特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

グローバルなほろ苦さ(笑):映画『天使の分け前』

ニュースで『世界一ビジネスをしやすい国にする』とか安倍が言ってたが、実にくだらない。そのために24時間都営バスを走らせるという猪瀬も実にアホくさい。ビジネスをしやすくするのなら、役人の不透明な裁量行政とかバカな政治家の存在を何とかしろって。石原慎太郎尖閣騒ぎで日本企業がどれだけ損したかわかってるのかよ! そもそも政治家は国民が暮らしやすくするために仕事をしているのであって、ビジネスのために仕事をしているのではない。いい年こいて、そんな簡単なこともわからないのか??
 
                                                            
この前 勤務先で就職に来た学生さんの面接をする機会があった。人間嫌い、他人と会うのは嫌いなボクだが、真剣な学生さんに会うのは自分を反省する良い機会なので(笑)、喜んでやることにしている。ここ数年の傾向通り、特に女性は真剣で準備万端なのに感心する(履歴書の写真も修正しているが)。どこの国行っても大丈夫です、とか、男なんかよりたくましい。他人のこと言ってる場合じゃないけど(笑)。所詮 就職なんてお見合いみたいなもので、たまたまその企業と相性が良いかどうかだけではないだろうか。もちろん人間の価値とか能力とはなんの関係もない。だから就職試験対策とか人気企業ランキングとかそういうインチキなもので金儲けしている連中には本当に怒りを感じる。
                                                   
最近の就職難は大学が激増したのに対して、企業側の求人が増えていないことが大きな原因だと思うが、若い人が就職難に苦しむのは本当にやるせない。自分がその立場だったらと考えてしまうし。そうかと言って企業側が、人口が減っていく日本の市場で求人を大幅に増やせるわけもない。ただ日本がラッキーなのは医療や教育、介護などの需要はまだまだあることだ。全体のGDPが減っても、一人当たりのGDPが増えることを考えていけばいい。世界で一番とか美しい国とか、わけのわからない勘違いをしなければ日本にとってチャンスは全然ないわけではない。
                                                       



先日のサッチャーの葬儀に際して、カンヌ映画祭パルムドールを受賞した巨匠、イギリスの映画監督ケン・ローチ氏はこうコメントしたそうだ。
現代でもっとも分断と破壊を引き起こした首相だった。彼女の告別式を民営化しましょう入札を行い一番安い見積もりでやりましょう。それこそ彼女が望んだものですから』。
サッチャーの死に対して これ以上的確な発言ってあるだろうか。

ちなみにケン・ローチ監督は以前 フジサンケイグループが主催する高松宮殿下記念世界文化賞を受けた際 中曽根に握手を求められて断った人だ。『戦争屋とは握手したくない』から、だそうだ。中曽根の不沈空母発言を覚えていたらしい。さらに彼はその賞金の一部を国鉄民営化に抵抗している訴訟団に寄付したそうだ。そのためにわざわざ保守反動のフジサンケイグループが主催する賞を受けたらしい。http://www.jrcl.net/web/frame031124b.html 
格好いいなあ。
                                                                                                                                                      

そのケン・ローチ監督の新作『天使の分け前
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ウイスキーの熟成過程で樽から毎年2%ほど蒸発してしまう分をAngels' Share と呼ぶそうだ。映画の題名はそこから来ている。

舞台はスコットランドグラスゴー。街のゴロツキ、ロビーは傷害事件をおこして、労働奉仕を命じられる。労働奉仕の監督官からスコッチ・ウイスキーのことを教わった彼は、自分にはウイスキーの香り、味を嗅ぎ分ける才能があることを知る。彼女に子供が生まれたばかりのロビーはなんとか堅気になろうとするが、不況の地方都市で前科もちで教育もコネもない彼に職につける見込みなど全くない。一方 敵対相手のゴロツキは彼を執拗に狙ってくる。今度 暴力事件を起こしたら、ロビーは彼女と子供から永遠に引き離されてしまう。万策尽きた彼は、ふとしたことから時価1億円以上ともいわれる年代物の樽入りウイスキーのオークションが行われることを知る。彼は仲間と一緒に、それを盗み出すことを計画する

                   
昨年末、イギリスの失業中の若年層が初めて100万人を超えた。若い世代の多くが自分は定職に就けないと思っている。
ケン・ローチ監督はそのことを映画にしようとしたそうだ。監督が起用した主人公は俳優ではなく実際 そこいらの職なしのアンちゃんだったらしい。コメディなんだけど、考えさせられることが一杯の映画だった。
                                                     
スコットランドだから、誰でもガバガバ、スコッチを飲んでいるだろうと思いきや、主人公たちは飲んだこともない、という。現地では日本円で一本1000円〜2000円くらいだと思うが、それでも高すぎて飲めないのだ。また、主人公が彼女の父親から、お前が住んでいる場所で子供をまともに育てられるのか、と問い詰められるシーンがある。そこでは、まともな職もなく、若者が昼間から公園でぶらぶらしたり、ケンカに明け暮れている。主人公は就職しようとするが、地方にはまともな職もないし、前科もちで軍隊にも入れない。主人公は生きるために、彼女と子供を残してロンドンに行くか、苦悩し続ける。だけど普段は英語でなくゲール語で話しているような彼が大都会で暮らせるはずがない。
この映画の主人公たちは文化的伝統からも、現代からも、分断されている。そういうのってどこかの国も段々似てきていませんか?

●おまぬけな4人組。左端が実際に路上生活をしていた主人公、その隣が実際に道路清掃を仕事にしていた人

                                                                                             
何とか職業を得ようとする主人公も、とりあえず飲んでしまう(笑)主人公の仲間たちの姿も今の社会の真実だと思う。何もかもがうまくいくわけではない。
でも最後に主人公はウイスキーを教えてくれた監督官に置手紙を残す。『チャンスをくれてありがとう』と。
『チャンスさえあれば、人間は、特に若い人は自分でどうにかするものだ』というケン・ローチ監督のメッセージは感動的だ。金融業と軍隊と奴隷だけで世の中が成り立つと思っていたかのようなサッチャーとは正反対だ。製造業や鉱業など地方の基幹産業を破壊したサッチャーが一番罪深いのは、多くの若い人のチャンスを奪ったことではないだろうか。

●主人公と監督官(田舎の人の良いおっちゃんだった→大好き!)

                                                   
以前の『エリックを探して押し付けられるものは嫌い:ケン・ローチ監督の新作『エリックを探して』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)もそうだったが、いつもシリアスなケン・ローチ監督が作るコメディって、当たりが続いている。ほろ苦いが、勇気を与えてくれる作品ばかりだ。
昔は『ブラス!』や『フルモンティ』など不景気なサッチャー時代を描いた映画って、すこし他人事のように感じていた。だけど最近は、就職難や地方の不景気にしても他人事とは思えない。何てこったい。