特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『秋のキノコ狩り』と『静かな国民投票』

  今年の3月、ボクはニュー・オーダーというイギリスのテクノバンドのコンサートへ行く予定だったんです。
 当然のことながらコロナで中止になり、今週やっと振替公演の日程の連絡が来ました。なんと再来年=22年の1月(笑)。

 売れっ子だから、でもありますけど、その頃にならないとワールドツアーなんかやってる状況じゃない、ということでしょう。来年のオリンピックがどうこう言ってますけど、アホじゃないの(笑)。

●コロナ渦の最中に発売した新曲’’Be A Rebel''(コロナ禍でも)狂った悪魔にはなるな、反逆者でいよう''(Be A Rebel,Not A Devil)

New Order - Be a Rebel

●今度のお正月公開の大作『ワンダーウーマン1984』の主題歌もニュー・オーダーの『ブルーマンデー』。ドラムの音とアクションが完全にシンクロしているところはすごい、萌えてきます。首吊り自殺の歌ですが(笑)。

Wonder Woman 1984 (2020) - Official HD Trailer | Gal Gadot, Kristen Wiig, Pedro Pascal


 さて、秋と言えばキノコですね。キノコ狩りに行ってきました。と言っても、お皿の上のキノコ狩りです。

 最初はイタリアの松茸?と言われるポルチーニ。一本丸ごと、パン粉とパルメザンチーズをまぶしたフリッターです。
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 松茸は軸の方が圧倒的に美味しいですが、ポルチーニは笠の部分が美味しいというのが面白いです。香りだけでなく、口に含むと、笠の部分はお布団のように柔らかな触感、そして軸の部分は揚げて閉じ込められた汁が瑞々しい。そのコントラストがサイコーです。

 
 もう一つは白トリュフ。これはひたすら香りを吸い込むしかない!(笑)。
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 昔は土の中を豚が掘って探していたと言ってましたが、今は犬が探すそうです。そこまでして食べ物を探す人間の欲望は恐ろしい。108の煩悩じゃありませんが、日本では本音ではともかく、表面上は欲望というものはどちらかと言うと否定されがちです。一方 中国やアメリカの人は欲望が善と思っていることが多いですね。

 欲望には2種類あると思います。
 一つは限度がないもの。金銭欲や権力欲。多くの場合 人を不幸にするし、環境も破壊します。
 もう一つは限度があるもの。基本はフィジカルなもの、その典型が食欲です。犬だって、人間だって、お腹いっぱいになったらもう結構です、と言います。足るを知る、です。必要以上に消費しないのですから、サステナブルと言っても良い。
 ただ、同じ食べものでもファスト・フードやコンビニはまずいものを大量生産した挙句 山ほど廃棄物を出してるわけで、足るを知るではありません。あれは資源を浪費するマネーゲーム

 食べ物を大事にしつつ美味しく食べる、と言うのは足るを知る欲望、建設的な欲望、だと思います(笑)。イタリアのキノコをわざわざ飛行機で日本に持ってきて消費するのは温暖化ガスの排出という面では問題あるとは思いますが、ボクは自粛警察や共産主義者の連中みたいな教条主義じゃないんで(笑)。



 さて、これは衝撃的なニュースでした。今年の5~7月のコロナ禍、妊娠した人が前年より約10%減りました。 

www.yomiuri.co.jp

 今年5月から7月に全国の自治体に妊娠届を出した人は約20万人、前年の同じ時期に比べて11%減、3万人弱減ったそうです。

 出生数は2016年から8年は毎年約-2%、19年は-5%と大幅に減少しています。今年は3か月間で10%以上減ってるのですから、20年は19年を超えるペース、5%以上の減少になることは間違いありません。

 団塊の世代の頃は毎年200万人くらい子供が生まれてました。そこから減少が続き、2010年代は100万人くらい、昨年は86万人にまで減ったのは衝撃的でした。でも、今年は80万人を割るかもしれない。その分 人口も減り、国内需要も減っていくと言う訳です。


予測を超えて人口減少が加速する懸念も | 東洋経済education×ICT | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準


 前回のエントリー、『82年生まれ、キム・ジヨン』に頂いたコメントへのお返事で、『日本や韓国の低出生率は男尊女卑の社会に対する『静かな国民投票』の結果』と書きました。映画の解説で誰かが言ってたし、80年代末くらいから上野千鶴子が言っていることでもあるんですが、少子化は国民(主に女性)がこの国の未来に『NO』と言っている結果です。自然発生的に、無言の国民投票が行われているんです。
 映画に描かれたように女性に対して『だけ』、良き妻であるだけでなく、良き母であり、良き嫁であり、なおかつ良き労働者であれ、なんて、どこのムリゲーだよ(笑)。

 今は賃金の低下で共働きが65%と圧倒的に多数派です。女性も働いているけれど、家事や育児も女性が相変わらずメインでこなすことが多い。多くの男は『家事を手伝っている』と言った時代錯誤のジェンダー意識に囚われたバカであることに加えて、長時間労働や仕事帰りに安酒を飲んで家事なんか知らんぷり。

  おまけに企業は単身赴任や深夜労働など家庭のことは考えない、国も自治体もサポートは消極的だし、保育所を作っても給料を上げないから職員も不足。
 安倍晋三に至っては日本会議の妄言を真に受けて、総理大臣自ら3年育休とかトランプ並みの迷信を振りまく始末(笑)。
安倍首相提案の「育休3年」は長過ぎる | 子育て | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/other/pdf/7877.pdf

 それじゃあ、子供が減るのは当たり前です。やってられるかってことですよね(笑)。公助も共助も不足なら、自助とは『お前ら、ふざけんな』という意味になる。

 今回はそれにコロナという外的要因が加わりました。妊娠どころか女性の自殺まで増えています。これもまた、大勢の人が日本の未来にNOと感じている事の表れでしょう。


  中 略

news.yahoo.co.jp

 コロナはデジタル化の遅れや非効率的な働き方、産業構造の遅れなど、日本社会に潜在していた問題点を浮き彫りにしました。デパートの相次ぐ閉店など、コロナによって以前から起こりかけていた変化が加速されつつあります。

 少子化という面でも変化が加速されつつあるようです。この変化は吉とでるか、凶と出るか。
 移民をどんどん受け入れたり、外国との積極的な交流を進めたり、デジタル化や最低賃金のアップで生産性を高めたり、創造性を高めたり自分の頭で考えられるような教育を強化していけば一人当たりのGDPは高められますから、吉になるかもしれません。

 でも、今の政府はそんな感じじゃありませんよね(笑)。教育や研究の予算を削って、政府に賛同しない学者には圧力をかけ、公文書や歴史まで改竄する。国民はマスコミやネットのデマに乗せられたり、何か事件があってもすぐ忘れる。自分の頭で考えたり、事実を見ようとはしない。

 事実を直視すれば、日本人はどんどん貧乏になりつつあることが判ります。
 最近発表されたOECDの最新データ(2019年)によると、日本の年間平均賃金はOECD35か国中24位の3.8万ドル(約424万円)。OECD平均4.9万ドル(534万円)どころか、韓国の4.2万ドル(465万円、19位)にも抜かれました。

●黄色が日本、紫が韓国、赤がOECD平均、水がドイツで緑がアメリカ。ちなみに1位はルクセンブルク、2位はリーマンショックから見事に立ち直ったアイスランド
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data.oecd.org


 やっぱり日本の将来は自己満足の『ニッポン・サイコー』のバカテレビばかり見ている貧乏老人ばかりの衰退国かな(笑)。
 もちろん、それでもボクは事実を直視しながら、なんとか生き伸びていこうとは思っています。


 と、いうことで、今日の東京は予報通り、午後から雨になりました。今週の金曜官邸前抗議もオンラインです。

 女川原発再稼働反対の署名が始まりました。原発の再稼働が1日遅れれば、その分だけリスクが減るし、減価償却が進んで原発の廃棄コストも減っていきます。
chng.it

ワンオペ主婦を巡る映画2題:『オン・ザ・ロック』と『82年生まれ、キム・ジヨン』

 この前 教育関連の会社をやっている人と話す機会がありました。そこで、びっくりするようなことを聞いたんです。
 最近の学校、中学、高校では子供の『ノートの提出』がある、っていうんです。私立はともかく、東京の公立学校では8割ぐらいがノートの提出があって内申点の参考にされる、とのこと。
resemom.jp


 そもそもノートの取り方なんかに客観的に点がつけられるのでしょうか。
 ボクは子供の時から、ノートなんかまともに取ったことはありません。自分の字が汚な過ぎて、読み返しても読めなかったからです(笑)。ノート自体はとりましたけど、それは単に内容を頭に入れるための肉体的なエクササイズでした。
 そもそも学校の授業なんか真剣に聞くものじゃないでしょう(笑)。子供心にそう思ってました。ボクの頃 ノート提出なんかあったら0点間違いなしです。

 そもそもノートなんか取ろうが取るまいが、奇麗に書こうが書くまいか、そんなの個人の自由です。それを強制的に提出させて点をつけるなんて、理解が出来ません。文科省が決めたんだかPTAの要望だか、何だか知りませんが、それをやってる教師も頭おかしい。これ、人権の問題です。
 都市部では公立が地盤沈下して、多くの学生が私立へ行きたがる理由がよくわかりました。

 これじゃあ、教育というより飼育、です。人を育てるはずの学校で、北朝鮮もびっくり人権無視の社畜育成をやってる。ノートを強制的に提出させるような学校では自分の頭で考える子供が育つわけがありません。
 そんなに、将来の日本人に中国や東南アジア諸国など新興国企業の下請けをやらせたいのか。ましてや、こんなことをさせられて、自分から政治参加をしよう、なんて市民が育つはずがない

 子供の時からこんなことをやってるようじゃ、マジで日本の将来はダメですね。一人一人の個を学校ぐるみで、しかも笑顔で圧殺してるんだもの。
 今の時代に育たなくてよかった、とつくづく思いました。同時に今の子供たちに申し訳ない、とも。やっぱり、日本の将来はお先真っ暗でしょう。




 と、いうことで、奇しくも今回はワンオペで子育てする主婦が主人公の映画2つです。対照的な作風ですが、どちらも面白かった。

 まず、新宿で映画『オン・ザ・ロック
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ontherocks-movie.com


 ニューヨークで暮らすローラ(ラシダ・ジョーンズ)は、ライターをしながら夫のディーン(マーロン・ウェイアンズ)や子供たちと忙しくも穏やかな日々を送っていた。しかし結婚生活が時を経るにつれ、夫の残業が増え、スキンシップが減ったことから彼女は夫の行動に疑いを持つようになる。ママ友たちに相談しても埒が明かず、ローラはプレイボーイとして名をはせた父親のフェリックス(ビル・マーレー)に相談する。フェリックスはローラに、ディーンの尾行を提案するが


 フランシス・コッポラの娘、ソフィア・コッポラの監督・脚本の作品。この人のデビュー作、新宿のホテル、パーク・ハイアットを舞台にした2003年の『ロスト・イン・トランスレーション』は個人的に本当に大好きな映画です。

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

  • 発売日: 2004/12/03
  • メディア: DVD

 新婚旅行先で夫に放っぱらかしにされた若妻(スカーレット・ヨハンソン)と中年の危機を迎えている映画俳優(ビル・マーレイ)の物語はコミカルでありながらも、漂う喪失感が美しくて、なおかつお洒落で、非常に共感できる作品でした。たまにパーク・ハイアットへ行くたびにこの映画のことをいつも思い出します。あの映画の孤独な空気が今も残っているような気がする。
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 それから20年近く経ってもソフィア・コッポラは、アカデミー脚本賞のこの作品を超えるものは作っていない、というのが正直なところですが、この人の映画には何となく惹かれてしまいます。画面や音楽のセンスは明らかに良いので。


 NYを舞台とした今作は、その『ロスト・イン・トランスレーション』のビル・マーレイと組んでいます。制作は良質な映画ばかり作っているA24。アップルが配給ということで、日本では映画館での公開は3週間、その後 配信に移行します。地味な扱いですが、期待は結構高い。

 お話はローラと夫の結婚パーティーから始まります。大勢集まった華やかなパーティーを抜け出し、二人は地下道を降りていき、地下の重厚な石造りの部屋にあるプールに全裸で飛び込む。
 なんと、カッコいいんだ。こんなところ何処にあるんだ、と正直度肝を抜かれました。
●ローラと夫。お洒落なレストランです。
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 ここから、幻滅する日常、結婚生活が始まります(笑)。在宅のライター仕事と子育て・家事に分刻みで追われるローラ。
 夫は会社を立ち上げたばかりで中々家に帰ってきません。出張もしょっちゅう。会社へ行けば、秘書をはじめとして夫の周りには奇麗どころが揃っていて、会社のパーティーどころか出張まで一緒です。
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 ローラの心中はどうしたって複雑です。ママ友たちに相談しても埒が明かないローラは、超プレイボーイとして浮名を流している父親(ビル・マーレイ)に相談します。
 画商として仕事をしつつ、女性というライフワークを追求する生活を過ごしている父親は運転手付きのベンツで娘の元へ駆けつけます。自分と同じように、夫は浮気しているんじゃないか、というのです。父親は娘に夫を尾行することを提案します。
ビル・マーレイの水玉のスカーフは多分 ベルルスコーニと同じもの。ボクも買おうと思ってます(笑)。
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 NYを舞台にしたお洒落な物語ということで、ウディ・アレンの作品が連想されます。お話としては大したことないんですが、見ていて結構楽しい。
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 ウディ・アレンにまねできないのはビル・マーレ―のカッコよさ(笑)。行きつけの超お洒落なレストランでもホテルでも、常に女性を口説いています。
●孫娘と一緒でも女性を口説いているように見える(笑)
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 それが嫌みじゃないし、軽くもない。苦み走った陰影の深い顔。だけど奥底には人の好さが漂っている。ビル・マーレイ、歳をとって一段とカッコ良くなりました。
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 ローラの夫を尾行するのでも、変装ということでベンツをクラシックなオープンカーに乗り換え、キャビアシャンパン(クリュッグ!)持参でやってきます。変装になってない(笑)。交通違反で捕まっても、口八丁で警官を煙に巻いてしまう。
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 ばかばかしくも、堂に入ってるんです。嘘っぽくない。まさに芸の力です。
●実際の撮影風景。左がソフィア・コッポラ
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 傑作でもないし、感動するとか思い入れを持つような作品ではありません。苦い皮肉をかみしめながら、非日常のお洒落でセンスある光景を見ているだけでも楽しい小品。そこもウディ・アレンの作品とそっくりです。洒脱だけどありがちなオチも含めて、ボクは結構楽しかったです。

 これから配信が始まるようですが、配信で軽く見るのには超おすすめ。面白いです。

名コンビ再び!ソフィア・コッポラ監督×ビル・マーレー『オン・ザ・ロック』予告編


 もう一つは、銀座で映画『82年生まれ、キム・ジヨン
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klockworx-asia.com

 結婚を機に仕事を辞めたジヨン(チョン・ユミ)は女児を設けたが、育児と家事、夫の実家からの男の子を産めというプレッシャーに悩まされていた。ある日、ジヨンは他人が乗り移ったような、まるで憑依されたような言動をするようになるが、当人には記憶も自覚もない。夫のデヒョン(コン・ユ)は心配するが、ジヨンにそのことを中々告げることができなかったのだが

 日本と並ぶジェンダー平等後進国、男尊女卑大国として悪名高い韓国で130万部を超えたベストセラー小説を映画化、こちらも公開時1位を記録した作品です。ボク自身は未読ですが、日本でもこの小説は話題になりました。

82年生まれ、キム・ジヨン

82年生まれ、キム・ジヨン

 ちなみに日本は最新のジェンダーギャップ指数は世界121位。先進国ではもちろん最低サイアク。108位の韓国どころではありません。
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 ちなみに日本は政治・経済面での女性進出が著しく遅れていることが低順位の原因になっています。
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www.gender.go.jp


 ボクは韓国社会のことは全くの無知なのですが、キムもジヨンも韓国ではごくありふれた名前だそうです。1982年という民主化直前に生まれた年代、過去の因習と現代の価値観のはざまの年代の平凡な一人の女性を描いています。

 映画はソウルのマンションで、ジヨンが家事や育児に追われているところから始まります。大学の文学部を出て広告会社に勤めていたジヨンですが、結婚して現在は専業主婦。優しい夫は大企業に勤めているようです。
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 ジヨンは子供を預けて働きたいという希望はあるのですが、夫はあまり良い顔をしない。家に閉じ込められたジヨンは毎日が孤独です。
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 ソウルに住むジヨン夫婦は正月に釜山にある夫の実家に里帰りすることになります。
 田舎ということもあるのでしょう、親族一同が集まって、御馳走を食べる。しかし御馳走などの用意は女たち、とくに嫁の仕事です。ジヨンは義母の顔色をうかがいながら忙しく働いているのに、役立たずの男どもは座っているだけ~。
 で、席に座れば、『男の子はまだか』とプレッシャーをかけられる。『嫁は男の子を4人は産め』というセリフがあったのには流石にびっくりしました。
 それだけでなく、食卓での話の端々からジヨンはソウルにいるときも電話で義母からプレッシャーをかけられまくっていることがうかがえます。
 
 顔色が悪くなったジヨンは突然 彼女の実母が憑依したかの口調で、ジヨンの立場の弁護を始める。訳が分からず、静まりかえる食卓。夫のデヒョンは体調が悪いことにして、慌てて彼女を連れ帰ります。 
 実は普段の生活でもジヨンは心を病んでいるのか、度々 誰かが憑依したような行動をするようになっているのです。
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 そこから物語は回想シーンを混ぜながら、ジヨンたち韓国の女性が直面する現実を語っていきます。
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 子供の時から、教育も普段の生活もなんでも男が優先。ジヨンの母は男兄弟の学費を稼ぐため、学校に行かせてもらえず工場で働かされ続けました。子供だったジヨンは不思議でしょうがなかった。
 思春期になりバスで性犯罪の被害に遭いかけると、父親から『男に対して微笑んだり、スカートを履いているような女性が悪い』と言われる始末。ここいら辺は日本でも一緒ですね。

 やっとの思いで就職しても昇進は男が先。育休や時短をとれば職場では邪険にされる。
 親に育児を任せることで仕事に専念するバリキャリの道を歩んでも、上司や周囲には女性の役割を期待されるし、どこかでガラスの天井が待っている。

 専業主婦になっても、外出先で子供が愚図れば周囲から邪魔者扱いされる。儒教の影響で高齢者の権力が強い韓国社会ですが、義実家を始め、高齢者は訳の判らない男尊女卑思想・習慣を押し付けてくる。
 ジヨンや周囲の女性たちにとって、右を見ても左を見ても息が詰まるような世界です。

 ジヨンの夫のデヨンは性格も優しいエリートサラリーマンです。が、辛そうなジヨンを見て『家事を手伝おうか』と言うなど根本的にわかってない。家事は自分のことでもあるのに他人事なんです。だから心の病を抱えたジヨンを心配することはできても、正面から向き合うことができない。

●夫のデヨン。高圧的なところもなく、やさしい夫です。良心的な部類でしょう。だから始末が悪い。
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 女性が直面する『あるある話』が延々と語られます。執拗、と言ってもよい。これが全然嫌味に感じないのは日本でも共通していることが多いからです。『形式的に差別はない』と言い張る医学部入試が典型で、日本の方が表面には出てこない分だけ、陰湿です。

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 話としてはそれだけではあるんですが、語り口・設定は非常に巧みです。説得力あります。これを見て共感する女性は多いのではないでしょうか。実際 客席は女性ばかりでしたが、本当は男が見ろって。

 映画に出てくるのは殆どが善人です。そして無知だったり幼稚だったりする男だけでなく、主人公の周囲の女性も古い価値観を他人に押し付けてくる。共犯です。さらに子供の時から、いわば洗脳教育が続いている状態ですから、大人になった本人の意識の中にも男女の役割意識が内面化されている。本当に始末が悪いのですが、それが現実でもあります。
●長年苦労していた実母(右)だけはジヨンのことを判ってくれているかのようです。
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 唯一 ジヨンの実家、母親と姉、弟はそれほど男女のジェンダー意識が硬直的ではありません。元公務員で通貨危機で失業した父親の代わりに母親が家の大黒柱になっていたからです(ここいら辺の設定は本当に巧みです)。姉は独身を貫く教師、弟は男として贔屓されて育ったにしろ、そこで図に乗るようなことはしない。そして父親は存在感がない(笑)。
 実家はジヨンの唯一の逃げ場になります。ただ、この点だけは差別主義者ばかりのお話の中で、話がうまく行きすぎだろう、という違和感も感じないではなかった。

 原作とは違って、映画では主人公に希望を提示して終わります。それはそれで悪くない。エンタメとして成り立ってます。単に男女差別を告発するだけでなく、主人公のジヨンの成長物語にもなっているからです。
 唯一 主人公のジヨンを演じる女優さんは若く見えて、とても82年生まれには見えんぞ、とは思ったのですが、実際にご本人は83年生まれだそうですから、ボクの方が間違ってました(笑)。

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 映画としての後味は悪くありません。それが違和感なく、ちゃんと着地する。ただ、めでたし、めでたし、という気には全くなれません。それは韓国以下の男尊女卑大国ニッポンに住む我々が抱えている問題があまりにも根深いからです。逆説的ですが、そう思うのはこの映画の『あるある描写』が巧み、ということなんでしょう。

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 もしボクが女性だったら、もし韓国や日本で生まれていたら、絶対に結婚なんかしない(笑)。こんなバカ連中に付き合ってられるか
 韓国や日本で女性に明示的にでも、暗黙的にでも、押し付けられるているであろう規範、良い妻、良い母、更に良い労働者、まさにムリゲーでしょう。男だってそんなことが出来る奴がどれだけいるんだって(笑)。ふざけんな、バカ。

 日本も韓国も、どちらの国も社会が『個』の存在をあまり認めない。これがこの映画を見ての個人的な感想です。
 映画としては全然 悪くないです。こうやって言いたいことがバーッと出てくるのですから(笑)、良い映画でしょう。それに音楽は環境音楽っぽくて非常におしゃれだし、ファッションやインテリア、街並みなど現代韓国の描写も興味深かった。面白いです。韓国映画でこんなに洗練されたものも出てくるんだな、とも思いました。

『82年生まれ、キム・ジヨン』予告 10月9日(金)より 新宿ピカデリー他 全国ロードショー


#オンザロック #82年生まれキムジヨン

『かすみ鴨』と読書『人新世の「資本論」』

 もう10月も半ばです。そろそろ布団が恋しい季節です。今朝は特に寒かったですね。
 コロナ禍の減速経済と言えども、寒くなってくるとせわしさも感じます。家にはクリスマスケーキのチラシとかが入ってくるけど、たぶん20年くらい食べてない(笑)。それでなくとも年末は太りますからね。


 こちらは 少し前に食べた鴨の胸肉とイチジク。
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 『かすみ鴨』とネーミングされた鴨は完全放し飼い、無農薬の自然飼料で育てられているそうです。その農園では、消費者に命の有難みを感じてもらおうとトサツ体験までやっています。本当はただパクパク食べてるだけでなく(笑)、そういうことも体験してみるべきなのかもしれません。
 それはともかく、身も味もふっくら厚い鴨さん(敬称付き)、脂は締まっているし、美味しかったです。


 しっかし文科省が国立大学などにバカソネ中曽根に弔意を表せ、って通達を出した件、呆れてものが言えません中曽根元首相に弔意要請 国立大に通知―文科省:時事ドットコム。しかも、『強制ではない』と政府は言い張る。


 
 要するに自分で責任は取らない、忖度=自主的な隷従を要求する、まさに日本の政府のお家芸サイアクじゃないですか。
 不沈空母発言の後、パーティーでイギリスの巨匠ケン・ローチ監督に『お前みたいな戦争屋とは握手したくない』と握手を断られた中曽根のような奴にはぴったりかもしれませんが。

 戦前も軍部や政治家が度々大学に介入しましたが、ファシズムは政治だけでなく国民の自主的な隷従によって形成されてきました。やっぱり、この国は随分おかしなところまで来ているようです。これで激怒しないのなら国民もかなり劣化しているのでしょう。



 さて、話題の著者による話題の本の感想です。『人新世の「資本論

人新世の「資本論」 (集英社新書)

人新世の「資本論」 (集英社新書)

 著者は昨年の哲学者マルクス・ガブリエルらとの対談本『未来への大分岐』やNHKスペシャルのコロナ特集『令和未来会議』にも出演していました。ご本人は自ら『環境主義マルキスト』と称しています。
 『未来への大分岐』では『白井聡と一緒で)今どきマルキストとか言ってる奴はやっぱりバカ』とは思ったけど、ガブリエル氏やハート氏など論客の話の引き出し方は面白かったし、NHKスペシャルでは『コロナ禍において金融やコンサル、広告代理店は何の役にも立たなかった』と放言していたのも、好感が持てます(笑)。

 タイトルの『人新世』とは『ノーベル化学賞受賞者のドイツ人化学者クルッツェンによって考案された「人類の時代」という意味の時代区分。人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった時代で、現在の完新世の次の地質時代を表している』そうです。
 まず、本の内容をアマゾンの紹介ページから貼っておきます。

 前書きでいきなり、著者はSDGsは大衆のアヘン、と言いきります(笑)。そのあと、こんな内容が続きます。

 国連を中心にした『SDGs』、『グリーン・ニューディールなど環境保護自然エネルギーへの投資による経済発展』、(*以前にもブログでご紹介した)リフキンなどの『再生可能エネルギーを活用した分散型経済』、ノーベル経済賞学者スティグリッツの民主主義や自然環境も重視する『プログレッシブ・キャピタリズム』など、資本主義を修正する動き、またMMTや脱緊縮などの議論は、どれも大量生産・消費を前提にした経済成長至上主義であり、地球温暖化問題を解決することはできない

 ボクは別にSDGsの肩を持つ気はないし、胡散臭さも感じますが、実際に160項目以上あるチェックリストを読むと、それなりに実効性は担保されていると思います。
 むしろ著者がSDGsの中身をあまり読んでない、ということが判ります(笑)。

 更に著者はこう言っています。

 もはや地球温暖化問題は焦眉の急で、これらの施策では生温すぎて間に合わない。資本主義は経済成長を前提としているが、経済成長を前提としている限り地球温暖化は止めることができない
 

 株主至上主義、利益最優先は論外ですが、今や日経1面にも出てくるほどの、社会や市民など様々な利害関係者を意識した『ステイクホルダー資本主義』のような修正資本主義でも気候変動に対応できないのか、それは判りません。

 でも石油産業の圧力で気候変動を否定するトランプのようなアホが出てくることを考えれば資本主義で気候変動に対応するのはムリ、というのは一理はあります。

 そこから脱却する道として、著者はマルクス晩年の研究を引用します。

 資本論』を書いた頃までのマルクスは経済成長を前提として共産主義に移行する生産力至上主義の道筋を書いており、環境保護とは相性が悪かった。
 しかし近頃発掘されつつある資料では晩年のマルクスは生産手段だけでなく、自然環境を『コモン』として共有化するのを目指していた。


 著者はそれを『脱成長コミュニズム』と呼んでいます。
 ちなみに、この『コモン』とは、
自然や水道、教育、医療など、宇沢弘文先生が提唱した『社会を成り立たせるために必要な社会的共通資本』と同義
 と著者は言っています。

 でも、マルクス研究者である著者には大事でしょうが、我々には晩年のマルクスがどうだろうが関係ありません。それを延々と論じる4、5章あたりは非常につまらない。
 コモンという概念を考案した宇沢弘文先生は改めて偉いとは思いますが、著者の「マルクスを深読みすると宇沢先生と同じことを言っていた」は、どうでもいいです。『くだらない』の一語に尽きます。

社会的共通資本 (岩波新書)

社会的共通資本 (岩波新書)


 後半は著者が唱える処方箋、『脱成長コミュニズム』論が展開されます。
 気候変動に対処するには4つの方向性がある、と言います。
気候変動に対応する4つの未来(第7章P281)
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 資本主義は欠乏をもたらすことが特徴である。資本主義は資源の囲い込みなど『本源的蓄積』によって成立したが、それは水や農地など『コモン』(公富)を解体、私有化することだった。『潤沢』だった資源を私有化して『稀少化』(欠乏)することで資本主義は成長してきた。コミュニズムとは『コモン』を取り戻すことである

 ここは面白い指摘です。

 元来は潤沢にあったものを、私的に囲い込んだり、制度や宣伝で稀少化することで欠乏させる、それが資本主義だ

 ただし水や自然は日本では潤沢だったかもしれないが、中東などではそうではありません。またコモンには医療や水道、教育など元々潤沢ではないものだってあります。
 はっきり言って粗雑な議論ですけど、欠乏させることが資本主義だ、は真偽は別にして、一考に値する議論だと思いました。

 著者は『脱成長コミュニズム』を実現させるために5つのポイントを挙げています。

1.使用価値経済への転換(大量生産・大量消費への脱却
稀少性ではなく、使用価値(有用性)に重きを置いた経済に移行することで大量生産・大量消費を止める

2.労働時間の短縮
使用する分だけ消費するのなら生産能力は既に充分であり、労働時間も短縮することが出来るはずである。

3.画一的な分業の廃止
大量生産・消費を前提としなければ、効率的だが人間を疎外させる分業を行う必要はない。分業を止めれば労働に創造性を取り戻すことができる。

4.生産過程の民主化
経済成長を前提としなければ、環境変化に応じて迅速な経営判断をする必要はない。従って民主的な意思決定によって経営を行うことが出来る

5.エッセンシャル・ワークの重視
使用価値を重視すれば、ケア労働など労働集約的な産業が重要になる。それによって経済を減速させ環境保護を進めることができる


 根本は1の『使用価値(有用性)』によって経済をコントロールしろ、という考えです。

 しかし問題は『その使用価値を誰が決めるのか』という事です。
 著者がNHKで言っていたように、『コンサルや金融、広告代理店などは世の中に貢献していない』は同感です。ああいうものは世の中に役に立つものを生産していない虚業だとボクも思います。クズですな。クズ。

 ましてゴールドマン・サックスみたいな連中が金を右から左へ動かすだけで年棒数億円(場合によっては数十億円)というのはおかしいです。日本のGSの社員が石原さとみと結婚したから言ってるんじゃありません(笑)。

 金融だの、広告だの、コンサルだの、人材派遣だの、そんな連中が、ケア労働や医療など本当に人の役にたっている人たちの数倍、数十倍、数百倍の報酬を得ているのはやり過ぎでしょう。金融取引への課税や連中の報酬やマージンの公開など、税制や規制でコントロールするべきだと思います。


 しかし、何が有用か無用かなんて誰が決める権利があるのでしょうか。著者は自治・相互扶助で決めると言ってますが、そんなことが可能なのか。

 以前 史上最高のドキュメンタリーと言われる『チリの闘い』でアジェンデ政権下で国有化された自主管理の工場を見て『こりゃあ、ダメだ』と思いました(笑)。労働者が皆で集まって方針を決めている光景がまるで幼稚園みたいだったからです。
 素人がよってたかって経営戦略まで決めるような企業に勤めたら、労働者こそ不幸です。そんな会社は、人気投票や情実で方向を決められかねないし、そもそも、いつ潰れるか判らない(笑)

 ましてポピュリズムが横行する先進民主主義諸国を見ていたら、自治・相互扶助だけでやっていくなんて無理なのは誰にでも判ります。国民の半分が選挙にすら行かないんです。

 (いくら自治と言っても)権力が、役に立つとか立たないを決めるのはおかしいに決まってます。自民党の連中が文系学部や日本学術会議をやり玉にあげているのと同じです。そういうのを許すから、LGBTは生産性がないと放言する杉田水脈みたいなクズ議員まででてくる。
●研究費もマトモに出さないくせに、バカな政治家が学問に口を出したがるから、学術研究も衰退、結果として日本が衰退する。


 環境破壊を防ぐことも必要ですが、役に立つか立たないか、誰かに決めつけられるような社会はまっぴらです

 権力は競争がなければ腐敗する。それが社会主義で失敗した20世紀の教訓です。
 著者の言ってることは『脱成長コミュニズム』ではなく、『気候毛沢東主義としかボクには読めません。生産手段や自然環境を共有化すれば万事解決、なんてあるわけない。


 人間をどうガバナンスするか、を考えれば、スティグリッツが言っている『プログレッシブ・キャピタリズム(社会的な視点や民主主義を意識した資本主義)ダボス会議などで盛んに議論されている『ステイクホルダー資本主義(株主だけでなく、消費者、顧客、自然環境など多元的な利害関係者を意識した資本主義)を、スピードアップさせることを目指した方が良いのではないでしょうか。

 ボクは競争なんか嫌いですが、競争しか人間をガバナンスする方法はなさそうだからです。共産党だろうが安倍晋三だろうが、競争がなければ誰だってサボるし、腐敗します。人間はそういうもの。
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 ということで、この本の結論は間違ってます(笑)。そもそもコミュニズムとか言ってる時点で大間違い
 が、舌鋒の鋭さやユニークな指摘は面白かったです。文章も平易で、サクサク読めます。部分的には、例えばエッセンシャルワークなど世の中に本当に役に立つ産業を重視すべきと言う指摘は全くその通り、と思います。

 ただし、言ってることを真に受けるべきではありません(笑)。コミュニズムか資本主義か、は問題じゃない市民が政治参加するかどうかが問題なんです。

●先日のNHK BS『英雄たちの選択』で板垣退助自由民権運動を成功させるため『国民の政治参加』を訴えて全国行脚したエピソードが紹介されていました。その頃から何も変わってない、ということかもしれません。

www.nhk.jp


  と、いう事で、今週も金曜官邸前抗議はオンラインです。

 エネルギー基本計画の見直し、女川原発の再稼働、汚染水放出、核廃棄物の処分場など原発を巡る課題も再び大きくなりつつあります。
 普通に考えれば、原発なんてコスト高で、あと10年ももたないでしょう。日本だけバカ高い原発の電気なんか使ってたら、日本がもつわけないでしょう。
 ましてや、税金や電気代を無駄な悪あがきに使うな!