特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

若者の全て:『0221全国一斉高校生デモ』と映画『フランス組曲』

日曜夜のNHK『新・映像の世紀 第5集』デビッド・ボウイのベルリンでのコンサートは話には聞いてましたけど映像では始めて見ました。ボウイが壁の東側へ向けたスピーカーから逮捕覚悟でコンサートを聞く東ドイツ市民の様子を映した隠し撮りまで放送するのは、さすがNHKです。60年代の学生反乱の流れから、20年後に話を無理やりもってくるのは牽強付会の誹りは否めないですが、それでも感動しました。この日はボウイのツアーの中でも格好悪いと悪評が高いグラス・スパイダーツアーのセットだったんですが、シチュエーションを聞くとメチャメチャ格好良く見える(笑)。ドイツ外務省が『ベルリンの壁を壊すのを手伝ってくれてありがとう』と追悼声明を出すのも判るし、ボクが東ベルリンの市民だったら人生変わっちゃう、と思いました。

                             
さて、唐突ですが(笑)、本屋で表紙を見て何十年ぶりかで雑誌『Switch』を買ってしまいました。

SWITCH Vol.34 No.2 藤原新也 新東京漂流

SWITCH Vol.34 No.2 藤原新也 新東京漂流

写っているのはAKBの指原莉乃という子です。ボクはAKB48って興味ないし、良くわからないんです。たまにTVで見かけると、きっとキャバクラってこういう感じなんだろうな〜と思うくらいです(笑)。Perfumeファンクラブ会員の小幡績慶大准教授は『Perfumeは愛情をベースにしたビジネスモデル、AKBはカネを収奪することをベースにしたビジネスモデル』って言ってたっけ。

売れっ子故、15分しかもらえなかった撮影時間で写真を撮った藤原新也は彼女にまず、『SEALDsって知ってる?』と尋ねたんだそうです。意外にも彼女は『知っている』と答えたそうです。更に藤原が『君と同年代のSEALDsの子が朝、目が覚めたら窓の外が廃墟が広がっていた、という夢を見たと言ってたんだ。今はそういう時代だと思う。』と言ったら、彼女はメイクさんが作った髪の毛を自分で下ろしてこういう表情をした、というのです。
どういう人か知りませんが、この子は頭もいいし感受性もあるんでしょう。確かに、今はこういう時代なんだと思います。正確には、若い子がこういう表情をしなくてはならない時代なんでしょう。これがいいことか悪いことかはわかりません。未来が未来であることだけで希望を持てた、かっての時代とは違う。でも世の中はすこしずつマシになっている。少なくとも今の若い子たちは能天気な上の年代より何かを学んでいるように見える。彼女の表情を見て、ボクはそう思いました。


                          
ということで、日曜日は先週に続いて渋谷へデモに行ってきました。
『0221全国一斉高校生デモ』Google サイト
大阪、宮城、宮崎、山梨、愛知、東京、熊本、福岡、秋田、群馬、茨城、長崎。北は秋田から南は宮崎までの同時行動だそうです。こんなロクでもない世の中を作ってしまった大人の一人としての責任上(笑)、頭数になりに行ったんです。
集合場所の代々木公園へ行くと、子供たちと手伝いの大人がサウンドカーの準備をしているところでした。飛んでしまった風船の束が枝に引っかっかっていたのを幟で取ろうとしている人がいる。デモで幟が何かの役に立っている光景は初めて見ました(笑)。

それはさておき、さくっと集まって集会の挨拶もなく、さっさとデモの出発です。この子たちのこういうところ、好きなんです。政党とか組合とか自称(笑)市民団体の頭が悪い奴のつまらない話をぐちゃぐちゃ聞かされても、気分が盛り下がるだけです。それだったら、自分たちの声を出したほうが1億倍も意味がある。頭の悪い屁理屈より行動、身体を動かした方が気持ちいい。
●代々木公園にて。団体名じゃないからマシとは言え、幟を持ってきたジジイは女子高生の丁寧な言葉で後ろへ廻されました(笑)。


●渋谷を練り歩く。パルコ前から渋谷西武脇、センター街へ。道が狭いセンター街はデモが通ると迫力あります。







                                     
今日は軽トラにスピーカーを載せたサウンドカーではなく、どこぞの政党/組合の街宣車が先導です。と言ってもでかいスピーカーを載せて、ちゃんとサウンドカー仕様になってます(笑)。主催者の高校生、Teen's Sowlの子たちのコールのバックに流れるのはEDM(エレクトロ・ダンス・ミュージック)です。SEALDsの子たちはラップが多いですが、それより遥かにテンポが早い。5,6歳の女の子がリズムに合わせて飛び跳ねながら、お父さんと一緒に歩いてる。老いも若きも皆、楽しそうです。歩き出して暫くすると、ファスト・ファッションの買い物袋を抱えた10代の女の子が二人、ボクの目の前に飛び入りしてきました。キャッキャ言いながら『安保法制絶対反対!』と嬉しそうに声を挙げている。眉間に皺を作って『我々の戦いは〜』とか言ってるマヌケなデモより(笑)、このように楽しいデモの方が遥かに沿道の人々の共感を得られるってことでしょう。それは楽しい雰囲気だけでなく、言ってることがリアル、だからだと思います。

●渋谷駅




                                     
集会でスピーチ予定だった、山口二郎法政大教授と佐藤学東大名誉教授は街宣車からスピーチしました。山口二郎は普段はつまらないことばかり言うので、あまり感心しないのですが、今日は良かった。『安倍晋三の政策は目先の事しか考えない、若い子を使い捨てにする政策だ。』。これは正しい。安倍晋三は偉そうに失業率が改善したとか言ってますが、増えた雇用は非正規だけ、正規の雇用は減っています。アホかって。安倍晋三こそ早く失業しろって。
佐藤学教授は『私も高校2年生の時からデモに参加している。高校生のデモが許可制なんておかしいに決まってる』と言ってました。全く同感。ボクもデモに初めて参加したのは高2の時かな。この人、立派だと思うんです。天下の?東大名誉教授で学会の会長なのに、デモで見かける彼はいつも一兵卒として誘導やサポートに回っている。ゴミ右翼が襲って来れば自ら率先してクズどもに対抗する。雨にも負けず風にも負けず、こういう人にボクもなりたい。
山口二郎教授と佐藤学名誉教授


                                                                                       
山口二郎教授はそのあと音楽に載せて、ラップ調のコールをかましました(笑)。身体を揺らしながら懸命にコールする彼の姿にはネットでも驚きの声が挙がっていました。ちゃんとリズムに載っていましたからね。誰でもできるレベルミュージック(反乱の音楽)であるラップの面目躍如といったところでしょうか。
中野浩一上智大教授のtweet

渋谷でも原宿でも道端の人が手を振ってくれます。ママの会の人たちもいたので子供を連れた人も多いし、和やかな風景です。他にも沿道の外人がプラカードをもらって飛び入りしてきたし、多分参加者の人は一人一人色んなことを見たり感じたりしたんじゃないでしょうか。
●原宿の交差点で。ヴァン・ヘイレンの『ジャンプ』がかかりました。良い選曲です。


      
                                                                                                   
写真をご覧になっていただけると判ると思うんですが、皆、プラカードを誇らしげに掲げていますでしょ。SEALDsや高校生たちのデモで素敵なところの一つです。若い子も大人も年寄も、嬉々として自分の主張をしている。コール&レスポンスも金切声じゃなく自然に大きな声が出ています。頭の悪い組合や団体の動員じゃなく、やっぱり自分の意志で来ている人たちだから、だと思います。どこかの誰かにやらされていたり、組織の言うとおりの操り人形じゃない。自分の意志を持つって素敵なことです
●表参道から代々木公園へ。





                                   
今日はデモの梯団が3つに増えました。主催者にも予想外だったと思います。参加者は3000人くらいでしょうか(*主催者発表5000人)安保法反対:「声上げたい」高校生らデモ - 毎日新聞。前回11月は参加者は1000人くらいですから、今日は3倍〜5倍に膨れ上がったことになります。もちろん高校生たちの数はそれほどは多くない(ボクもそうでしたが、受験がない付属校に通っているヒマな奴は来いよな〜と思いますが)。色々な年代の、個人参加の人が自由意思でこれだけ多く集まった。代々木公園でボクの後ろには多分始めて参加した、友達同士の大学生がいたし、デモの列の前にはカップルもいた。そういう人たちが参加したり、10代の子がデモに飛び入りするなんて以前には見られなかったことです。
終着の代々木公園に着くと、多くの人が自らカンパの係の子を探しています。うん、それが大人の役目でしょ。ボクもお札をカンパ袋に入れて、女の子に『どうも、ありがとう』と頭を下げたら、『ありがとうございます』と返されてしまった。応援に行ったつもりが、また元気をもらってしまった。もう一回、どうもありがとう。明るく楽しい、そして破壊力抜群のデモでした。


                                            
さてさて、映画の感想が溜まっているんです。とりあえず『キャロル』はサイコーでした。今回は六本木で映画『フランス組曲
フランスのユダヤ人でアウシュビッツで亡くなった著者の小説が2000年代に発表され、フランスで大ベストセラーになったそうです。その作品の映画化。バッハの『フランス組曲』は関係ありません。

舞台は1941年、フランス中部のビュシー。大地主の家に嫁いだ若妻、リュシル(ミシェル・ウィリアムズ)は義母(クリスティン・スコット・トーマス)と一緒に、出征した夫の後を守っていた。フランスの勝利を信じて疑わない義母は若妻に何かとつらく当たり、小作人にも厳しい。趣味のピアノを弾くことすら禁じられた若妻は辛い日々を送っていた。やがてパリが陥落し、ドイツ軍が村に進駐してくる。富裕な家はドイツ人将校の宿となることが命じられ、彼女たちの家にもドイツ軍中尉がやってくる。粗暴なドイツ軍の中で中尉だけは礼儀正しく、家でピアノを弾くことで心を慰めていた。やがて若妻と中尉は心を惹かれあっていくが--

ちょっとメロドラマっぽいかなと思ったんですが、欲求不満の人妻役を演じたら天下一品?のミシェル・ウィリアムズが出ているので見に行った次第。アカデミー主演女優賞にノミネートされた『ブルー・バレンタイン』やセス・ローゲンと夫婦役をやった『テイク・ディス・ワルツ2012-10-08 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)はホント、素晴らしかったですから。
●公開時のコピー『しあわせに鈍感なんじゃない。さみしさに敏感なだけ』。これは秀逸でした。

テイク・ディス・ワルツ [DVD]

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最初はメロドラマっぽい感じで嫌だなと思いました。安っぽいホームドラマじゃあるまいし、義母と嫁の確執なんか見たくない(笑)。
●主人公は田舎の大地主の家に嫁いできた若妻。夫は第2次世界大戦に出征中です。

                                         
特に嫁にも小作人にもつらく当たるクリスティン・スコット・トーマスの義母役が実にイヤな感じ=適役だったので余計にそう思いました。カネの亡者で小作人や避難民を苛めるフランス万歳の右翼地主なんて、さっさと死んじまえと思いますでしょ(笑)。
●カネの亡者の大地主の義母(クリスティーン・スコット・トーマス)。でも彼女は、それだけではないことがいずれ判ります。

                                      
ですが、観ているうちに印象は変わっていきます。描写がすごーく的確なんです。小作人と地主との関係、村を牛耳る貴族、パリから逃げてきたユダヤ人母娘、互いに密告する町民たち、ドイツ軍の粗暴さとそれに惹かれる若い娘たち、色々なエピソードが描かれますが、どれもなるほど、と思わせるのです。
例えば村人たち。基本的にはドイツ軍を歓迎するわけはありません。だけど段々と積極的に協力する人が出てきます。貴族の村長もその一人です。そのことで彼は自分の利益を守れるからです。例えば若い娘たち。村には若い男が残っていないんです。ドイツ軍と言えども若い男たちがやってくれば、戦争に関係ない若い娘たちがそれに惹かれるのはある意味自然なことではあります。戦後 彼女たちは裏切り者としてリンチに逢ったりするわけですが、彼女たちを責める資格がある人がそんなに大勢いたのかどうか。

心優しい若妻ですが、地主の家の若奥さんということで小作人からは嫌われ、義母からは辛く当たられます。村に彼女に居場所はないのです。一方 占領地で羽目を外すドイツ軍の中でブル―ノ中尉だけはそれに馴染めません。彼の本業は作曲家で、ピアノに慰めを見出します。若妻と中尉、疎外感を抱いている者同士が恋に落ちるのは納得できます。
●元作曲家のドイツ軍中尉

ミシェル・ウィリアムズの演技は相変わらずすごいです。表情だけで疎外感や欲望、それに勇気を十二分に表現しています。見応えがあります。中尉と若妻、二人が結ばれることはありません。だけど心のラブシーンを延々見せつけられている感じです。
●若妻とドイツ軍中尉、互いに心惹かれるのですが。

                              
ドラマは、妻に言い寄ったドイツ人将校を小作人が殺したことで暗転します。ドイツ軍は報復を始めます。責任を取らされて対独協力派の町長もあっさり処刑されます。だが若妻はその小作人をかばってパリへ逃がそうとします。中尉はそれを追うのですが。
●中尉はドイツ軍を殺した小作人探しを命じられます。

                                           
フランス組曲」は戦争に翻弄される市井の人々、それに疎外感を持ったもの同士の心のつながり、そして女性の自立まで描いた重厚なドラマです。映画の最後にアウシュビッツで殺された原作者の娘さんのコメントが流れます。『50年以上埋もれていた作品がよみがえったことで、母は勝った。ドイツ軍は母の意志まで殺すことはできなかったのだ。』
脚本も演技も雰囲気も余りにも良くできているので、全篇 セリフが英語だったのが却って雰囲気を損ねているとは思いましたが、それ以外は全く文句がない、良くできた人間ドラマでした。後味も良いし面白かった〜。ミシェル・ウィリアムズの主演映画に外れなし、かもしれません。