特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『オバマケアを守った男』と映画『歓びのトスカーナ』

毎週 同じことを書いているかと思いますが、週末が過ぎるのは早い(泣)。朝寝坊して、映画を観て、料理して、ギターを弾いて、週末はどうしてこんなに楽しいんでしょう。素晴らしすぎる(笑)! それと引き換え月曜日の悲しさ(泣)。早く定年にならないかなあ。
●週末の有楽町、大正軒。毎年 夏のお楽しみ。でかい穴子のフライ。今回はアジとエビとのミックスです。狭い店なので並ぶのが難ですが、材料が良いんです。お爺さんと娘さんがやっています。やっぱり、そういうお店が好き😸


結果は予想されたこととは言え、日曜日の横浜市長選は残念でした。投票率が37%、分裂選挙で自主投票の民進党、マジ勘弁してほしいです。



さてアメリカの事で、書き留めておきたいことがあります。ご存知の通り オバマケアの廃止はトランプの選挙公約で下院では既に廃止法案が可決されています。先週末28日 その廃止法案が先週 上院で否決されました。悪性脳腫瘍の手術をしたばかりのジョン・マケイン3人の共和党議員が反対票を投じたからです。票差は51(反対)VS49(賛成)です。廃止範囲を縮小した今回の法案が否決されたことで『包括的なオバマケア廃止法案の成立は困難になった』と言われています。


マケインは共和党の元大統領候補です。2008年の大統領選をオバマと争ったのは皆さんも記憶に新しいと思います。ボクはこの人、前々から興味があるんです。

この人の父親は日本を空襲した機動部隊の司令官、3代続いた軍人一家の名うてのタカ派です。自分も海軍のパイロットでしたがベトナム戦争で撃ち落とされて捕虜になりました。海軍中将の息子と言うことで早期釈放されそうになったが特別扱いを拒否、ベトナムに拷問を受けながらも獄中にとどまり数年後 釈放されました。拷問で身体障害が残りましたが、それでも彼は戦後 ベトナムとの和平に積極的に尽力して、確かベトナム人の養子を迎えているはずです。


政界入りしたあとも軍備拡張のタカ派として名を馳せました。共和党の軍事委員長です。頭の悪い左翼は彼を軍産複合体の手先とかネオコンとか呼んでいます。でもネオコンって言うのは元左翼が転向した連中ですからね(笑)。彼は負ける戦争はしてはならないと言う信念があるから、軍備拡張と言う点では終始一貫したタカ派です。しかし彼は自分が納得いかないことは一切従わないことで有名で、共和党の重鎮にもかかわらず移民に寛容な政策を支持し続けています。ブッシュ政権の捕虜の拷問にも本気で反対した。銀行の規制では民主党と手を組みました。これだけでも彼が軍産複合体の手先なんて批判が浅はかなものであることがわかります。前回の選挙ではティーパーティー(と大富豪のコーク兄弟)に共和党内の対立候補を立てられ、金にあかせたネガティブキャンペーンで落選しそうになりました。


80歳の彼は悪性脳腫瘍が見つかり、今月 手術をしたばかりです。先は長くないかもしれない。しかしオバマケア廃止の採決に際して、無理やり退院して議場に駆け付けました。金持ちへの減税の財源にするために何が何でもオバマケアを廃止したいトランプは援軍が来た、と思ったはずです。


ところがマケインはオバマケアを守った。確かにオバマケアは欠陥も多いけど、廃止すれば約2000万人の人の健康保険が無くなるからです。ボクはマケインの言ってることは賛成できないことも多いです。保守票欲しさにアメリカの稲田朋美みたいなアホの右翼ババア、ペイリンを副大統領候補に選んだのを筆頭に、間違った判断も多い。だけど根本的なところは文字通り自分の命を懸けて守る。右左のイデオロギーに関係なく、こういう人こそ人間として立派だ と思うんです。大統領に逆らうことも、党に逆らうことも全然 意に介さない。人間の価値って右とか左とか政治的な主張ではない、もっと大事なことがあります。忖度しか能がない日本の政治家や役人とは正反対ですよね(笑)。自民党でも、かってはこういう人が居たと思いますが。



と、言うことで  銀座で映画『歓びのトスカーナ映画『歓びのトスカーナ』公式サイト

イタリア、トスカーナ地方の美しい田園地帯にある精神病の治療施設ヴィラ・ビオンディ。そこでは司法医療施設とは異なるグループホームとして精神病患者たちと看護人が共同生活を送っていた。自分を伯爵夫人だと思っているベアトリーチェはでかい態度と大言壮語で周囲に迷惑をかけてばかり。ある日 彼女は同室になった鬱病のドナテッラ(ミカエラ・ラマツォッティ)を誘って、施設を脱走する。


邦題は何とも大げさでインチキ臭いですが、イタリア語原題はLa Pazza Gioia(狂ったような歓喜)、英題はLike Crazyなんで、そんなに外しているわけでもありません。
トスカーナの美しい田園地帯には食指が動くものの、精神病というとちょっと敬遠してしまいそうなテーマです。が、この映画、今年3月に発表されたイタリアのアカデミー賞と言われるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞、監督賞、主演女優賞など5部門、映画記者が投票するナストロ・ダルジェント賞で監督賞、主演女優賞、脚本賞など5部門を獲得するなど、非常に評価が高い。そういう作品ですので、後学のために(笑)見に行きました。
●物語は心を病んだ二人の女性が主人公です。



映画はトスカーナの治療施設、ヴィラ・ビオンディでの生活描写から始まります。美しい田園地帯にある山荘で心を病んだ患者たちが農作業をしたり、共同生活をしている様子が描かれます。ボクは門外漢ですが、一般社会から隔離しているように見える日本の同様な施設とはだいぶ違う感じです。彼女たちは時には近隣の農園の収穫作業を手伝い、お金を稼いだりもしている。司法医療(犯罪を犯した患者を裁判所が強制的に入院させる制度。2015年に廃止)などイタリアの精神医療制度には問題があるというのもこの映画のテーマですが、国からは毎週 直接 給付金が手渡されるなど患者さんたちを一人の人間として扱っているのを見ると、イタリアは進んでいると思います。昨年の相模原の施設の事件のことを考えてみてください。日本の『空気』(雰囲気)のせいで被害者の名前すら公表できないんですから。日本では患者さんたちは世の中に存在しなかったかのように扱われている。


ヴィラで患者たちの女王としてふるまっているのがベアトリーチェです。自称伯爵夫人として、虚言を振りまきながらタカビーな態度でふるまう彼女はいや〜な感じです。躁状態なんでしょうか。だけどゴージャスなルックスも相まって、確かに女王のようには見える(笑)。
●自称伯爵夫人のベアトリーチェはいつも日傘代わりに日本の蛇の目傘をさしています。


演じるヴァレリア・ブルーニ・テデスキという人は監督の前作『人間の値打ち』で不倫に溺れる大富豪の妻を、少し前に公開されて滅茶苦茶面白かった『ローマに消えた男』でも失踪した野党書記長を匿う元カノ役を演じていました。

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イタリアでも確固たる地位を確立している大女優ですが、サルコジの奥さんでスーパーモデル兼歌手のカーラ・ブルー二のお姉さんだそうです。そりゃあ、ゴージャスなルックスもうなずけます。偉そうなのも仕方ない(笑)。
彼女と同室になったのがドナテッロです。全身にタトゥーをした彼女は病的に痩せこけています。重度のうつ病ですが、リストカットの跡も痛々しい。クスリもやっているような感じです。
●強度の鬱のドナテッロ(左)と躁状態ベアトリーチェ(右)。演じた女優さん二人はこの映画でイタリアの映画記者が投票する映画賞でW主演女優賞を取っています。


やがて仲良くなったベアトリーチェとドナテッロは施設から脱走して、旅に出ます。彼女たちの過去にどんなことがあったのか、彼女たちはなんのために脱走したのか。旅が進むにつれて段々と明らかになってくる、この謎解きがこの映画の見所の一つです。


彼女たちの言ってること、やってることは表面的にはあまり共感できません。ベアトリーチェは病による大言壮語で偉そうですし、ドナテッロは子供から無理やり引き離されて凶暴になっています。お金をかっぱらい、ただ食いをし、銀行の支店長を説教し、昔のバカ男に一発かましたりする旅です。やっぱり普通の映画の登場人物とは違うなーというのが中盤までの正直な感想です。破天荒な中年女性二人の明日をもしれない旅は昔のフェミニスト映画の名作テルマ&ルイーズを思い出させます。

●この映画でも地中海の陽光は美しい。それだけで雰囲気が違います。


彼女たちが七転八倒しながら続ける姿はどこかユーモラスでもあるし、海岸の青や農園の緑、強い地中海岸の陽光などの美しい自然や、日本には真似できないゴージャスな別荘やレストランなどが出てくる旅は本当に目の保養で、そこは『テルマ&ルイーズ』と明らかに違います。もちろん、それだけではない、ダークなイタリアの姿も垣間見えます。世の中では弱い立場に居る二人です。世の中の矛盾や不公正にさらされます。

映画を見ているうちに、最初は共感できなかった二人の女性にだんだん感情移入してくるのが自分でもわかりました。歓びを感じたり、愛情を求めたり、間違いを犯したり、彼女たちは我々とあまり違いがない、ことがわかってくるんです。
●女優さんたちの『イってるとき』の演技も素晴らしい。本物としか思えません。


映画のアクセントになるのが彼女たちの周りの登場人物。もちろんロクでもない奴も多いんですが、ヴィラ・ビオンディの所長や看護人、それに旅の途中で出会うタクシー運転手など、イタリアの市井にいるであろう等身大のリアルヒーローが出てくるのも忘れられません。超カッコいい。思わず拍手したくなります。


お金もないまま逃亡を続ける二人です。人間としてのささやかな望みすら絶たれたかのように見えたドナテッロたちに奇跡のような結末が訪れます。これぞ映画!といいたくなる実に見事なプロットです。登場人物だけでなく、観客もこれですべてが救われる。それくらい素晴らしい。作り手の強い意志を感じます!
●夜の海岸に佇む二人。前半とは表情が違います。

 


こういう映画を見ると、やっぱりイタリアの文化は恐るべし、と思いました。精神を病んだ人に対しても、こうやって人間として本気で向き合おうとする。日本の社会とは精神年齢が全然違う。我々はあとどのくらいすれば、このような奥が深い人間観を持てるのでしょうか。冒険的なテーマだけど明快な価値観と職人芸に裏打ちされた、いかにも映画らしい映画です。見事な完成度でした。観客は最後はうれし泣き、絶対 間違いなし、です😸。