特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

 大寒も過ぎて、明日から今期最強の寒気がやってくるそうじゃないですか。そういわれると何となく怖い(笑)。
 華やかな夜景を見ても寒々と感じます。

 

 今日 ANNの世論調査では岸田内閣の支持率が過去最低を更新しました。

news.yahoo.co.jp

 国民に説明もしないで勝手に防衛費を上げるわ、原発は動かすわじゃ、支持率は下がって当然、いくら野党も酷いとは言え、今の内閣を支持する方がどうかしていると思います。

 国会が始まるようですが、野党は『内閣をチェックする』その1点に絞って、国会審議を進めて欲しい。それと比べれば、どこの政党がどこと組むとか、どうでもいい。
●ジャーナリストの尾中氏が真っ当なことを書いています。枝野氏もリツイート

 どうせ弱小政党ばかりだし、野党の政策だって画期的な物はないんですから、政策の違いで仲たがいしている場合ではない(笑)。今の日本にとって最も必要なのは憲法守れとかミサイルがどうとか、そんな話じゃない。政府へのチェック機能です。

 自民党も酷いけど、国民の側もない物ねだりは止めて、少しでも現状をマシにしていくことを考えた方がいい。今の日本にそんな余裕ないよ。


 と、いうことで、六本木で映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け

 2016年、ニューヨーク・タイムズ紙の記者ミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)は大統領選に立候補したトランプのセクハラ・暴行を調査、記事にするが、それでもトランプは大統領に当選してしまう。失意のミーガンはもう一人の記者、ジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)と共に有名映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが数十年にわたり性的暴行を重ねていたという情報を追及することになる。被害女性たちは多額の示談金で口を封じられ、報復を恐れて声を上げることができずにいた。記者たちは、さまざまな妨害行為に遭いながらも真実を求めて奔走する。
shesaid-sononawoabake.jp


 
 超有名映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの長期にわたる性的暴行を告発した記者たちによる回顧録を映画化。この事件は世界的に広がった#MeToo運動の切っ掛けにもなりました。
ピューリツァー賞を受賞。

二人の記者を演じるのは『プロミシング・ヤング・ウーマン』などのキャリー・マリガンと『ルビー・スパークス』などのゾーイ・カザン。二人とも大好きな女優さんです。監督はマリア・シュラーダー、製作陣にはブラッド・ピットが参加。

 映画は過去の回想も交えながら、淡々と記者たちの調査を描いていきます。
 20年以上前の事件の被害者を一歩一歩訪ねあて、何が起きたかを調べ、証言を依頼する。多くの被害者はトラウマを抱え、過去を思い出したくもない状態です。たいていの場合 多額の示談金で口を封じられている。

 淡々と、と書きましたけど、この映画の根底に流れているのは『怒り』です。

 映画にはワインスタインの姿や犯行は一切出てきません。証言のテープだけが使われてますけど、ワインスタインのやったことは聞いているだけで気分が悪くなるくらい酷い。

 問題はワインスタインだけではない。ワインスタインは数十年も似たようなことを続けてきましたが、ワインスタインの権力や金に釣られて業界やマスコミも知らんぷりをしてきた。皆 同罪です。ワインスタインの弁護士に至ってはフェミニズム団体ともつながりがある人物です。元々ワインスタインは数々の名作を手掛けてきただけでなく、マイケル・ムーアの反ブッシュ映画の手助けをするなど政治的にはリベラルだった。ところが一皮むけば、こんな人物だったわけです。
 映画では淡々とした描写が続くからこそ、状況の酷さ、そして怒りが伝わってきます。

 ミーガンもジョディも懸命の調査を続けますが、なかなか被害者から実名での証言は得られません。事件が事件ですからそれは理解できますが、記者たちの苦悩はどんどん深まっていく。さらにワインスタインからの圧力もかかってくる。記者たちは被害者に寄り添いながら、しかし断固たる意志を貫きます。


 
 見ていて、どうしてもドラマ『エルピス』を思い起こします。どちらも権力者による性犯罪と隠蔽、圧力、記者たちの勇気を描いています。しかし、こちらは事実に対してより慎重で、記者や被害者の心情により深く寄り添っている。静かだけど力強い描写が続きます。

 記者二人を支える家族も素晴らしい。二人の記者にはそれぞれ子供がいる。夫たちは子育てをしながら妻の仕事を支える。子供たちにこんなことが当たり前の世の中と思わせてはいけないからです。映画がそこを執拗に描くところも素晴らしい。観客にとっても感情移入できる。

 この映画の見せ場は主役二人の演技です。子供を産んだばかりという設定のキャリー・マリガン、弱気になるところもタフネスを発揮するところも、いつもながら素晴らしいです。

 ゾーイ・カザン(エリア・カザンの姪)も名優キャリー・マリガンの向うを張って頑張ってる。


 このお話が説得力があるのは二人の演技があるからこそ、と思いました。

 新聞を舞台にした映画ですから劇的なアクションや裁判があるわけではありません。でも、クライマックスの演出はお見事です。こうやって盛り上げるんだな、と思いました。


 
 ワインシュタインは懲役23年の刑を受け、映画界から事実上追放されました。しかしめでたしめでたしとはいかない。トランプが大統領に就任したことに象徴されるように、ワインシュタインを放置してきた社会の構造は変わっていないからです。

 いかにも女性監督らしい細やかな演出と主役二人の的確な演技、非常に端正な映画です。
 今年のゴールデン・グローブ賞ではキャリー・マリガンしかノミネートされませんでしたが、もっと評価されても良い映画です。2016年にキリスト教会の神父の幼児への性的虐待を暴いた新聞記者たちを描いた『スポットライト 世紀のスクープ』がアカデミー作品賞を取りましたが、それよりボクは上だと思います。それくらい面白かったし、二人の記者に共感できる。非常に好感が持てる作品でした。


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