特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

そして、『見張り塔からずっと』:ボブ・ディラン公演

 やっとアメリカではバラク・オバマ大統領の健康保険法案が通ったそうです。昨年来の政治的妥協で中身が多少 骨抜きになったとしても、それでも無いよりはマシです。
 幸運にもルーズヴェルト大統領のニューディール的価値観で作られた憲法がある国に住んでいるボクには、いくら製薬会社や保険会社のプロパガンダに乗せられたとしても、アメリカの共和党など反対派の「健康保険を増税」と捉える価値観は理解しがたいものがあります。アメリカの医療費は世界一だが医療の質はそうでもない、というのは中間にある保険会社や製薬会社がボリ放題ということなんでしょう。実際 製薬会社の友達に話を聴いたら、どこの製薬会社でもアメリカが儲け頭、ということらしいですし。
でもって、その友人とお台場でボブ・ディラン公演。
アメリカの保険会社なみの12,000円というボリ放題のチケット代には若干躊躇しましたが、目の前で見られるライブハウスの公演と言うことで誘惑には勝てませんでした。まず、今まで滅多に行くことがなかったお台場というのは凄いところです。右を向いても左を向いても金を使わせようとするものしかない。それも売っているものは食べ物も着るものも二流、三流(By掟・ポルシェ)のゴミばかり。そこにフジテレビとサントリーの本社があるというのもぴったり。町中が虚飾というか、商業主義のインチキだらけ。ものすごいところです。
 その中にあるライブハウス、ZEPP東京を取り巻く入場前の観客の列は年寄りばっか。そう話していたら前列の人が会話に加わってきて「それに男ばっかりですよね」。確かに(笑)。その割にグッズ売り場にも行列が出来ているんだよね。
 入場するまで1時間並び、会場に入ってからも小一時間立ち尽くしたあと、やっとディラン御大が登場してくる。帽子をかぶった御大は目つきが鋭く、威厳に溢れている、と言う感じ。確かにオーラはビンビンで、これはこれで凄い爺さんです。
 グルーブ感がある動物的なステージを想像していたのだが、目の前の御大はキーボードの前からあまり動くこともない。ギターはあまり弾かなかったが、弾いたときはかなりうまいのには驚きました。
 リズムバシバシの死ぬほどうまいバックバンド(リードギターを除く。昔懐かしいチャーリー・セクストン)のジャージーかつカントリーっぽい演奏とディランの朗読するような省エネ(笑)ヴォーカルが絡みあう世界は文字通り唯一無二と言う感じでし。
 近作をベースにしたサウンドに、相変わらず脱構築しまくったアレンジ。目の前で演奏されているのはコンテンポラリーと言う感じではないですが、エヴァーグリーンでもない、まして再結成グループなどにありがちな懐メロでは勿論、ない。高品質で先鋭的、愛想はないがサービス精神もあり(Like A Rolling StoneやMr.Tumbline Manまでやった)、何と表現したら良いのか。凄いなあ。
 最後の曲は「見張り塔からずっと」。そうなんだよ。(残念ながら)この歌、今、この時代にぴったりです。
手放しに感動したとは言い難いが、今回のディランは色々なものが入り交じった、なんとも言えない体験でした。
ただ4時から9時までの立ち続けはさすがに応えましたが(笑)。