特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

サステイナブルの向こうに:映画『グリーン・ライ ~エコの嘘~』

 今日は夏のようなお天気でした。
 相変わらずボクは片道1時間半の徒歩通勤ですが、連休が終わって街にいる人が少し増えてきたように思えます。大丈夫か。
●通勤の途中にあるお寺。確かに外にでかけたくなるような爽やかなお天気が続いてはいるんですが- - -
f:id:SPYBOY:20200507065214j:plain


 8日金曜、たまたまスイッチをつけていたNHK首都圏情報 ネタドリ!』を見ていて言葉を失いました。
www.nhk.jp

 コロナ危機で経営に悩む天ぷら屋が取り上げられていたんですが、よく見たら東京随一と言われる神楽坂の天ぷら屋『天孝』だったからです。
 かねてから、ボクもぜひ一度行ってみたいと思っている、お座敷で職人が客の目の前で揚げるのが売りのお店です。今回はそれが余計に災いしています。
 売上激減で仕方なく始めたテイクアウトの弁当を作りながら、カメラの前でオヤジが『天ぷら屋だか弁当屋だかわからなくなっちまった』とぼやいていました。蘊蓄のある言葉です。
 番組でも、身の繊維を壊さないように包丁を使わず海老の天ぷらを作る技が紹介されていましたが、そういう手間暇かかることをやっている店にしてみれば、出来立てを食べてもらえないテイクアウトがたとえ売れても、本望であるはずがない。経済的なことだけではない、志の問題です。天孝あたりでこれじゃあ、どこの店も本当に大変だと思う。

 週末のTBS報道特集でも『緊急事態宣言延長で苦しむ人々』が取り上げられていました。現場では今まで想像がつかないようなことが起きていて、心が痛みます。
www.tbs.co.jp

  びっくりしたのは『例の10万円配布、特別定額給付金は非課税なのに、持続化給付金など中小・個人事業者への支援金は課税対象』という番組での指摘。
 10万円の方は課税対象にすれば手間暇も大してかからずに、富裕層には累進課税をかける効果が得られます。そちらを手を付けずに、困っている店への持続化給付金などは課税対象ってどういうことだよ。
 相変わらず、この国の政府・役人は困っている人に寄り添わない、と思いました。休業要請はするけど国は責任をとらない、困ったら自己責任、じゃあ、社会の連帯なんか生まれるはずがない。


 もう一つ、この週末 twitter検察庁法の改悪への反対の声が殺到しました。
 確かにコロナ危機で肉体的にも経済的にも多くの人が追い詰められている今、やる事ではない。


 既にこの国の政府は国民にマスク一つ、まともに配ることも出来ないような状態です。

 ちょっと前 陽性率の分子と分母の数値が整合性がとれていないことや再生産数の数値がまともに公表されてないことが話題になりましたが、まともな情報すら集計できていない。

 厚生労働大臣が死者の数をまともに把握することさえしてないのです。

 その一方 検察庁法の改悪に反対したきゃりーちゃんにバカの抗議が殺到する。

 なにやらTVのワイドショーばかり出ている大阪のアホ知事が注目されているそうですが、この国の劣化は統治機構だけでなく、国民も含めて来るところまできていると思います。

 残念ながら、今や日本はそういう劣等国です。そのつもりで頑張ろー(笑) 



 さて コロナ危機で苦境に立っているのは映画館も同じです。もともと経営が必ずしも盤石とはいえないミニ・シアターは存亡の危機にあるそうです。クラウドファンディングや署名活動などの支援活動も立ち上がっており、もちろんボクも参加しています。文化は自分たちの手で守るもの、です。
youtu.be
motion-gallery.net

 4月末から立ち上がった『仮設の映画館』は、単にネットで映画を配信するだけでなく、配給元と自分が指定したミニシアターで利益を分配するというサービスです。
www.temporary-cinema.jp

 ちょうど劇場で見ようと思っていた映画が公開されたので、見てみました。

映画『グリーン・ライ ~エコの嘘~』
f:id:SPYBOY:20200506154607p:plain
 スーパーや商店で「環境に優しい」と称する商品が増えてきた。それは本当なのかを確かめるため、オーストリア人監督と女性ジャーナリストがインドネシア、ドイツ、アメリカ、ブラジルを巡る調査の旅へ出る。「環境に優しい」「サステナブル」などの言葉の裏側に隠された現実に迫るドキュメンタリー。

 最近『サステイナブル』(持続可能性)や『SDGs』『ESG』などの言葉をよく耳にします。環境への配慮とか社会的責任、と言ったところでしょうか。その実態はどういうものかを描いたドキュメンタリーです。

 監督と女性ジャーナリストの二人がまず向かったのは、パーム・オイルの生産量世界一のインドネシア。アブラヤシからとれるパーム・オイルは加工食品やファーストフードだけでなく洗剤など、現代の先進国では欠かせないものになっています。日本だって同じです。
●スーパーで売られている食品やファースト・フード、合成洗剤に至るまでパームオイルが使われています。
f:id:SPYBOY:20200506162804p:plain

 しかし、アブラヤシを栽培するために熱帯雨林を伐採、燃やすことが問題になっています。そこで世界的な自然保護団体であるWWFが提唱して、ユニ・リーバやP&Gネスレなど多国籍巨大企業を集めてRSPOという『持続可能なパーム油』という認証制度を作っています。二人はRSPOの総会へ潜入します。
www.wwf.or.jp

 『持続可能性に十分留意している』、『パーム・オイル生産は2000万人もの途上国の労働者に雇用を確保している立派な産業だ』など企業の言い分を総会で聞いた二人は実際に生産地を訪れます。
 そこに広がっていたのは数日前まで熱帯雨林だったがパーム油農園を拡大するため、焼き尽くされた土地でした。必ずしも認証制度は機能していないのです。
f:id:SPYBOY:20200506163056p:plain

 どうすれば環境破壊をせずに済むのか?モノを買わないことなのか、正しい消費の選択をすることなのか?
 映画では更に、世界の石炭の10%を使っているというドイツの電力会社REW排気ガスは出さないけれど搭載するリチウムイオン電池が環境を破壊している電気自動車のテスラメキシコ湾で大石油流出事故を起こしたBPエコ認証を受けた大豆や肉を作るためにジャングルを焼き払っているブラジルなどが取り上げられます。

 どの企業も大金を払って自社の環境に対する姿勢を宣伝したり、公的な環境認証制度を受けていますけれど、実態は環境に優しいとはいいがたい。
 多くの場合 認証マークには緑色が使われています。彼らは『グリーンな嘘』をついているのです。

 2人はMITのノーム・チョムスキー先生に解決方法を聞きに行く。先生は、
企業が提案する良いことは受け入れるほうが良い。しかしプロパガンダは断固として拒否する。市民は企業の提案とプロパガンダを明確に区別できる知恵を持たなくてはならない』、
究極的には企業は労働者の所有にするなど、現在の形を変えていくべきだ。
 などと語ります。ま、良くも悪くも、ラディカル一辺倒のいつものチョムスキー先生です(笑)。

 映画は、過激に環境保護の理想を語る女性ジャーナリストと穏便な意見を述べる監督との掛け合いで進んでいきます。監督の方は演技だとは思いますが、一方的な意見を押し付けずに、観客に考える余地を残しています。 

 TVなどでもお気づきだと思いますが、最近は経団連など大企業や銀行、特に上層部は殆ど全員 襟にSDGsのバカでかいバッチを付けています。

 SDGsとは国連で定めたSustainable Development Goals、持続可能な開発目標、「貧困をなくそう」から「パートナーシップで目標を達成しよう」まで17のゴールと169のターゲットが掲げられています。
●政府はSDGs取組の認証・表彰制度まで作るそうですよ(笑)。

 SDGs自体にケチをつける気はないのですが、このでかいバッチはいかにも間抜けでインチキ臭い。みっともないのでボクはすぐ捨てました。このバッチをしている奴はボクは一切信用しないことにしています。

 『どうせ会社に言われたから着けてるだけだろ、お前の勤務先は本当にそんなことに貢献しようと思っているのか』って思っちゃうんですよね。
 例えば銀行や広告代理店が『貧困をなくす』ことに貢献してるのか?景気が危うくなると直ぐ貸しはがしをしたり、偉そうに社有車で取引先を訪問してる銀行が貧困とか環境なんて、ご冗談でしょう(笑)。

 国際的な圧力に負けて、日本のメガバンクも石炭火力への融資はやめるようですが。それでも融資残高をゼロにするのはみずほ銀行の場合 2050年だそうです(笑)。メガバンクの劣等生、みずほ銀行が2050年まで残ってるわけないじゃん(笑)!
pps-net.org


 株主のための短期的な利益が全てだった資本主義が、地球温暖化や格差など、消費者や社会、資源や自然環境など様々なステークホルダー(利害関係者)を考慮したものにしよう、という動きが出てきたのは良いことです。

 世界各国の政財界の要人が集まった今年のダボス会議では『ステークホルダー資本主義を目指そう』ということが議論されました。今のままでは資本主義自体が成り立たないことは大方の人の目にはわかるようになってきたんです。


 しかし、この映画でチョムスキー先生が言っているように、企業は良い提案だけでなく、プロパガンダも仕掛けてきます。あまたの広告代理店やコンサルはそれで暴利を貪っている。また、この映画で描かれているように実質的に機能してない公的認証もある。

 日本にもエコマークやグリーン購入やリサイクルなど、環境や資源保護の美名をかたる認証が沢山ありますけど、エコマークがついた再生プラや再生紙でメーカーの偽装が暴露されたのはそんなに古いことではありません。
www.asahi.com

 それでなくてもエコマークやグリーン購入が本当に環境保護に繋がっているか疑問の点もあるし、認証団体が役人の天下りや利権に繋がっている例は山ほどあるようです。と、言っても業界に関係ない素人が検証するのは難しいんですが(笑)、黙っていたら、連中のやりたい放題になってしまいます。
 

 この映画はそういうインチキな業界や企業の偽善を暴くことに重点を置いています。冷静な視点はキープされてますけど、それでもインチキを暴くことに焦点を当て過ぎている感じもします。映画を見ながら『じゃ、どうするんだ』と思いましたもん。

 映画が指摘するように企業の環境保護への姿勢や認証制度には不備や偽善はあるけれど、ないよりはマシ、ではある。でも各企業や企業の製品でエネルギーを無駄遣いすることで進行している地球温暖化の件一つとっても、現状がおかしいこともまちがいない。何事も完全なものはないのだから、やはり議論をしていくしかない。
 その議論のとば口となる映画です。

 SDGsとかESG、サステイナブルなどの言葉を盲信せず、プロパガンダを疑いながら、それを利用し、実質的にどうなのか自分たちで考えていかなければならない。簡単な解決策などありませんから、一歩ずつ前へ進んでいくしかないんでしょうね。

「環境に優しい」商品のヤバい現実/映画『グリーン・ライ〜エコの嘘〜』予告編