特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

シャンパーニュとポリーニ

 六本木でマウリツィオ・ポリーニ公演。KAJIMOTO | コンサート
 ポリーニの演奏を見るのは2年ぶりか、3年ぶりだろうか。
舞台に現れると優雅な挨拶をするポリーニのおっちゃん、まだまだ、元気そうだ。うれしい。でも弾き始めると今回は残念ながら、ちょっと年を取った感じがする。鍵盤の右から左まで、嵐のように吹き抜ける超絶のスピードも健在だし、手を抜いているような感じは全然ない。だが、どうも音のアタックが弱い気がする。特にこの日はショパン・プログラムだったので始末が悪い。
 ポリーニショパンを弾くというのは、彼の理知的というかカミソリというか、ある意味冷たい氷のような演奏で、情緒的とも言えるショパンを奏でる、というところに意義があると思う。演奏の中に『近代の合理性と人間性との相克がある』とでも言ったら良いだろうか。
 ショパンというのはわかりやすいし日本では人気があるのかもしれないが、今回のように演奏のアタックが弱いと、ポリーニならではの存在価値が薄れてしまうような気がする。超絶技巧はあっても、演奏がやや平板に流れかねない。ポリーニのすごいところはただうまいだけじゃなく、演奏に高度な精神性みたいなものが感じられるところだ。僕はそれが聴きたいのだ。この日のプログラムがショパンでなく、リストとかドビュッシーとかが中心だったら、印象はもう少し違ったのかもしれない。
 それでも後半になるとポリーニの演奏も調子が出てきて、衰えなんか感じさせない。ついでに、こちらも幕間にシャンパーニュを引っ掛けたので(笑)、調子がでてくる。シャンパーニュの香りと泡は、ポリーニが演奏するピアノ・ソナタを思い起こさせないだろうか。立ち上ってくる香りはノクターンのように流麗なメロディ、泡の弾け具合は、跳ねるような打鍵にも似て。
 本編の最後『英雄』を手を振り上げて文字通り弾き終えた瞬間はめちゃくちゃ格好よかったぞ(笑)。
 アンコールは、アンコールにアンコールにアンコールを重ねて、場内は熱狂の渦。あんな熱い拍手はロックのコンサートでも中々聴けることがない。<アンコール>
ショパン :練習曲ハ短調op.10-12「革命」
ショパン :バラード1番ト短調op.23
ショパン :練習曲嬰ハ短調op.10-4
ショパン前奏曲変二長調op.28-15「雨だれ」
ショパン :スケルツオ第3番嬰ハ短調op.39

 だから次回は違うプログラムを期待する。なぬ、他の日のアンコールはドビュッシーやったんだって?くそっ〜。だいたいプログラム発表前に券を売り出す梶本音楽事務所が悪い。
 とにかくポリーニが生きているうちになるべく多く聴いて吸収したい、彼の精神性の、かけらだけでもいいから触れておきたいのだ。