特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『RBG 最強の85才』

 何やら衆参W選挙が取りざたされるようになってきました。公明党が反対するから衆参W選挙は無い、と言われていましたが、大阪、沖縄の選挙の自民敗北で、与党内では傷を少なくするために衆参W選挙が検討されているそうです。

 名目は消費税の延期。延期の可能性は3月のブログにも書きましたが、それでなくとも安倍晋三過去3回も消費税を名目に解散&選挙をやっています。バカはバカなりに『解散の度に首相の求心力は高まる』というセオリーを理解している。
 景気に暗雲が漂ってきた現在、消費税延期を唱えて選挙をしてくることはあり得るでしょう。そうなると野党は消費税を選挙の論点にできなくなる。

 今日 内閣府が発表した景気動向指数では6年2か月ぶりに『悪化』との判断が示されました。経済関係者は注目していた指標です。

www.nikkei.com

NHKは中国経済の減速とか言って他人のせいにしてましたが、実質賃金の低下などアベノミクスが失敗したのがいよいよ露わになった結果です。


 更に来週 発表されるGDPとこれから指標の発表が続きます。
 6月のG20でも『景気が悪いのに消費税なんか上げるのか』と言われるでしょうから、それをきっかけにW選挙の可能性はあるのかもしれません。それに対して野党の方は未だに旗印、特に経済面の旗印すらありません。
 相も変らず安倍辞めろだけじゃ、内輪ならともかく、一般の国民に対して説得力を欠いているとボクは思うんですが、どうでしょうか。
●いくらこうだとしても、ですよ。


 この前、久々に神宮前へ行ったら、国立競技場がだいぶ出来上がっていました。
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 外国の人も多く働いてるそうですが他の現場と違うのは、働いている人たちは、昼休みも工事現場から全く出てこない。あれは殆どタコ部屋じゃないか、とは、周りの住人たちのもっぱらの噂です。
 
 突貫工事の結果 ヤマは超えたそうですが問題案件だった新国立競技場が工事費黒字化目指す「マジック」の中身 | Close-Up Enterprise | ダイヤモンド・オンライン、工事で立ち退いた人も居れば、工事現場で過労死した人もいます。オリンピックのチケットが売り出されて喜んでいる人たちの気がしれません。
www.nikkei.com

www.asahi.com



今回は 感動のドキュメンタリーです。恵比寿で映画『RBG 最強の85歳

www.finefilms.co.jp


 1933年ニューヨークの下町ブルックリンでウクライナからのユダヤ人移民の娘として生まれたルースは弁護士を志してコーネル大へ入学、そこで学生結婚、出産。その後ハーバード大法科大学院に入学。ガンを患った夫の近くで暮らすためにコロンビア大へ転校、首席で卒業したが、50年代は女性が弁護士になる道は閉ざされていた。ラトガース大の教授になった彼女は講義の傍ら、全米自由人権協会に参加、男女の差別を認める法律の撤廃を求める訴訟を起こし、最高裁で6件中5件の勝利をもたらす。やがてカーター大統領から裁判官に任命され、クリントン大統領から最高裁の判事として迎えられる。

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 アメリ最高裁判事の最年長、長年 性差別と闘ってきたルース・ベイダー・ギンズバーグに迫るドキュメンタリー。 
●2017年のアメリ最高裁判事の顔ぶれ。前列左端がルース。終身制の最高裁判事は大統領より社会的影響力が大きい と言われています。現在リベラルが4名、保守派が5名。
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 この数年 彼女はRBGと呼ばれ、様々なグッズが売られたり、彼女の絵本やワークアウトの本が出るほどの大人気、#Me Too運動も相まって、彼女の存在は一種の社会現象になっているそうです。
●撮影当時 85歳のルースは20年前、ガンになって以来 週3回のワークアウトを続けています。
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 監督は、コロンビア大やCNNでドキュメンタリー作品に携ってきたジュリー・コーエンとベッツィ・ウェスト。2人の監督、7人のプロデューサー、撮影監督など制作のリーダーは全て女性だそうです。アメリカでは昨年公開されてドキュメンタリー作品としては興収10位に入る異例の大ヒット、今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞のほか、歌曲賞にもノミネートされました。
●監督のジュリー・コーエン(右)とベッツィ・ウェスト(左)

 日本では3月に彼女の若かりし日を描いた『ビリーブ 未来への大逆転』が上映され、今に至るまでロングラン上映が続いています。
spyboy.hatenablog.com

RBG 最強の85歳』はそれに続いての公開です。
●恵比寿の映画館では『ビリーブ 未来への大逆転』と『RBG 最強の85歳』が併映されていました。

 当日は始めに『ビリーブ 未来への大逆転』をもう一回見たのですが、前回見た際 随分見落としていたことがあったことに気が付きました。かなり情報量が多い。あと主演のフェリシティ・ジョーンズがルックス、姿勢、しゃべり方まで本人そっくりに演技していることも分かったし、脚色してある部分も理解できた。非常に良くできた映画です。再度 見てよかった。改めて感動、涙が流れました。
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 さて、『RBG 最強の85歳』は今やポップ・アイコンにまでなっている現在の彼女と過去の彼女の業績や発言を比較しながら、お話は進んでいきます。 
 ウクライナからのユダヤ人移民の娘として生まれた彼女は、当時の『赤狩り』に抗議する弁護士たちの姿を見て、弁護士になることを志したそうです。

 そのあと大学入学後の彼女、映画『ビリーブ』でも描かれていた、学生結婚して子供を育て、生存率5%のガンに罹患した夫の看病をし、自分の分に加えて夫の分まで授業のノートを取り、なおかつハーバード・ロースクールで首席だった!というエピソードには、やはり度肝を抜かされます。睡眠は毎日2時間だったそうです(笑)。
●夫のマーティンと彼女は学生結婚しました

 当時はハーバード・ロースクールに女性が入学できるようになって日も浅く、当時は学生数約500人のうち、女性は9人ほど。授業でもなかなか発言の機会も与えられず、女性用トイレですら不備だった。
 そういうことをルースが今 ハーバード・ロースクールに通っている彼女の孫に話すシーンがあります。彼女の孫の学年で初めて、生徒が男女同数になったそうです。感動的なシーンでしたが、世の中が変わるのには時間がかかる、ということも思い知らされます。
●当時の学校での写真(彼女は右端)

 実際に見る彼女は身体だけでなく声も小さく、とても闘士という感じには見えません。内気で無駄口をたたかないというキャラクターだそうです。
 彼女が17歳の時に亡くなった母から、『淑女であれ』(Be A Lady)、『自立しろ』(Be Independent)ということを教わって育ったそうです。淑女であれというのは淑やかにしろ、ということではありません。『怒るのは時間のムダ』ということだそうです。その言葉が彼女の人生を導いていきます。
●正直、彼女の業績だけでなく、美しさにも圧倒されました。
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 一方 夫のマーティンは社交的で冗談が大好き。画面で見ていても人柄の暖かさが伝わってきて『いい人だなあー』と思いました。大柄でニコニコしていて、ほんと、良い人。
 税金専門の弁護士(儲かりそう!)として一流だったそうですが、ルースの仕事の重要性を理解すると、自分は家事、育児も引き受け、彼女のサポートをする。『男が家事をやれ』の見本のような人です。50年代にもキャリアと家事を両立させる男が居たんです。彼もまた、ヒーローであることは間違いありません。

 一流校の首席だったにも関わらず、女性であるがゆえに弁護士事務所に就職できなかったルースは大学教授を務める傍ら、性差別を是認する法律を変えていこうとします。彼女の凄いところは、女性の権利だけでなく、男性の権利にも着目したところ。
 映画『ビリーブ』でも、当時 介護をする男性には介護費用の税控除が認められないのは性差別だ、として国税庁に訴えを起こした『ワインバーガーVSワイゼンフェルド』裁判(75年)が取り上げられていますが、ルースは女性の権利だけをことさらに主張するのではなく、男女を問わず性差別は不当だ、と主張していきます。その結果70年代、彼女は最高裁で弁論を行った6件のうち5件で勝訴するという実績を残しています。

 80年に民主党のカーター政権が誕生すると、カーターは彼女をワシントンの控訴裁判所の判事に任命、コロンビア大の教授職を得ていたマーティンもワシントンへ引っ越して彼女の仕事を支えます。
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 93年にはクリントン大統領から史上2人目の最高裁判事に任命されます。社交好きのマーティンが内気な彼女を各方面に随分プッシュしたそうです。クリントンは『彼女は推薦リストの22番目だったが、彼女と面談したら15分で意気投合、指名を決めた』と映画の中で語っています。
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 映画では彼女が関わった様々な裁判が紹介されますが、印象に残ったのは南部バージニア州軍事学校が女性の入学を認めないことを訴えた裁判。
 96年 彼女は最高裁の判事としてバージニア州の措置を違憲と判断しました。『体力テストさえクリアすれば、女性でも軍事に関わる能力はあるはずだ』と言うのです。

 20年後 ルースはバージニア州軍事学校から招かれ、大勢の女性生徒や卒業生を前にスピーチします。彼女たちが見つめる中、ルースは『彼女たちが入学できるようになれば、いずれ多くの人たちが彼女たちのことを誇りに思うはず、と私は考えた』と穏やかに語ります。それを聞く多くの女性たちの目には涙が光っている。なんとも感動的な光景です。
●ルースの判決で州立学校に入学が許された女性たち


 意外だったのは超保守派の最高裁判事、スカリアとの交流です。レーガンが任命したスカリアはコテコテの保守派で銃所持賛成、中絶反対、同性婚反対、政治献金は上限撤廃、環境保護政策はもちろん反対、ブッシュとゴアの大統領選開票でも僅差だった投票の再計算を拒否してブッシュの当選に貢献した、非常に問題がある人物です。
 ところがルースはスカリアとオペラという趣味で意気投合、仲良しになって生涯交流が続いたそうです。それだけでも彼女はイデオロギーに囚われる偏狭な人物ではないことが判ります。
●スカリアとルースはインドへも旅行しました。ルースがスカリアの後ろに座ったことでフェミニストから非難された、と彼女は笑っていました(笑)。単にスカリアがデブだったから重量バランスの関係で前に座っただけ、だそうです(笑)。


 2000年代に入り最高裁の判事が保守派が大勢を占めるようになると、最高裁の判断も保守的なものが多くなっていきます。その中でルースは少数意見として明確な主張を行うようになります。元来 中道寄りの人でしたが、世の中が右傾化するとともに左派とみなされるようになってしまったのです。

 グッドイヤー社の女性社員が賃金差別を不当と訴えた裁判では、原告が訴えるまでに時間がかかりすぎているという理由で最高裁は訴えを却下します。それに対して、ルースは少数意見で反対を唱えるだけでなく『議会が最高裁の間違いを正してください』とまで訴えます。こんな裁判官がいるでしょうか。
 それに応えて議会は法律を改正、その『公正賃金回復法』はオバマ大統領が最初に署名した法律になりました。
 このような反対意見を述べる彼女に対して次第に、世の中の注目が集まるようになっていきます。ルースという人は齢70を超えて、また新しい役割を果たしていったのです。
●ルースが最高裁で反対意見を述べる際はいつも、このネックレスを法服の上につけるそうです。それを模したネックレスを洋服メーカーのバナナ・リパブリック(GAP)が売り出したら大ヒット、即完売になったのがニュースになりました。

womenintheworld.com


 ルースは石部金吉でもなければ、完全無欠な人ではありません。大統領選当時、トランプを『詐欺師』と呼んで謝罪したり(間違いではありませんが、最高裁の判事としてはまずい)、ワイナリー(オーパス・ワン!)に行って飲みすぎてしまい、大統領の年初の演説の最中に居眠りしたのが大々的に報じられたりしています。そういうところが愛されている。

www.dailymail.co.uk

 今やルースは元麻薬の売人で90年代に射殺された有名ラッパー、ノトーリアス・B.I.Gをもじって、ノトーリアス・R.B.G(悪名高きRBG)と呼ばれて社会的に注目される存在になっています。
 2016年にはワシントン・ナショナル・オペラにも出演、
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Ruth Bader Ginsburg with the Washington National Opera
https://www.nytimes.com/2016/10/22/arts/music/washington-national-opera-ruth-bader-ginsburg-donizetti.html

 超有名お笑い番組サタデイ・ナイト・ライブでは彼女をパロディにしたコーナーもあるそうです。彼女はスマホは使えるけれど、家のTVのつけ方も知らないそうで、インタビューの際 自分のパロディを始めて見て笑っていました。ちなみにサタデイ・ナイト・ライブでアレック・ボールドウィンがトランプのパロディをやったら、トランプが激怒したのも有名です。

Weekend Update: Ruth Bader Ginsburg on Not Retiring - SNL

 #Me Too運動の先駆けという意味もあるのでしょう。年齢を経るにつれて社会的な影響力が増している、というのは確かに稀有な人です。本人はブーム自体は興味ないんでしょうが、それを他人事のように楽しんでいるようです。
●さまざまなグッズが売り出されています。


 ルースは2010年に伴侶のマーティンをガンで亡くしましたが、自身も2度、ガンにかかっています。それを克服するための週3回のワークアウトも話題になっています。

The RBG Workout 2019 Wall Calendar

The RBG Workout 2019 Wall Calendar

 昨年11月 彼女は転んで肋骨を骨折、その際 肺にガンが見つかりました。年末に手術、今年の始めに執務に戻っているようです。

www.nikkei.com

 この人が居なくなったらトランプが保守派の判事を任命するでしょうから、とにかく元気でいて欲しい。アメリカの世界的な影響力を考えれば、そして未だに大学入試ですら女性差別が存在する日本でも他人事ではありません。どうか末永くお元気に、としか言葉がない。
www.reuters.com


 映画の情報量は多いですが、判り易いだけでなく、見方も公平だし、扇情的なところもありません。内気だけど意志が強い、そしてユニークなRBGという人の人柄を良く引き出しています。結構笑えます。まるでドキュメンタリーのお手本のようです。
 差別との戦い、夫婦愛、不屈の精神、様々な学びを得られる普遍的な作品です。RBGという人の存在、マーティンと言う人の存在を知るだけで、多くの人が勇気をもらえるでしょう。

映画『RBG 最強の85才』予告編

 アカデミー賞にノミネートされた映画の主題歌『I'll FIGHT』も名曲です。80年代から渋い曲を書いてきた名シンガーソング・ライターのダイアン・ウォレン、今回も良い曲を書きました。それをグラミー歌手ジェニファー・ハドソンが歌っています。受賞したレディ・ガガのワザとらしい『シャロウ』より、10倍はカッコいい。とにかく、必見のドキュメンタリーです(笑)。
●このPVは映画の予告編よりカッコいいかも。終盤 作者のダイアン・ウォレンがわざわざ出てきたのにも驚いた。

"I’ll Fight" | Jennifer Hudson | Music & Lyrics by Diane Warren (From the Motion Picture ‘RBG’)