特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

人生を収穫する話と、どぶに捨てる話:映画『人生フルーツ』と『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』

始めに業務連絡(笑)から。毎週?金曜日のデモ特集(#金曜官邸前抗議)は今週はお休みです。代わりに土曜日の3月11日に国会前で大規模な集会がありますので、今週は更新も土曜日夜にしたいと思います。

                   
さて、毎度のことですが、週末はあっと言う間に過ぎてしまいます。映画見て、半身浴やって、本を読んで、ギター弾いて、ごろごろして、ワイン飲んで、楽しくて忙しくて息つく暇もない?くらいです。良く定年になるとやることがない、と言っている人を見かけますけど、ボクは全然信じられないです。健康であれば、定年後は毎日が天国じゃないですか?(笑) 本を読んだり、半身浴やったり、ギターを弾いたりするのは特別の事でもない、ごく普通の話だと思うんですが、それをこんなに待ち遠しく思うのは、やっぱり、普段の自分の生き方が何か間違っているのかな(笑)と思うんです。



この前 友達が額にばんそうこうを張っていたので理由を尋ねたら、家の中で戸棚に頭をぶつけて縫ったと言うんです。大丈夫と思ったら転んでしまった と。最近は自分でも歳を取ったなーと自分で思うことが多いです。でも大抵の物事と同じように、年齢も所詮 相対的なモノに過ぎないじゃないか、とも思えるんです。
例えばデモ。大学生主体のSEALDsのデモとかは別ですが、普段 行くようなデモは参加者の中ではボクは圧倒的に若手です(笑)。やっぱり参加者は団塊世代とかが多い。白髪の人ばかりが目立っていると、大丈夫かなーとは思ってしまいます。現役世代は忙しいから仕方ないかもしれませんが、そこが変わってくると世の中も変わってくるんでしょうけどね。あ、ボクがヒマだっていうわけじゃありませんよ(笑)。
例えば食べ物屋。洋食、特にイタリアンの店なんかに行くと、ボクはもう、年長組になることが多い。フレンチとかイタリアンでもきちんとした店だったら、真ん中くらいかな。ところが和食だと、圧倒的に若造扱いです(笑)。接待客がいない土日に懐石とか行ったら、ボクら以外のテーブルが全て70代くらいなのはザラにあります。まるで自分が若くなったような気がするから、最近は和食好き(笑)。
いずれにしても、歳を取るとはどういうことかって、以前よりは切実に?考えてみたりするわけです。


特に何かをやりたいとか何かを目指すとか、そういう大それた欲求がないボクは、20代の頃から、もしかしたら、10代の頃から、定年が待ち遠しくて仕方がないんです(笑)。仕事とか人間関係のごちゃごちゃしたものはお断り。ただただ、心穏やかに過ごしたい。そういう楽しい定年を迎えるためにも(笑)、自分の人生をどう締めくくったらいいか、人生の果実をどう収穫していったら良いか、どうしたら無駄な人生じゃなかったと思えるか。答えはわかるわけないんだけど、時にはそんなことも考えてみようかな
今回はそういう映画の感想です。



東中野で映画『人生フルーツ映画『人生フルーツ』公式サイト

                            
 
昨年話題になった『ヤクザと憲法TVドキュメンタリー2題:『「報道の魂」 -民主主義 何度でも-』と映画『ヤクザと憲法』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)と同じ東海テレビ制作のドキュメンタリーです。ナレーターは樹木希林。1月に公開以来 大ヒットしていると言うことで、見に行ってみました。
●開場前の映画館に行列が出来ています。毎週土日にできる、この行列は新聞でも取り上げられていました。

名古屋市から約40分の高蔵寺ニュータウンで雑木林に囲まれ自給自足に近い生活を営む建築家の津端修一氏(90歳)と妻の英子さん(87歳)の日常を追ったドキュメンタリー。造成直後に買った300坪の敷地に雑木林を植え、畑を作る。自分で設計した平屋造りの家で夫婦二人で暮らしています。旦那さんは終戦直後に東大を卒業した建築家で元住宅公団で集合住宅を建てていた人です。効率優先の住宅づくりに疑問を持ち、自らがデザインした春日井市ニュータウンに移り住んできた- - -
●主人公の津端夫妻

                            
文字通りの二人のスローライフは魅力的です。いかにも建築家らしく、何でも自分で作る。畑には自分で作った標識を植え、小鳥が水を飲むための水盤や旗竿など色々な工夫がしてあります。
●作物を育てる庭には二人の手作りとこだわりが詰まっています



 
                            
奥さんも何でも手作り。電気釜ではなく土鍋で炊いたご飯に、手作りのおかず、食後のケーキも何種類も作ってある。旦那さんはご飯、奥さんはパン食。この年代で欧風の食生活の奥さんは200年続いた造り酒屋の一人娘、お嬢さん育ちです。言葉にはしませんが、自分の好きな建築と趣味のヨットしか興味がない旦那さんにはだいぶ苦労させられたようです。
●旦那さんが設計した平屋で二人は暮らしています。

二人とも、『アラ90』(笑)にも関わらず、頭も体もしゃっきりしてる。奥さんの方ははっきりした性格でしゃきしゃき喋るのに対して、旦那さんの方は白い長髪で物腰も柔らか、如何にも芸術家という感じです。
個人的にボクはこういう爺さん、良く知ってます。絵描きだった大叔父もその周りの人たちもこういうタイプの人が多かった。こういう人は声を荒げるようなことはないし、人に対してはとても優しいことが多い。人格者のおじいちゃま、そんな感じです。
ところが実態はそんな甘い話じゃありません。子供のときは『優しいおじいちゃま』と思ってましたけど、今 考えてみると違う。こういう人たちは人間に興味ないんです(笑)。絵とか建築とか、芸術にしか興味ないから、どうでもいい存在である人間には優しくできるんです。自分が芸術に専念したい、こういう人たちが考えることはまさにそれ、です。この旦那さんもいかにもそういうタイプ。もちろん、それはそれで悪いことではない。良く言えば人間が純粋ってことでもあります。周りの人には大変なときもあるんですけどね(笑)。あ、他人のことは言ってられないか(笑)。

                            
このご夫婦の生活はある意味 非常に過激(エクストリーム)です。魚や野菜などは87歳の奥さんが名古屋市へ買い出しに行ってまとめ買いをします。40年以上通った決まった店でしか買わない。それだけならボクも似たような感じですけど、この夫婦は買った後 店にスケッチ入りの感想を書いた手書きの絵葉書を必ず送りつけるのです。これは凄い(笑)。ここまでやられては店の方もこの老夫婦の言うことを聞かざるを得ません(笑)。良いものを老夫婦の為にとっておきますよ。

                                 
お孫さんがシルバニアファミリーのお家が欲しいと言えば、自分で作ってしまいます。さすが建築家。家具まで手作りの豪華3階建てドールハウス。うさちゃん人形の家は人間より立派です。でも夢がある家。
●ちなみにボクの家にはうさちゃんはいませんが、ひつじ君たちがいます。遥か遠くのシルクロードウルムチからボクについてきてくれたんです。

                                       
一事が万事、この調子です。夫婦二人の生活、今迄歩んできた道のり、そして旦那さんが最後に残した仕事は非常に感動的です。芸術バカと思っていた旦那さんが実は世の中の深いところまで考えていたことも最後に良くわかります。
畑の草むしりをした後 昼寝して起きてこなかった、という旦那さんの最後はまさに理想の人生でした。ボクもこういう風に死にたいです。


1時間半のドキュメンタリー、非常に考えさせられるところが多い秀作ドキュメンタリーでした。建築も作物も料理も人間も、自分でコツコツ育み、ゆっくりと収穫する何気ない生活が世の中で最も尊いことが良くわかる作品。ある意味 理想の人生。それをスクリーンで垣間見ることができるんです!これから全国を回ると思いますが、お近くに来たら是非。とてもとても面白いです。




更に もうひとつ、青山でドキュメンタリー『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ映画『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』公式サイト|2017年2月18日(土)より公開

主人公は米民主党の7回当選の下院議員アンソニー・ウィーナー。若くてハンサムなルックス、リベラルな政治姿勢と鋭い弁舌。ヒラリー・クリントンの右腕と目されてきた才色兼備の女性フーマと結婚した彼はまさに将来を嘱望される存在だった。ところが2011年彼はツイッターに自分の下半身写真を誤って投下してしまう。彼には女性と性的なメッセージを送りあう性癖があったのだ。全米中にスキャンダルが知れ渡った彼は議員を辞職する。その2年後 彼は再起を目指してNYの市長選に立候補するが

                                    
映画は下院議員当時のウィーナーが活躍する光景から始まります。若くてルックスも良く、リベラルな政策を訴える彼の姿は果敢と言ってもいいほどです。鋭い弁舌で現在の副大統領ペンスを黙らしてしまうシーンもあります。やがて彼はヒラリー・クリントンの長年の右腕とされていた女性、フーマと結婚します。仲人はクリントン。ヒラリーは彼女のことを自分の娘、とまで言っています。これは前途有望です。
●ウィーナーと奥さんのフーマ。ユダヤ人とアラブ系のカップルです(WIKIより)。


                             

ところが、彼の立場は一夜にして転落します。奥さんが妊娠中にアダルトサイトにアクセスして、ブリーフ姿になっている写真を掲載していたのが公になってしまったのです。言い訳のしようもない、あまりにもマヌケな彼の実態が暴露されて、下院議員を辞職せざるを得なくなります。
●苦しい記者会見もバッチリ、映画は捉えています。


                                      
このドキュメンタリーはウィーナー家の中まで入りこんで、家族の生々しい表情を捉えています。奥さんの呆れたような、苦々しげな表情をなんと表現したらよいのでしょうか。いやー(苦笑)。
2年が過ぎ、ウィーナーは再起を図ります。ニューヨークの市長選に立候補するというのです。クリントンのスタッフのチーフを務めている奥さんも協力します。長年 表舞台に出なかった彼女ですが、自ら選対にまで入るのです。夫婦二人で民主党内の予備選を戦います。
●選挙期間中の夫婦の生々しい会話が収められています。これはすごい。



大金持ちのブルームバーグ市長の後継を選ぶ選挙戦です。ウィーナーのキャッチフレーズは中産階級のためのニューヨークを!』
ウィーナーの選挙戦を見ていると、非常に魅力がある政治家であることが判ります。若くてハンサム、お洒落。明るく人を引き付ける魅力がある。NYの大規模なゲイ・パレードに参加してレインボーフラッグを振る彼の姿は本当に格好よかったです。映画を観ているボクがそう思うくらいですから、沿道の市民はより強く彼の魅力を感じたに違いありません。
●キャンペーン中の彼はカッコいいです。魅力あります。

                           
見ていて面白かったのがウィーナー陣営です。ウィーナーはバリバリのユダヤ教徒。奥さんのフーマはアラブ系。選対のスタッフも責任者はインド系だし、他にも白人、アフリカ系、中国系と実に多種多様です。リベラルな土地柄であるNYということもあるんでしょうが、色々な人を引き付ける彼の魅力を認識させられます。ウィーナー自体もレインボーパレードで南米の様々な国の人たちのグループの中に入っていきます。ニューヨークの民主党ってこんな感じなんだなーと。こりゃあ、トランプに投票するようなド田舎の無知な白人から絶対に受け入れられないだろう(笑)とも思いました。
アメリカの選挙ってこんな感じなんだなーと思いました。

                                           
選挙戦が始まるとウィーナーは世論調査でもトップを走ります。かってのスキャンダルを蒸し返されても、得意の弁舌で切り返します。何と言っても美人の奥さんがウィーナーの傍らに立ってるのも説得力があります。

                               
ところが。
今度は彼がアダルトサイトにアクセスして下半身丸出しの写真をアップしていたことが暴露されます(笑)。過去の事とは言え、破壊力抜群です。カメラは一気にお通夜のようになるウィーナー陣営を捉えています。それに怒りをかみ殺す奥さんの表情も。大統領選への影響を心配したクリントン陣営からも奥さんに旦那の支援を止めるようお達しが来ます。まさに四面楚歌。
●アダルトサイトで知り合ったラスヴェガスのねーちゃんまで、カメラ帯同で選挙事務所に押しかけてきます。彼女はスキャンダル発覚直後にポルノ映画に出演。

                                                  
それでもウィーナーは選挙戦を諦めません。
民主党の地域集会での彼が面白かったです。集会で彼はブーイングの嵐を浴びます。でも彼は弁舌で切り返すんです。『(中産階級のために)私は困難に負けない市長になる』と。お見事です。ブーイングの嵐だった会場の雰囲気が一変して熱狂的な支持に変わる瞬間をカメラは見事にとらえています。

                           
ただウィーナーはどうしても人間が軽い(笑)。街で彼に絡んできたユダヤ人とTVカメラの前で大喧嘩してしまいます。アラブ系の妻と結婚したことを差別的なユダヤ人が侮辱したから彼が怒るのは当然なんですが、そのシーンはTVでは使われず、差別クズのユダヤ人とケンカしているシーンだけが使われてしまいます。彼は弁舌が立つ分、余計にワイドショーのネタになってしまうんです。
●カメラの前で差別主義者のクズ・ユダヤ人と口論するウィーナー

                 
結果 ウィーナーは最下位で落選。政治生命を断たれたウィーナーはヒラリーのスタッフに転職しました。奥さんとは映画撮影後の昨年、離婚。

                    
もしかしたら大統領になれたかもしれない男がアホなスキャンダルで身を滅ぼしていく姿を身近に見るのは、大変興味深い体験でした。この人、リベラルであるだけでなく、有能で魅力的です。だけど社会生活だけでなく、プライヴェートな面でも自己顕示欲が強かった。それも病的に強すぎたのか、と思いました。映画の最後に彼は、密着取材を許可した理由を自分という人間を判って欲しかったから、とカメラの前で述べています。映画としてはとても面白かった〜。でも、勿体ない(苦笑)。