特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

嬉しいと楽しい:映画『ピッチ・パーフェクト』

今日は夏至だそうだ。早いなあ、もう1年の半分が過ぎてしまった。歳をとるわけだ。最近はそんなことばっかり考える(笑)。


ボクは一人で食事をするときは大抵 インド料理を選びます。比較的 手作りの店が多いからです。先週 六本木で食べた、このビリヤニに少し感動してしまいました。ビリヤニってインドの混ぜご飯のことで、ご飯に各種スパイスと肉や野菜を炊き込んだものです。手間がかかるので一昔前までは滅多に見かけなかったが、最近はメニューに載せる店が増えています。

                                       
各種スパイスと一緒に炊き込んだパスマティ・ライス(インドのお米)の上にバジルやコリアンダーなどの生ハーブ、トマトやオレンジが載っている。ご飯をスプーンで口に含むとスパイスと生ハーブの香りが入り混じって瑞々しい。辛味だけでなく苦み、それに甘酸っぱさと、少し奇妙だけど香しい調和があります。
感動したのはその中に骨付きのラム肉がゴロゴロ入っていたことです。骨付きと言っても、ラムチョップみたいな上品な奴じゃなくて、骨ごとぶつ切りにした肉が一杯 炊き込んであったんです。食べると、如何にも肉らしい味がする。肉切りナイフでもそう簡単に切れないような(笑)弾力のある肉感とちょっとした臭み、そして骨の周りに行くと今度は肉のうまみを感じる。まさに肉々しいと表現したら良いか(笑)。
                                                                                   
10年くらい前に中国とカザフスタンの国境にある伊犁ウルムチのもっと奥、シルクロードの最果て)で食べたウイグル料理がこんな感じでした。何を食べても野菜の味が濃いし、炒め物も煮込みも肉は骨ごとぶつ切りにしたもので風味があって、実に美味しかった。味付けは全て同じ(笑)で塩&唐辛子。野蛮かもしれないけど(笑)、食べ物の本来の味がする料理でした。勿論東京の料理は綺麗だし美味しいんだけど、ウイグルの料理を食べて、普段のボクの生活は何か大事なものを忘れてしまってるんじゃないか、と思ってしまったのです。あれ以来 中国政府がウイグルの人を弾圧しているのを見ると、どうにもやり切れません。
最近は東京でもウイグル料理の店はあるけれど、材料が違うだろうから同じ様な味はしないだろうと思って、今まで足が進まなかった。六本木のこのインド料理店はイスラム教徒向けのハラル認証を受けているところだから、業務用の加工材料があまり使われていない?のかは判らないけど、東京の真ん中で本来の味がする食べ物が食べられて久方ぶりに嬉しかったです。



同じく六本木で、映画『ピッチ・パーフェクト

嫌々大学に入学したばかりの主人公(アナ・ケンドリック)は音楽が大好きで将来はDJになることを志望している。ところが彼女は自分に壁を作ってしまいがちで、友達が全くいない性格だった。強引に勧誘されて彼女は人数不足の女性アカペラ・サークルに加入して全国大会を目指すことになるのだがーーー



この作品はアメリカで2012年に小規模で公開が始まったが、口コミで公開が広がり、大ヒット。ちょうど今 アメリカで公開中の続編は超大作アベンジャーズの新作を押さえて全米1位になったという話題の作品。
んな、ことはどうでも良くて、ボクは主役のアナ・ケンドリックちゃんが好きなのだ。アカデミー助演女優賞にノミネートされた『マイレージ・マイライフ』でジョージ・クルーニー演じるリストラ請負人の相棒役を演じて以来、この人のことは忘れられなかった。ボクもそういう仕事やってたことがあるから気持ちが入れ込んでしまったというのもある(笑)。

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それ以降もロバート・レッドフォードが60年代の過激派を演じた『ランナウェイ 逃亡者他人事じゃないよな:ウルムチ訪問記?と映画『逃亡者』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)セス・ローゲン先生の『50/50今度、パンケーキを焼いてあげる:映画『50/50』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)など実に良い映画に出演していて、一時期 良心的なアメリカ映画には必ずこの娘が出てくるような錯覚があったくらいだ。最近はディズニー映画でシンデレラ役を演じるなど大スターになりつつある。可愛いんだけど超美人ではない、どことなく内省的な陰影があるところが印象的な女優さんだ。この娘がとうとう主役なんでウキウキして見に行きましたよ(笑)。

映画はスチュワーデスのコスを着た女性アカペラグループが本番で緊張してしまい、舞台でゲロを盛大に噴射するところから始まる。いかにもアメリカらしい下ネタも全く厭わないコメディだけれど、それほどマニアックでもないからついていきやすい。
                                                   
たびたび挿入されるアカペラのシーンがどれも素晴らしい。歌うのはポピュラーのヒット曲だが、アカペラのためにアレンジも大幅に変えているし、他の曲と組み合わせたりしている。それを自分たちなりのダンスや衣裳などとともに表現するのだ。日本でも最近はアカペラグループとかあるけれど、ああいうのとは天と地ほども違う。この映画で演じられるアカペラの楽曲の大胆なアレンジとパフォーマンスは、クリエイティヴとはこういうものだ、というのを見せつけるかのようだ。
●この、カップでリズムを取りながら歌うシーンはYouTubeで真似する人が続出してブームになったらしい。

お笑い映画という体裁は取っているけれど、それだけの映画ではない。主人公たちが入る前のアカペラグループは白人女性の可愛い子ちゃん、という保守的なイメージを強調したものだった。演じる曲もおとなしい。だが、そんなものは今時受けるわけがない!(笑)。グループに新しく加入したメンバーは、友達がいない主人公だけでなく、デブ(渡辺直美そっくり)、黒人、レズ、セックス中毒、素っ頓狂な声でしゃべる子、皆個性たっぷりだが、ルックスも学校内での地位(スクール・カースト)も今一パッとしない。田舎町の保守的な大学で体育会やチアガールといったアメリカの学生の王道から外れた彼女らが紆余曲折ありながらも自分たちの個性を生かしていくことで、素晴らしい音楽を作り出していく。
                                        
渡辺直美そっくり!

●最初はメンバーたちの意識はバラバラ

                                                 
お話のなかでは80年代の大ヒット青春映画(アメリカでは)『ブレックファースト・クラブ』が引用される。スクールカーストを描いた元祖と言われるこの映画を、落ちこぼればかりが出てくる『ピッチ・パーフェクト』はなぞっているようにも見えるのと同時に、ちょっとひねくれた主人公の心を変えるキーになる、という2重の意味を持っている。

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●登場人物は美貌をひけらかす敵役もライバルチームも、実はそれほどイケてない。そこが、この映画の背景をよく示している。


                
決勝大会の舞台は映画『セッション』での記憶も新しいNYのリンカーン・センター。 ここで繰り広げられるクライマックスは、ボクも大好きな『ブレックファースト・クラブ』の主題歌『Don’t You』(シンプル・マインズ)がアレンジされてまさにお見事!音楽の楽しさが生き生きと伝わる演奏シーンは『セッション』とはまさに正反対で、実にカッコいいです。                 

                                         

ケンドリックちゃんを始め、みんな歌がマジでうまいだけでなく、画面から音楽の喜びが生き生きと伝わってきます。そう、上手いと言うより楽しいのです。脚本がどうの、というより、文字通り躍動する音楽の楽しさを味わう映画です。自分も若くなったような気がする!(笑)。完成度は若干?というところもあるが、見ていると絶対楽しくなるミュージカル・コメディ。2月の『はじまりのうた』もそうでしたが、今年は音楽映画の当たり年かもしれません。