特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

紺色の女:映画『コレット』

 6月になって、そろそろ梅雨の足音が聞こえてきました。雨が降るのも良いんですが、ズボンの筋が消えちゃうのが嫌なんだよなあ(笑)。
 
 今度はトランプはイギリスに行ってるそうですね。それに対してロンドンでは大勢の人が抗議しています。BREXITでは今のイギリス人はバカの集まりかと思いましたが、流石 腐っても鯛、国民の知性も日本とはえらい違いです。

www.bbc.co.uk

 こういうのを見ていると彼我の違いはさすがに考えさせられます。国民の意識、だけではありません。日本では警察がトランプへの抗議を無理やり排除しました。もちろんマスコミも報じない。一方 イギリスでは白昼堂々と抗議が目抜き通りを埋め尽くす。BBCはこうやって抗議を世界に発信する。
 イギリス人と日本人、やっぱりレベルの差は想像以上に大きいようです。
●動画

●代わりと言ってはなんですが。今週末は忙しそう。




 ということで、新宿で映画『コレット

colette-movie.jp

舞台は19世紀末のフランス。ブルゴーニュ地方の農村で生まれたコレットキーラ・ナイトレイ)は14歳年上の作家ウィリー(ドミニク・ウェスト)と結婚、パリの社交界にデビューする。当初は戸惑うものの、芸術家たちの集うサロンでの華やかな生活になじんでいく。派手な生活で借金に苦しむウィリーは彼女に文才があることに気づき、彼女の幼少時のことをつづった小説『クロディーヌ』シリーズを執筆させ、ウィリー自身の名前で出版する。小説は大ヒット、パリで大きなブームとなるが、コレットは度重なる夫の浮気と自分が小説を書いたことが認められないことに悩みを持つようになる。さらに彼女は自分は男も女も愛せることを発見する- - -

 フランスの代表的な女性作家、シドニー=ガブリエル・コレットの生涯を描いた作品。
 読んだことがありませんが、性の解放を主張し、男女を問わず多くの恋愛を続けながら数々のベストセラーやオペラの台本を出し、自ら女優としても舞台に立ち、死後は国葬で送られた人だそうです。
 また無名時代のオードリー・ヘップバーンを見出し、自作のオペラの主役に抜擢、彼女をスターダムに登らせるきっかけを作った人でもあるそうです。
 監督は認知症をテーマにした『アリスのままで』のワッシュ・ウェストモアランド、主役はキーラ・ナイトレイ
●画面はまるで印象派の絵画の一コマのようです。

 お話はブルゴーニュの農園から始まります。そこで父母に育てられる美しい田舎娘、コレット。彼女の下に田舎にはそぐわない都会的な男が通ってきます。コレットの父の軍隊時代の友人の息子でパリで作家兼編集プロダクションをやっています。どうみても場違いですが、コレットに気があるようです。
ブルゴーニュの田舎娘、コレット

 やがて農園を辞す男。コレットの父母は嫁にやるべきかどうか相談を始めます。その一方 庭に行くと言って外出したコレット、実は納屋で男の上にまたがっていました。冒頭から自分の欲求のままに生きる女性の姿が示されます。
●都会の男(左)はブルゴーニュの農園には場違いに見えます。しかしコレットにとっては、それが憧れでもありました。


 都会の作家 ウィリーと結婚し、パリへでた田舎娘コレット。当初は華やかな文壇のサロンになじめませんが、次第に打ち解けていきます。一方 ウィリーは表面上は優しいけれど、金遣いも女遊びも荒く、家計は火の車。
金が回らなくなったウィリーは彼の手紙を代筆していたコレットの文才に気が付くと、彼女にブルゴーニュでの生活を小説にするよう勧めます。はたして小説は大ヒット。パリ中でブームが巻き起こります。

 いっぽう コレットはウィリーのやまない女遊びに加えて、自分自身が社会的に認められないことに不満を募らせます。

 そんなコレットは自分が女性も愛せることに気が付く。そしてサロンで出会った既婚のアメリカ人女性と愛人関係になります。一方 ウィリーはその女性とも愛人関係を結んでいました。なんと奇妙な三角関係が始まります。
コレットアメリカ人実業家の妻(左)と愛人関係になります。

 ベル・エポックからアール・デコへ移り変わっていく時代。画面に映るインテリアや雰囲気は見ていて楽しいです。これと同時代の朝香宮邸をそのまま使った庭園美術館を見ているみたい(笑)。元来 保守的な時代です。同性愛を隠そうともしないコレットのような女性の居る場所は無かったはずです。それをものともせず、コレットは時代を切り開いて行く。

 
 ここでのコレットは奔放で欲望のままに生きているというより、思慮深く、懸命に自分という存在を探しているように描かれています。やはり女性監督が撮っているからでしょうか。
●圧倒的な美しさ。紺色が良く似合います。

 コレットはしょうもないクソ男を中々切り捨てることが出来ない。ボク自身は『こんなゴミ男なんかさっさと放りだせ!』と思いながら見ていたのですが(笑)、こういう描き方も共感できます。人それぞれではあるけれど、たいていの人は迷いながら生きていると思いますから。

 それでもコレットはクソ男に愛想を尽かして自立、自分の名前で小説を描くようになります。と、同時に新しい愛人と舞台を始めます。舞台の上で同性の愛人と共演することでスキャンダルが巻き起こりますが、もう彼女は動じません。


 奔放な女性ですが、キーラ・ナイトレイが演じるとやっぱり品よく見えます。あと、やたらと紺が似合う。美しい!この人のファッションを見ているだけでも目の保養です。いいなあ。
 波乱万丈の人生を送ったコレットという作家の前半生に焦点をあてたお話は弱冠 尻切れトンボのような気もしましたが、一人の女性が精神的にも経済的にも自分を確立させる過程に絞ったのでしょう。
 美しい映像と美しいキーラ・ナイトレイを見ているだけでも充分 元が取れました。

キーラ・ナイトレイが自由奔放な女流作家に「コレット」予告編

『日本の競争力』と『0531再稼働反対!首相官邸前抗議』

 もう5月もオシマイです。
毎度のことですが月日の経つのは早い。会社にいる時間が過ぎるのが早いのなら良いんだけど、それ以外の時間はゆっくり過ぎて欲しい。でも逆なんですよねー(泣)。
●桜並木の根元のアジサイが咲き始めました。
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 トランプだの、通り魔だの、今週も酷いニュースが続きましたが、そっちは無視。どっちも似たようなものですが、その話題になるとTVは消しちゃいました。内容がない同じ話を延々と垂れ流している、あんなニュースを真面目に見ている人って本当に居るんでしょうか??居るんだろうなあ(笑)。痴呆症(笑)。
●1枚目、この人は元NHKのディレクター


 ただ、今朝のこれは面白かったです。

 
www.jiji.com

 トランプが来日時、横須賀で修理中のイージス艦『ジョン・S・マケイン』の艦名をトランプの目に触れないよう、ホワイトハウスが隠させた、というのです。艦名の由来になった上院議員マケイン氏は昨年亡くなりましたが、共和党タカ派の重鎮にも関わらずトランプと対立していた人です。

 マケイン氏は『MARVERICK』(一匹狼)のあだ名の通り、筋の通らないことには一人になっても平気で反対していました。トランプがオバマケアを廃止させようとした際、脳腫瘍の大手術直後にも関わらず病院から議場にかけつけて共和党に造反、彼の一票がオバマケアを守ったのは有名です。

 艦名が見えようが見えまいがどうでもいいと思いますが、ホワイトハウスにも忖度の小役人がいるわけです(笑)。トランプ政権からどんどん高官が辞めているわけですが、ホワイトハウスに残っているのが、こういうゴミのような人材ばかりだとしたら、アメリカの行く末も明るくない。

 もちろん、忖度役人が揃った日本はそれ以上に危うい。以前も書きましたが、忖度役人や経団連老害ジジイを見ていたら、東大や京大の学生が外資企業を志望するようになったのも当然です。優秀な人間ほど、ああはなりたくないと考えるのは当然。しかも日本企業は給料安い(笑)。

 東大・京大生なんかどうでもいいけれど、優秀な?人材が自国をどんどん離れていくって長期的には国家の存亡にかかわる相当深刻な危機、と思いますよ。
●以前は昨年版を挙げましたが、これは今年の東大・京大生の就職希望ランキング。相変わらず外資やコンサルばかり、特に上位30社中13社がコンサル、国内製造業はゼロ(笑)。日本は物作り大国と言う割には、もはや優秀な学生はモノを作ろうとはしない(笑)。

【永久保存版:東大京大就活ランキング】今、本当に「受ける価値のある企業」はベイン、伊藤忠、サイバー…そして意外な企業が。|就活サイト【ONE CAREER】


 それを如実に表しているのが今週水曜日に発表された、毎年公表されている国際競争力ランキングで日本が30位に転落したというニュースです。




www.nikkei.com
japan.cnet.com

 30位という順位は今までで最下位。東アジアを見ても世界ランキング1位のシンガポール、香港は勿論、中国、韓国、台湾にも日本の国際競争力は劣っています。経済の停滞、政府の債務に加えビジネスの効率性「生産性と効率性」「経営慣行」「姿勢と価値観」などが問題だそうです。

 この順位はスイスの有名ビジネススクールが毎年発表しているもので、定量的なものだけでなく経営者へのアンケートなど定性的、主観的要素も含まれているそうです。だから順位自体は別に気にする必要はないと思いますが、昨年の日本の一人当たり名目GDPは26位、39千ドルですから、競争力が30位というのはほぼ実力でしょう。
www.globalnote.jp

 競争力の順位を傾向値で見ると日本の現状がより一層 表れてきます。


 日本の地位はずっと低下しつづけている。負け続けた平成の30年間、それに輪をかけたアベノミクスの6年間と言ったところでしょうか。

 もちろん国際競争力1位、別名『明るい北朝鮮』と言われる開発独裁シンガポールのような国が良いとは思いません。相続税ゼロ、優秀な人間を早期選抜しエリート教育する反面、汚れ仕事は低賃金の外国人労働者に押し付ける格差社会です。野蛮なムチウチ刑が年間2000~3000件行われるような国でもあります。
 前にも書きましたが、ボクはあの国の外交官と話をしたことがあります。彼らは小国として常に危急存亡の危機感を抱いている。何らかの理由で国が存亡の危機に陥った場合、対岸のマレーシアと合併するプログラムまで準備している。自国を軍事では守れないことは判っていますから。


 一方 日本はどうでしょうか。日本の問題は競争力の低下だけではありません。一番大きな問題は多くの政治家、経営者、国民が危機感を持っていないこと
 昨年来 政治家や経営者は口を開けば『生産性向上』と言いますが、それは利益率の問題です。『日本企業はROE8%を目指せ』という経産省肝いりの伊藤リポート
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/pdf/itoreport.pdf
によれば、日本企業のROEが欧米に比べて低いのは売上総利益率が低いためです。売上総利益率は経営者が決めたビジネスモデルの問題です。つまり日本企業の生産性が低いのは経営者の責任です。
 要するに日本の生産性が低いのは経営者がバカだから
●大企業は勿論、中小企業と言えども、まともな給料も払えない経営者なんか要りません。ここがポイント。


 それがいつの間にか 残業止めろ、とか終身雇用はムリ、等のセコい話にすり替わっている。真の原因が放置されたままで生産性なんか上がるはずはありません経団連の歴代会長は電子メールも出来なかったわけですけど、そんなレベルで生産性も減ったくれもない。
 でもマスコミも学者も国民も踊らされるまま。きっと太平洋戦争の直前もこんな感じだったのだと思います。

 国民も呑気すぎ。街中に外国の観光客が溢れているのを見たって、日本がかっての香港みたいな買い物天国になっているのが判ります。●●人が多くてとか偉そうに眉を顰めるバカが居るけれど、今の日本はもう、発展途上国です。
それでもぜーんぜん危機感がない。政治家やマスコミが国民を政治に興味をもたせないように提供する、くだらないイベントや話題ばかりにかまけている。

 いつも書いていることですけど、日本は『バカなくせにプライドだけ高いネトウヨ老人ばかりの活気のない貧乏国』にどんどん向かっています。
経済と政治は劣化し、優秀な人材は他国の企業に逃げ出し、残ったアホ国民の多くは現実を直視しようとしない。日本の将来はせいぜい『中国や台湾、それにこれから発展していくインドネシアやタイ、ベトナムなどの下請け』くらいじゃないですか(笑)。
●昨日 ソニー東芝、日立の液晶部門を国が音頭を取って統合した、いわば国策会社、ジャパン・ディスプレイ(JDI)が中国・台湾資本の傘下になることが発表されました。日本の液晶事業の消滅です。既にJDIには公的資金4000億超がつぎ込まれています。三菱電機NEC、日立の半導体を統合したエルピーダが売られたのに続いて2度目です。
[:W600]



 とにかくボクはアホからの巻き添えを最小限にすべく、極力他人に関わらないように生きていきたいと思います。将来 東京が焼け野原になるのに備えて老後は山籠もりでもした方がいいかも?と思わないではないですが、第2次大戦と同じような破局の仕方は起きないでしょうし、難しいところです。(笑)


ということで、今週も官邸前へ
先週までの猛暑!も何処へやら、今日は曇り空でも過ごし易い陽気でした。午後6時の気温は22度、参加者も300〜400人くらいでしょうか。
●抗議風景



 今週 原子力規制委が関電に高浜、大飯、美浜原発について大山の大規模噴火の影響の想定を従来の2倍、20センチの降灰に引き上げるよう命令を出す方針を決めました。過去の噴火で20センチもの降灰があったことが確認されたからだそうです。

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 内閣府の火山噴火の想定では、もとの10センチの降灰でも水道、電気、道路は使用不能になる可能性が高いのに
http://www.bousai.go.jp/kazan/kouikikouhaiworking/pdf/20180911siryo3.pdf
20センチなんて対策を取れるのでしょうか(笑)。地震だけでなく、火山や津波だって多い日本で原発を動かすのはやっぱり、ムリ筋としか思えません。


 先日も関電は原発のテロ対策の遅れで収益に大きな影響を受けることが報じられたばかりです。今回の件でもまだ金額は明らかになっていませんが大きな影響があるでしょう。
●関電の株価 激下がりです
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 自業自得ですが、これでもまだ関電は原発固執するのか、不思議でなりません。まるで日本軍のカミカゼ特攻隊みたいです。というか、首脳陣は自分たちだけは大丈夫、と思っているんでしょうね。こういうところもまた、日本の危機感の無さの表れなのでしょう。

ハードボイルドの極北:映画『ガルヴェストン』

 週末は暑かったですね~。
 天皇の退位、即位をきっかけに、もともと見なかったTVを一層、見なくなりました。とにかく不愉快。
 それでも天気予報のために7時のNHKニュースをつけたら、トランプと安倍が夕食にでかけた六本木の店の前にテントまで張ってる光景が映ってた。文字通り頭がおかしい
www.sankei.com

●六本木でトランプに抗議する人たちが強制排除されました。どこの独裁国家なのか。

 そしてトランプのつまらなそうな顔(笑)。トランプの数少ない美点は顔に感情が出るところです。リーダーには間違いなく向いてないが、判り易い。

headlines.yahoo.co.jp

 日米のバカ代表とそれを喜々として伝えるマスゴミ。超醜いです。
ワシントンポスト曰く、『世界で安倍晋三ほどトランプに媚びへつらうことに一生懸命なリーダーはいない』と

www.washingtonpost.com


 そうそう、前回のエントリー、安倍晋三と元政務秘書氏の話で書き忘れたことがあります。
 安倍晋三はトランプに、『とにかく貿易協定は選挙が終わるまで待ってくれ』と懇願しているそうです。同じく選挙を控えているトランプでも、流石にそれは理解している(笑)。しかし選挙が終わったあと、利子をつけてどんなお土産を渡すかわからない。安倍晋三は選挙が終わればどうでもいいわけです。もちろん国会で議論をする気もない。

 それを昨日 トランプがツイッターで暴露してしまいました(笑)。日本にとっては自動車の方が大事ですから、自動車を守れるなら農業も牛肉も別に構いませんけどね。ちゃんとしたアンガス牛霜降りの和牛より美味しいし(笑)。

 このトランプのtweetは新聞各紙、NHKの7時のニュースですら報じました。それでもバカぞろいの日本人は理解できないんだろう―な(笑)。


 この前F35が海に落ちましたが、出来ればエアフォース・ワンとか、マリーン・ワンが墜落しないかなあ。折角だから(笑)。世界経済のためにも平和のためにも、その方がはるかに良いと思うんだけどなあ。
●新宿のインド料理屋でカティ・ロール(左端)とリンゴとチキンのカレー(右端)。カティ・ロールはチキンなどの具をチャパティ(全粒粉のクレープ)で巻いたもの。ダイエットです!(笑)。そもそもインド料理は脂肪と炭水化物が多くてダイエットに向かないんですが、とにかく好きなんですよ(笑)。
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 今回は 小規模公開ですが、素晴らしかった映画です。久々に思い入れを感じました。渋谷で映画『ガルヴェストン


klockworx-v.com


舞台はテキサス。裏社会の殺し屋ロイ(ベン・フォスター)は自分が末期がんで余命が残り少ないことを知る。その後 ボスの指令で向かった先で何者かに襲われ、自分が組織に裏切られたことを知る。やっとのことで相手を殺すと、奥の部屋には少女、ロッキー(エル・ファニング)が囚われていた。家出して行くあてもないまま、身体を売っていた彼女を連れて、ロイはあてどない逃避行に出る


 ボクはミステリーは門外漢ですが、業界ではなかなか評価が高いと言うミステリー小説『逃亡のガルヴェストン』をフランスの女優メラニー・ロランが監督した作品です。

逃亡のガルヴェストン (ハヤカワ・ミステリ)

逃亡のガルヴェストン (ハヤカワ・ミステリ)

 メラニー・ロランと言えば『オーケストラ!』や『イングロリアス・バスターズ』などで知られる超々美人女優として有名ですが、環境保護のドキュメンタリー『Tomorrow パーマネント・ライフを探して』を監督する等、ただの女優さんじゃ、ありません。
●1枚目『オーケストラ!』でのメラニー・ロラン。この時は殆ど『女神』だと思いました(笑)。2枚目は自分の監督作『Tomorrow パーマネント・ライフを探して』での彼女。お子さんを出産して環境保護の重要性に目覚めたそうです。
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spyboy.hatenablog.com


 主演のエル・ファニングの近年の大活躍は言うまでもありません。まだ20歳そこそこなのに、個性的な演技派です。少女を主役にした、最近のまともな映画は殆どこの人が出ているような気がする。彼女は今開催されているカンヌ映画祭の審査員をやっています。もしかしたら最年少審査員じゃないですか?
 すごく美人という訳ではありませんが、確かな演技力と存在感、特にどんな役をやってもイノセントさが消えることがない。強烈な個性です。あと、この人、どうしてこんなに肌がきれいなんだろう。
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 ただ、ボクは犯罪ものとか怖いものは嫌いです。興味なし。気が進まないながらも、メラニー・ロランが監督して、エル・ファニングが出ているということだけ!で見に行った次第。
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 冒頭 医者から肺に影があることを告げられた殺し屋のロイが組織に裏切られ、娼婦の少女、ロッキーと出会う。お話はサクサクと進んでいきます。緊迫感を保ちつつ、露骨な暴力描写は慎重に避けられている。なかなかうまい。
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そして、映像がやたらと美しい。夜がやたらと蒼い。その中に真っ赤なドレスを着た白い肌の少女がいる。雰囲気あります。
●殺し屋と少女の奇妙な逃避行が始まります。
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 お話が進むにつれて、これはただのクライム・サスペンスではないことに気が付きます。
 19歳の少女がどのような環境にいたか、この世の中がどういう構造になっているかが遠まわしに、しかし執拗に描写される。監督が今の世の中に対して抱いている怒りがひしひしと感じられる。殺し屋も少女も多くを語りませんが、二人の表情には何とも言えない悲しみが湛えられている。

 例えば少女がDVを受けていた継父を撃ち殺し、3歳の妹を連れて逃げるシーンがあります。銃声が響くだけで直接的な殺人の場面は一切ありません。この時のエル・ファニングの複雑な演技は涙なくしては見られません。観客ははっきりとした種明かしをされないまま、終盤で衝撃を受けることになります。
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 組織の手を逃れた二人はメキシコ湾に面した海岸沿いの街、ガルヴェストンの安モーテルに辿り着きます。
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 夜の世界とは対照的な、明るい陽の光。美しい海。そんな土地で、男は間違いだらけだった自分の人生にしめくくりをつけようとする。男は死に場所を求めている。少女は自分とあとにつなぐ命のために生を求めていく。対照的な二人です。それを見守るモーテルの主人。
 昨年の傑作『フロリダ・プロジェクト』にも設定が似ていますが、今作はもっと女性目線です。

フロリダ・プロジェクト  真夏の魔法 デラックス版 [Blu-ray]

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 ロイはまた売春を始めた少女を何とかして立ち直らせようとします。自分の歳の半分以下の少女です。自分と違い、やり直す機会はいくらでもあるはず。ロイは既に自分の死を覚悟しています。一方 少女は絶望的な状況の中でも、なんとか未来へつなぐ生を掴もうと願っている。
 黙りこくっていた二人は初めて心が通じ合う。一瞬 ほっとした空気が流れます。そんな二人に組織の手が迫ります。
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 俳優さんの演技、非常に美しい映像、品が良く語り過ぎない演出、この映画の素晴らしい点はいくつもあります。特に死ぬことも許されないという皮肉なプロットは素晴らしい。まさにハードボイルドの極北です。
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 この映画で最も感動的なのはロラン監督の人間観です。
 身体を売る彼女のことを『彼女は懸命に闘っていた』とロイは語ります。家族も教育も社会の助けもない少女は、文字通り涙を流しながら自分の身体で幼い『妹』を守った。彼女を非難することはたやすいけれど、自らの血と涙で生を贖う彼女を責める資格は誰にもない。そういうことが理解できるかどうかで人間の根本的な価値って決まってくる、とボクは思うんです。

 クライム・サスペンスなのに、この映画は人間を温かな視線で描いています
 ロイや少女を始め、この映画の登場人物は殆どすべてが世の中の落ちこぼれです。彼らが生きるのは冷酷非情な世界。しかし、その中でどう生きるかということ、弱肉強食の価値観に染まらない人たちのことを懸命に語ろうとしている。
 この映画に流れているのは、生活保護バッシングに代表される安っぽく頭が悪い、世の中のことも人間のこともまったく判っていない自己責任論とは対極の、人間の誇りと豊かさを忘れない視線です。それが貫かれている。
 ハードな描写が続くのに、観客はこの映画を見ると世の中へのやるせない怒り、その中で生きる人間の尊厳を感じることが出来るんです。
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 これには参りました。こういう演出は普通のクライム・サスペンス、ハードボイルドの常道とは外れているかもしれませんし、実際 原作者は監督の原作の改編に対して自分の名前を出すことを拒否したそうですが(笑)、ボクはめちゃめちゃ共感できました。

 この映画は観る者に文字通り、希望と勇気を与えてくれます。こんな映画は珍しい。ちょっと、とっ散らかったところもないわけではありませんが、素晴らしい作品です。上映館もあまり多くありませんが、埋もれてしまうにはこれは勿体ない。傑作ではないかもしれないが、ボクは大好き。断固支持!

エル・ファニングが娼婦役『ガルヴェストン』5月日本公開