女、穏やかな日差し、こっけいな人間たち、絶えず揺れ続ける川面、そしてすべてを押し流すかのような強い雨。哀切な思い。短時間にこれだけ豊かな世界が詰め込まれたドラマが作れるのは驚異的だ。父ルノワールが絵画で描いていた世界を白黒フィルムで再現した上で、もう戻ってこない時の流れまで描いている。世界はこれだけ美しい、ってことを教えてくれる。いや、見ることが出来て良かったです。



                            
                                                                                       
六本木で映画『グローリー/明日への行進』(原題 Selma)

舞台は1965年、アラバマ州セルマ。黒人たちの長年の公民権運動の結果 公民権法が施行されたが、南部諸州では黒人への選挙権は依然 与えられていなかった。投票に必要な選挙人登録の際 登録が断られたり、投票しようとすると暴力を振るわれて、黒人は実質的に投票ができなかったのだ。前年にノーベル平和賞を受賞したばかりのキング牧師は、差別と脅迫により有権者登録の妨害が続いていたアラバマ州セルマで選挙権を求める運動に加わった。投票権を求めて州都モンゴメリーまでの80キロを行進しようというのだ。だが人種差別を容認するアラバマ州のウォレス知事はその行進を禁止しようとする
                                                                                                  
今年のアカデミー授賞式でのこの映画の主題歌『グローリー』の演奏は圧巻でした。ボクがぐちゃぐちゃ書くより、YouTubeをご覧になっていただければいいんだけど、こんなパフォーマンスを見せられたら感動するしかありません。会場の観客、黒人も白人も、ディカプリオも(笑)泣いていた。アメリカのショービジネス、恐るべしと改めて思いました。
●ロマンティックな曲と歌が特徴的なジョン・レジェンドが、この日は叫ぶように歌っていた。ラッパーのコモンは映画にも出演。

                     
で、果たして映画の方はどうか、ということですが。
お話はキング牧師ノーベル平和賞を受賞するところから始まる。公民権法を獲得した非暴力運動の功績だ。だが連邦で公民権法が成立しても地方分権アメリカ、保守的な南部では黒人の権利は改善されていなかった。黒人が投票しようと選挙人登録をしに役所へ行っても嫌がらせを受けて却下される。選挙人登録をした黒人は新聞で名前と住所が報じられて、クー・クラックス・クランに襲われる。暴力を受けても裁判の陪審員は白人ばかりなので犯人は罰せられない。それが現実だった。
ノーベル平和賞授賞式前のキング牧師と妻

                                                          
そのような現実を変えるためにキング牧師は、黒人に対する迫害とそれに対する抗議が続いていたアラバマ州セルマで新たに運動を始めようとする。選挙権を求めて州都モンゴメリーまでの80キロを徒歩で行進しようと言うのだ。前半部で印象付けられるのはキング牧師の運動の戦略家としての一面だ。キング牧師は非暴力運動で名高いが、彼が非暴力を選んだのは、あくまでも手段として、だった。
キング牧師はジョンソン大統領に、『暴力沙汰になる前に、一刻も早く黒人にも投票の自由を』と訴える。大統領は個人では賛成していても政治的な理由でぐずぐず引き延ばす。

                                      
暴力では軍隊にかなわない。だから自分たちは非暴力に徹し、弾圧されたらそれをマスコミに報道させて世論を味方に付けて行くあくまでも世間の注目を集め、自分たちの正当性を訴えるための非暴力なのだ。だが警察もクー・クラックス・クランも暴力を振るってくるし、重傷者や死者まで出してしまう。参加者たちは事前にシミュレーションや襲われた時の対処の練習をしているが、女性も老人も命がけの覚悟だ。暴力に晒されても無抵抗というのだから、これは生半可な話ではない。現実に1度目の行進は流血の惨事を招く。セルマの町を平和に行進していた黒人たちに騎馬警官や自警団が襲いかかったのだ。大勢の死者や負傷者が出たこの事件は『血の日曜日』と言われている。深い悲しみに暮れる人たちがいる。母が殺された子供は泣いている。目の前で息子を殺された母もいる。報復のために銃を持とうとする者もいる。キング牧師はリーダーとしてどうするのか。
Cool Head &Warm Heartとはよく言われるけれど、そういうところは勉強になったし考えさせられる。先日のSEALDsの集会で民主党のブレーンだった山口二郎教授が公民権運動を引き合いにだしていたけど、公民権運動は他人事ではない。彼らに学ぶべきところは大きいと思う。
                                                                                 
この映画でのキング牧師は聖人君子ではない。家族を愛しているが、浮気もするし、自分の闘争方針がそれでいいのか悩んだり迷ったりする。深夜 友人の黒人歌手に電話して、聖歌を歌ってもらうところは彼の深い深い苦悩を象徴している。
人種差別に反対してはいるが中々動こうとしないジョンソン大統領、何とか解決の糸口を見つけようとするジョンソン大統領のスタッフ、キング牧師を盗聴して、それをもとに脅迫するFBIのフーバー長官。家庭生活を顧みない夫に苦しめられるキング牧師の妻、牧師と一緒に考え苦悩を分かち合う周囲の仲間たち(彼らはその後 国連大使や国会議員や市長になる)、犠牲になった無名の人たち(ちゃんと名前まで紹介される!)、黒人間の運動の分裂。長年反目してきたマルコムXとの和解。白人至上主義のヘンリー・ウォレス知事、頑迷な南部のバカ白人連中。それに人種差別に反対して立ち上がった白人たち!
●人種差別を隠そうともしないヘンリー・ウォレス知事(ティム・ロス)。バックは南軍の旗。丁度 先月起きたサウスカロライナ州チャールストンの教会での乱射事件を機に、このような人種差別の象徴は公の場では掲げるなという声が大きくなっている。

●黒人だけでなく、心ある白人たちも行進に参加する。文字通り命を懸けて。

                    
これらの要素が映画には丁寧に詰め込まれている。色々な立場の人たちのエピソードが勧善懲悪になるのを防ぎ、物語に深みを増している。描写はあくまでも抑制的で上品だ。あっさり過ぎていくエピソードの中に、深く考えるとそうだったのか、ということが随所に散りばめられている。映画としても大変良くできている。当時の記録フィルムが効果的に挿入されるだけど、これも驚きでした。平和裏に行進するキング牧師たちに南部のバカ白人(子供も女性もいる)が罵声を浴びせている。人間がこんなにも醜くなれることに驚く。だが、それに負けない人たちが居る。
                                          
エンディングでキング牧師の演説が主題歌の『グローリー』につながっていくところは本当に素晴らしかった。号泣必至(笑)。勉強にもなるし、心も動かされる実に素晴らしい作品でした。できれば、もう1回見たい。

●グローリーのMV。歌詞つき。これも感動的なヴィデオ。

血の日曜日事件から今年は50年。オバマ大統領が当時の参加者と共に橋を行進した。