特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

 映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』と『君の名は』

まるで夢のようだった(笑)3連休はあっと言う間に終わってしまいました。ボクは金曜日に映画を見に行って、あとは家に引きこもってただけですが(笑)、3日も休みがあると精神的な余裕が違います。その間に家に入ってくるスーパーのチラシに載っているのはクリスマスものから、一気に正月用品に変わりました。早くも恵方巻の予約なんてのもある。さすがにえっ〜と思いました(笑)。

                   
この 週末はNHKなどで昨年のクリスマスに若い女性が自殺した電通の過労死の件が取り上げられていました。若い人が気の毒な亡くなり方をしたのは非常に痛ましい。可哀想です。
でも、あれは過労死というよりパワハラ、です。電通の人に聞いたら、担当のクソ上司は未だに出社できないそうですけど、当然です。逆に多くの社員は10時退社を強制されては仕事ができない、と嘆いてるそうです。良い悪いは別にして、CMの現場などで良いものを作ろうと思ったら、当然そうなる。労基署も今回は本気で調査をしているそうで、マスコミ対策を担当する電通自身の危機管理チームもお手上げ、と聞きました。

政府はパワハラより過労死の面を強調して彼女の死を利用しようとしているんでしょう。労働時間の上限を定めると同時に、残業手当ゼロのホワイトカラー・エグゼンプションを導入することが狙いです。その是非はともかく、労働時間の上限をきちんと定めるということ自体は超重要ですから、それ自体は否定しない。
                             
ただ このニュースが流れると、そもそも何で電通なんか入社しちゃったの?という疑問は感じます。手記を発表した親は子供が入社するのを止めなかったのかな。亡くなった人には気の毒ですが、電通なんか、元々そういう会社です。簡単に言うと、自分では何も作らない、社会の寄生虫。偏見かもしれませんが、広告代理店とかコンサルとか、そういうものでしょ(笑)。電通の採用も政財界のコネがあるか、死ぬまで働く(笑)体育会系の人間ばかり。そうやって利益を出す構造なんです。就職の時 そんな話は大抵の人は判っている筈です。
まともな人間だったら電通に入ること自体が間違い。価値観は人それぞれですが、亡くなった人も東大まで出てその程度のことも判らなかったのか、と不思議でなりません。マスコミが振りまく適当なイメージに騙されたんでしょうか。
今まで就職ランキングとかで電通を祭り上げてきたマスコミが自分のことは棚に上げて(ボクは某TV局の廊下で死んだように眠りこける制作会社の人を見たことがあります)手のひら返しで叩いてるのも腹が立つんですが、マスコミも政府もよってたかって彼女を利用して、亡くなった女の子が二重に気の毒です。


あともう一つ、TBS報道特集で沖縄の高江が取り上げられていました。高江のヘリパッドは沖縄の基地負担軽減には全く繋がっていないのではないかということが紹介されていました。海兵隊の訓練回数も以前より増加するそうです。番組で翁長知事も金平キャスターも言っていましたが、問題の本質は『本土側の沖縄への差別』なんだと思います。高江でオスプレイが低空で飛んでいる風景が流れていましたけど、あんな騒音じゃ、人は住めません。住人の9割が反対しているのに、政府はそれを平気で強行してしまう。これは差別意識以外の何物でもないでしょう。結局 沖縄が日本から独立するまで、ヤマトンチューの差別意識は消えないんじゃないかという気はしました。
                                         
                                          
さて、今年最後の映画の感想です。青山でドキュメンタリー『TOMORROW パーマネントライフを探して映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』オフィシャルサイト

女優のメラニー・ロランが初めて監督(共同)を務めたドキュメンタリー、フランスでは大ヒット、110万人を動員して、同国のセザール賞アカデミー賞みたいなもんですかね)のドキュメンタリー賞を受賞した映画だそうです。
メラニー・ロランって、呆れかえるような超美人女優です。 イングロリアス・バスターズや名作リスボンに誘われて』映画『リスボンに誘われて』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)などで有名ですが『オーケストラ!』のバイオリニスト役が強く印象に残っています。この映画、ラストシーンは文字通り神がかり的に凄かったんですが、その中で彼女は文字通り女神様みたいな圧倒的な美貌で存在感を発揮していました。

この作品は彼女が妊娠中に『ネイチャー』誌に載った『私たちが今のライフスタイルを続ければ、今世紀末には人類は滅亡する』という論文を読んで衝撃を受け、活動家・ジャーナリストのシリル・ディオンと言う人と、新たなライフスタイルを探すために世界中をめぐったドキュメンタリーです。
●殆どメイクをしてなくても、普段着でも、出産のあとでも、鬼のように美しいメラニー・ロラン

映画では農業・エネルギー・経済・民主主義・教育の五つの分野で行われている新しい試みを紹介しています。具体的には都市農業、有機栽培、ゴミリサイクル、グリーンエネルギー、地域通貨フィンランドの教育などです。
アメリカのデトロイトでは自動車産業が出ていったあとの廃墟の街で有機栽培が始まっているそうです。イギリスのトッドモ―デンという街では街の花壇や道に野菜やハーブを植えて皆でシェアするインクレディブル・エディブルという運動が起きています。環境問題が中心の前半はやや説教臭くて少し退屈しちゃったんですが(笑)、面白いと思ったのは後半、地域通貨フィンランドの教育のところでした。
                             
特定の地域でしか使用できない地域通貨という構想は柄谷行人を始め、色んな人が以前から唱えていますが、あまり現実的な話と思っていませんでした。映画ではスイスのある地方銀行は地域の中小企業に対して地域通貨で融資しているのを紹介しています。企業に超低金利で貸し出す反面、預けた地域通貨には利子をつけない。それによって極力 地域内の企業同士の取引を推進しています。また、イギリスのブリストル市は市長や役人の給与を地域通貨で払っているそうですコミュニティの中で生きることを、もっと広めたい! ブリストルで生まれた地域通貨「Bristol Pound」が導入した新機能とは? | greenz.jp
これらの取り組みは極力地域内でお金を循環させようとする試みです。共感できたのは、生物も多様性があるから生態系が維持されているのと同じで、経済も金融もグローバルなものと地域特有のものとが混在することが社会の持続可能性を高めていく、という意見でした。これは確かにその通り。今の世の中 リーマン・ショックのようなことが起きれば、世界中の人々の暮らしが影響を受けます。日本だって大変なことになりました。年越し派遣村だってリーマンの時です。
でも国家が発行する貨幣による金融だけでなく、現物も含めた多様な取引による経済が混合していれば間違いなく社会は安定する。ソ連が経済危機の時、多くの人がダーチャ(田舎の別荘)で自分で農産物を作って凌いだという話を聞いたことがありますが、まさにそれ、です。グローバル化を敵視したり、無視するのは文字通りアホだと思いますが、グローバル金融だけで世の中が成り立っているという一面的な見方も賢くありません。
地域通貨はグローバリゼーションの弊害を中和する優れた仕組みだとは思うんですが、どう普及させたらよいか問題は大きいと思っていました。この映画で紹介されているように公務員の給与を地域通貨で払ったり、行政サービスの現物給付と組み合わせるようなやり方を使えば、ありえる!、と思いました。

*付記:是非はわかりませんが、目黒区でもイオンと組んだ地域通貨の取り組みはあるようです。 
目黒区とイオンが包括連携協定 子育て支援「めぐろWAON」発行や見守り活動も - 自由が丘経済新聞   
                                                            
それを成り立たせるのが教育です。映画ではフィンランドの教育が取り上げられていました。フィンランドOECDの調査では学力は世界トップレベル。統一試験もなく、詰め込み教育もない。教師には普通の教育メソッドだけでなく、モンテッソ―リやシュタイナー教育など複数の教育方法を教え込む。そして生徒に自分で考えさせる教育を推進しているそうです。撮影された貧困地区の学校でも生徒15人に教師2人。それに副担任をつけて、一人の教師が教室で絶対権威になることを防いでいます。そうやって生徒に教育するのは問題の答えではなく、『勉強の方法』と『世の中には色々な答えがある』ということフィンランドでは政権に関係なく、そういう体制を70年代から築いてきたそうです。教育費も食費も無料!そういう環境の下で、白人だけでなく黒人やイスラム教徒、アラブ人など色んな子供たちが自由に学んでいる姿を見ていて、こりゃあ日本には全く勝ち目がないと思いました。こうやって教育されてきた子たちは臨機応変に考え、激しい環境変化に対応していけるでしょう。世の中を変えるようなイノヴェーションも作っていくに違いない。時間が経つにつれて、政治だけでなく人々の価値観も社会構造も硬直した日本との差はどんどん開いていくでしょう。やっぱり日本の将来は新興国の下請けがいいとこかも。

                                
ということで、メラニー・ロラン先生の出番はあまり多くなかったけど(笑)、中々面白い映画でした。大ヒットしただけのことはあります。機会があればぜひ。


                          
そのあと 見に行ったのが映画『君の名は』(笑)。

                                        
ボクは劇場で予告編を見て『なんじゃ、こらぁ』と思って半年間スルーしてきたわけですが(笑)、こちらも空前の大ヒットだし、面白いという強いお薦めもあったので(笑)、とりあえず見に行ってきました。
(*以下は付記)
英ガーディアン紙も褒めてる(これは驚いた)この映画がジブリなどの興収記録を塗り替えていくのを見て、何か新しいことが起こってる?、と思ったんです。ジブリって、良くも悪くも戦後民主主義の象徴みたいなものだと思うんです。作品は平和、自由といった戦後民主主義的な価値観が元になっているし、高畑勲宮崎駿自体もモロにそういう人です。それを過剰な商業主義でデコレーションして成立させている。戦後民主主義ジブリも平和でもあるし、欺瞞でもある宮崎駿初期の作品、ジブリ以前の未来少年コナンとかルパン三世とか、ジブリ初期のナウシカとかトトロは理想に溢れて面白かったけど、後半はどんどん息が詰まるような閉塞感が漂ってきた。宮崎駿の自家撞着みたいな『風立ちぬ』(ある意味誠実だけど)と、徹底的に現実に向き合うことで普遍的なものを提示した『この世界の片隅に』を比べてみれば、その行き詰りは明白です。で(笑)、『君の名は』がジブリの興収記録を次々と超えていくのを見て、もしかしたら ある種の戦後民主主義的なものが終わろうとしているんじゃないか?とも思ったんです。一応、そこまで考えた(笑)。で、仕事でもデモでもなんでもそうですが、ボクは何かが起きているときは現場を自分の眼で見ることにしています(笑)。(付記終わり)
上映回数は減っているとは言え、劇場は未だに満席でした、満席。それにはびっくりした。クリスマス前ということもあって、客席は普通のデートとは違う、気合の入った格好(笑)の若い子たちが多かった。冬にミニスカートって、やっぱり違和感がある(笑)。でも当人たちは真剣なんでしょう(笑)。勿論 それはそれで美しい、微笑ましい、です。部外者(笑)でも、その雰囲気にはちょっと緊張しましたが(笑)普段見慣れない光景なので面白かった。誰だって当事者だったらそうなりますからね。

                               
昔の映画『転校生』みたいな身体の入れ替わり、それにタイムスリップと隕石が落下してくる話(笑)ははっきり言って滅茶苦茶です。特に映画で描かれているように湖ができるくらいの大きさの隕石が落ちて来たら村が無くなるどころか、異常気象で人類は絶滅するに決まってます。恐竜はそれで滅びたんだし。そこは『てめえ、いい加減にしろよ』と観ている間 ずっと思ってました(笑)。ボクは隕石が衝突して人類滅亡か?という映画『ディープ・インパクト』が大好きなんです。

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、これが見ていて、案外 楽しい(笑)。何よりもお話がドロドロしてないさら〜っとしている。ここがいい。東京に住んでいる男の子と飛騨に住んでいる女の子との間でお話が進んでいきます。登場人物たちはそれほど自分の感情やエゴをあらわにしない。でも意志がないわけじゃないんです。映画では、ただ事件が起きて、登場人物たちの脇をするっと通り過ぎていく。登場人物たちは翻弄されながらも、自分たちに出来ることはする。でも出来ないことはあっさり引き下がる(笑)。世の中にヒーローなんかいない。何事にも執着しない、この感覚はボクは嫌いじゃありません。ジタバタすることで見えてくることもありますが、しないことで見えてくるものもあるじゃないですか。制作側が意識して作っているかは判らないけど、そうだったら、これはむしろ老成した感覚かもしれない。だとしたら、凄い。これが今の時代的な気分なの?戦後民主主義の次に出てくるものはこれ、なんだろうか?何よりも出てくる高校生たちは皆 可愛らしかった。いかにも都立高校らしい普通ぽさがあるし。ただ素直すぎて、その前に観たフィンランドの子供たちと比べると大丈夫か〜?とも思いましたけど。


                    
絵も綺麗です。ジブリとか『この世界の片隅に』などでは背景の葉っぱがやたらと動くのですが(意地になって動かしている)、この映画では一切動かない。その代りに光の動きを多用して表現している。制作費を抑えるためかとも思いましたが、これはこれで面白かった。『もののけ姫』の作画監督だそうですが、とにかく色彩、特に背景が綺麗です。

                                           
個人的には、東京のお話がまるっきりボクが生まれ育った地域が舞台だったので、なんか他人事と思えなかった。学校とか歩道橋とか坂道とか、ああ、あそこかという場所ばかりでした。ちなみに、あの地域は高齢化が進んで、今や住んでいるのは年寄ばっかりです。この前も実家で88歳でプールに通っているお婆さんの話を聞きましたが、あのあたりのスポーツクラブなんか殆ど敬老会か介護施設状態です。現実には道を歩いていても瑞々しい高校生なんか見かけたこと、ありません!(笑)。
●ここもあの坂か〜と思いました。子供のとき 無理やり自転車で降りようとして酷い目にあった憎っき坂(笑)。実は歴史的にはこの坂がつながる谷間の地域は曰く付きの場所で、年寄からはあまり行ってはいけない、と言われていた、妖気漂うところです(今は知りません)。そういう地域と東宮御所が隣接しているんです。聖と卑をコントロールする?天皇家恐るべし。

ということで、普段ボクが見る映画とは雰囲気は多少 違うんですが、面白かったです。間違いなく、見ている時間は楽しかった。これが大ヒットするというのも時代的な感覚なのかな。そういうことを含めて色々なことを考えさせてくれる作品。いやいや、勉強になりました。