特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

サステイナブルの向こうに:映画『グリーン・ライ ~エコの嘘~』

 今日は夏のようなお天気でした。
 相変わらずボクは片道1時間半の徒歩通勤ですが、連休が終わって街にいる人が少し増えてきたように思えます。大丈夫か。
●通勤の途中にあるお寺。確かに外にでかけたくなるような爽やかなお天気が続いてはいるんですが- - -
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 8日金曜、たまたまスイッチをつけていたNHK首都圏情報 ネタドリ!』を見ていて言葉を失いました。
www.nhk.jp

 コロナ危機で経営に悩む天ぷら屋が取り上げられていたんですが、よく見たら東京随一と言われる神楽坂の天ぷら屋『天孝』だったからです。
 かねてから、ボクもぜひ一度行ってみたいと思っている、お座敷で職人が客の目の前で揚げるのが売りのお店です。今回はそれが余計に災いしています。
 売上激減で仕方なく始めたテイクアウトの弁当を作りながら、カメラの前でオヤジが『天ぷら屋だか弁当屋だかわからなくなっちまった』とぼやいていました。蘊蓄のある言葉です。
 番組でも、身の繊維を壊さないように包丁を使わず海老の天ぷらを作る技が紹介されていましたが、そういう手間暇かかることをやっている店にしてみれば、出来立てを食べてもらえないテイクアウトがたとえ売れても、本望であるはずがない。経済的なことだけではない、志の問題です。天孝あたりでこれじゃあ、どこの店も本当に大変だと思う。

 週末のTBS報道特集でも『緊急事態宣言延長で苦しむ人々』が取り上げられていました。現場では今まで想像がつかないようなことが起きていて、心が痛みます。
www.tbs.co.jp

  びっくりしたのは『例の10万円配布、特別定額給付金は非課税なのに、持続化給付金など中小・個人事業者への支援金は課税対象』という番組での指摘。
 10万円の方は課税対象にすれば手間暇も大してかからずに、富裕層には累進課税をかける効果が得られます。そちらを手を付けずに、困っている店への持続化給付金などは課税対象ってどういうことだよ。
 相変わらず、この国の政府・役人は困っている人に寄り添わない、と思いました。休業要請はするけど国は責任をとらない、困ったら自己責任、じゃあ、社会の連帯なんか生まれるはずがない。


 もう一つ、この週末 twitter検察庁法の改悪への反対の声が殺到しました。
 確かにコロナ危機で肉体的にも経済的にも多くの人が追い詰められている今、やる事ではない。


 既にこの国の政府は国民にマスク一つ、まともに配ることも出来ないような状態です。

 ちょっと前 陽性率の分子と分母の数値が整合性がとれていないことや再生産数の数値がまともに公表されてないことが話題になりましたが、まともな情報すら集計できていない。

 厚生労働大臣が死者の数をまともに把握することさえしてないのです。

 その一方 検察庁法の改悪に反対したきゃりーちゃんにバカの抗議が殺到する。

 なにやらTVのワイドショーばかり出ている大阪のアホ知事が注目されているそうですが、この国の劣化は統治機構だけでなく、国民も含めて来るところまできていると思います。

 残念ながら、今や日本はそういう劣等国です。そのつもりで頑張ろー(笑) 



 さて コロナ危機で苦境に立っているのは映画館も同じです。もともと経営が必ずしも盤石とはいえないミニ・シアターは存亡の危機にあるそうです。クラウドファンディングや署名活動などの支援活動も立ち上がっており、もちろんボクも参加しています。文化は自分たちの手で守るもの、です。
youtu.be
motion-gallery.net

 4月末から立ち上がった『仮設の映画館』は、単にネットで映画を配信するだけでなく、配給元と自分が指定したミニシアターで利益を分配するというサービスです。
www.temporary-cinema.jp

 ちょうど劇場で見ようと思っていた映画が公開されたので、見てみました。

映画『グリーン・ライ ~エコの嘘~』
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 スーパーや商店で「環境に優しい」と称する商品が増えてきた。それは本当なのかを確かめるため、オーストリア人監督と女性ジャーナリストがインドネシア、ドイツ、アメリカ、ブラジルを巡る調査の旅へ出る。「環境に優しい」「サステナブル」などの言葉の裏側に隠された現実に迫るドキュメンタリー。

 最近『サステイナブル』(持続可能性)や『SDGs』『ESG』などの言葉をよく耳にします。環境への配慮とか社会的責任、と言ったところでしょうか。その実態はどういうものかを描いたドキュメンタリーです。

 監督と女性ジャーナリストの二人がまず向かったのは、パーム・オイルの生産量世界一のインドネシア。アブラヤシからとれるパーム・オイルは加工食品やファーストフードだけでなく洗剤など、現代の先進国では欠かせないものになっています。日本だって同じです。
●スーパーで売られている食品やファースト・フード、合成洗剤に至るまでパームオイルが使われています。
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 しかし、アブラヤシを栽培するために熱帯雨林を伐採、燃やすことが問題になっています。そこで世界的な自然保護団体であるWWFが提唱して、ユニ・リーバやP&Gネスレなど多国籍巨大企業を集めてRSPOという『持続可能なパーム油』という認証制度を作っています。二人はRSPOの総会へ潜入します。
www.wwf.or.jp

 『持続可能性に十分留意している』、『パーム・オイル生産は2000万人もの途上国の労働者に雇用を確保している立派な産業だ』など企業の言い分を総会で聞いた二人は実際に生産地を訪れます。
 そこに広がっていたのは数日前まで熱帯雨林だったがパーム油農園を拡大するため、焼き尽くされた土地でした。必ずしも認証制度は機能していないのです。
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 どうすれば環境破壊をせずに済むのか?モノを買わないことなのか、正しい消費の選択をすることなのか?
 映画では更に、世界の石炭の10%を使っているというドイツの電力会社REW排気ガスは出さないけれど搭載するリチウムイオン電池が環境を破壊している電気自動車のテスラメキシコ湾で大石油流出事故を起こしたBPエコ認証を受けた大豆や肉を作るためにジャングルを焼き払っているブラジルなどが取り上げられます。

 どの企業も大金を払って自社の環境に対する姿勢を宣伝したり、公的な環境認証制度を受けていますけれど、実態は環境に優しいとはいいがたい。
 多くの場合 認証マークには緑色が使われています。彼らは『グリーンな嘘』をついているのです。

 2人はMITのノーム・チョムスキー先生に解決方法を聞きに行く。先生は、
企業が提案する良いことは受け入れるほうが良い。しかしプロパガンダは断固として拒否する。市民は企業の提案とプロパガンダを明確に区別できる知恵を持たなくてはならない』、
究極的には企業は労働者の所有にするなど、現在の形を変えていくべきだ。
 などと語ります。ま、良くも悪くも、ラディカル一辺倒のいつものチョムスキー先生です(笑)。

 映画は、過激に環境保護の理想を語る女性ジャーナリストと穏便な意見を述べる監督との掛け合いで進んでいきます。監督の方は演技だとは思いますが、一方的な意見を押し付けずに、観客に考える余地を残しています。 

 TVなどでもお気づきだと思いますが、最近は経団連など大企業や銀行、特に上層部は殆ど全員 襟にSDGsのバカでかいバッチを付けています。

 SDGsとは国連で定めたSustainable Development Goals、持続可能な開発目標、「貧困をなくそう」から「パートナーシップで目標を達成しよう」まで17のゴールと169のターゲットが掲げられています。
●政府はSDGs取組の認証・表彰制度まで作るそうですよ(笑)。

 SDGs自体にケチをつける気はないのですが、このでかいバッチはいかにも間抜けでインチキ臭い。みっともないのでボクはすぐ捨てました。このバッチをしている奴はボクは一切信用しないことにしています。

 『どうせ会社に言われたから着けてるだけだろ、お前の勤務先は本当にそんなことに貢献しようと思っているのか』って思っちゃうんですよね。
 例えば銀行や広告代理店が『貧困をなくす』ことに貢献してるのか?景気が危うくなると直ぐ貸しはがしをしたり、偉そうに社有車で取引先を訪問してる銀行が貧困とか環境なんて、ご冗談でしょう(笑)。

 国際的な圧力に負けて、日本のメガバンクも石炭火力への融資はやめるようですが。それでも融資残高をゼロにするのはみずほ銀行の場合 2050年だそうです(笑)。メガバンクの劣等生、みずほ銀行が2050年まで残ってるわけないじゃん(笑)!
pps-net.org


 株主のための短期的な利益が全てだった資本主義が、地球温暖化や格差など、消費者や社会、資源や自然環境など様々なステークホルダー(利害関係者)を考慮したものにしよう、という動きが出てきたのは良いことです。

 世界各国の政財界の要人が集まった今年のダボス会議では『ステークホルダー資本主義を目指そう』ということが議論されました。今のままでは資本主義自体が成り立たないことは大方の人の目にはわかるようになってきたんです。


 しかし、この映画でチョムスキー先生が言っているように、企業は良い提案だけでなく、プロパガンダも仕掛けてきます。あまたの広告代理店やコンサルはそれで暴利を貪っている。また、この映画で描かれているように実質的に機能してない公的認証もある。

 日本にもエコマークやグリーン購入やリサイクルなど、環境や資源保護の美名をかたる認証が沢山ありますけど、エコマークがついた再生プラや再生紙でメーカーの偽装が暴露されたのはそんなに古いことではありません。
www.asahi.com

 それでなくてもエコマークやグリーン購入が本当に環境保護に繋がっているか疑問の点もあるし、認証団体が役人の天下りや利権に繋がっている例は山ほどあるようです。と、言っても業界に関係ない素人が検証するのは難しいんですが(笑)、黙っていたら、連中のやりたい放題になってしまいます。
 

 この映画はそういうインチキな業界や企業の偽善を暴くことに重点を置いています。冷静な視点はキープされてますけど、それでもインチキを暴くことに焦点を当て過ぎている感じもします。映画を見ながら『じゃ、どうするんだ』と思いましたもん。

 映画が指摘するように企業の環境保護への姿勢や認証制度には不備や偽善はあるけれど、ないよりはマシ、ではある。でも各企業や企業の製品でエネルギーを無駄遣いすることで進行している地球温暖化の件一つとっても、現状がおかしいこともまちがいない。何事も完全なものはないのだから、やはり議論をしていくしかない。
 その議論のとば口となる映画です。

 SDGsとかESG、サステイナブルなどの言葉を盲信せず、プロパガンダを疑いながら、それを利用し、実質的にどうなのか自分たちで考えていかなければならない。簡単な解決策などありませんから、一歩ずつ前へ進んでいくしかないんでしょうね。

「環境に優しい」商品のヤバい現実/映画『グリーン・ライ〜エコの嘘〜』予告編

コロナ危機について知っている2,3の事柄

 毎年の事ながら、楽しいゴールデン・ウィークはあっという間に過ぎてしまいました。
 この4月から新しい職場で気疲れが溜まって(笑)、やっと一息ついた、というところでした。短かった。
 ここから夏休みまでが長い(笑)。ゴールデン・ウィークもただゴロゴロしてるだけで相変わらず何もしなかったなー。自分が悪いんですけど。

 それでも少しくらいは運動しようと思って、普段は出歩かないところを歩いていたら、単に多くの店が営業停止しているだけでなく、3月末や4月末で店仕舞いしてしまった飲食店を複数見かけました。
●自由が丘の一等地で長く続いた店もこの通り。

 店仕舞いの理由は、店主の健康や高齢と張り紙をしてある例もありましたが、やはり先が見えないことに対する気力の問題があるでしょう。そういう光景を目の当たりにすると、今回のコロナ危機の影響の大きさを考えざるを得ません。
●近所の公園の遊具もこの通り。
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 東京都の新規感染者の数は移動平均で見てもはっきり減り続けています。この数日の感染者の少なさは検査人数が少ない(件数はやや少ない程度)のも影響していますが、連休の結果が出る今後2週間くらい、この傾向が続けば少しは希望が持てる。
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 ただ日本人は冷めやすいですからね。油断すると危ない。



 緊急事態宣言解除の基準を早く作りたいと安倍晋三が言ってましたけど、びっくりしました。最初から基準を考えずに、緊急事態宣言を出したのか???
 いくら何でも、最初から解除基準くらいは内々で考えていると思っていたのですが、甘かったみたいです。バカには下限がない。

 10万円どころか、例のアベノマスクすら、まだ東京以外には配ることができていない。今は新大久保や中華街はもちろん、アマゾンでもマスクは普通に買えますよ(笑)。
●このtweet当時はマスク配布は東京だけ。5/8夕方になって、やっと一部の県は来週から配布開始、という表示に変わりました。開始ですから、いつまでに配れるかすら判らない。

 1月からマスク増産を進め、街のマスク在庫がアプリですぐわかるどころか、マスク配給、今はマスクの海外寄付までアプリでできるようにした台湾と比べれば、驚くべき無能さです。
www.jiji.com


 東京の小池だって同罪です。
 延期が発表されるまで感染予防よりオリンピックを優先させた小池を、連続放火魔が急に消防署長になったようなもの、と誰かが評してましたけど、1月から3月までの医療資材・病床の準備不足に加えて、検査の陽性率の数字がまともに出始めたのはやっと今日です。
this.kiji.is

 これはひどい安倍晋三とたいして変わりがない。


 連続放火魔が消防署長になったようなもの、という点では大阪の吉村も同じです。何やらワイドショー受けしているようですが(ボクはそういう低俗なものは見ないので良く知りません)、そもそも維新が病院や検査機関を減らしたんです。

 解除の数値目標を出したのは安倍晋三よりはマシですけど、ただそれだけ。

 
 NYみたいな状況になったらともかく、雨合羽やゴミ袋で医療用の防護服を作らせたなんて、それだけでどうしようもない無能でしょう。

 ただ、国民の民度もこんな程度です↓。

 バカ知事、バカ首相がモグラたたきのように出てくるのは仕方がないかもしれません。

 ワイドショーなんか出てこなくても、本当に仕事をするということはこういうこと↓です。

 2月、3月の内に準備万端 検査や病床の準備を整えていた鳥取の片山知事もそうですよね。目立たなくても、大事を起こさせないのが政治家の仕事です。

 日本人は真贋を見極める目をもっと磨かなくてはいけないと思います。ワイドショーなんか見てる奴も悪い。
 このtweet↓の翌日、今日も愛知県は感染者ゼロ。愛知はトヨタデンソーなど国際的企業があるから人の出入りは大阪なんかより、よほど激しかったはずですけどね。


 今 アメリカではなんと2000万人、労働者の5人に1人が失業しているそうです(5/7 テレ東、『モーニングサテライト』↓)アメリカへの輸出で食っている日本にとっても大変なことです。
 有名高級デパートのニーマン・マーカスや衣料品のJ・クルーも破産しました。若い頃、ニーマン・マーカスへ初めて行った時、店員が異常に気取ってたのを思い出しました。

 日本も5月にかけて更に景気は悪くなります。戦後最悪の不況、という声すらも聞こえてくるほどです。コロナで死ななくても経済で死ぬ人も出てくるでしょう。

 ゴールデン・ウィーク中も働いてくれていた人たち、スーパーの店員さんや宅急便や郵便局の人、ゴミ収集をしてくれていた人たちには全く頭が下がる思いでした。
 こういう人たちが報われるような世の中にしていかないとダメだよなーと改めて思います。


 段々、今回のコロナ危機で起きていることが、自分なりに分かってきたような気がします。
 コロナ危機は今まで我々や社会が今まで抱えていた問題点を一層はっきりさせた、ということ、です。『問題点をはっきり』というのは『問題を拡大させる』、『変化を加速させる』ということでもあります。

 ざっと思いつくだけでも、金銭的な面だけでなく労働環境も含めた格差の問題、家に居る時間が増えることによる住宅環境の問題、小さいことで言えばコロナ離婚にコロナ太りにコロナDV。
 今回のコロナ危機でこんなことがはっきりしてきたように思います

 例えば格差の問題。以前 非正規の人は同じ仕事でもテレワークが認められないことがある、という話はブログに書きましたけど、連休中 毎日新聞がそれを記事にしていました。


mainichi.jp

 確かに契約とか情報セキュリティの問題はあります。特に上場企業だと、今は内部統制と言ってその辺は煩い。
 そこで担当者なり、上司なりが、会社と戦えばいいんだけど、戦えない立場の人もいるし、戦って良いかすら判らない人が最も多いと思います。小学校以来の『お上には逆らわない』社畜教育の賜物です。もちろん戦っても判らず屋の上司や企業だったらダメなことだって多いでしょうし。

 でも理屈や手続きはどうあれ、命や健康とどちらが大事か、ってことは考えなくてはいけないはずです。それが優先されない社会は、どこかおかしい。

 今の格差は見えにくい、とはよく言います。例えば生活保護の人でもスマホを持っていると生活保護たたきのバカどもが言ってますけど、今はスマホがなければ日雇いの仕事も得られないことも多い。服装だって貧富の差に関係なく、大勢の人がユニクロを着てるし。
 だけど、今 コロナ危機は色々な人の職場、現場で格差や矛盾を顕在化させているはずです。

 住宅環境だって、ボクの家も含めて、都会ではウサギ小屋と揶揄されるような住居が多いわけですが、これは公的な住宅供給を怠ってきた戦後の政策、また産業を都会に一極集中させてきたことが原因でもあります。クラスター発生源になりかねない満員電車の通勤だって原因は同じです。社会の政策がどこかおかしい。
 
 コロナ離婚やコロナDVだって、個人的な資質の問題はあるかもしれませんが、夜遅くまで働いて(もしくは飲み歩いて)家庭を顧みない、家事をしない、日本企業のワークスタイルや特にバカ男のライフスタイルが原因でしょう。

 やっぱりボクらの働き方、生き方はどこか問題があるんです。今回のコロナ危機は我々の抱えてきた問題点を顕在化させました。雇用、経済、住居、家族関係、そして政治

 今 ボク個人にできることは、多くの人と同じように『規則正しい生活をして極力 感染を防ぐこと』、『なんとか仕事を続け、経済を回すこと』、それくらいしかないのが歯がゆい。『健康で、仕事があって働ける』というのは幸せなことではありますけど。

 もうコロナ危機が起きる前の生活には戻れないし、戻ってはいけないでしょう。
 今回 目の前に露わになった問題や矛盾を減らしていけるよう、少しでもいいから取り組んでいかなければいけない。ボクはそう思います。 


PS.今週も金曜官邸前抗議はお休みです。
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『ソーシャル・ディスタンスの効用』と映画『洲崎パラダイス』

 おかげさまで、楽しいゴールデンウィークを過ごしています。
 仕事に行かなくて良いというだけで、どうしてこんなに気分が晴れやかなんでしょうか’(笑)。

 まるで定年後の生活の予行演習をやっているようです。会社に行かなくて良いというのはこんなに楽しいものなのか。元々、ゴールデンウィークへどこかへ行くなんてことは考えたこともないし、家の周りで散歩でもしてれば充分満足です。

 ただ家の周りは郊外住宅地なんで人が多い。駒沢公園は恐ろしいので行くのをやめました。マスクをしないでジョギングしてるバカはだいぶ減ったとは言え、マスクなしでゼエゼエやってるアホはまだ大勢います。あれはどういう発想なのでしょうか。ああいう輩は早く死んでほしい。

 唯一 食べ物屋さんが閉まっているのはつらいなーと思います。特に自分では作れないトンカツとか天ぷらは食べたくなってきた(笑)。

 様々な産業が影響を受けていますけど、飲食や旅行だけでなく洋服屋さんも厳しいそうですね。
 店で不特定多数の人が触った服を試着して買うなんて今はあり得ないし、足りないものをネットで買うにしても徒歩通勤だから動きやすい恰好、ポロシャツとかユニクロで充分です。そもそも服を買っても今は着る機会がない。3月の初めに春物のスーツを買ったのが遠い昔のことのようです。今年は春物のスーツは1回も着ないで終わりそうです。

 今のような自粛体制(ディストピアですな)が解除されても、我々は長い期間 感染のリスクと共存していかなければならないでしょう。テレワーク・時差出勤は増えるでしょうし、都会に人が集中するのも多少は緩和されるかもしれません。

 個人的には物理的にも心理的にも、人と人との距離をとるようになっていくのはちょっと嬉しいです。ソーシャル・ディスタンスはボクのような人間嫌いにはそんなに悪いものではない。満員電車も他人との世間話もウンザリですもん。これで飲み会や宴会、会食とかがこの世から消滅してくれればいいなあ(笑)。

 やはり、今のような状態は長続きできません。経済的に問題が大有りです。今回の自粛で生じた国内の失業者約37万人が、もう1か月自粛が伸びることで40万人失業者が増えて77万人になる、という話まであります。
 そうでなくても、ボクも含めて多くの人の収入は大幅ダウンするでしょうし、勝ち組は公務員と年金生活者か(笑)。もちろんそれは仕方がない。ともかく、オリンピック後に予想されていた不景気が特大の形でやってきた。
www.jiji.com

 今回の危機で、これから我々がどんな社会、どんな生活を選ぶのか。格差拡大や管理社会を選ぶのか、今感じている、頑張って働いている人たちへの感謝を生かせるような社会を選ぶのか
 そのためには政府やマスコミ、ネットに踊らされず、今起きていることを目を見開いて直視していかなければいけない、と思います。

●昨年の5月3日の憲法集会。京大の高山教授(憲法)がコスプレまでして頑張ってます。天気は良くて気持ちよかったですが、こういう集会自体は予定調和なのであまり意味がない、と個人的には思います。こういうのも変わらなくちゃいけないんでしょう。

●今年は国会前からネット中継だったそうですけど、これも正直どうか、と思います。少人数とは言え、わざわざ国会前に集まってるのですから、最初は目を疑いました。バカすぎて。
www.sankei.com




 ということで、これは昨年観たのかな。古い映画ですが、巨匠と呼ばれる川島雄三監督の傑作と誉れ高い作品。実際素晴らしい作品でした。
 

新宿で映画『洲崎パラダイス 赤信号

売春防止法施行前の東京。勝鬨橋の上で、行くあてもない男(三橋達也)と女(新珠三千代)が行くあてもなく佇んでいる。やがて二人はバスにのり、遊郭がある洲崎の入り口で降りる。入口にある飲み屋で求人の張り紙を見つけた女はその店で住み込みで働き始め、男は飲み屋の女将(轟夕起子)の世話で蕎麦屋の出前として働き始めるが

洲崎パラダイス 赤信号 | 映画 | 日活

 

 以前 川島監督のフランキー堺主演の「幕末太陽傳」という映画を見て非常に感激したことがあります。幕末という激動の時代、品川の遊郭を舞台に、江戸時代から今に至るまでの文化の連続性や権力に屈しない庶民のエネルギーが生き生きと描き出された超傑作コメディだったからです。

www.youtube.com

 

それを撮った川島雄三監督の生誕100年を記念して上映されたこの映画『洲崎パラダイス 赤信号』は1956年の白黒映画、『幕末太陽傳』と並ぶ傑作と呼ばれているそうです。

日活100周年邦画クラシック GREAT20 洲崎パラダイス 赤信号 HDリマスター版 [DVD]

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 今まで全然知らなかったのですが、東京都江東区東陽町、木場の辺りは1950年代は洲崎という地名でした。まだ海がすぐそこまで迫っていた辺りは戦後『洲崎パラダイス』と呼ばれる、吉原と並ぶ大きな遊郭があったそうです。

 元来 根津にあった遊郭が、明治期に東大が作られるためにこちらへ移転したとのこと。戦争で焼け野原になったものの、戦後わずか半年で復興(笑)。2000人以上の遊女がいる歓楽街になったそうですが、1958年の売春防止法遊郭は廃止、今は埋め立ても進み、そういうものがあったことは全く判りません。
●映画は実際の洲崎でロケが行われています。入り口にはこんなゲートがあったそうです。

 

 お話は男と女が勝鬨橋の上でたたずんでいるところから始まります。
勝鬨橋の上の新珠美千代と三橋達也。ボクは名前しか知りませんが、美男美女ですね。

 
 舞台は洲崎パラダイスの入り口にある小さな飲み屋です。これがなんとも絶妙です。子供5人を育てるシングルマザーの女将さんがやっている飲み屋はその入口、まさにボーダーラインです。
 橋を渡って洲崎パラダイスへ入れば奈落の底。ぎりぎり堅気で踏みとどまっている。そんなところに、新珠三千代三橋達也が演じる、行くあてもない男女がやってきます。
●男と女は働き口を求めて、シングルマザーの女将さん(轟夕紀子 写真右)が営む、洲崎パラダイスの入り口にある飲み屋へたどり着きます。

 女中募集の張り紙を見て入ってきた女はなぜか、客あしらいが異様にうまい。女将さんは彼女を雇うことに決め、飲み屋の2Fの屋根裏部屋に住み込むことになります。一方 男は無口で何も語らず、愛想も悪い。能無しの木偶の棒みたいな感じ。それでも人の良い女将さんは近所を回って、男に蕎麦屋の出前の仕事を世話します。
●女は客あしらいがうまく、景気がいいラジオ店店主(中央)のお気に入りになります。当時は普通の飲み屋でもこんな接客をしていたのでしょうか
]
 
 『訳アリ』そうな二人です。映画では深くは語られませんが、男はサラリーマンをクビになり、女は元遊女、洲崎に居たようです。当時は遊女という職業があったし、サラリーマンの社会的地位も違う。飲み屋の女将さんには夫が洲崎の遊女に夢中になって家出して、女手一つで子供たちを育てているという因縁があります。それだけでなく 多くの登場人物は戦災など、様々な事情を抱えています。

 遊郭を背景にしたお話し、それに女性が店や下働きでしか働くこともままならなかった当時の時代背景はありますけど、人物の描き方には女性へのリスペクトをすごく感じます。そういうところも川島監督なのでしょうが、この感覚は凄い。
●シングルマザーの女将さんは旦那が洲崎の遊女と駆け落ちしてしまった過去を持っています。

 

 スクリーンで見る60年前の日本はまるで違う国の話のように見えます。
ちょっと、インド映画みたい。 毎日 東京湾を埋め立てる土を運んでいるダンプの運転手たちは車の窓から女将さんに挨拶して通っていく。というか、誰もが皆挨拶をしあっている。店に入ってくるお客さんも挨拶をするだけでなく、大抵が顔見知り。近所同士で流れ者の就職を世話するくらいの人情やつながりもある。ボクが子供のころの東京はそんな感じだった気がします。

 それに店で働いている人がやたらと多い。小さな蕎麦屋でも何人も人を雇っているのは驚きです。今とは比べ物にならないくらい人件費が安い時代だったことが良く判る。その蕎麦屋の名前が『だまされ屋』(笑)。騙されたと思って食べて見ろ、ということだそうです。 
 そんな中でも川島監督は洒脱なユーモアを忘れません。

 

 人々の挨拶にしても、人情やつながりにしても、人の数にしても、労働時間にしても、今からは全く想像もできません。誰もが今より貧しかったわけですが、自己責任なんてケチ臭いことを言う人なんか誰もいない。むしろ、現在の我々は彼らより精神的に貧しくなっているんじゃないか。

 
 江戸末期の遊郭を舞台にした『幕末太陽傳』を見たときも思ったのですが、監督の描き方には江戸時代からの連続性みたいなものを非常に感じる。人々の暮らしぶり、人情、まるでシャイさが表れているような早口で聞き取れない東京弁

 戦後 日本は以前からの連続性を失ったとか、良く言われますけど、庶民の間では戦後も江戸時代からの伝統が色濃く残っていた、と思います。お祭りになったら急に元気になったり、大山参りに精を出す、江戸時代からのライフスタイルそのままで昭和まで生きたボクの祖父を思い起こしても、そう思う。むしろ高度成長期以降にこそ、庶民の伝統が破壊されたように思えてなりません。
●今ではぜいたく品の蛇の目傘が日常生活にあるんです。驚き。

 多情な女は羽振りの良い、神田のラジオ店主の元へ出て行ってしまいます。男は必死になって女を探しますが、見つからない。やがて二人は思わぬ形で再会します。
●白黒映画ですが、構図、光、俳優さんの表情など画面の美しさは充分に味わえます。

 名前しか聞いたことがありませんでしたが、新珠三千代は圧倒的な美人だし、三橋達也って彫りが深いハンサムなんですね。外国の俳優みたい。あと芦川いずみもきれいだったし、轟夕起子の演技力も素晴らしかった。
蕎麦屋の店員の芦川いずみ

 実際の洲崎や神田(秋葉原)でロケをしています。クレジットを見ていて驚いたのですが、この映画、なんと助監督が巨匠、今村昌平、です。小沢昭一蕎麦屋の出前の若者役で出てきたのにはもう、びっくりします。口調はあの口調のまんま、するりとした渋い味を出していますが、異様に若い(笑)。
●出前持ちの小沢昭一

 

 誰もが皆、朝から晩まで働いている。これは驚きでした。

 テレワークなんて彼らには理解できないでしょう(笑)。
 画面の中で見る、かっての日本の活気は眩しいくらいです。これこそが別の国のように感じる最も大きな理由です。それだけでなく、ボクが生まれる前の東京の光景は見たことがなくても、なぜか懐かしさを感じる。
 そして、何という大人な、深~い人間描写。たくましく生きていく庶民のパワーに加えて、人間なんてこんなものという諦めにも似た乾いた思い、それでも感じられる、人間へのほのかな愛情。
 
 それが重くなり過ぎず、あっさりとした描写と軽妙な笑いのなかで80分の時間にするりと流れていく。この映画も本当に面白い。人間嫌いで世俗に疎いボクには社会勉強にすらなります(笑)。圧倒的な、だけど洒脱な傑作でした。人生で正気を保っていくためには川島雄三監督の作品はもっと見なければいけないのかも、と思いました。

洲崎パラダイス赤信号・解説

記録映画『赤線』・洲崎パラダイス 1958