特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『ベラルーシから学ぶ私たちの未来』と『ユジャ・ワン ピアノリサイタル』

茂木とかいう経産大臣が、原発の再稼働は秋、とか寝ぼけたことを言い出した。化けの皮が剥がれてきた、ということなんでしょうけど、こいつの選挙区は栃木県だそうです。栃木も結構な汚染地域を抱えていて、原発事故は他人事ではないと思いますが、この男は311で何も学ばなかったのか? それに栃木じゃなくたって、日本中の店舗で売られている魚などから未だにセシウムがでているのに。食品放射能調査第13回目:スーパーマーケット 魚介類 | 国際環境NGOグリーンピース


そういうことを思ったのは宇都宮大学で行われたシンポジウムの記録、『ベラルーシから学ぶ私たちの未来』を読む機会があったからです。
昨年12月 ベラルーシチェルノブイリの子供への支援活動を行っている日本人 辰巳雅子氏を宇都宮大学へ招いて、講演と学生たちとのトークセッションを行った記録です。
講演のほうを読むと、辰巳氏は実際に現地で支援活動を長年行っているだけあって、より現場に近い声、事情を聴けたという感触があります。ペクチン(ゼリーですな)のお菓子は体内に蓄積された放射能の排出効果があるって知ってました?ソ連の対処のほうが福島よりマシだった点や酷かった点、チェルノブイリ事故でも起きた被害者差別、そういうのは現地の人の話を聞いてみないとわかりません。○か×かで割り切れることなんか世の中にはあんまりなくて、現実にはよりマシなことを選んでいくことしかできないことがよくわかります。そのあとの学生さんの率直なトークセッションは本当に率直で(笑)更に面白かったんだけど、大事なのは自分の置かれている状況を自分の頭で考えること、というのがよくわかります。そのためには過去の事実や当事者から学ぶことが必要でしょう。放射能が東日本中にばらまかれた今こそ、ベラルーシヒロシマ水俣!から学ばなければ、我々の未来はないのかもしれませんだって他人事じゃないんだもん。
コンパクトなリーフレットで手軽に読めるので、その点も良かったというか、広く読まれるべき本だと思いました。青森の人に聞いたら青森の学校では核燃サイクルの本を配ってたらしいが、こういう本を配れよ!

●入手はこちら
http://d.hatena.ne.jp/saunderson/20130228
宇都宮大学国際学部附属多文化公共圏センター

                                                                                                                                  
                                                        
さてこの前の日曜日は大変興味深いコンサートへ行ってました。サントリーホールで『ユジャ・ワン ピアノリサイタル』。
ユジャ・ワンは今 売り出し中の26歳の中国人女性ピアニスト。

�・James Cheadle
ちょうど先週 フランスの作家がこの人をモデルにした小説『ピアニスト』が日経の書評に出ていた。『東洋人に西洋音楽が理解できるのかどうか評論家が論争する』ということをテーマにしたものだそうです。
ピアニスト エティエンヌ・バリリエ著 無垢な批評などあり得ない :日本経済新聞

ピアニスト

ピアニスト

ちょうどボクも2年前、311の前の週に、この人の演奏を聴いて全く同じことを思いました。
『ブンミおじさんの森』と『ユジャ・ワン ピアノリサイタル』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)
演奏は文字通り、超絶技巧なんだけど、なおかつ粒が立ったような透明な音色と力強さが両立している。それだけでなく演奏を聴いていると、西洋音楽パラダイムを飲み込んだ上で、更に自分の明確な意志と個性をぶつけてくるような気さえしました。東洋人がどう、とは思わなかったけど、中国の若い人恐るべし、20代でこんな個性的な解釈が出来るのかよ、と感嘆しながらも半分あきれたのをよく覚えています。 芸術に向き合う自分の意志がよほどはっきりしてるんだろうなと。

                                                      
だから来日が決まってから、また見るのを楽しみにしていました。 この日がサントリーホール・デビューだそうで、入りは8分くらい。最初はリストをやる予定だったが直前で変更になりました。馴染みがない曲ばかりですが、本人の演奏スタイルをアピールすることを主眼においているのでしょう。
<セットリスト>
スクリャービン: ピアノ・ソナタ第2番 嬰ト短調 op.19 「幻想ソナタ
プロコフィエフ: ピアノ・ソナタ第6番 イ長調 op.82
リーバーマンガーゴイル op.29
ラフマニノフ: ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 op.36(1931年改訂版

〜アンコール〜
シューベルト(リスト編): 糸を紡ぐグレートヒェン
ビゼーホロヴィッツ編): 「カルメン」の主題による変奏曲
グルック(ズガンバーティ編):メロディ
プロコフィエフトッカータ
ロッシーニホロヴィッツ編): フィガロのアリア「私は街の何でも屋」(セヴィリアの理髪師より)
ショパン: ワルツ 嬰ハ短調 op.64-2



アメリカのリサイタルでは『ボンドガールのよう』(笑)と評された、黒の超ミニのドレスを着てご本人が登場。目のやり場に困る(笑)。
最初の音を聴いただけで、すごいなあと思いました。柔らかでゴージャス、音の粒が立っている。音色が澄んでいる。だが、やがてテンポが速まり、ハリケーンのような音の嵐が襲ってくる(笑)。文字通りガンガン、鍵盤に指をたたきつけてくるようです。天井が高いサントリーホールピアノの音がこんなに大きく感じたことは初めてです。
2曲目のプロコフィエフになると、それに重低音のインダストリアルな響きが加わる。後半の正確無比な早弾きは圧巻でした。弾いている手が見えなかったもん。超人だ〜(笑)という言葉が何度も口に出ます。
                                                                                                                                                                       

休憩のあと、こんどは赤の超ミニのドレスにお色直し(笑)。
3曲目のリーバーマンも文字通り嵐のように弾きまくる。一見 へヴィメタルのギタリストの早弾きのように聞こえなくもありません。だけど、この人の場合は楽譜に弾かされているような感じもなければ、ギミックもない。ありあまるテクニックで曲そのものを超越しているようと言ったら褒めすぎでしょうか。形式を逸脱するアバンギャルド、ではなく、形式を踏まえたうえでそれを乗り越えているように見えるのです。

重い低音、鋭い斧のような切れ味の高音、多彩な音で一台のピアノがまるでオーケストラのように聞こえます。だが流れの心地よさに酔っていると、この人は流れを突然ブッたぎるから油断できない(笑)。

終盤につれて会場の拍手も段々大きくなっていきました。
それに釣られたのか、アンコールは5回(笑)。緩い曲、早弾きの曲を交互に文字通り弾きまくる。特に2曲目のビゼーは圧巻です。最後に弾いたのは穏やかに始まるショパンだったが、それですらこの人のスタイルに変わっていて、曲目を知るまで判りませんでした(笑)。

                                                           
恐れしらずの若い人が叩きつけてくる個性、躍動感は楽しかったです。のってるパンクバンドのライブみたいに、CDとは全く違う本当の意味のライブ、って感じ。聴いている間は、この時間がずっと続けばいい、と思った2時間でした。

5月22日早朝にNHKBSでこの人の演奏(違う日)が流されるそうなので、これも楽しみ♡(笑)。

●この画像をアルゲリッチYOUTUBEで見て、びっくりしたそう。