特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『エルピス最終回』と『2022年ベスト映画』

 お正月休みになった昨日、やっとドラマ『エルピス —希望、あるいは災い—』最終回を見ることが出来ました。忙しくて平日はTVに1時間集中する時間って中々とれない。

 最終回は何と言っても長澤まさみ、でした。冒頭からの眞栄田郷敦との対峙、鈴木亮平との対決と30分以上も続く息が詰るようなシーンに説得力を持たせていたのは、脚本だけでなく長澤まさみの存在感だと思いました。

 良く考えたら演出の大根仁はかって映画『モテキ』で長澤まさみを信じられないくらい魅力的に撮った人ですが、

『エルピス』では大根本人が言うように長澤まさみの『かっこよさ』を引き出している。単に演技というだけでなく、6年前に脚本を読んで出演を即決した長澤自身の中にあるものが引き出されたのでしょう。
 大根自身も『エルピスを撮って、演出家人生の寿命が10年延びた』と言っていますが、長澤まさみ大根仁も見事な仕事をしました。

realsound.jp

 それにしても牛丼があんなに美味しそうに見えるとは(笑)。ファストフードだと思うから牛丼なんて何十年も食べたことがないのですが、あれなら食べたくなりました。

 渡辺あやという人は生涯ベスト10に入る映画『その街のこども』を手掛けた人で、ボクは絶対的な信頼を持っています。この人の作品にはずっとついていく、ということです(笑)。

 『エルピス』は渡辺あやが手掛けた社会派ドラマということは置いておいても、『正しさ』どころか、『希望』すら安易に提示するようなことをしないのが流石でした。
 正しいことなんかこの世の中にある筈がない。まして希望なぞ、期待する方が間違っているでも、この世界が虚無だけで成り立っているわけでもない
 

 いちいち現実に突き刺さる台詞、圧倒的な存在感の長澤まさみ、緩急意識した見事な大根仁の演出、海外市場を意識したという美しい映像、想像力を掻き立てる大友良英の音楽、オートチューンで声を変えまくりだけどキャッチ―な主題歌、『エルピス』は単なるTVドラマだけど、従来の枠を大きく超えた作品でした。
 このドラマは間違いなく、マスコミ、いや、今の世の中に『風穴』を開けた、と思う。政府や権力に忖度する大手マスコミだけでなく、自家撞着に陥っている頭の悪いリベラルに対しても、です。

 放送が続いた3か月間はあっという間でしたが、近年記憶にないくらい深く心に残った。
 マスコミへの自己批判を怖れない制作陣にはリスペクトしかない。プロデュ―サー自ら『第1回目を放送出来てホッとした』くらいの企画だったようですが、TBSでお蔵入りになった企画を6年かけて作品にした佐野プロデュ―サーという人の今後にも注目していきたいと思います。


 年末ちょっと嬉しいことがありました。
 何度も書いてますが、ボクがいつも昼食を食べるのは中華料理、福建省出身のお母さんがやっていて四川出身のコックさんが作る広東料理屋です(笑)。日本語まともに通じない消費税ない東京都の禁煙条例は無視客層は肉体労働者の人と中国の人が殆ど、という、なかなか敷居が高い店です(笑)。
●牛肉のオイスターソース炒め、820円だけど鶏ガラを使ったスープにはクコの実まで入っている。

 最初は店の前を何度か通っても雰囲気が怖くて入れなかったのですが、押しに弱いボクがお母さんに無理やり店に連れ込まれて食べたら(笑)、あまりにも美味しかった。街場の店だから材料は安くても、腕とセンスで美味しいものは作れるんだなって、はっきり言って勉強になった。

 通っていると扱いが変わってきます。いつも何か一皿余分についてくるし、雨が降れば傘まで貸してくれる。時々、おすそ分けもくれる(笑)。我々とは感覚は少し違うけれど、仲良くなってしまえば人情が厚い、いかにも中国の人らしい。

 今年の最終日、1年間のお礼を兼ねて台湾の名物(福建省の対岸)のパイナップルケーキを持って行きました。青山に美味しい店があるんです。

 会計の時 それを渡す前に、お母さんから『今年1年、ありがとう』と紹興酒を一本渡されました。ボクも『こちらこそありがとうね』と言って、テーブルの下からパイナップルケーキを差し出した。

 一瞬 意表を突かれたように沈黙した後、そのあとお互い 目を合わせて大笑い。ニコッと笑ったお母さんの笑顔が凄く良かった。
 気持ちが通じあうってこういうことなんだなーと思いました。国籍も年齢も性別も、お客とか店とかも関係ない。言葉が片言でも気持ちは通じる。人間と触れ合って久々に嬉しいって感情を持ちました。

 今年はまた理不尽な戦争が始まった悲しい年でしたが、最後に良い思い出が出来ました。

 そんな2022年を映画とドラマのベスト10で振り返ります。

10位:『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』(4月)

 前編は日本公開されていないのに続編だけ日本公開、という変則的な上映です。しかし、これが死ぬほど面白い。豪華スター満載のイタリア観光地巡りを兼ねたアクションコメディ、非常によく出来ていて感心しました。サミュエル・L・ジャクソン万歳です。
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9位:『時代革命』(8月)

 中国が香港で行っている弾圧を見ていると無力感を感じざるを得ません。しかし、このドキュメンタリーを見ていると我々には無力感なんか感じる資格はない、ということを思い知らされました。物理的には押さえつけられても、老いも若きも抵抗する香港の人々の心は専制国家には屈していないのですから。
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8位:『ザ・メニュー』(11月)
 グルメブームをコケにしたコメディホラーですが、制作側が終盤見せる人間への深い愛情に思わず泣かされました。
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7位:『アンネ・フランクと旅する日記』(3月)

 アンネ・フランク財団が作ったアニメですが、難民が多発する現代に通じる作品になっているだけでなく、実にクリエイティブな作品に仕上がっています。傑作アニメです。
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6位:『ハウス・オブ・グッチ』(1月)

 まさに大河ドラマ。登場人物が全員悪人(笑)。レディ・ガガアダム・ドライバーなど出演陣の熱演も見ものです。滅茶苦茶面白い。
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5位:『香川1区』(1月)

 立憲民主党小川淳也衆院議員を取り上げた『君はなぜ総理大臣になれないのか』の続編です。道はまだまだ長い。
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4位:『ダークウォ―ター』(1月)『ベイビーブローカー』(7月)

 どちらも社会派劇映画の傑作。大変完成度が高い映画でした。
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3位:『エルピス ー希望、あるいは災いー』(10~12月)

 年間ベスト10にTVドラマを入れたのは初めてです。途中にCMがあったり、放送期間が3か月にも渡るTVドラマというフォーマットでこういうガチな作品を見るのは辛い面もありましたが、3か月間ずっと心理的インパクトが続いたという面もありました。このドラマは始まり、だと思いました。

2位:『シラノ』(2月)

 現代最高のロックバンド、ザ・ナショナルが音楽を担当したミュージカルです。美しい画面と前衛性が素晴らしい高揚感を引き出している。そして、その後の静寂が心に残ります。
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1位:『マイ・スモールランド』(5月)、『RRR』(10月)、

 対照的な2作品ですが、どっちがどうと決められません。日本の恥部を真正面から描きつつも、嵐莉菜の素晴らしい存在感が希望を見せてくれる『マイ・スモールランド』(音楽、主題歌も素晴らしい)、圧倒的な完成度と面白さ、それに高揚感に溢れる『RRR』。
 この2作品を見ることが出来ただけでも、2022年という年に感謝です。
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 1年間、ブログを読んでいただいた皆様、ありがとうございました。皆さま良いお年をお迎えください。
 そして来年は今年より素晴らしい年になりますように!