特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『相対性理論@六本木』と映画『タリーと私の秘密の時間』

日本列島を縦断するような台風が近づいてくるようですね。
先週はボクの住んでる地域でも1時間に110ミリという瞬間的な豪雨がありました。そうなると前なんか全然見えません。びっくりしました。今回は何事もないといいんですが。


今朝 文科省が、『小学生のランドセルが重すぎるとして家庭で使用しない教科書や、リコーダーや書道の道具は施錠ができる教室の机やロッカーに置いて帰ることを認めるよう、全国の教育委員会に通知する』というニュースが出ていました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180903/k10011605301000.html


こんなことまで文科省が通知をしなければならないのでしょうか? また、今まで学校は教科書を持って帰るかどうかまで生徒に指示を出していたのでしょうか? 更に生徒はそんな指示を真に受けていたのでしょうか?
遥か昔を振り返れば(笑)、ボクが小学校の時は教科書なんか机の中に入れっぱなしでした。家では見ることなんかないんだから(笑)。確か教師に家に持ち帰れと言われたことはあったかもしれないけど、ボクだけじゃなく、多くの子供が机の中に入れっぱなしだったと思います。それで教師は何も言わなかったし、親も生徒も何も言わなかった。当たり前でしょう。そんなチマチマしたことまで(笑)、どうして他人に指示されなきゃならないんでしょう。

最近は教師は忙しいと聞きますけど、こんなセコいことまで指示をしてりゃあ、忙しくなりますよ(笑)。生徒や親もそんな指示を真面目に受け入れているのでしょうか。バカの寝言なんか普通 無視しないの?(笑)。安倍晋三もひどいけど、教育もひどい。驚きです。これじゃ、日本の将来なんか真っ暗ですよ。
小学校の段階からいきなり、大人が寄ってたかって子供が自分の頭で考えることをスポイルしている。学校や教師に言われたとおり動くよう、子供を訓練している。それで大人になってから、クリエイティヴになれとか、個性的になれとか言ってもムリ、ムリ(笑)。やっぱり、日本の将来は新興国の下請けしかないかもしれません。他人に言われたとおり動くのだけは得意でしょうからね。
●今週の予定(笑)


●ネット・フリックスってライシュ先生のドキュメンタリーまで作ってるそうです。でも見る時間ないからなあ。



週末は 六本木EXシアタ―で相対性理論のコンサート『変数1

このバンドのことは度々書いてます。
当初は姿をさらさない覆面バンドだったのですが、今はヴォーカルのやくしまるえつこソロ・プロジェクトなんでしょうか。この人はNHKスペシャル『欲望の資本主義』やいろんな民放のドキュメンタリーのナレーションをやっていますから、名前は知らなくても声を聴いたことがある人は多いはずです。ももクロなどに曲も提供していますしね。音の方もユニクロなど様々なCM音楽や『セーラームーン』などのアニメ主題歌などをやっているのでバンド名を知らなくても多くの人が音は耳にしているはずです。最近は展覧会やパフォーマンスなど現代美術系の方へも行っているようです。
以前 このバンドのことをiireiさん虚虚実実――ウルトラバイバルが『マザー・グースみたいだ』と超鋭い指摘をなさっていましたが、マザーグースのような残酷な言葉遊び+ロリータ・ヴォイス+ジャズ系の超うまいミュージシャンの3ピース・ロックの演奏+ライブではインプロヴィゼーションの嵐、という感じでしょうか。


3年くらい新しいアルバムが出ていないにもかかわらず、ライブに行きたいと思うのは、演奏が超うまいからです。ボクはどちらかというと音楽は熱量を大事にしていて、技術志向ではないのですが、このバンドは凄い。3ピースバンドということだったら、昔の『ポリス』ってこんな感じだったのかと思うくらい(ほめ過ぎ)。
歌は下手クソだけど、躍動するリズムと重いベース、それに弾けまくるギターで、ポップなメロディを演奏しているのを聞いているだけでもかなり楽しい。と、思って油断していると、途中で地獄のような(大袈裟)ノイズとインプロヴィゼーションの嵐が襲ってきます。


ジャストなリズムのノリのいい演奏ですが、熱狂を拒否するかのようにやくしまるえつこは直立不動、淡々と歌い続けます。観客も直立不動(笑)。これだけ演奏力が高ければいくらでも盛り上げたりできるんですが、そういうところは一切なし(笑)。こういう熱狂を拒否するところが如何にもわざとらしさを嫌う元来の東京者の感性を感じます。こういうところはボクの大好きなムーンライダーズに良く似ている。
今回はメンバーの前に薄い半透明のスクリーンを貼って、プロジェクションマッピングを映しながらの演奏でした。それ以外は今までと大きな違いはありませんでしたが、演奏の充実感は高かったです。当初に比べてインプロヴィゼーションの曲が増えたなあと思いながら、主に人類の滅亡をテーマにした(笑)達者な演奏を聴いてました。1時間半の短い時間でしたが楽しかったです。
●昨年 オーストリアで開催された芸術・先端技術・文化の祭典『アルス・エレクトロニカ』授賞式で『わたしは人類』。カッコいいです。演奏は5分40秒頃から。




ということで有楽町で映画『タリーと私の秘密の時間映画『タリーと私の秘密の時間』 | 大ヒット上映中!

40代の母親マーロ(シャーリーズ・セロン)は製造業の人事部勤務で子供二人の母親。現在3人目の産休中だが、情緒不安定の長男のおかげで何度も小学校から呼び出されたり、家事に追われるてイライラしている。システム・エンジニアの夫、ドリュー(ロン・リヴィングストン)は優しいが、家のことはマーロにまかせっきり。壊れかけているマーロを見かねた大金持ちの兄が、夜だけ育児を手伝ってくれるナイト・シッターを雇うことを勧めるが- - -


マイレージ・マイライフ』、『ヤング≒アダルト非転向(笑)のススメ:映画『ヤング≒アダルト』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)ジェイソン・ライトマン監督、ストリッパーからアカデミー脚本賞受賞という女性脚本家ディアブロ・コーディ、オスカー女優シャーリーズ・セロンの3人が『ヤング≒アダルト』に続いて再び組んだ人間ドラマです。地味なテーマで東京では1館でしか公開していませんが、3人ともボクは大好きなんで期待値はめちゃめちゃ高い(笑)。

●今回 シャーリーズ・セロンは18キロ増量して子育てと生活に悩む主婦、マーロ(左)を演じています。


絶世の美女、シャーリーズ・セロンの最近の出演作はスタイリッシュな、だけどアクションは生々しくて痛そうな『アトミック・ブロンド怖くて素敵なお姉さまたち:映画『女神の見えざる手』と『アトミック・ブロンド』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)でした。今回のシャーリーズ・セロンは体重を18キロ増やした40代の主婦。落差がありすぎ。太った役をやるのは初めてではありませんが、絶世の美女がだらしなく太った姿を画面に晒すのは見ている側にもショッキングです。 
●前作『アトミック・ブロンド』でのシャーリーズ・セロン

●今回は妊婦役のシャーリーズ・セロンと旦那。旦那は悪い人間じゃないんですが、使えない。



出産寸前で産休中という設定の彼女の主婦演技は凄いです。長女には手間がかかりませんが、情緒不安定で知的障害が疑われている長男は揉め事ばかり起こす。日常生活の面倒だけでなく、度々生活態度で学校から呼び出しがかかります。家事に子供たちの送り迎えと、大きなおなかを抱えたマーロはただでさえ忙しいし辛いのに、さらに余計に手間がかかる。単に家事・育児の問題だけではありません。彼女たち夫婦は典型的なアメリカの中産階級なんですが、彼女たちの階級が抱えている歪が良く描写されている。これは今までのジェイソン・ライトマン監督の作品と共通しています。
●マーロの二人の子供


それでも、マーロは完璧な母親であることを目指します。食卓には栄養を考えた手作りの料理を並べたいし、たまには学校にお菓子でも焼いていきたい。でもそんな時間はありません。焦りは募り、余計にうまくいかない。まさに自縄自縛です。旦那は優しいけれど、システム・エンジニアで帰りも遅い。就寝前のベッドの中でも ヘッドフォンをつけてアクションゲームをやってる始末。要するに使えない男です(笑)。ボクが見ていてもイライラする(笑)。


もちろん もっとイライラしているのは妻のマーロです。化粧も自分の身体の手入れも放ったらかしで性格まで快活さを失くしたマーロに、兄夫婦は夜だけ育児を手伝ってくれるナイト・シッターを雇うことを勧めます。
●実際の映像ではこんな写真の100倍は凄い、本当に壮絶な主婦の生活が描かれます。シャーリーズ・セロンが文字通り鬼気迫る演技を見せます。


シャーリーズ・セロンが執拗に生活感あふれる演技を見せつけます。本当に執拗、なんです。ここは今回のシャーリーズ・セロン&女性脚本家ディアブロ・コーディの見せ場だし、実際すごく面白いんですが、執拗過ぎて、映画としてはバランスが悪く感じるところもあります。が、こういうことをこれだけ執拗に描いた映画って今まであったでしょうか? 現実には存在していることなのに。
家事と育児に追われ、睡眠すらままならなくなった孤独なマーロが、背に腹は代えられなくなって雇ったシッターは25歳のタリー(マッケンジー・デイヴィス)です。初対面でへそだしルックでやってくるタリーにマーロは戸惑いを覚えますが、実は教養もあって家事も完璧なタリーに、孤立無援だったマーロは次第に心を許すようになります。
●裕福な兄夫婦に勧められたシッターを最初は頑として拒否していたマーロですが、とうとうタリ―(左)を雇います。


人に頼ることを学んだことで表情が変わっていくマーロ。次第に物語は一人の女性がまた一つ、大人になっていく成長物語に変わっていきます。
シャーリーズ・セロンの演技は完璧です。3か月半掛けて18キロ増量した後、1年半かけて体重を元に戻したそうですが、皮膚が弛まないのかなあ。ディアブロ・コーディの生活感あふれる脚本も面白いし、主婦だったら共感できるところは多いでしょう。マッケンジー・デイヴィスも緩急メリハリが効いていて、かなりいいです。この人は来年公開されるジェームズ・キャメロンの『新ターミネーター』でヒロイン役をやるそうです。
●タリ―(マッケンジー・デイヴィス)の造形はかなり面白いんです。だからもうちょっと掘り下げてほしかった。


シャーリーズ・セロンの贅肉を徹底的に見せつけるような(笑)細部にこだわった描写なんですが、タリ―という人間があまり語られないのもどうしてなんだろうとは思いました。ボクの想像するに、インテリなんだけどストリッパーをやっていたという脚本家ディアブロ・コーディにキャラが似すぎていて敢えて脚本に描かなかったんでしょうか。演じるマッケンジー・デイヴィスもいい感じだったし、もうちょっと掘り下げたらマーロとの関係もより説得力が増すのに、とは思いました。


ヒューマニズム溢れる作品を撮ってきたジェイソン・ライトマン監督も強烈な女性二人に今回は引きずられたかも(笑)。タリーがコスプレをして驚愕の行動に出るところや、マーロとタリーがNYの街へ繰り出すところでシンディ・ローパーの懐かしい名盤『She's So Unusual』を敢えて全曲使うところなんかバッチリ冴えてましたけどね。

シーズ・ソー・アンユージュアル

シーズ・ソー・アンユージュアル


成長した夫婦二人に訪れる穏やかで温かなエンディングは本当に素晴らしいし、丁寧な描写と役者の熱演で水準以上の映画であることは間違いないです。ここいら辺はいつものジェイソン・ライトマン節です。凡百の監督とは人間観が違う、と思います。ただ、このトリオだったら、ボクは大傑作を期待してしまうんです。勝手にハードル上げてる自分が悪いんですが。ただ、この映画を傑作と思う人はいると思います。