特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『バイデンの撤退』と映画『蛇の道』

 やっとバイデンが選挙から撤退しました。既に既定路線になっていたんだから、もうちょっと早く手を打てなかったのか、とは思います。

 それにしてもバイデンは60年代の大統領、リンドン・ジョンソンと本当によく似ています。どちらも副大統領から大統領になって、議会工作が得意で実績は残したのに不人気で出馬断念に追い込まれた。

 ケネディの副大統領だったジョンソンは大統領になって、高齢者への医療を補助するメディケアを導入したし、公民権法も通した。バイデンも経済政策はほぼ成功したし、安価なエネルギーを餌に半導体などの次世代の製造業を誘致した効果はこれからもっと出てくると言われています。

 でもそういうことは一般人にはなかなか理解されない。
 ジョンソンはベトナム戦争拡大で不評を買って出馬断念に追い込まれた。バイデンがイスラエルのガザ侵略を支持したのも不評を買いました。

公民権法に署名するジョンソン。右はキング牧師

 問題は民主党に勝てる候補が居るのか、ですね。日本のマスコミは確トラと大騒ぎしてますが、実は討論会後もトランプが絶対有利だったという訳でもない。

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 バイデンの後継には人気がないといわれる副大統領のハリスが出てくるようですが、銃撃事件後でもハリスとトランプの支持率の差はほんの僅かで2~3ポイントしかない。

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 元検事ですから、ディベートの強さには定評があります。性犯罪者とそれを捕まえる側との選挙戦です。  

 リベラルで知られる映画監督、マイケル・ムーアは『ハリスが激戦州の一つでもあるミシガン州知事のホイットマーを副知事候補にすればいい』と言っています。『女性の大統領・副大統領候補で勝負すればいい』んじゃないか、と。

 確かにそれは一理あると思う。中道の票はハリスが押さえ、バイデンで離れた労働者票はホイットマーが取り戻す。ちなみに4年前 ホイットマー知事は武装したトランプ支持者に誘拐されそうになりましたが、それでも動じない、腹が座った女性です。

 
www.michaelmoore.com
 
 確かにこれくらいのショック療法なら、希望を失くしかけていた人々に力を与えることができるかもしれません。
 マイケル・ムーアやボクが良いと思うようなリベラルな極論を民主党は選ばないかもしれませんが(笑)、

 エリザベス・ウォーレン先生までハリスを支持するのなら、それで行くのが最良なのでしょう。

 元労働長官で経済学者のロバート・ライシュ先生も、

 民主党のリベラルの代表格、オカシオコルテスもハリスを全面支持。アメリカの民主党内ゲバばかりの日本のバカ左翼・リベラルよりマシなようです。

 前回も書いたようにアメリカでもEUでも日本でも、左翼・リベラルは元来の支持層である大衆と大きく乖離して『バラモン左翼』化してしまった。自分たちだけの殻に閉じこもるようになってしまった。

 今起きているグローバル化、デジタルなど産業構造の転換の変化の波に苦しむ大衆との乖離をどうやって縮めていくのか。
 そのギャップをリベラルが埋められなければ、台頭するのは差別や排外主義、陰謀論などのインチキなポピュリズムです。

 日本だってポピュリズムが台頭するのは同じです。古谷経衡が言っているように『石丸がオワコンになっても第2第3の石丸が出てくる。何故なら石丸が人気を集めたのは日本人全体の知性の劣化と幼稚化の結果だから』は正しいと思う。

 ポピュリズムに引き摺られたEU離脱でイギリスが大失敗したように、愚かさのツケは一般人により多く降りかかってくる。
 トランプが大統領になったら減税と金融緩和で株はさらに上がると言われていますが、それも数年後にバブル崩壊でツケが利子がついて戻ってくるでしょう。日本でも一部のアホが主張している消費税廃止なんてEU離脱より酷いことになる。

 結局 アホのツケは社会的に弱い立場にある人ほどつらくのしかかってくる

 アメリカで今起きていることは、対岸の火事とは思えません。
 我々が直面しているのは、バイデンや岸田という個別の問題ではなく構造的な問題です。


 と、いうことで、有楽町で映画『蛇の道

8歳の娘を何者かに殺害されたジャーナリスト、バシュレ(ダミアン・ボナール)は、娘を殺した犯人を突き止めて復讐を果たすことを望み、それを支えにして生きていた。精神科医の新島小夜子(柴咲コウ)と出会い、彼女の協力を得たバシュレは、娘の死に関係がありそうな財団の関係者ら二人を拉致するが、やがて真相が明らかになっていく

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 ベネチアやカンヌなど国際的な映画祭で受賞している黒沢清監督が1998年に公開された自らの作品をリメイクしたもの。黒沢監督はホラーもの以外はボクは昔から好きなんですが、NHKと組んで大河ドラマ『いだてん』のセットを使った『スパイの妻』のヒット?は記憶に新しいですね。

 今作の主演は柴咲コウ、他は全てフランス人キャストという作品です。サスペンス物は苦手なので迷いましたが、黒沢監督の新作なので見に行きました。

 病院で偶然出会ったジャーナリストのバシュレと精神科医の小夜子は協力して犯人と思われる男を誘拐・監禁します。

 これはバシュレの8歳の子供が殺されたことへの復讐らしい。話はそこからどんどん展開していきます。

 子供の殺害には謎の財団が絡んでいたらしいことがわかります。今度はバシュレと小夜子はさらに別の人間を誘拐、監禁して口を割らせようとします。

 しかし次々に誘拐を続けるうちに事件の真相は判らなくなっていきます。小夜子の真意も判らない。そして本当の復讐もなんなのかも、良くわからなくなってくる。

 有名女優の柴咲コウを映画で見たのはボクは初めてですが、怪演というか、存在感のある演技を見せています。

 『蛇』とは彼女のことかもしれません。それにふさわしい鋭い視線です。フランス人の中でフランス語で演技していても違和感がないのは感心しました。言葉はうまくなくても、外国人としてフランスの社会の中に溶け込んでいる。

 お話も良く練られているだけでなく、次から次へと意外な展開を見せます。面白いです。後半にかけて、小夜子の存在がどんどん巨大化していくところも良かった。画面には常に暴力の香りが漂っていますが、ストレートな暴力が全く描かれないのも◎。品が良い。

 ただ西島秀俊が何のために出演しているのか、ボクにはちっともわからなかった(笑)。小夜子の存在を強調する役割は果たしてはいたけれど。

 死体を運んだ車を駐車違反で検挙されそうになって小夜子が『聖闘士星矢』の話で和ませて警官に違反を帳消しにさせるなど、シリアスなシーンでもどこかコミカルに見えてしまう演出もユニークです。

 何よりも観客を惑わせるくらいに二転三転していくお話の面白さと柴咲コウの存在感が素晴らしい。サスペンス物が嫌いなボクが見て面白いと思うのだから、かなり面白い映画だと思います。


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