特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『#最低賃金上げろデモ@新宿』と映画『ウィーアーリトルゾンビーズ 』

 日曜日は新宿で『最低賃金上げろデモ@新宿』。#最低賃金を1500円に
[:W600]

 最低賃金を上げることは格差対策だけなく、景気対策でもあります。日本のGDPの6割が消費なんですから、経済を良くするにはここをテコ入れするのが有効に決まっています。
 前提条件が違うのに外国の猿真似でMMTとか言いだした山本太郎のようなバカでなければ、企業に金を回すことばかりを考えたアベノミクスの結果で良くわかるのではないでしょうか。
山本太郎の経済ブレーン、立命館大松尾匡のブログ。以前 こいつの本↓の感想を書きましたが、安倍晋三なみにアホだと思いました。机の前で屁理屈こねてるだけで実際に汗水たらして働いたことがないんでしょう。その尻馬に乗ってるのが山本太郎、麻生の不信任案も棄権したこのバカは内閣不信任案も棄権するのでしょうか(笑)。とにかく自分が目立ちたくてしょうがないんだと思います。それが彼の生命線ですから。



 それでもエキタスなどが言っている時給1500円というのは現状の全国平均874円、東京でも985円という水準から考えると、かなり大変な金額です。正直10年がかりで目指すような目標だとは思うのですが、労働者にとっては1500円×2000時間/年で300万/年、決して高い金額ではありません。先進国だったら普通の暮らしをするために必要な金額と言っても良い。
 そこが難しいところ。最低賃金を上げることは経済の構造を変えることでもあります。そこは未だあまり議論されませんが、労働者の教育、失業手当などの施策を含めて考えなければならない。それでも声をださなければ何も始まりません。
 主催者挨拶でエキタスの子が言ってましたが、『3年前エキタスが時給1500円と言いだしてから、随分状況は変わった。与野党ともに最低賃金を上げることに対して随分積極的になった』。確かに最低賃金を巡る雰囲気はずいぶん変わったと思います。
●アルタ前に集合。主催者が簡単にスピーチして、直ぐデモが始まりました。だらだらと意味のないスピーチを続けるプロ市民の自称市民運動とは違います。

 若い人から年配の人まで、デモ参加者の年代が様々なのが良いです。若い人の比率が高いだけでなく、現役感がビンビン(笑)。実際、ボクの目の前に、新宿に買い物に来ていたらしい、お洒落していた中年の女性が照れながら飛び入りしてきたし、そういう人は他にも居たのではないでしょうか。

 ボクは休日っぽいリネンのシャツを着ていったのですが、こうやって日曜日の午後、デモをしていると、フランスやイタリアの映画みたいに当たり前のようにデモが行われている光景を連想しました。笑われるかもしれませんが、まるで自分がそういう映画の登場人物になったような気がする(笑)。当たり前のようにデモがある日常、です。
 とにかく(笑)、今日の参加者は300人、だそうです。


ということで、新宿で映画『ウィーアーリトルゾンビーズ
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littlezombies.jp

事故、自殺、他殺などでそれぞれ両親を亡くして火葬場で出会った4人の子供たち、ヒカリ(二宮慶多)、イシ(水野哲志)、タケムラ(奥村門土)、イクコ(中島セナ)は家を出ることにした。やがてたどり着いたゴミ捨て場で、LITTLE ZOMBIES というバンドを結成。そこで撮った映像が話題を呼び、社会現象になるほどのヒットを記録するが。


 タレントの水道橋博士などが『今年の上半期の邦画ベスト1』と評するなど非常に評価が高い作品です。監督の長久允という人は今作が長編デビュー。電通所属のCMディレクターでサンダンス映画祭で短編部門グランプリを獲得した人。この作品もサンダンスやベルリン映画祭で受賞しています。


主役を演じるのはこの4人の子供たち。左からヒカリ、タケムラ、イクコ、イシ

その脇を佐々木蔵之介工藤夕貴池松壮亮佐野史郎菊地凛子永瀬正敏らのベテラン俳優が固めています。

 お話は8ビットの昔のゲーム(ファミコン?)をモチーフに、ダークファンタジーというか、虚無というか、現代の世相を非常に反映しています。

 最初に出てくる子供、ヒカリは豪華タワマンに住む共稼ぎで忙しい夫婦の息子ですが、家に殆ど帰ってこない親からは殆ど放置されています。お金だけはあるけれど、常にゲームをして、冷蔵庫の冷凍食品を解凍して一人で食べる毎日。彼が幸せである筈がない。でも、彼はそれでもいいと思っている。
●いちおう 主人公のヒカリ。彼を演じる二宮慶太はドラマの『半沢直樹』や是枝監督の『そして父になる』に出演しているそうです。

お互い浮気をしているヒカリの親は関係修復のために夫婦二人だけで一泊旅行に出かけますが、そこで事故に遭って二人とも死んでしまう。
●ヒカリ(中央)の一家。タワマン暮らしの裕福な家庭ですが、幸せそうではありません。

 他の子供たちも、実家の中華料理屋のガス爆発、工場の経営難による自殺、他殺などで親を失っています
●イクコ(中島セナ)の家族。父は娘を溺愛し、母は娘を心の底から憎んでいます。

 が、彼らは皆 悲しそうじゃない。夢も希望もないという世の中の事実を淡々と受け入れている。彼らには感情がない。
●倒産しかかっている町工場を営むタケムラの両親。

そんな子供たちは親の火葬場で知り合い、一緒に彷徨い始めます。


お話しのテンポはややゆっくりなんですが、社会風刺はかなり利いています。面白い。絶望的な状況なんですが、描写も一歩退いた感じで淡々と描いています。
●ゴミ処理場で子供たちと知り合ったバンド・マネージャー(中央、池松壮亮)が子供たちをマスコミに売り込みます。

やがて彼らはパンク・バンド『リトルゾンビーズ 』を結成、『全員孤児で住所不定』という彼らたちの境遇も相まって社会現象になります。

 ここからお話はまるで往年のセックス・ピストルズを思い起こさせるようなものになります。衝撃的な内容でスターダムに駆け上ったとおもったら、未練もなくあっという間に消えていく。曲はファミコンの音をフィーチャーしていてメロディは結構キャッチ―、テーマ曲はマジでかなりかっこいい。


【公式MV】WE ARE LITTLE ZOMBIES (映画『ウィーアーリトルゾンビーズ』テーマ曲)


 夢も希望もない、涙もない。感情もない。誰もいない、ないないづくし。生きているか死んでいるかすらわからない。

 そういう感覚って大友克洋のマンガ「AKIRA」など80年代半ばからありましたから、何をいまさら、と思わないでもない。でも電通資本の映画でここまで徹底的に虚無を追及するところは時代は変わったと感じさせられます。
 今や日常の虚無に対して違和感を感じない。ボクだけじゃなく、多くの人がそうなんじゃないですか。かってのディストピアSFが今は現実のものになってしまった
●これなんか80年代っぽい画です。


 今の現実を見てみると本当に何もなくなってしまったように思える。タワマンに住むいわゆる勝ち組にも、生活苦で自殺する人たちにも、事故や通り魔に殺される人たちにも虚無は共通している。今だけなく、将来、少子高齢化が進む未来の日本にも大きな虚無が広がっている。映画は寓話、そして子供たちという形を借りて、我々に現実を突き付けてきます。我々の生ぬるさを揺さぶってきます。

 終盤にかけて、お話は漫画のエヴァンゲリオンみたいな世界系が入ってきます。そこはどうかと思いましたが、映画はパンキッシュ、奇想天外で投げやりに作ったかのようにさえ見えるけれど、よく見ると画面の撮り方や雰囲気、それに美術やコスチュームなどが非常にきめ細かく計算ずくで作られています。結構お金かかっているし、出来が良い。

 あと、中島セナという子の非人間的な超絶美少女ぶりには参りました。人間というより、彫像のよう。お話ではこの子の存在そのものが周りの大人たちを狂わせていくのですが、それくらいの説得力があります。この人、これからが楽しみです。



 感情を無くした子供たちは感情を取り戻したのでしょうか。それは判りません。少なくともボクには判りませんでした。彼らに表情を無くさせた世界は何も変わっていない。相変らず虚無のままです。子供たちは少しだけ変わり、『生きているか死んでいるかわからない』彼らは自ら生き続けることを選択します。

 お話のテンポがやや遅い、後半息切れするところもあったりしますが、なかなか面白かったです。見る価値があるというか、現代に正面から対峙した、まさに見られるべき映画だと思います。

『ウィーアーリトルゾンビーズ』予告編

『最低賃金』と読書『資本主義と民主主義の終焉』、それに映画『パリ、嘘つきな恋』

 今週は半年に1回の勤務先の強制連行宴会で、ボクは官邸前抗議はお休みです(泣)。
●宴会っていうのは話すこともないし、とにかく楽しくない。それでいて、窓の外を見るくらいしかやることもないから、結局 食べちゃうんですよ。しかも大してうまくない(泣)。ほんとに時間と資源の無駄だと思う。
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代わりと言っては何ですが、日曜日にエキタスの『最低賃金上げろデモ#最低賃金を1500円に があるので、そちらの模様は月曜の更新でアップします。


 木曜の日経に出ていましたが、最低賃金を上げても失業は増えないという研究や実例が、アメリカやイギリス、ドイツなどで続々と出てきています。失敗したのは一気に16%も上げた韓国だけです(そりゃあ、いっぺんに16%も上げればそうなりますよ(笑))。
●良い記事なのに有料記事なので全文貼り付けます。

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www.nikkei.com

 消費税アップ凍結ならまだしも、山本太郎のように頭の悪い奴が『消費税廃止』と言ってますけど、それには 財源の問題や世代間格差を拡大させるという大きなマイナスがあります。富裕層から税をとれ、というのは賛成ですけど、それだけじゃ財源は足りないでしょう。

 このブログで前々から言っているように、相続税100%なら景気対策としても財源としても格差対策としてもOKですが、勿論 山本太郎のような真正アホはそこまで頭は回らない(笑)。
●前回のエントリーで山本太郎が極右の偽経済評論家、三橋貴明と組んだのをご紹介しましたが、今度はこれ。案外 細野豪志と一緒に自民党二階派に入ったりして(笑)。半分冗談にしろ、自民だったらそれくらいやるし、山本太郎もそれに引っかかるくらいはバカでしょう(笑)。


 一方 最低賃金を上げれば働く人の皆の給料も増えるし、消費も増えるから企業も儲かり、税収入も増える。財源だって出来るでしょう。生産性が低い企業の淘汰も進み、日本経済の足を引っ張っている無能な経営者の整理も進めることができる。人手不足と言っている今がチャンスなんです。もう少ししたらAIやロボットで人間の雇用だってドラスティックに減る可能性だってある。そうなってからではもう、間に合いません

 選挙に向けて 自民や国民民主の公約は最低賃金1000円以上、立憲民主党は5年以内に1300円という公約を掲げています。ただでさえ先進国の中でも低い日本の最低賃金の引き上げは格差対策だけでもなく、景気対策としてもますます重要になってきています。
www.nikkei.com


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さて、軽い読書の感想です。
資本主義と民主主義の終焉」。民主党のブレーンでもあった山口二郎法政大教授と水野和夫法政大教授が平成の30年間を振り返った対談。

 内容は冷静な語りで過去を思い出させてくれる部分もあるし、さらさらと読めて面白い本です。自分でも忘れていたことも多かったので、過去を振り返ることは将来への学びを得るためには大切だ と思いました。ただ、水野和夫先生のいい加減な放言、山口二郎のくだらない寝言や愚痴も混じっています(笑)。律儀に全部を本気に取るとまずいかも(笑)。

 対談の中で、『与野党ともに話し合う共通の基盤があって「河野談話」などを出すことができた90年代初頭が日本の戦後民主主義のピークだった』というのは成程~と思いました。『民主党政権、特にリーダー3人、鳩山は定見はあるけど政治的スキルがなさすぎ、菅、野田は個人的なことばかり考えて理念が全くなかった』のも言えています。

 これに政争以外に興味がない、行政経験もまともにない小沢一郎が絡むのだから、民主党政権は、とにかく人材不足だった。私利私欲しか興味がない安倍晋三よりはマシかもしれませんが、それでも酷かった、というのは事実です。失敗は仕方ないにしろ総括は必要だと思う。それにこの4人はもう、政界に出てくるべきではない。


 この本の結論は資本主義が終焉に向かいつつあり、なおかつ少子高齢化で衰退の道をまっしぐらの日本は、今後二つの事をやっておかなければならない。』というもの。一つは『財政の均衡を図り社会保障を含めてゼロ成長でも持続可能な財政制度を設計すること』、もう一つは『エネルギー問題の解消』(石油依存からの脱却)

 かって日本は自動車、電機、機械、の3つの産業の黒字で石油を輸入して存立する経済構造でしたが、今や電機は壊滅、ほぼ自動車産業だけで貿易黒字を稼ぎ出す構造になっています。となってくると、現在の日本の存立条件は『自動車産業の国際競争力があること』、『石油が1バレル100ドルを超えないこと』(水野先生の計算)、『ゼロ金利であること』の3つです。一つでも崩れたらこの国はアウト。実に危うい状況です。

 自動車産業だって電気自動車へのシフトが進む中で、いつまで国際優位を保てるか判りません。石油が1バレル100ドルを超えることだって、国際情勢次第でいくらでも考えられる。現にこの10年間、何度も100ドルを超えるような事態が起きています(下のグラフのオレンジ線が100ドル)。その時 日本は経常赤字になったし、たまたま円安でしかも短期間だったから大事にはならなかっただけです。
●WTI原油先物価格のこの10年間の推移
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 TPPやアメリカとのFTAを『自動車のために農業を売り渡した』とか言ってる連中がいますけど、どちらが重要かを考えれば当然のことです。現時点では自動車がなければ石油は買えない。石油が買えなければ農業だって壊滅します。農業資材やビニールハウスの燃料、肥料、生産物の保管や輸送、日本の農業がどれだけ石油漬けなのかわかってないのか(笑)。もちろん石油がなければ他の産業だってただでは済みません。

 そんなことより競争力のある産業を如何に育てていくかは資源小国の日本にとっては急務です。農業のように従事者の平均年齢60台後半の斜陽産業に構っている余裕なんかあるはずないです。農業への企業参入解禁、それに農協を強制分割したり流通支配を崩すなど産業の競争力を高める策ならよいとは思いますが。


 まして、山本太郎のように日本でもMMTとか言っている連中は完全に頭がおかしい、と改めて思いました。
 今でさえ上記の3つの条件が満たせなくなったら日本は壊滅です(笑)。今はまだ 日本が経常黒字だから国内で借金を用立てることができる。だから、今のところは借金まみれの国でもなんとかなっているんです。
 
 でも MMTとか言って無制限に金を使っていて、その時に経常赤字になったらどうなるでしょう? 外国の金を借金して経済を回そうとするわけですから、資金繰りに窮するのは必至です。
 そうなれば 文字通りギリシャみたいに増税と年金・福祉削減の国になってしまう。オリンピック後というところも共通しているかも(笑)。そんなことに成ったら一番しわ寄せがいくのは庶民です。

 要するにMMTなんてわざわざショック・ドクトリンを誘発しているようなものです。だから、アホだっていうんです。
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ということで今回はすっごく楽しい映画! 新宿で『パリ、嘘つきな恋

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スニーカー販売会社のフランス支社長、ジョスラン(フランク・デュボスク)は49歳、独身。口八丁手八丁で女性の尻を文字通り追いかけているプレイボーイ。結婚する気なんか全くない。亡くなったばかりの母親のアパートの後片付けをしていると、隣人のセクシーな介護士ジュリーに足が不自由と勘違いされる。若くてセクシーなジュリーの気を惹こうと、障碍者のふりをするジョスランだが、ジュリーからは足が不自由な姉、フロランス(アレクサンドラ・ラミー)を紹介される。車椅子生活にも関わらずバイオリニスト、車いすテニスの選手として活躍し、知性に溢れるフロランスにジョスランは惹かれていくが、自分が健常者であることを言い出せなくなってしまって- - --


 主演のフランス人コメディアン、フランク・デュボスクが監督・脚本も務めたという、フランスで興収1位、200万人を動員したというラブ・コメディです。
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 主人公のジョスランは49歳にもなって文字通り、年がら年中、女性の尻か胸を追いかけているような男です。口八丁手八丁というといやーな感じですが(笑)、あまり嫌悪感を感じません。ジョスランはドスケベだけど、上品だし、知性もある。
●主人公は有名スニーカー販売会社のフランス支社長、仕事は出来る。いい歳こいてますが、独身、ハンサム、金もあります。

 演じる主演兼監督のフランク・デュボスク、フランスのコメディアンだそうですが結構ハンサム。49歳という役の割には老けているような気はしましたが、フランス人というよりイタリア人っぽい。それに洋服がお洒落。これ、ポイント高い。

 ボクがフランスやイタリアの映画が好きな理由の一つは、服がお洒落というのがあります。この映画はその点、お見事です。非常に参考になります。
 ボクは今までドレスシャツの第2ボタンまで開けるのは抵抗がありましたが、この映画を見てから開けるようになった(我ながら、軽い)(笑)。折しもバーゲンのシーズン、かっこいいシャツが欲しくなって困ってます(笑)。
●いかにもラテン系のいいスーツです。

 ジョスランは亡き母のアパートの隣人、若くてセクシーな介護士、ジュリーに足が悪いと思われて仲良くなったことで彼女を、いや、正確には彼女の尻と胸を追いかけ始めます(笑)。
●ジュリー(右)を見るジョスランの視線に注目(笑)。

 彼女の実家へいくことになったジョスランですが、そこで足に障害がある、自分と同年代の姉、フロランスに紹介されます。
●ジョスラン(右)はジュリー(中央)の実家で、姉のフロランス(左)に紹介されます。

 妹としては年齢的にも、足に障害があるということでも、お似合いではないか、ということだったのですが、ジョスランは車椅子テニスの選手でバイオリニストとして積極的な人生を送る、そして年齢相応の知性と落ち着きがあるフロランスに本気で夢中になっていきます。

 ただの艶笑コメディではなく、スケベでもジョスランが女性の知性を評価できるだけの知性があるからこそ、成り立つお話しです。

 そして車いすに載った二人がパリを舞台にバリアフリーラブ・ストーリーを繰り広げる。障碍者の大変さも描きつつ、家に閉じこもっているだけの障碍者なんか描かない。
 美味しいものを食べて、お酒を飲んで、恋をして、お洒落をして、みんな、人生を謳歌している。ここいら辺が如何にもヨーロッパらしい。アメリカや日本のお子ちゃま映画とは違います。

 ヒロインを演じるアレクサンドラ・ラミーという女優さんは、始めて見ましたが、美しいだけでなく、知的で落ち着きがある。いつも背筋がピンと伸びているところが素敵(笑)。ジョスランならずともいい感じです(笑)。

 彼女が登場すると、ジョスランが女性の胸と尻を追いかけていた時と異なり、画面には知的な会話やクラシックのコンサート、美しいパリやプラハの光景、と俄然美しくなってくる。見ていて益々楽しくなってくる。あと、当たり前のようにEU全体がデートスポットになる(笑)こういう映画を見ていると、日常的にもう、既にEUは一体、と思いました。

 ジョスランがフロランスを招いて、初めて自宅で食事するシーンの演出は誰もがあっと驚く素晴らしさ。

 フロランスを好きになるにつれて、ジョスランは自分がウソをついていることを益々言い出せなくなります。観客としては、『このバカ男』と思いながら見ているわけですが、嘘を誤魔化すために、奇跡を起こすということで有名なルルドの泉にまで出かけていくドタバタぶりは面白い。

またジョスランと秘書とのエピソードもありきたりですが、観客の期待通りのハートウォ―ミングな展開でこれまた、良かった。


 深く考えさせるとかそういう話ではありませんが、見ていて実に楽しい、ユーモアがあって、お洒落で実に気分がアガる映画です。そういうことを狙った映画は数限りなくありますが、実際に説得力を持って見せてくれるものは少ない。
 大人の知性とお洒落とユーモア、センスが良いから出来る芸当で、そういう映画って年に1、2本しかお目にかからない。この映画はまさにそういう1本。フランスで大ヒットと言うのも良く判ります。本当に楽しい映画でした!

映画『パリ、嘘つきな恋』本編映像

『パリ、嘘つきな恋』予告編

見た人の人生を変えてしまう:映画『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』

 なーんか、寒くなったり、暑くなったり、本当に気温の変化が激しいですね。身体に応えます。
 でも暑い日でも、夕方の風は気持ちいい!ボクはビールは嫌いなんですけど、初夏の夕方、風にあたりながら、スパークリングワインやシードルを飲むのは気持ちいいものです。ピリピリしている平日はそんな余裕はないので、週末だけですけどね(笑)。
●既に若者ではないボクですが、社会人になってから、ずーっとこう思ってました(笑)。


 さて、この写真は某駒澤大学の近くを通りかかったときのもの。駅に向かう学生たちを警備員が誘導しているところです。公共の歩道で警備員が学生たちに、こちら側を通れとか、並んで歩けとか指図しているんです。


 びっくりしました。以前 学習塾の小学校高学年が同じようなことをされているのを見て驚いたのですが、こちらは一応(笑)、大学生です。君たち、幼稚園児か!(笑) 
しかも、みんな当たり前のように指示に従っている。信じられませんでした。こういう付和雷同はかっての全共闘も似たようなレベルかもしれませんが、これじゃあ、奴隷根性の大衆ばかりになるわけです(笑)。

 香港では昨日も若者を中心に200万人近く(人口の4人に1人!)の人がデモに参加したそうです。
 この動画を観てください。救急車が来たら群衆がさっと動いて、クルマを通している。参加者が自分の頭で考え、自分から動いている。先ほどの写真とはなんと違うことか!。

香港と日本、今や一人当たりGDPが100万円近く香港の方が高いのは当たり前だと思いました。
●世界の一人当たり名目GDPランキング


あと もう一つおまけ。山本太郎ネトウヨの自称経済評論家、三橋貴明とくっついたのは笑いました。反知性主義』という点では大差がないので山本太郎のような奴はどうせ極右とでもくっつくだろうと思ってましたが、『類は友を呼ぶ』のは想像以上に早かった(笑)。

*6/18付記 当日になって山本太郎は欠席する旨を表明しました。しかし3月にはこの極右と対談をしているし、いったんは出席の意思を示した事実には変わりありません。



ということで、渋谷で映画『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた

hblmovie.jp

ニューヨーク、ブルックリンの海辺の小さな街、レッドフック。
寂れたレコードショップを営む元ミュージシャンでシングルファーザーの父、フランク(ニック・オファーマン)と、UCLAの医学部に進学を控えた娘、サム(カーシー・クレモンズ)
9月から娘がLAに引っ越すこともあり、この夏でフランクは店をたたんで定職に就き、認知症の母親を引き取って暮らそうと考えている。
ところが、偶然 二人が作った曲を音楽ストリーミングサービス、SPOTIFYにアップロードしたところ、話題になってーーー


 ジョン・カーニー監督の超名作『はじまりのうた』のバッタものみたいな邦題、書体、この映画大丈夫か~と思いながら見に行きました。インチキ臭いだけでなく、ハードルも上がるじゃないですか。

 でも、ボクが間違っておりました。すみません。結論から言うと、素晴らしい名作(笑)でした。このオリジナル版のポスター↓、オヤジがギターを抱えている姿勢を見るだけで、監督や俳優が『判ってる!』ことが判ります。
 


 映画は、フランクが自分のレコード店でタバコを吸いながらPCを検索しているところから始まります。喫煙店なんてアメリカの都会、いや日本の都会でだってありえないですよね。タバコを止めてくれ、という客に逆切れして悪態をつくフランク。しかもCDではなくLPレコードの店。最近はレコードが復権してるようですが、そんな態度が悪い店は赤字経営になるに決まっています。

 元ミュージシャンで今はしがないレコード屋をやっているフランクにはUCLAの医学部への進学が決まった娘、サムがいます。彼女は入学式もまだなのに、もう予習を始めている。しっかりした娘です。

 そこに親父がやってくる。『宿題なんか放っといて、ジャムセッションしようよ~』、『勉強なんかしなくていいじゃん~』。ずーっと駄々のこねまくり。バカ過ぎて見ているとイライラする(笑)。
 大人の娘は仕方なくオヤジの相手をしてやります。一緒に曲を作って演奏して歌ってPCに録音、オヤジは娘に黙って音楽配信サービスのスポッティファイにアップ、ところが、その曲が話題になります。

 出演者も監督も全然知らない人ばかりです。ブレット・ヘイリーという監督は日本公開作品は初めて、出演者も娘役のサムを演じるカーシー・クレモンズくらいしか知りません。昨年の佳作『さよなら、僕のマンハッタン』で主人公の恋人役で中々の存在感を発揮してました。
●『さよなら、僕のマンハッタン』でのカーシー・クレモンズ

spyboy.hatenablog.com


 生来の賢さが感じられる、笑顔が素敵なこの娘、結構歌えるんです。素人と言うにはうますぎ、歌手というにはもう一歩、この映画にはちょうどいい感じです。(これは最近見た『RBG 最強の85歳』の主題歌を歌っていたジェニファー・ハドソン等レベルの高い話をしているのであって、普通の歌手としては十分だし、特に日本の歌手なんか問題にならないくらい上手いです)
 あと、この人、実際にレズビアンであることをカミングアウトしているそうです。今度DC映画『フラッシュポイント』でヒロインをやるそうじゃないですか。

 あと、サムの恋人役のトニ・コレットは昨年カンヌで審査員賞をとった『American Honey(日本公開スル―)(怒)で主演しています。この映画、これからスターになっていく若手有望女優が共演していた奇跡の作品として将来 記憶されるのかもしれません。


 フランクは17年続けたレコード屋の廃業を決意しています。経営は赤字だし、サムはLAへ行ってしまうし、母親は認知症で度々警察のお世話になる始末。母親を引き取って定職につこうと考えています。
レコード屋の大家の女性はフランクを励ましてくれますが

 しかし、サムと作った曲が話題になったことで、かって諦めたミュージシャンへの夢がむくむくと湧き上がってきます。金もないのにレスポールを買い込んで娘に呆れられる始末。
●もう一人の親友はバーの店主。今もマリファナ漬けです。

 サムは医者になって自分の生活を切り開いて行こうと決意しています。ダメおやじを見ているから堅実なんです。しかし彼女には好きな女性がいる。LAに行くということは彼女と別れてしまうことになります。バカオヤジとバンドをやってNYに残るべきか。悩むサム。


 ダメおやじがサムに『恋人は男か女か』と聞くところが良いです。サムの答えに若干 動揺はしますが、当たり前のように受け入れる。またフランクの妻、サムの母親が黒人であることもこの映画では当たり前のことでしかない。

 この映画のお話はそういう価値観に裏打ちされています。登場人物たちは皆、世俗的にはパッとしないけれど他人の立場や意見を尊重することが当たり前になっている。映画の中でもそれが当たり前のように表現される。キャストの経歴を見たら主要な俳優さんは皆、俳優活動をしながら社会運動や反差別運動を積極的にやっているような人たちです。うーん(笑)。


 映画で流される音楽はシンプルだけどメロディが美しい、趣味が良いものばかりです。そこに10代のサムが加わることによって今風のアレンジが施されていくところが面白い。オリジナル曲はどれも素晴らしいです。音楽を担当している『キーガン・デウィット』という人、全然知りませんでしたが、これから要チェックです。
●サントラ、素晴らしいです。

Hearts Beat Loud (Original Motion Picture Soundtrack)

Hearts Beat Loud (Original Motion Picture Soundtrack)

 物語が進むにつれ、フランクとサムは共通の心の傷を抱えていることが判ってきます。二人はまだ、フランクの妻、サムの母の死のショックを抱えている。フランクが酒浸りになっているのも、ダメ男だから、だけではないんです。
お金もない、仕事もない、だけど手を差し伸べてくれる人の手を払いのけてしまうフランク。人生はうまく行かない


 いよいよ店を閉める日、『タイタニックが沈没していくときも船では楽団が演奏していた』(笑)というサムの一言で、二人はレコード店での最初で最後のライブをやることになります。
 


 そのライブシーンが本当に素晴らしい。躍動感と演奏する楽しみに満ち溢れている。実際に二人が演奏しているようですが、すごくうまいと言う訳じゃないけど、ポイントを突いている。まさに生きた音楽です。それをバッチシ、カメラがとらえている。

 正直、この映画のライブ・シーンは『ボヘミアン・ラプソディ』や『アリー スター誕生』の1000倍は素晴らしいです。ただ演奏しているだけなのに、涙が出てきて困りました。強いて難点があるとしたら、3曲という演奏時間が短すぎること。1時間くらいこのシーンを見ていたかったです。


 最初に挙げたジョン・カーニー監督の『はじまりのうた』や『シング・ストリート』と比べると低予算だし、曲もあそこまでではないし、映画の完成度も勝っているとは思いません。
 それでも、この映画は芸術で人が救われる瞬間を見事に描いています。The Whoのギタリスト、ピート・タウンジェントの名言に『ロックは人の悩みを忘れさせはしない。悩みを抱えたまま躍らせるものだ』というのがあります。この映画はまさに、その言葉を体現している。
●この映画で使われる唯一のオリジナル以外の曲。Mitski という日系人歌手の『Your Best American Girl』。サムが恋人に教えてもらう曲という設定、日系人アメリカ人になり切れないというコンプレックスを歌ったもの。その疎外感は同性愛の二人を象徴しています。

Mitski: 'Your Best American Girl' SXSW 2016 | NPR MUSIC FRONT ROW

 趣味の良い音楽を基にしたハートウォーミングな物語。確かにそういう面は強いけれど、それだけじゃありません。
 この映画の視点はあくまでも広く、開放的です。そこが良いんです。
 例えば音楽映画だと特定のマニアックな方向に行きがちで、そこが魅力だったりしますけど、この映画は70年代のトム・ウェイツから最近の音楽、アニマル・コレクティヴやMITSUKIまで目が行きとどいている。狭いマニアの世界にこだわるのではなく、良い物だったら何でもいいという開放的な雰囲気がこの映画にはある。

 それだけではありません。この映画は登場人物たちの心の動きを丁寧に掬い取りながらも、常に視点は外にも向いている。人種や性差、貧富、奨学金、シングルでの子育て、都市の再開発。移り変わる世の中で人はどうやって生きて行ったらよいか。現実の苦さから逃げていないから、この物語には力がある。


 ひと夏が終わると共に、父親にとっても娘にとっても一つの時代が終わります。でも夏が終わっても人生は続いていく。 

 この映画には見た人の人生を変えてしまう力があります。人を夢中にさせるけれど、世の中はうまく行かないということも教えてくれる。それでも温かい気持ちにさせ、前へ進む勇気を呉れる。
 ボクがこの映画をみて帰宅して最初にやったのは、映画のサントラをiTunesでダウンロードしたことです。それを毎日2回聞いている(笑)。これはもう、何度も見たい。幸せな時間を味わっていたい。ボクにとって2019年を代表する一本になるでしょう。

映画『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』予告編