特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『2025年問題とスズキの炭火焼き』とアメリカの橋田寿賀子ドラマ(笑):映画『フェアウェル』

 この週末はずいぶん雨が降りましたねー。伊豆七島の人たちは大変だったみたいですけど、東京もずっと雨が続きました。

 日本学術会議の任命拒否の件、相変わらず政権が理由を説明しないのは酷い話だなーと思います。相変わらず、まともに説明しないどころか菅は名簿も見てないとか言ってますね。支離滅裂です。

 が、よく考えたら、今に始まった話じゃありません。安保法制も特定秘密保護法モリカケも政府はまともに説明しない。マスコミもまともに突っ込まない。で、国民もすぐ飽きる。

日本はまるで中国共産党北朝鮮みたいな世界になりつつあります。それをバカウヨ政治家や国民が推し進めているんだから、まるでブラック・ジョークみたいです。


 
 それでなくとも、あと5年もすれば日本は、団塊世代後期高齢者入りする2025年問題が起きます。
gendai.ismedia.jp

厚労省の解説
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/09/dl/s0927-8e.pdf#search='2025%E5%B9%B4%E5%95%8F%E9%A1%8C'

 国民の4人に1人が75歳以上、認知症は現在の150万人から320万人に増加します。医療・福祉予算は不足し、医療介護従事者だけでも100万人単位で不足すると言われています。
その頃 アベノミクスで溜まりに溜まった財政赤字がパンクでもしたら、もう目も当てられません。

 個人的には出来る限り、アホとの共倒れは避けようとは思ってますけど、もちろん悪影響から完全に逃れることはできません。インフラが整い、日本でも最後まで生き残るであろう?東京に残るべきか、地方に逃げて自給自足生活でもするべきか、マジで悩みどころです。

 

 これは少し前に食べたスズキの炭火焼き。上にはウイキョウの花が載っています。ウイキョウの香りが付いたオリーブオイルを塗って焼いているからです。
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 身の厚さは1センチくらいあるでしょうか。肉でも魚でも身が厚いモノって美味しいですよね。
 昔は常磐沖のスズキは立派なものが獲れるので有名でしたけど、311後、この店では使わなくなりました。これは千葉のものですが、質が良いものを探すのは大変だそうです。10年経っても原発事故の影響はこんなところにも残っている。

 備長炭で焼いた分厚い身を口の中に入れると文字通りふっかふかでした。焼く前に塩を振る加減がコツ、とシェフ氏が言ってましたが、魚って上手く焼くとホクホクした石焼き芋のような触感がする。ちょっと驚きでした。


 と、いうことで、高齢化をテーマにした映画です。新宿で映画『フェアウェル
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farewell-movie.com

 舞台は中国北部の地方都市、長春。末期がんを患う祖母のため、祖国を離れて海外で暮らしていた親戚一同が、従兄弟の結婚式を理由に中国に戻ってくる。25年前にアメリカへ一家で移民した次男の娘ビリー(オークワフィナ)は、幼時にかわいがってくれた祖母が残りの人生を悔いなく過ごせるように病状を本人に明かした方が良いと主張する。しかし両親を含め親族たちは、反対だった。

 たったの4館のみの上映だったにもかかわらず、最終的には891館まで上映館が拡大、全米各地に広がり大ヒット。主演のオークワフィナがゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞するなど、非常に評価が高い作品です。
 少し前の傑作コメディ『クレイジー・リッチ!』に続いて、アジア系の俳優しか登場しないにも関わらず、アメリカで大ヒットしたのが注目されています。

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 日本では4月公開の予定でしたが、半年遅れ。ボクも噂を聞いて、首を長くして待っていた作品です。


 ニューヨークで暮らす31歳の女性、ビリーは美術館の学芸員として働くことを夢見ています。が、就職はなかなかうまく行かず、金欠状態。くじけそうになる毎日ですが、独立すると親に宣言した手前、弱音を吐くこともできない。

 そんな ある日、中国北部の地方都市、長春で暮らす祖母が末期がんという知らせが届きます。25年前にアメリカへ渡ったビリーの一家を始め、親族一同は祖母に病状をしらせず別れを告げるため、日本で暮らす長兄の息子の結婚式を口実に一族が長春に集まることにします。
●前列左からビリー、祖母、祖母の妹、後列左からビリーの両親(祖母の次男)、従弟と日本人の奥さん、ビリーの叔父(祖母の長男)

 祖母は集まってきた一族を大喜びで迎えます。彼女は自分が末期がんで余命三か月ということを知らないのです。自分はただの風邪だと思っている祖母は孫の結婚式の準備を陣頭指揮(笑)。この祖母、なんとなく吉行和子に似ています(笑)。

 しかし、幼時から祖母にかわいがってもらったビリーは、悔いのない人生を過ごせるよう祖母に症状を知らせるべきではないか、と主張します。アメリカではそれが当たり前だからです。日本でも当たり前ですよね。医者は平然と告知するもんなあ。



 しかし、中国ではそうではありません。親戚一同は当人に告げることは望まないし、医師も敢えて告知しません。
 死ぬ前に思い残すことがないように祖母に病を告知するべきではないか、と強硬に主張するビリーですが、一族は全員反対です。
 父は『中国では生命は自分だけのものではない。(親族や地域など)全体の一部なのだ。ただ 祖母を心静かに送ってやりたい』とたしなめる。実際 祖母も曾祖母に告知をしませんでした。みんな、ぎりぎりまで当人には告知しないで、死を迎えてきたのです。

 ボクは見たことないですが、橋田寿賀子ドラマってこんな感じなのでしょうか。それを100倍くらい知能指数を増やして、1000倍くらい描写を巧みにした感じでしょうか。事前の予想とは違い、非常に濃い、そして上手い人間ドラマです。

 祖母も祖母の妹も、ビリーの父(次兄)も、日本で暮らすビリーの叔父(長兄)一家も、嫁いでくる日本人女性もいかにもあるあるな感じです。人間関係も環境も、嫁姑の関係も、良く描かれていて、一筋縄でいかないだけでなく、細やかに描かれています。
 どろどろした人間関係のドラマはボクはあまり好みませんが、これだけ上手な描写が続くと流石に興味津々です。

 やたらと一族がテーブルを囲むシーンが出てきます。中華料理がどれも美味しそうなことも含めて、とても面白いです。

 でも、一番強烈だと思ったのはエスニシティ(文化的な習慣)の違いの描写です。
 アメリカで暮らすビリー一家、日本で暮らすビリーの叔父一家、その息子と結婚する日本人女性、そして祖母や祖母の妹をはじめとした長春で暮らす中国人たち。同じアジア系でも、それぞれの考え方、性格、表現の仕方の違いがとっても面白い。

 中国に住む人たちはやたらと自分の感情を表面に出す。アメリカ的な価値観のビリーたちは自分の考えや感情を主張はするけど、個人というものが考え方の根底にあるから、中国育ちの中国人とは感覚が全く違う。
 日本で暮らすビリーの叔父一家は比較的穏やかです。あまり強引な主張はしない。さらに日本人の嫁に至っては普段はにこにこしているばかりです。自分の考えがないわけじゃなくて結婚相手のビリーの従弟を完全に尻に敷いているんだけど、表立ってはあまり主張はしない。祖母は『あの娘には感情がないのかい?』と言い出す始末。

 このエスニシティの違いの表現は、如何にも、という感じで本当に面白かった。他民族が共に暮らしているアメリカの都市部ではよくある光景なんでしょうね。
●一番左が日本人のお嫁さん、その隣が夫となるビリーのいとこ

 面白い会話がありました。25年前 富や自由を求めてアメリカに移住したビリー一家に、長春に住む親戚たちが、『お金を儲けるなら中国にいる方が良いのに』というシーンです。

 今や富のことだけ考えれば、中国にいたほうが儲かる。長春は中国ではそれほど大きな都市ではないと思いますが、画面で見ても近代的で急ごしらえの超高層ビルが数えきれないくらい林立しています。日本の地方都市なんか比べ物になりません。
 これだけお金が動いていればアメリカで就職口を探すより、はるかに稼げることは間違いない。まして長兄一家のように日本に移住することなんか言うに及ばずです。25年の時の流れはすさまじい。


 見る前は『泣ける』感動巨編(笑)かと思っていましたし、宣伝もそんな感じでしたが、物語はコミカルに進み、コミカルに終わります(笑)。東西の価値観に引き裂かれていたビリーが、最後は自分の中で調和を見つける。

 アメリカ人にとって、エスニシティの調和というのは身近な出来事でしょうから、余計に評価される映画なのでしょう。ボクは感動はしなかったのですが、面白さだけならかなり面白いです。リアルに、ていねいに、上手に人物やエスニシティを描き出す、ユニークだけど成熟した視点の映画だと思います。

泣ける…『フェアウェル』日本版予告編

『長野パープルのソフトクリーム』と『学術会議と日本人の絶滅(笑)』

 夜明けも遅くなり、いよいよ秋も深まってきました。写真は台風が来る前、今週水曜日の夜明けです。
 

 徒歩通勤の途中に三島由紀夫邸の跡地を通ります。この界隈に三島が庭でボディビルをやっていた、丘の上の大邸宅があったそうです。
●1955年のアサヒグラフ(WIKIより)

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 御多分に漏れず、今は庭付きの豪邸とは程遠い、普通の住宅が隙間なく並んでいます。と言っても、ボクには縁がない、億はするであろう高そうな家ばかりです(笑)。



 また北参道でソフトクリームを食べてきました。

 前回は巨峰でしたけど、今回は長野パープル。最近流行っているシャイン・マスカットと同じように、種がなく皮まで食べられる品種です。『長野パープルはシャイン・マスカットより葡萄らしい味がする💛』って、毎月通ってる整体の美人先生が仰ってました(笑)。同感です。


 オーナーの実家の牛乳を使った、ふんわりクリーミーだけど、甘すぎないソフトクリームと長野パープル、美味しかったなー、ああ。
 甘いものの代償は、昼食抜きと新宿から北参道の店まで徒歩往復1時間。映画の隙間時間を活用したダイエットでした(泣)。


 さて日本学術会議の会員候補6名を菅が推薦しなかった件、いろんなことが言われています。まず驚いたのは加藤陽子先生のような高名且つ業績のある学者が拒否されたこと。何冊も著書を読んだし、実際に講演でお話も聞いたこともありますが、ご当人は反体制と言う訳でもない、ただの常識人だし、拒否される理由が判らない。

 勿論 菅が学者の事なんか知ってるわけがないので、6人を外すお膳立てをしたのは安倍時代から引き続いて勤務している杉田官房副長官、という話もありますが、菅の責任であることは間違いない。
「杉田官房副長官、和泉補佐官に政権批判した学者を外せと言われた」学術会議問題を前川喜平氏語る (1/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)
 
 野党やリベラルの皆さんは『学問の自由が侵害された』と言ってますが、言論弾圧のような直接的な侵害ではなく、殆ど嫌がらせのような間接的な侵害ですから、そこは議論の余地はあるかもしれない。

 高校生の時に読んだ、日本学術会議国会図書館を作るのに尽力した羽仁五郎の本には『学問の自由は自治によって担保される』と書いてありました。任命するのは総理大臣かもしれないが自治を尊重しないのは非常識、とボクは思いますが、そこから説明しなければ、一般の日本人には難しいかも(笑)。
 大多数の人が不平等な日米地位協定を気にしないんです。そんな人には『自治』なんて言葉すら理解できないでしょう。

 しかし、それより、推薦しなかった理由をまともに述べないのは、税金で飯を食ってる政治家として許しがたい。これ↓と同じことですから(笑)。

 それを矮小化しようとする人たちがいるのには驚きます。
 例えばフジテレビの論説委員の平田文夫が放送でデマを拡散したのが騒ぎになりました。
news.yahoo.co.jp

 アホなネトウヨが誰にでもわかりそうなフェイクを拡散するのは理解できますが(バカはバカだから)、それだけではない。 


 学者でも東工大の西田のように、『自分には関係ない』というシニシズム的な反応を示す奴すら(笑)います。この人は頭いいなと思ってたんですが、視野の狭さにはがっかりです。

 一見公平に見えるが、ただの論点逸らしの『どっちもどっち』論に逃げ込む奴。

 
 ボクは政治家が理由を国民に説明しない、というのは許しがたい暴挙だと思います。憲法国民主権に反している。

 安倍晋三モリカケも安保法制も特定機密保護法もまともに説明しなかったですが、国民から怒りの声はそれほどは出て来ませんでした。今回も、むしろ学術会議のような知性/権威(勿論 バカな学者も大勢含まれているにしても)に対する一般人の反感が目につきます。

 日本学術会議が中国の軍事研究に協力しているなんて、見え透いたデマに1万以上、『いいね』がついているそうです。日本の学者にそんな能力あるわけないじゃん(笑)。


 

 こういう現象はどう考えたらいいのでしょう。『菅の教養の低さが問題』という川勝知事が言ってることが最もしっくりとはする。 

mainichi.jp

 もちろん菅自身は仕方ありません。''I was worried''とtweetして、自民党内からも『英語レベルが低すぎる』とクレームが出ているほどです(笑)。
www.sponichi.co.jp

 しかし問題は『理由をきちんと説明しないこと』に対して『民主主義を破壊する行為』と 憤らない国民。それに迎合するマスコミや一部の学者、それに政治家。これもトランプや山本太郎を支持しちゃうようなポピュリズム反知性主義の表れの一つ、かもしれません。

 その結果はこうなる↓。単に老人ばかりの斜陽国家というだけでなく、バカでまともな文化もない貧乏人だらけの国(笑)。

 このままのペースで行けば、日本の人口は100年後には今の4割、200年後には今の10分の1になります。西暦2900年には人口は6000人、3000年には2000人(笑)。日本人は絶滅危惧種になります。でも、そんな国だったら滅んだ方が地球のためによいですよね(笑)。 


gendai.ismedia.jp


 

 さてさて原発再稼働反対の金曜官邸前抗議を毎週続けてきた反原連が来年3月で活動休止することを今週 発表しました。
 政党や組織とは関係ない、普通の市民の人たちが集まって官邸前で抗議する活動が始まって、来年でちょうど10年になります。


coalitionagainstnukes.jp

 ボク自身は、どうせ自分が生きている間は原発はなくならない、と思っています。
 だから、瀬戸内海の祝島で上関原発建設に反対して38年間も毎週月曜日に抗議活動を続けているお年寄りたちを見習って、死ぬまで抗議し続けてやるぞ(笑)、と思ってたのですが、最近はコロナ禍もあって抗議への参加人数も減ってきました。
 この活動自体は10年でいったん区切りをつけるのは良い機会かもしれません。
●今週の抗議は台風の接近もあって中止になりました


 それより活動休止声明にあるように、反原連が始めた官邸前抗議によって、SEALDsのように、何かあると普通の市民や学生が官邸前や国会前に集まって抗議する、というスタイルが定着しつつあるのは、大きな意味があります。

 往時のベ平連はどんな感じだったか知りませんが、(かなり特殊とは言え)(笑)ボクのような会社帰りのサラリーマンが仕事帰りに気軽に集まって政治家に抗議するなんて、今までの日本ではあまりなかったでしょう。


 以前にも書いたことありますが、ボクは高校生の時からブルース・スプリングスティーンらが出演した原発反対のコンサートのレコードや映画を見たり、学校で原発反対運動の草分け、高木仁三郎氏の講演を聞いたりしていましたから、昔から原発は大反対でした。

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 でも海外では普通の人たちが原発反対の声を挙げているのに、少し前までの日本では集会とかデモとかへ行くと、小汚い幟や旗を掲げた変な人たちばかり(笑)。
 高木仁三郎氏の追悼集会へ行ったときなど、組織の幟やヘルメット&マスク姿のバカ連中が会場に溢れているのを見て、『これじゃあ、原発推進派とも分け隔てない対話を呼び掛けていた高木氏も浮かばれないなあ』とつくづく思いましたもん。

 だから反原連がやったように、日本で普通の市民が集まって抗議が行われるようになる、とは夢にも思わなかった。

 組織や政党に関係ない、普通の人たちがおかしなことがあったら集まる。抗議する。デモをする。今は民主主義にとっては不可欠な、直接的な政治参加が日本に定着しつつある途中です。
 これからも様々な形で抗議は続きます。ボクも及ばずながら、言うべきことは言い続けていきたいと思います。そろそろデモ、行きたいにゃあ(笑)。

『秋の土鍋ごはん』と、穏やかに、静かに、そして揺さぶられる:映画『ソワレ』

 トランプがコロナにかかったと聞いて、天罰が下った、と思ったんですけどねー(笑)。
 まあ、天罰を落とさなきゃいけないような連中はトランプ以外にも大勢いるので、神様も忙しいんでしょう(笑)。


 
 感染者数は中国並みの8万人超、人口あたりの死亡率はアジアワースト2位の日本ですが、ジジイ揃いの日本の政治家からどうして死者も感染者が出ないんでしょうね。それは不思議です。やっぱり連中は上級国民、国民の生活からかけ離れた特権階級ということなのでしょうか。
 

 週末は映画を見に新宿へ行きましたが、渋谷も新宿もずいぶん人が出ていました。今まで警戒していた中高年が外へ出るようになって銀座も人が増えているそうですね。かっては若者が目の敵にされていましたが、今は中高年が感染者全体の半分を占めています。

vdata.nikkei.com

 インフルエンザ同様 軽症や症状がないのならいいんでしょうけど、米欧ではバンバン死んでるわけで、やっぱり良く判りません。
 

 経済を回していかなければ、我々は干上がっちゃうことは間違いないですが、何とかキャンペーンみたいに燥いでいるのにも心理的な抵抗はあります。電車に乗っても手すりとか絶対触りたくないもんなあ。

 NHK-BSでコロナによる社会的影響を、哲学者のマルクス・ガブリエルは『第2次大戦並みの革命が進行中』と言っていました。実際 アメリカの死者は20万人と第2次大戦並みになりつつあります。我々が今まで暮らしてきた『より早く、より遠くへ移動する』生活様式が限界を迎えたことは間違いないと思います。

 経済、科学、価値観、色んな要素を考えながら、自分なりのニューノーマルを見つけていかなければいけないんでしょうね。



 さて、こちらは、この前食べた『土鍋ごはん』です。まだ新米ではありませんが、土鍋で炊いたご飯の上に白っぽい身の秋鮭と新イクラが如何にも秋らしい(笑)。お茶碗によそうまえに、炊き立てのものを見せてもらいました。

 粒が大きな新鮮なイクラと合わせるようにお米の粒が大ぶりなので、『どこのお米ですか?』と聞いたら、佐賀のものだそう。

 季節によって色々な産地の米を使い分けているそうですが、九州というのは意外でした。
 例えば熊本は米の一大産地ですが、『昔 九州のお米があまり美味しくなかったのは、新潟などコメどころの作業時期ややり方で育てていたから』と、長崎出身の板前さんが言ってました。最近は地元に合わせた時期や栽培法で育てるようになって、九州の米もどんどん質が上がっているそうです。
 
●これも秋の食べ物。子持ち鮎の素揚げに土佐酢のゼリー。

 土地の風土に合わせた栽培、は考えてみれば当たり前ですが、日本人の画一性って恐ろしい、と思いました。
 普段はダイエットの為に、お米はあまり食べないようにしていますが、こういう時は特別です。もちろんお代わり!(笑)。


 ということで、新宿で映画『ソワレ
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soiree-movie.jp

 役者を目指して東京に出ていた岩松翔太(村上虹郎)は一向に芽が出ず、今ではオレオレ詐欺に加担して食い扶持を稼ぐような日々を送っている。所属する劇団が高齢者施設で演劇を教えることになり、翔太は故郷である海辺の町、和歌山県御坊市に戻ってくる。そこで働く山下タカラ(芋生悠)と出会った翔太は、ある事を契機にして彼女と共に逃避行を始めることになるが

 監督は短編を中心に活躍している外山文治という人、小泉今日子がパートナーの豊原功補と一緒にプロデュースしていることで話題になった作品です。

 苦手そうなお話だったので、当初はスルー予定でしたが、毎日 名文で日々の暮らしを綴っておられるぷよねこさんが褒めておられたので、これは、と思って、見に行った次第。
puyoneko2016.hatenablog.jp

 
 映画は、東京に住む翔太(村上虹郎)の描写から始まります。スーツ姿の翔太が弁護士のふりをして、道端で老人に何かしゃべっています。老人から受け取った札束をガレージで男に渡して、自分は僅かな金を受け取る。翔太はオレオレ詐欺の受け子をやって、小銭を稼いでいるのです。

 次の場面では劇団に所属している翔太が、稽古も何となくやる気がないところも描写されます。かと言って、人生を諦めるでもなく、何となく未練がましさが漂わせている。典型的というか、コイツ、ダメな奴だなあ、と言いたくなるような人物像。
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 やがて翔太たちの劇団は和歌山県の南部、御坊市にある高齢者施設で演劇を教えることになります。限られた予算と人的資源の中で、時には生と死が交錯する過酷な現場です。今までの翔太たちの暮らしとは明らかに違う。

 そこでは寡黙な女、山下タカラ(芋生悠)が介護職員として働いていました。普段から必要最低限の事しか話さない、表情もあまり示さない、不器用そうな女性です。
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 ある日 翔太たちは息抜きに村の祭りに出かけることにします。翔太は着替えるために自宅アパートへ戻った山下を迎えに行きます。しかし翔太が見たのは男に襲われる山下の姿でした。必死に止めに入る翔太ですが、男の力に跳ね飛ばされます。翔太の上に馬乗りになった男を山下はハサミで刺してしまいます。
 男は婦女暴行で刑務所から出所してきたばかりの山下の父親でした。山下は長年 父親から家庭内性暴力を受けて育ってきたのです。

 警察に出頭しようとする山下を翔太が止めます。

「なんで必死なヤツばっかりこんな目にあうねん?なんで弱いやつばっかり損せなあかんねん」

「お前は傷つくために生まれてきたのと違うやろ!」

 ビックリしました。目の前の出来事にまじめに向き合ってこなかった翔太が突然真剣になった。ここで映画の印象が全く変わります。作品が目指している方向性が分かった気がした。
 字面だけ読むと生硬にも聞こえるけれど、画面で見ると説得力があるんです。
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 ここから翔太と山下の逃避行が始まります。いったん御坊の廃校に身を潜めた二人は、和歌山市へ向かいます。
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 お話とは対照的に、静かな情景が続きます。夏の陽光、夜の闇、夜明けの海。そして御坊や和歌山市の情景。異様にのんびりしているし、極端に寂れた寂寥感もある。暖かい気候も相まって、夜の街にはどことなくエキゾチックな感じもする。

 個人的な話ですが、ずいぶん昔 ボクは仕事で和歌山の中小企業の経営立て直しに通っていました。あの頃ですら寂れていると思ったけれど、好きな町でした。今 画面でみても、和歌山市内の繁華街、ぶらくり丁の雰囲気も全然変わってない。底知れないヤバさとのんびりした雰囲気が共存している。


 虚勢で生きてきた翔太と空白感を抱えて生きてきたタカラ、対照的な二人が物語が進むなかで次第に変わっていきます。 セリフが少ないのが良いです。そして村上虹郎と芋生悠の生々しい刹那の表情が素晴らしいです。
 そんなこと、殆ど思ったことないんですが、若いっていいな、と思いましたよ(笑)。

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 ヒロインの芋生悠って人、マジで素晴らしい。まるで自らも傷を負っているような演技には驚いた。かって門脇麦が出てきた時もそうでしたが、もっと重い存在感がある。この人、好きになっちゃいました(笑)。
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 深刻な話のように見えますが、画面が実に美しい。御坊、和歌山の山や海の美しさだけでなく、光の演出が美しい。和歌山の県立美術館で撮ったという幻想のシーンは素晴らしかった。 
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 その一方 脚本はうまいけれど詰め込み過ぎているし、無理がある演出もある。欠点は多い映画です。意図的だとはおもぃますが、前半はやや冗長さも感じられるし、工夫を凝らしたであろう最後のオチもどうなんだろう、とすら思いました。しかし、この映画にとってはそれほど重要なことではありません。
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 この映画は観る人の心の深いところに傷を作ります。主人公二人の傷の痛みを我々に感じさせるかのようです。
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 感情が根本から揺さぶられる。若い頃に触れた映画や音楽、小説で感動した、その感情がよみがえる。歳をとって冷え切った自分の心の奥底に温かな気持ちが戻ってくる。そんな映画です。
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 難しい題材だけど、『ソワレ』は題材の重みを軽々と乗り越え、誰もが心の奥底に抱えている想いにまでたどり着く。この映画の根本には人間という存在への信頼があります。だからこそ、普遍的な話に昇華されている。
 大傑作とは言わないけれど、これは本当に素晴らしい、ボクは大好きです。もっと早く見に行けばよかった。マジで素晴らしい。できればもう1回スクリーンでみたいと思います。


若い男女の切ない逃避行...映画『ソワレ』予告編