特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

#1108原宿高校生デモ と映画『ミケランジェロ・プロジェクト』

日曜日は生憎の雨でした。だけど、国会前に来ていた高校生たちがhttp://teenssowl.jimdo.com/原宿で安保法制に反対するデモをやる、と言いだしました。場所や時間が明確になったのは3、4日前ですが、大人としては応援しないわけにはいかない。頭数を増やさなきゃいけない、カンパもしなくちゃいけない、と思って原宿へ行ってきました。
●僕たちが忘れると思ったら大間違い、だそうです。

集合場所は渋谷の宮下公園です。ここで簡単に集会をやって、デモ出発という段取りです。高校生の子が簡単にあいさつした後 まずマイクを取ったのは共産党志位和夫です。『国会前の人々を見て、共産党は変わらなければいけないと思ったんです』と改めて言ってました。あれだけ独善的だった共産党がここまで言うと、やはりインパクトがあります。『安保法制を潰すだけでなく、解釈改憲閣議決定も取り消しをしなければいけない』と言ってました。閣議決定までは気が付きませんでした。彼の言う通りです。
●雨合羽を被った志位和夫

                                               
その後マイクを取ったのは民主党蓮舫議員。安倍の新三本の矢を批判して『経済の問題も少子化の問題も今始まったことじゃない。安保法案なんかやる暇があったらそういう問題にもっと早く取り組むべきだ』と言ってました。ボクは事業仕訳の茶番などでこの人はあまり好きじゃないんですが、この日は気持ちが伝わってくる気合の入ったスピーチでした。今まで聞いたことがある彼女のスピーチとは明らかに違っています。枝野や福山もそうですが、今夏 市民が立ち上がったことが、一部でも政治家を変えたんだ、と信じたいです。
●雨の日でも白いスーツの蓮舫議員

                                                 
その後 高校生が音頭をとって志位和夫蓮舫を壇上に並べます。高校生、大したもんです。参加者からは『野党は共闘!』という声が沸き起こります。その中で二人は握手した手を高く掲げました。自慢じゃありませんがボクが一番最初に『共闘しろよな〜』とキレ気味にコールしましたから(笑)。蓮舫氏は自分が雨に濡れるのも構わず、壇上で雨に濡れたままの女子高生の頭にフードをかぶせていました。自分から体が動いた、ごく自然な振る舞いです。実はこういう人なのか〜
●ったく、頼むよ〜。高校生が握手させてるんだからね。

                                           
そのあと、デモへ出発です。参加者はボクがざっと数えて1000人弱くらいでしょうか(主催者発表1000人、日テレは300人と報じています)。正直 参加者は大人の方が多いですけど、お互いに『若い人は前へ』と声を掛け合います。集会の時は高校生たちはおどおどした感じでしたが、デモが始まると生き生きとコールを始めます。すごく活気があります。コールをしている子だけでなく、隊列に並走しながら男の子がトラメガを持って、賢明にコールをしています。蛍光色のサングラスをかけてリュックを背負った、鼻ぺちゃの女の子が誘導のために前へ後ろへ走り回っています(仔犬が走り回っているみたいで可愛かった)。皆 傘もささずに、です。まったく頭が下がります。
●抗議風景











                                          
デモはコールとスピーチをミックスする形で進んでいきます。BGMを流しながらのコールのテンポは相変わらず、すっごく速い。SEALDsどころではない。出発前に時間が余ったので、高校生が『英語が不得意な人とか大人の人とか(笑)、テンポが早くて大変だと思うんですけど、ついてきてください』と言ってコールの練習もしたんです(笑)。なかでも『とりま、廃案』に対して『それな、それな』と言うコール。これは今年の『現代用語の基礎知識』に載ると彼らが言ってましたけど、全然意味がわかりません(笑)。ボクは早さにはついていく自信はあるんですが、ずっとそのテンポだと疲れることに初めて気が付きました(笑)。BPMをもう10くらい落としてくれると助かるんだけど(笑)。もちろん『民主主義って何だ!』『これだ!』など国会前のコールは健在です。既存の政治団体のコールと違って、どうしてこんなに生き生きとしてるんだろう。
●テンポが早い〜

●SEALDsでもそうでしたが『一緒に歩こう!』は凄く良いコールだと思います。街角の人に呼び掛ける、開けた姿勢はオールド左翼の連中には殆ど見られません

コールの合間の高校生たちのスピーチも印象に残りました。仙台から来たという女の子は『地震の復興を手伝ってくれた自衛隊員を見て、自分も自衛隊に入ると言い出したクラスメイトが居ます。そういう子を戦場に送りたくないんです』と言ってました。他の子の話も含めて、彼らの話を聞いて、戦争になったら一番被害をこうむるのは彼ら、彼女ら、と言うことに改めて気が付きました。まだ選挙権は無いかもしれませんが、彼らには大人より意見を言う資格があるのかも、と思いました。
                                         
ボクなんかはシュプレヒコールなどで『戦争法案』とか『戦争反対』と呼ぶのはやや抵抗があるのですが、スピーチではちゃんと『戦争が起きるリスクが増えるから、戦争法案と言うんです』と言ってました。判ってるよなあ。SEALDsもそうでしたが、最近の女の子たちは本当にしっかりしている子が多い。
                                       
主催のT-nsSOWLの子たちは最初はSEALDsと一緒に活動していました。でもSEALDsに対してクズどもからの中傷やデマが起きるようになって、高校生をそんなものに晒すわけにはいかない、としてSEALDsからは外れてもらったそうです。そしたら彼らはいつの間にか自分たちで勝手に活動を始めた(笑)。稚拙でも自分の頭で考え、実行できる。前途有望な子供たちです。今日もフロントに立つのは高校生ですが、目立たないところでSEALDsの子たち、それに応援の大人たちがサポートしています。
●代々木公園にも紅葉が色づき始めています。

                                      
音楽に載せてコールをしながら渋谷&原宿の目抜き通りを抜けて代々木公園へ歩くのは正直、楽しかったです。原宿では沿道で音楽に載せて傘を振ったり、デモを見て嬉しそうに写真を撮る若い人も結構いた。デモは恰好いいもの、楽しいもの、と思える子も増えてきているのかもしれません。
                                                       
かって通学路だった道を大人になった自分が高校生と一緒にデモをしている、というのは奇妙な気持ちでしたが、段々世の中が良くなっている気すらしました。カンヌでグランプリを取った映画『アデル、ブルーは熱い色』でフランスの高校生たちが普通にデモに参加する光景が描かれていたのが印象に残っているんですが、日本で同じような光景が実現するとは夢にも思わなかった。悪いけど既存の政治団体の集会なんて、感動するようなことは少ないです。往々にして頭にカビが生えた爺さんが干からびた繰り言を長々と並べているだけだからです。『総がかり行動』の集会で聞かれたスピーチのように、内輪にしか通用しない(笑)偉そうな肩書を並べたオールド左翼の戦略も知性もない寝言より、稚拙でも一生懸命な人たちの姿のほうがよほど人の心を動かします。
                                                                                     
こういう動きが増えてきて初めて、本当に世の中が変わってくるんだろうと思います。終着の代々木公園で高校生たちに『ありがとう〜』とお礼を言って頭を下げ、カンパの袋にお札を押し込んで帰りました。本当にありがとう。う〜ん、こっちが応援されてしまった(笑)。
●終着点で:彼らのサウンドカー

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●当日の様子(彼らのtumblr):観ていて楽しい写真です。こういうものの活用は若い人はホント、うまい。見習わなくては。
http://shintayabe.tumblr.com/post/132797353670/151108-t-ns-sowl-安保法制に反対する高校生原宿デモ
●日テレ、朝日新聞の報道
高校生ら300人、都内で“反安保”集会|日テレNEWS24 http://www.asahi.com/articles/ASHC85DC1HC8UTIL00F.html
毎日新聞の動画:この日の様子が良くわかる2分間のダイジェストです。
毎日動画



                                                              
デモのあとは、渋谷で映画『ミケランジェロ・プロジェクト』(原題:Monuments Men)

舞台は1944年、連合軍がノルマンディ上陸を果たしドイツの敗色が濃厚になっていた。ナチスはヨーロッパ各地で貴重な美術作品を盗み出し、故国に持ち帰ろうとしている。それを阻止するためハーバード大付属美術館長(ジョージ・クルーニー)は大統領を口説いて、美術品確保の部隊を組織させる。集まったのはメトロポリタン美術館のキュレーター(マット・デイモン)、建築家(ビル・マーレー)など戦争はド素人の美術のプロたち。ヒトラーは自分が死んだら、美術品やインフラは全て破壊しろという『ネロ指令』を出している。東からはソ連軍が美術品の略奪を狙っている。果たして彼らは貴重な美術品を奪還できるだろうか。
                                                                            
第2次大戦中の実話をベースにジョージ・クルーニーが監督、主演を務めた新作です。ジョージ・クルーニーという人はリベラルな考えの持ち主で、ハリウッドのヒット作に出演する反面、自分の監督作では渋くて良心的な映画を作り続けています。ハリウッドの赤狩りをテーマにした『グッド・ナイト&グッド・ラック』や大統領選をテーマにした『スーパー・チューズデイ』など、地味だけど実に良い映画ばかりです。

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スーパー・チューズデー ~正義を売った日~ [DVD]

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ジョージ・クルーニー本人いわく『俺は大企業を搾取してるんだ。そのカネでいい映画を作るんだ』(笑)。自分のカネで偵察衛星を借りて、スーダンの虐殺を監視させたのも有名な話です。彼は虐殺に抗議してスーダン大使館前でデモに参加して逮捕もされています。ルックスも格好いいけど、やってることも格好いい。
今回のお話はノンフィクションとして以前 日本でも出版されていました。単なる戦争ものではなく、美術品を守るために知恵と命を懸けた人たちがいる、というのはユニークで面白い話だと思っていたので、ジョージ・クルーニーが映画化権を買ったと聞いて楽しみにしていました。

ナチ略奪美術品を救え─特殊部隊「モニュメンツ・メン」の戦争

ナチ略奪美術品を救え─特殊部隊「モニュメンツ・メン」の戦争

*上の本が映画化で文庫になりました。

史実ではモニュメンツ・メンの隊員は200名以上、活動期間も1944年から戦後まで続いています。それでは映画にできませんから、脚色を入れて映画として組み立て直しています。実話8割、フィクション2割くらいの割合だそうです。
マット・デイモンビル・マーレーの他にもフランスの美術館のキュレーター役でケイト・ブランシェットが出演するなど豪華な配役です。それを生かそうとして脚本を作ったんでしょうけど、お話としては少しまとまりが悪い。良いエピソードはあるんですが、ムリしてそれぞれの見せ場を作った感じで、突っ込みが浅いんです。ジョージ・クルーニーの大ヒット作『オーシャンズ11』のパターンを狙ったのかもしれませんが、それぞれのエピソードや途中で浮かび上がる『人間の生命と美術品、どちらが大事か』というテーマも中途半端になってしまった感じはあります。


                                              
だけど、それほど悪い映画でもありません。『ナチスは文化を破壊することで、人類の将来をも破壊しようとしている』と力説するジョージ・クルーニーの姿や、ビル・マーレーの相変わらずのトボケタ味、マット・デイモンケイト・ブランシェットの淡いロマンスは見ていて楽しめるでしょう。


                             
ボクはジョージ・クルーニー監督が執拗に挿入してくるナチスや権力者に対する辛辣な視線が面白かった。フランス人メイドがナチが使うシャンパングラスに唾を吐いたり、ナチが強制収容所ユダヤ人を殺して集めた金歯の樽を見つけたり、米兵が傷ついていくシーンや米軍や米政府の無能さを示すシーンをわざわざ挿入したり、全く容赦がありません。マット・デイモンが取り返した絵をユダヤ人に返しに行くシーンは見事でした。単なるエンタメにはしないぞというジョージ・クルーニー監督の意地なんでしょう。

                                
モニュメンツ・メンの活躍でナチが盗んだ数万点もの美術品が見つけ出され、元の持主に返されたそうです。ですが、ラファエロピカソの作品などナチに燃やされてしまったものも数多くある。ちなみにミケランジェロ・プロジェクトという邦題はナチに奪い去られたミケランジェロの彫刻を奪い返すエピソードから来ています。

                                                                                                                              
元の話自体が非常に面白いので、映画だったらもっと面白くできるだろ、という気はします。でもそういう予備知識なしに観れば、そんなに悪い作品ではありません。あまりうまくいってないにしろオールスター映画の華やかさもあるし、特にマット・デイモンはハンサムに描かれていました。実際 ジョージ・クルーニー監督の作品では最大の興行収入だそうです。ジョージ・クルーニーとかマット・デイモンみたいな、ルックスも考え方も文字通り好漢の俳優が出てるから、それだけで気持ちがいいというのも事実です(笑)。製作者側の術中に嵌っているのかもしれませんが(笑)。