特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『#AbeOut0223 @銀座』と映画『バハールの涙』&『ナディアの誓い』

 沖縄の県民投票、心配していた投票率は50%を超え、有権者の4分の1以上どころか、4割近くが基地建設反対の意思を表明しました。基地建設反対への投票数は史上最多だった玉城知事の得票数を大きく上回りました。

 

 『どちらでもない』なんて選択肢を増やしたセコい罠は相手にされなかった、というわけです(笑)。
 日本政府は、投票結果は無視すると言っていますが、意思表示をすることが大事、と思います。陳舜臣氏の名著『阿片戦争』の受け売りですが、アヘン禁輸を求めてイギリスと戦った清の大臣、林則徐らは戦争に成ったら勝てるとは思っていませんでした。

 麻薬を押し付けられるのは拒否すると言う意思表示をしなければ中国人は今後数百年間立ち上がれないだろう、と考えたから、強硬なアヘン禁輸に踏み切ったのです。林則徐らが正しかったことは歴史が証明しています。

 ここで沖縄が意思表示を示したこともそれと同じです。仮に政府が工事を強行しても100年、200年の単位で考えれば、意思表示をしたということは沖縄の人たちにとって大きな歴史的財産になるでしょう。

 あとは本土の側がこれをどう受け止めるか。最低限 いったん工事を中止して話をすべきだと思うのですが、どうでしょうか。政府は短期的には投票結果を無視することはできるかもしれませんが、民意を無視すれば、本土にとって100年、200年単位の歴史的負債になる。

なによりも民意を無視すれば、日本政府は統治の正統性を失うことになります。これは政治学の基本のき、のお話しです。正統性を持たない政府を待ち受ける運命は洋の東西を問わず、決まっています。



 さて、土曜日は銀座へ安倍退陣を求めるデモ、#AbeOut0223 ヘ行ってきました。
 お天気は雨が心配されたんですが、見事に晴れた。紫外線は強かったけど見事に晴れた。晴れやかな日にふさわしく(?)、真っ黄色と茶色のリバーシブルのマフラーをして出かけました。なんと言っても銀座ですから(笑)。

 集合場所の日比谷公園は集合時間きっかりの12:00丁度に大勢の人が集まっていました。皆、手ぐすね引いているといったところでしょうか(笑)。

 今までの自民党前抗議や先月のデモ、そして今回のデモを呼びかけた『怒りの可視化』氏から、日比谷公園から東電前までは『原発やめろ!』、それ以降 銀座から京橋までは『安倍やめろ!』のコールで行きましょうとの話がありました。この日のデモは勿論、沖縄の県民投票に合わせて、です。

 集まっているのは金曜官邸前抗議に来ている人や若い人、中年の人、色々な人です。でも、組合だの市民運動など、うざい団体はいない(笑)。そして団体の旗、幟は禁止。『肉球新党』だけが例外です(笑)。

 予定時間きっかりの12:15には出発。スピーチもなし、時間通りの行動、というのも既存の団体のデモへのアンチでしょう。一般の市民はあいつらみたいな暇人じゃないですからね。

 皆が思い思いのプラカードを持ってきて、軽快なリズムに乗せて安倍晋三原発やめろ』安倍晋三はさっさとやめろ』というコールをする。明確です(笑)。ビル街に、銀座の目抜き通りに、『安倍はやめろ』の声が響き渡ります。

 

 これは嬉しかった↓。周りの人によると英語のプラカードを見て反応してくれたらしい。メッセージも明確ですから沿道の反応は概して良かったです。


 日比谷公園から東電、銀座四丁目を通って京橋まで、約1時間半のデモでした。


 参加者は600名、1月の新宿デモより150人増えました。列を見ていたら1000人くらいいるんじゃないかと思ったんですけどね。良い日柄の下、気持ちが良いお散歩でした。

twitter.com



ということで、新宿で映画『バハールの涙

bahar-movie.com

舞台は現代のシリア。ISに夫をが殺され、自身も性奴隷にされた女性が脱走、人質になっている息子を奪還するため銃を取るクルド人女性、報道記者の夫を戦場で失い、自身も片目を失ったフランス人戦場記者。二人の女性の姿を描いた作品


 シリアの状況については正直どうしたらよいか、ボクには全くわかりません。
アサド、IS、反政府派、クルド人、と三つ巴、四つ巴なのに加えて、ロシア、イラン、トルコ、アメリカと絡まりあっている。ただ一つはっきりしているのはアサドやISなどは虐殺や拷問で住民を老幼男女問わず大勢殺しているということ(反政府派もそうかもしれません)。誰が正しいのかは判りませんが、人々を殺すことだけは間違っている。それくらいしか言えません。

 この映画はISと戦うクルド人女性部隊のリーダーをフランス人戦場記者の眼から描いた作品です。
●女性部隊のリーダー、バハール役のゴルシフテ・ファラハニ。世界で最も美しい顔100人に度々選ばれるなど程の美貌の持ち主です。

 
 実際にクルド人には女性の部隊がありますし、映画に出てくる最前線で取材を続ける隻眼の女性記者は、実在の人物、メリー・コルビンという記者(昨年PRIVATE WARという題名で彼女の生涯が映画化されました。たぶん日本で今年公開)とヘミングウェイの3番目の妻で従軍記者として1936年から活動したマーサ・ゲルホーンがモデルだそうです。
 スペイン内戦で共和国派の兵士の孫娘というエヴァ・ウッソン監督は自らクルド人自治区で証言を集め、戦場ジャーナリストも脚本に加え、フィクションではありますけど非常に緻密な考証を行った作品です。
●語り手役のフランス人戦場記者、マチルド。実在の有名記者、メリー・コルビンのイメージが強すぎるので隻眼にはしなくても良かったかも。

 映画はマチルドが取材のために、ISから拠点を奪還しようとしているクルド人部隊に加わるところから始まります。
 その中には女性たちだけの部隊も居ました。そのリーダーがバハール(ゴルシフテ・ファラハニ)。ISは女性に殺されると天国に行けないと信じており、女性たちの部隊を恐れています。
●マチルド(左後ろ)はバハール(右)たちを取材することにします。

 物語はバハールの過去と現在を行き来する形で語られます。
 超壮絶な話です。もともとヤシディ教徒のバハールはフランス留学もした弁護士でした。夫と幼い息子など家族と平和に暮らしていた村に突如 ISが襲ってきます。ISは男たちは殺し、子供は少年兵の訓練学校へ、女性は性奴隷として売り払います。過酷な状況の中でバハールの妹は自ら命を絶ちます。しかしバハールは息子と再会するために、苦しくとも生きることを選びます。
●弁護士時代のバハール

 バハールを演じるゴルシフテ・ファラハニと言う女優さんはイラン人。ジム・ジャーミッシュ監督の『パターソン』やパイレーツ・オブ・カリビアンに出ていたそうです。パターソンにこんな人出てたっけな?世界で最も美しい顔100人に度々選ばれるなど、非常に美しい人です。
 バハールの過去があまりにも過酷なので、これだけ美しい人が演じてなければ正視できないような話です。でも、これ、現実に起きたことです。クルド人だけでも7000人の女性がISにさらわれ、性奴隷として売り払われたそうです(怒)。
アメリカの支援を受けていると言っても、クルド人たちは大した装備は持っていません。軍服もヘルメットも軍靴もないまま戦っている。

 それでもあきらめずに生きようとする人がいるし、彼女たちを救おうと手弁当で救出活動をする人がいる。バハールは歯に隠したSIMカードを使って、盗んだスマホで外部に連絡、ISからの脱出に成功します。

 解放後 ISから故郷を取り戻すためにバハールは自ら銃をとります。そして、かって住んでいた村に近づきます。そこで捕虜から、村の小学校には子供たちが少年兵にするために押し込められている、という話を聞きます。もしかしたら息子がいるかもしれない。バハールたちは夜明けに強襲することを決意します。

 ISが何をやっていたかということはニュースでは読みますけど、フィクションと言えども映像で見せられると驚きしかありません。泥まみれになって演技する女優さんの姿には美人女優と言う言葉から連想される甘さは一切ありません。マジで許しがたい。ISは正にイスラムの恥。

 ちなみに昨年『ノーベル平和賞』を受賞したナディア・ムラドと言う人はこの映画が舞台とした地方のクルド人ヤズディ教徒、バハールと同じく性暴力の被害者になりましたが脱走、現在はその実態を世界に訴える活動を行なっています。この人のことは後半で触れます。
news.yahoo.co.jp
 
 クルド人部隊はアメリカの空爆や物資の支援を受けています。この映画の中でも、アメリカの空爆を待ってからクルド人部隊が攻勢に移る描写がありました。
 今 トランプのアホがシリアから米軍を撤退させるとか言い出しましたが、彼ら・彼女たちはどうするのでしょう?ISだけでなく、トルコ軍だってクルド人部隊を狙っている。これだけぐちゃぐちゃになっている以上、一番の優先事項はISの抹殺だし、次は戦闘の終結です。米軍の撤退はその2つを共に危うくします。現時点ではISには言葉は通じません。それが現実です。

 そんなことを考えながら画面を見ていたのですが、映画としては悪くありません。いつ死が襲ってくるかわからないリアルな戦場の緊迫感、女性たちに起きた悲惨な出来事、ISからの脱出に際してのサスペンス感。ちゃんとしたエンターテイメントにもなっています。リアルな描写に対して不謹慎ですが、彼女たちがISをぶち殺していくシーンでは正直 爽快感すらあります。こいつらは極悪非道すぎる。


 しかし、この映画の本質は女性映画です。バハールや他のクルド人女性だけではありません。戦場記者のマチルドも夫を戦地の取材で亡くし、自身も片目を失い、それでも幼い子供を残してPTSDに苦しみながら戦場で取材を続けています。逆説的ですが、彼女たちは戦争をやめるために戦っている。
 世界は理不尽な暴力にあふれている。その中でも彼女たちは生きていくことを選んだ。一人一人の力は微力ですが、何とかして生きていくことが世界を少しでもマシな方向に向けていく。この映画はそういうことを訴えているのだと思います。

 衝撃的な作品ですが、露骨な暴力描写は抑えられていて、むしろ描写は上品なくらいです。男たちもあてにはせず、家族や平和を取り戻すために自ら銃をとったバハールたちの姿には心を打たれます。この状況は見なければ理解できない。
 臆せず見てよかったと思いました。

命がけでISと戦ったクルド人女性武装部隊が歌う「バハールの涙」本編映像


これで、俄然 興味が湧いて、その後に見に行ったのがドキュメンタリー。渋谷で『ナディアの誓い
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unitedpeople.jp

 ノーベル平和賞を受賞したイラククルド人女性ナディア・ムラド氏の活動を取り上げたドキュメンタリー。
 彼女はイラク北部の村でヤジディ教徒として暮らしていましたが、ISの侵攻で、母親と6人の兄弟を殺されてしまいます。彼女はISに連行され性奴隷にされますが、イスラム教徒の助けで3か月後に脱出。ヤジディ教徒の団体のスポークス・パーソンとして、自らの体験を元にした少数民族弾圧と性暴力廃絶を訴える活動を続けています。

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 映画は彼女がカナダやドイツを回って支援を訴えたり、国連で演説したり難民キャンプでの活動を追ったものです。

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 映画では、冒頭 ナディアがカナダを訪れ、支援を求めるために国会での発言をするところが描かれます。それを仲立ちしたのが保守党の女性議員なのが面白い(こういうことに保守もリベラルもないんです)。
国会でのスピーチを立派にこなした彼女ですが、現地ラジオに出演したときは泣き出してしまう。辛い記憶がよみがえってくるからです。
クルド人団体の代表者と一緒にスピーチの周到な準備をするナディア。
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 カナダの国会前には広場が広がっていて、人々や動物が呑気に遊んでいます。その、当たり前だけど平和な光景が彼女にとっては新鮮な驚きだったそうです。
一方 クルド人たちはISから逃れても各地の難民キャンプで苦難の日々を送っています。
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 何より、ナディアがまだ22歳、というのが驚きです。あまりにも多くのことを背負いすぎている。各地の難民キャンプに収容されているヤジディ教徒たちも広告塔としての彼女に頼ってしまっている。22歳の女の子が親兄弟が目の前で殺されたり、レイプされたりした体験を人前で証言しなくてはならない。本人の精神的負担がどれほどのものがあるか、ボクには想像ができません。
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 彼女の支援者として弁護士で人権活動家のアマル・クルーニーが出てきます。ジョージ・クルーニーの奥さんです。アマル・クルーニーは弁護士として彼女を保護し、国連安全保障委員会でISに対して国際社会が介入するよう訴えるのをサポートしています。

●ナディア(右)とアマル・クルーニー(左)
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 この人を実際に見るのはほぼ初めてです。モデルのような超美人なのでびっくりしました。レバノン生まれでオックスフォード大卒だそうですが、アマルというのだからアラブ系なんでしょう。グッチのスーツを着こなし、ピンク色の丸いバッグを持った彼女は安全保障理事会には全くの場違いに見えます。
 が、彼女の発言は『国際社会がこんな蛮行を許してしまったことが恥ずかしい。これはここにいる我々自身の責任だ』と、かなり厳しい。でも、その通りです。知性と志と美貌が揃った、こんな人がいるんだなあと思いました。
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 映画では描かれませんが、最近 ナディアは支援団体の人と結婚をしたそうです。個人的な幸せが巡ってきたのは喜ばしい。しかし犠牲があまりにも大きすぎた。

 ニュースなどでISのことを知っても、実際に何が起きているのかは、正直 ボクは全く判ってませんでした。『バハールの涙』を見て始めて、その酷さが判りました。更に『ナディアの誓い』を見ると、その重さがずっしりと伝わってくる。これは全く酷い話です。同じ時代に生きていることが恥ずかしくなる。日本軍の従軍慰安婦も似たようなものだったのでしょう。バカウヨや安倍晋三が幾ら言い訳をしても『SEX SLAVE』という言葉で呼ばれている以上 世界中の人はISと日本軍は同類、と考えます。
 これは平凡な悪とかそういう次元ではない。絶対悪です。人間は『絶対悪』に落ちることもある。アイヒマンを『平凡な悪』と評したアーレントでも、そう言うはずです。


ノーベル平和賞受賞ナディア・ムラドの感涙ドキュメンタリー映画『ナディアの誓い ‐ On Her Shoulders』予告編