特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『離ればなれになっても』

 明けましておめでとうございます。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
 ボクは年末は溜まった用事を済ませたり、おせちを店に取りに行ったりでバタバタしてました。いつも通りお正月は人ごみを避けて家にいますけど5日から仕事ですので、お休みもあっという間に過ぎてしまいます。
●朝生なんてバカ番組、金輪際見ませんが、こういうデマを放送していいのか、とは思います。

●同じく、小川淳也が朝生で消費税25%と発言したらしく、さっそくネットで炎上してます(笑)。こういう正論が議論されないこと自体がおかしい。野党はポピュリズムのアホは相手にしないで、堅実な無党派層を取りに行くべき。


 個人的なことはあまりブログに書かないようにしているのですが、昨年の12月でとうとう60歳になってしまいました(泣)。
 仕事では定年どころか相変わらずこき使われてプレッシャーに耐える毎日ですが、そろそろ『終活』を始めようかな、と思っています。今年は3月に現在の戸建てから(階段がない)近所のマンションへ引っ越しすることになりましたし、落ち着いたら樹木葬のお墓でも探そうかなあ、と思っています。

 そういう形式的なことはともかく、段々残りが少なくなってきた人生、自分は如何に生きて死んでいくか、ということは流石に意識するようになりました。大それたことが何かできるわけでもありませんが、少しでも自分なりの善きことを何か残せたらいいな、と思っています。
 ユングは『歳をとることは自分が自分になっていくプロセス』というようなことを言っていたと思いますが、これからどんな自分に出会うことになるのか、不安でもあるし、少し愉しみでもあります。


 と、いうことで、日比谷で映画『離ればなれになっても

 1982年、イタリア・ローマ。高校生だったジュリオとパオロはデモに参加して警官に撃たれたリッカルドを助けたことでお互い無二の親友になる。やがてパオロは可憐な少女、ジェンマと恋に落ち、男女4人は青春を謳歌するようになる。しかし母親を亡くしたジェンマはナポリの伯母に引き取られ、彼らはバラバラになってしまう。やがて教師、記者、弁護士とそれぞれ異なる職業に就いていたパオロらかつての3人の親友たちはジェンマと再会するが
gaga.ne.jp

 80年代から現在までのイタリアの40年間、極右や極左のテロが頻発した『鉛の時代』から始まり、押し寄せるグローバリゼーションの波、ベルリンの壁の崩壊、長年続いた戦後保守政治の再編、311、政界の腐敗と押し寄せるポピュリズムの波の中で生きた4人の男女を描いた作品です。
 16歳で恋に落ちたものの離れ離れになった二人の、40年にわたる愛の軌跡を描いたラブストーリーでもあります。

 イタリアでは3週連続興収第1位の大ヒット、原題は’’Gli Anni Piu Belli’’(最も素晴らしい年月)、英語題はThe Best Years。日本語題は訳が分かりませんが、内容は現題通りです。監督は『家族にサルーテ!イスキア島は大騒動』のガブリエレ・ムッチーノ。

 
 舞台は82年のローマ。極右と極左のテロが繰り返された『鉛の時代』の名残りが残っています。16歳の高校生、ジュリオとパオロは激しいデモの見物へ出かけたところで警官に撃たれたリッカルドを発見、病院へ連れていき、命を救います。彼らは無二の親友となりました。
●ジェリオ(中央)とパオロ(右)はデモで警官に銃撃されたリッカルド(左)を助けたことで親友になります。

 鳥を愛する内向的なパオロはある日 学校の教室でジェンマに一目ぼれ、二人は恋に落ちます。
●パオロ

●ジェンマ

 
 4人はどこへ行くにも一緒、楽しい日々が続きます。この時代のパオロとジェンマは全ての場面でイチャイチャしています(笑)。

 しかし病の床に伏せていたジェンマの母が死ぬと、ジェンマはナポリの叔母の家に引き取られ、離れ離れになってしまいます。
 

 やがてパウロは大学の文学部を出て臨時教師に、ジェリオは貧しい人を救いたいと国選弁護人に、リッカルドは映画雑誌のフリー記者になります。
 彼らの背景にはイタリアの若年層の高失業率があります。なかなか正規の職がないのです。
 

 ある日 パオロはローマの街角でジェンマと再会します。ナポリのチンピラの情婦になっていたジェンマですが、再会を切っ掛けに立ち直ろうとレストランの給仕の職を得ます。

 ベルリンの壁の崩壊、グローバリゼーションに飲み込まれていくイタリア経済、長く続いたイタリア保守政治の政変、ポピュリズムの伸長など様々な事件が4人に降りかかります。
 固く誓った友情も愛情もいつしか廃れ、彼らは年を取っていく。

 40年を描くお話は紆余曲折あるし、人間関係も複雑です。男も女も浮気とか三角関係とかはごく普通(笑)。展覧会で肖像画を見ながら女性が既婚の男に『この肖像には怖れが隠されている』と男に手をだすよう挑発する駆け引きには参りました。こういう駆け引きが普通に?できるんだからなあ。

 人物描写もよく出来ている。内向的なパオロと移り気で自己主張が強いジェンマ。貧しい人々を助けたいと弁護士になったジュリオが悪徳政治家の娘と結婚したり、共産主義者の親の元に生まれて社会正義に燃えるリッカルドが妻子に対してはまるでダメ男だったり、登場人物も欠点だらけです。そこが良い。

 圧倒的に深い人物描写に加えて、お洒落な服、呆れるような美男美女、とイタリア映画らしい楽しみも相変わらずです。
●ジェンマ(右)を演じるミカエラ・ラマッツォッティはイタリアのアカデミー賞と言われるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で主演女優賞にノミネートされました。

 個人的にはもっと大きなポイントがありました。
 ボクの好きな歌い手のベスト3に入るイタリアの国民的歌手、クラウディオ・バリオーニがフィーチャーされているんです。個人的な贔屓もあるかもしれませんが、この人の曲が途中で流れると映画の雰囲気がガラッと変わる。映画はそういう風に作っているんでしょうけど、絶妙な演出です。

gli anni più belli

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 監督はこの人の歌を『過去50年に恋に落ちたすべてのイタリア人の象徴』と言っています。曰く『イタリア人は恋に落ちたらバリオーニの歌を歌うという文化がある』そうです。ラブソング一辺倒ではなく、内省的だし政治的なことも歌う歌手ですが、それでもポジティブでロマンティックなところがたまらない。

 映画では過去の名曲が2曲、良いところで使われますが、エンドロールで流れる新曲、主題歌の’’Gli Anni Piu Belli’’はもう、泣かざるを得ません。この曲もダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で主題歌賞にノミネートされています。

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 戦後ずっと保守政治が続いてきたのもグローバリゼーションの大波が襲ってきたのも日本とイタリアは共通しています。登場人物はボクと同時代に生きてきた人たちです。サラリーマンのボクだって記者や教師になってみたかった(笑)。

 いや、そういう話じゃありません(笑)。ボクも彼らと同じようにバリオーニの曲を聞きながら生きてきた。時代の変化に翻弄され、紆余曲折のなかでも何とか生き抜いてきた。挫折もあったし、間違いも犯した。40年前に思っていたことは必ずしもかなわなかった。

 しかし代わりに得たものもあった。歳をとることはそんなに悪い事ではない。だって、人間だから

 この映画に流れている人生を肯定する姿勢はバリオーニの曲の精神と共通している。人間という存在への信頼、かもしれません。挫折と諦観の末に得た豊穣とも言える感覚をどう、表現したら良いのか。
 こういう大人の映画(笑)は日本ではあまり流行らないかもしれませんが、ボクにはめちゃくちゃ面白かったし、共感しました。大好きです、この映画


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