特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『Perfume 7th Tour 2018@長野』と映画『判決、ふたつの希望』

 この週末は長野へ行ってきました。
 Perfumeのコンサート、''Perfme 7th Tour 2018 「FUTURE POP」''を見に行ったのです。
 最近の東京はオリンピック絡みでコンサート会場が不足しています。僅かに残っている幕張や埼玉だとボクの家から遠いし、しかも音が超悪い。地方で見た方が快適だし、幕張や埼玉と移動時間もあまり変わらない。何よりも、時々、一人でふらりと地方へ出かけるのは気持ちが良いものです。


 とりあえず長野に着いて直ぐ、善光寺に向かいました。他に見るところが思い浮かばなかっただけなんですが、街を歩いていると秋空が高くて良いなあーと思いました。


 長野はオリンピックの借金による財政難もあって長期低落が続いており、それは今も続いているようです。目抜き通りにも空き店舗があるし、街並みも賑わっている感じではありません。しかし、街並みが以前から変わらずに残っているのは懐かしさみたいなものも感じます。
●大正時代のアールデコの建物を生かした藤屋御本陳って、下手な東京の店よりよっぽどお洒落です。出てくるものもちゃんとしてる。

●藤屋とは美的センスも価値観も対照的な、スターバックス風の自衛隊求人所。長野にだってスタバはあるんだし、このセンスは逆効果でしょ(笑)

善光寺。皆さんの健康と病気快癒をお祈りしました。


 コンサート会場へは駅から徒歩30分くらいです。見知らぬ町を歩くのって大好きです。バスや電車じゃダメ。自分の足で歩けば、何かしら住んでいる人の息吹が感じられる。ほんの少しだけ、その土地のことが判ったような気がする。丁度その日はお祭りだったらしく、家々を鬼?が回っていました。面白い。


 会場のビッグハット長野オリンピックの会場の一つです。仕事で来たことがありますが、普段はガラガラ(笑)。これも負の遺産の一つなんだろうなー。
 会場前ではPerfumeのコスプレをした女の子たちが大勢 踊っていました。コスプレをした子供はPerfumeBaby Metalのコンサートでよく見る光景ですが、大きな子達(笑)が大勢でやっているのは珍しい。微笑ましいので写真を撮ろうかと思いましたが、変な誤解をされるのは嫌だし(笑)、黙って写真を撮るのも失礼かなと思ったので、そのまま会場に入りました。Perfumeの良いところの一つは子供連れや同性のファンが多いこと。いつもそう思います。雰囲気がほのぼのとしているんです。


 Perfumeのファンクラブにはちゃんと入っていますが、最近はちょっと食傷気味です。この2,3年はそんなに良い曲がない。8月に出たばかりの新作『Future Pop』も悪くないけど、もう一押しという感じです。何よりも前々作までは必ず何曲か入っていた、名曲クラスがないのが痛い。アメリカ進出を狙った前作『Cosmic Explorer』のアメリカでのセールスはいまいちだったようですが、今回も決め手に欠ける、というのが正直な感想です。細部にはカッコいい音とかあるんですけどね。


 ショーはほぼ定刻で始まりました。3人娘が出てくる舞台はシンプルで特に舞台装置もなく、彼女たちの前後にある巨大なスクリーン(15メートル×30メートルくらい)にプロジェクション・マッピング、実写フィルム、レーザー光線が映し出されます。それが彼女たちのダンスの振り付けとそのままリンクしている。振りに合わせて、指先から水しぶきの映像が跳ねるような演出があったりする。タイミングとか位置を考えたら凄いことをやっているとは思います。以前はそういう演出は1,2曲でしたが、今回はそれを半分以上の曲でやっています。場内はまさにこういう感じでした↓


 新作では変則的なリズムのフューチャーベースと呼ばれるサウンドが多用されているだけあって、最近のライブで不満だったバスドラの4つ打ちが延々続くリズムの単調さはそれほど気にならなかったです。音も締まっていて悪くなかった。中央ステージ間近の結構良い席だったので、近くで見る3人娘の顔が小さいのに驚きました(笑)。お人形さんみたいです。

 中盤に過去の名曲『スパイス』をやると雰囲気がガラッと鮮やかに変わったんですが、そのクラスの曲がもっとあるといいなあ。それにテープ演奏はかまわないけど、相対性理論みたいに生ドラムと組み合わせたら躍動感が出て、もっとかっこよくなるのに。
でも 歌が少ないダンス寄りの曲が並ぶ2時間のセットリストは、なんだかんだ言って、ボクが今まで見たPerfumeのステージでは最もクールで洗練されていたかもしれません。楽しかったです。

 来年は北米・アジアツアーをやるそうで、頑張ってもらいたいです。どうかPerfumeがオリンピックの開会式なんか出ませんように(笑)。

●コンサートが終わった頃でも住宅街のお祭りは続いていました。



 ということで 有楽町で映画『判決、ふたつの希望映画「判決、ふたつの希望」公式サイト 2018年8/31公開

レバノンの首都、ベイルート。かってはレバノけン内戦という辛い過去があったが、今は平和が戻っている。キリスト教徒の自動車修理工トニーは右翼思想に影響を受けて、日頃からレバノンに大勢居住しているパレスチナ人に反感を持っていた。自宅ベランダからの水漏れでパレスチナ人の現場監督、ヤーセルに水をかけてしまったトニーは、水漏れを修理をしてやろうとするヤーセルの申し出を強硬に拒否する。思わずヤーセルに罵られたトニーは謝罪を求めて裁判を起こす。これをメディアが大々的に報じたことで、国中を揺るがす騒動になっていくーーー

 
 レバノン映画で初めて、アカデミー外国語映画賞にノミネートされた作品、パレスチナ人の現場監督役の男優はベネチア映画祭で最優秀男優賞を受賞したし、前評判も上々、評価が高い作品です。ただボクは、こういう人間関係の諍いとかの話って嫌いなんですよね。人間のそういうどろどろした話って不毛じゃないですか。実生活でもそういうものには極力 関わり合いになりたくありません。だからボクは極力 人付き合いを避けているんです。


 この映画に出てくるキリスト教徒、トニーは小さな自動車修理工場を営んでいます。彼は難民排斥を唱える極右『レバノン軍団』の支持者です。全てをパレスチナ難民のせいにする過激な言論に自らの生活の不満を重ね合わせている。パレスチナ難民と言っても国内人口の1割以上を占め、彼らはレバノンの社会に同化しています。トニーは『正気なのか』と臨月間近の妻にも相手にされず、一人で欲求不満を募らせている。
●自動車整備工場を営むトニー(右)と身重の妻。キリスト教マロン派のトニーはパレスチナ人排斥を主張する極右政党の熱心な支持者です。


 ある日 彼のベランダからの水漏れでパレスチナ人の現場監督、ヤーセルとトラブルが起きますが、素直に対応できません。水を掛けられたにも拘わらず、水漏れを修理してくれたヤーセルの好意を拒否して、『クズ』と罵られたトニーは『パレスチナ人はシャロンに皆殺しにされれば良かったんだ』と捨て台詞を吐きます。言うまでもなくシャロンイスラエルの軍人で元首相、レバノンの難民キャンプで大虐殺を引き起こしたとして国際的な非難を浴びた人物です。温和なヤーセルもさすがに怒り、トニーは殴られてしまいます。
パレスチナ難民のヤ―セル(右)。腕のいい現場監督としてレバノン人社会で働いています。


 怒ったトニーは裁判を起こしますが、裁判官からは『トニーの発言はヘイト・スピーチ』とされて、相手にされません。当たり前ですよね。更に激昂して上告するトニーに今度は自分の名を売ろうとする大物弁護士が味方します。弁護料は無料でいいから徹底的に戦おう、というのです。
●トニーに付いた大物弁護士。排他的な言辞を広めて裁判に勝利しようとします。


 一方 ヤーセルには人権派の女性弁護士が味方する。彼女は、その大物弁護士の娘でした。 
●ヤ―セルについた女性弁護士(右)は自分の名声のためなら手段を択ばない父親のやり方が我慢がなりません。
  


 この裁判をマスコミが報じると、話は国中を巻き込んだ騒ぎになります。


 最初はこのトニーを見ていると、イライラします。映画を見ながらずっと『クズ』、『ボケ』、『死ね』と心の中でずっと罵っていました。日本のネトウヨみたいな連中はレバノンにもいる。ほんと、バカでクズなんですよ。
●法廷で暴れるトニー


 ところが、これが監督の盛り上げる『手』なんですね(笑)。
 テンポも良いし、お話がどんどん大きくなっていく様子がちゃんとしたエンターテイメントになっている。ドロドロしているどころか、結構面白かった。レバノン人監督のジアド・ドゥエイリタランティーノのアシスタントカメラマンだったそうですけど、娯楽作品というのが良くわかっています。で、話が盛り上がるだけ盛り上がったところで、一筋縄ではいかない話になってきます。


 レバノンという国はもともと自然に恵まれた豊かな国だそうですが、人口構成は複雑です。キリスト教徒マロン派が人口の約4割、イスラム教徒がシーア派スンナ派を合わせて人口の約5割強、さらにパレスチナ難民が人口の約1割。17年も続いた内戦にはイスラエルやシリア、PLOも絡んでいます。利害が複雑にこんがらがっている。お互いが弾圧や虐殺をやっているし、パレスチナ難民に対する是非もある。これはもう、そう簡単に割り切れない世界です。
●ヤ―セルと妻。イスラエルの虐殺から、やっとレバノンに逃れて、つつましく暮らしてきました。


 TVを見た視聴者からトニーの自宅に『お前はイスラエルの味方か』と、脅迫が殺到します。一方 ヤーセルは騒ぎで現場監督の職を失ってしまいます。更に弁護士の手によってお互いの過去が暴かれていきます。


 映画自体は爽やかな後味で悪くありません。エンターテイメントとして良くできています。面白いです。トニーはただのアホですが、アホと言って切り捨てられないお話しの構造になっているのも良い。
●トニーの父(右)と妻。二人はバカな裁判なんかやめろと度々トニーを窘めます。


 あと、イスラエルに対する恨み、特に82年にヨルダンの難民キャンプで1000人以上もの虐殺を引き起こしたシャロンに対する恨みがアラブの人々の間に骨髄に染みている、と言うのも想像以上でしたし、レバノンパレスチナ難民が置かれている立場、というものも画面で見るまで全く想像がつかなかった。いくらアラブの同胞とはいえ、人口の1割も難民を受け入れているヨルダンで難民に対して複雑な感情を持つ人がいる、というのも判ります。

 またトニーやヤーセルの妻など、この映画に登場する女性たちがバカな憎しみを持つのは止めろ、と訴え続けるのも印象的でした。彼女たちは日々の生活を大事にしているんです。生活を大事にしていれば、憎しみに身をゆだねる暇や余裕などない、ということでしょう。
●駐車場ですれ違うトニーとヤ―セル。二人が和解する日は来るのでしょうか。


 完成度も高いし、勉強にもなる、良い映画であることは間違いありません。ただ、やっぱり隣人同士の諍いのような人間関係物はあんまりすきじゃないなあー。