特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

やっぱり『日本死ね!』と、萌えるし、燃える!映画:『ハンズ・オブ・ラブ 手のひらの勇気』

毎週同じことを書いてますが(笑)、週末は過ぎるのが早い〜。
この週末は渋谷・原宿へ立ち寄ってきたんですが、なんだかんだ言って、オリンピックで街も変わりつつあるし、人も齢を取った。時の流れを凄く感じた週末でした。もちろん自分も例外じゃないんですが(笑)。それにしても土曜夜のNHKスペシャルのディラン特集、ディランの詩を朗読するオダギリ・ジョーが異様に恰好良かった(笑)。
                                    
今週は逃げられない宴会が2回もあって官邸前抗議も行けないんですが、これをやり過ごせば今年も何とか、と言う感じです。ズボンのベルトが心配。普段の仕事なんて、昼ごはんとお菓子しか楽しみがないんだもん(泣)。
●映画『この世界の片隅に』のせいで、思わず広島料理へ行ってしまいました。我ながら軽い(笑)。

                    



ちょっと前流行語大賞とやらで、例の保育所の整備不足を告発する『日本死ね』が入っていましたhttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161211-00000121-spnannex-ent。それに対してコトバが汚いだの、くだらないことを言ってる奴もいましたけど、ボクは日本死ね』は今年を代表する名言だったと思います。デフレだの、リストラだの、ブラック企業だのが横行する世の中で働く女性に家事・育児まで押し付け、なおかつ保育所もまともに整備しない、教育にも税金を使わない、そんな日本を表現するのに『死ね』という言葉は実に的確な表現だと考えるからです。この国は子どもを大切にしない。今回のこのニュースもまさに日本を象徴するような話です。

http://www.huffingtonpost.jp/2016/12/06/thai-student_n_13468952.html

日本で生まれ育った子供を他国に追い返してどうするんでしょうか?それでなくとも少子高齢化とか言ってる国ですよ(笑)。 小林昭彦とかいう裁判官は頭がおかしいとしか思えません。これで思い出すのは先月観た映画『ニコラス・ウィントンと669人のこどもたち子どもたち、そして自分はどうするか、という物語:映画『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』と『小さな園の大きな奇跡』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)です。

 映画『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』
                                            
ナチはユダヤ人の子供を故郷から追い払いました。イギリスはその子供たちを受け入れました。子供を受け入れる社会と子供を追い払う社会、どちらが残ったのか、結果は歴史が明快に証明しています。我々の未来でもある子供を追い払うようなこの国は、まさに自ら『日本死ね』と言っているようにみえてなりません。こんなことを続けていていいのかと思います。
キャンペーン · 入国管理局: タイ国籍の少年、ウォン・ウティナンさんに在留特別許可を! · Change.org



                            

ということで、新宿で映画『ハンズ・オブ・ラブ 手のひらの勇気(原題Freeheld)
今年3月に観た『ジェンダー・マリアージュ』は非常に心を動かされたドキュメンタリーでした読書『メディアと自民党』と映画『ジェンダー・マリアージュ』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)
2000年の大統領選挙の得票をめぐる裁判で争ったブッシュの元代理人の弁護士とゴアの元顧問弁護士、保守派とリベラル派の弁護士が手を組んで、同性婚は合憲という2015年の最高裁判決を勝ち取るまでを描いたものです。彼らはイデオロギーに囚われず、『人間の愛情は性別にかかわらず平等である』というシンプルだけど当たり前の信念を共有して戦ったんです。面白くて感動する、本当に素晴らしいドキュメンタリーでした。

                                             
今回の『ハンズ・オブ・ラブ』は『ジェンダー・マリアージュ』にも出てきたお話です。2005年にニュージャージー州で起きた同性愛者にも平等の権利を与えるよう求めた同性カップルの闘いを描いてアカデミー短編ドキュメンタリー賞を受賞した『Freeheld(ボクは未見)を基にした劇映画です。

ニュージャージー州の腕利刑事で25年間、地域に奉仕してきたローレルは、49歳でガンにより余命半年を宣告される。同性愛者の自分と事実婚で人生を共にしてきた自動車整備工のステイシーが遺族年金を受け取れるよう地元オーシャン郡に申請を出すが、同性であるという理由で却下されてしまう。ローレルはパートナーに遺産として自分の年金を引き継がせるために同性愛者の権利を認めるよう訴えを起こす。だが保守的な地域、職場の中で味方になってくれたのはローレルの同僚刑事デイン(マイケル・シャノン)だけだった - - -



主演の同性カップルを演じるのはジュリアン・ムーアエレン・ペイジ、それを支える同僚がマイケル・シャノン同性婚の市民活動家がティーブ・カレル主要人物全員がアカデミー賞獲得もしくはノミネートを受けた豪華キャストです。ボク自身も好きな人ばかりで、必ず見に行こうと、公開を手ぐすね引いて待ってました(笑)。



映画は ニュージャージーの海岸沿いのボードウォークでの麻薬取引の摘発から始まります。摘発するのは刑事役のローレル(ジュリアン・ムーア)とデイン(マイケル・シャノン)。彼らの仕事がどんなものか、それに危険を共にする者同士の絆が描かれます。刑事という仕事に使命感を持っているローレルと正義なんかクソくらえの荒くれ刑事デイン、いいコンビです。

                               
でも、ローレルにはデインに隠していることがあります。彼女は同性愛者です。自分が住んでいる地域とは離れた場所へ気晴らしに出かけるローレル。ニューヨークのお隣のニュージャージーですが共和党の勢力が強い、保守バリバリの地域です。当然 同性愛者には居場所はない。まして、職場は男社会である警察です。そのなかで女性がキャリアを積み重ねていくのには男より仕事ができなければ生き残っていけません。まして同性愛者なんてことは公に出来ない。必然的にローレルは誰からも心を閉ざして生きていかなくてはなりません。
●ゴージャスな美人刑事。男社会の中で自分を隠しながら懸命に生きています。


ボクは同性愛者じゃありませんが、このローレルの心境は良く判る気がします。とても共感できた。ボクは宴会とかゴルフとかタバコとか野球などに象徴される男社会は大嫌いです。なによりも他人に自分の自由時間を束縛されるのが耐えられない。最近はだいぶマシになったとは言え、日本の社会の基層の本質は原発ムラならぬ、男ムラだと思います。同性愛者じゃなくても、ムラ社会に属しない人間には生き辛いですよ。
男同士でせこくつるんで、部外者や異質な人間を排除する。嫉妬深くて、後ろから弾が飛んでくる村社会。多くの人が指摘する日本で開業率が低いのも、ベンチャー企業がなかなか出てこないのも、それが原因じゃないですか。そもそも男が家事をしないから少子高齢化が進む。男社会はまさに自滅社会とっとと滅んじまえ(笑)。


                          
ちょっと、興奮してしまいました(笑)。そんなローレルが出会ったのは若い自動車整備工、ステイシー(エレン・ペイジ)でした。歳が親子ほども離れた二人ですが、いつしか恋に落ち、二人で暮らし始めます。家を買い、リフォームし、犬を飼う。それこそ誰もが送ってみたい、普通の新婚生活が始まります。ニュージャージーでは2004年に認められていた同性パートナーの認証も受けます。

しかし、そんな暮らしは長く続きませんでした。ローレルが末期の肺癌であることが発覚したのです。一軒家のローンは若い整備工のステイシーが払える金額ではありません。二人の想い出が詰まった家を残すため、ローレルは自分の遺族年金をステイシーに残すことができないのか、異性間の結婚では認められていることがどうして自分たちでは認められないのか、オーシャン郡に対して訴えを起こします。


この映画は特に素晴らしい点が2つあります。
まず、キャストの演技。 ジュリアン・ムーアはカンヌ、ベルリン、ヴェネチアの3大映画祭で主演女優賞を取った唯一の女優さんです。以前『キッズ・オールライト』で養子を育てるレズビアンカップルを演じていました。また前作の『アリスのままに』ではアルツハイマー病で記憶が徐々に無くなっていく女性を演じていました。今回はレズビアンで末期がんの患者を演じています。この人、どこまでいくんだ(笑)。でも、今回もすごかったですね。腕利き刑事が病の進行に伴って徐々に弱々しくなっていく。後半は本当に頬がこけていき、髪の毛も坊主になってしまう。ここまでやるか、と思いました。
●法廷で訴えるローレル。この時点で頬がこけています。これから更に表情が変わっていきます。

エレン・ペイジちゃんも凄かったですね。齢の差がある恋人との複雑な葛藤、肉体労働者として男性の中で働くレズビアンとしての心境、労働者階級ゆえの市民運動への反感、パートナーを不治の病で失いそうな近親者の不安と喪失感、これだけのことを殆ど言葉を発しないで表現しているんですから。そしてラストシーンの表情。

                                 
気合が入りまくりの主演二人の静と動の演技は圧倒的です。

もっと良いのが脚本です。お話が進むにつれ同性カップルより、マイケル・シャノン演じる同僚刑事デインに力点は移っていきます。後半は実質的にこの人が主人公と言っても良い。マイケル・シャノンの演技に加えて、まさにプロットの勝利だと思います。普通だったらジュリアン・ムーアエレン・ペイジちゃんが法廷で感動的なスピーチを決めるんでしょうけど、お話として敢えて二人を支える男に着目するのは、現実味が感じられて効果的でした。乱暴でMale Chauvinist(男性優位主義者と言ったらよいでしょうか)だった男が、いざとなったら常識や世間体を全て放り捨てて仲間のために闘う。まさに男の中の男です(笑)。エゴイスティックな男だったデインが初めて他人のために尽くす闘いを目の当たりにして、ローレルたちを冷たくあしらっていた警察官たちが変わっていく姿も超々感動的でした。ここは思いだすと泣いちゃう(笑)。



マイケル・シャノンリーマンショックを告発する映画『ドリーム・ホーム 99%を操る男たち』で素晴らしい演技で悪徳不動産屋を演じていました。見たことないけど映画『スーパーマン』の宿敵ゾッド将軍役もやっているそうです(笑)。

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●同僚の刑事たち。本編では、この並び方にも大きな意味があります。

●トランプが当選した時のマイケル・シャノンの反応(笑)。コトバは悪いけど正義感が強い、この映画の役柄、そのまんまです。


最後に流れたクレジットを見たら脚本家はアカデミー賞作品『フィラデルフィア』を手掛けたロン・ナイスワーナー、音楽はアカデミー賞常連のハンス・ジマーに、ザ・スミスの元ギタリスト、ジョニー・マー!どうりで静かなギターの音が異様にかっこよかったわけです。勿論 ザ・スミスはゲイであることを前面に押し出した80年代のカリスマバンドです。
●昨年 彼が出したライブ盤は恰好良かったです。

Adrenalin Baby

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●この曲『Getting away with it』はジョニー・マーニューオーダーのバーナード・サムナーと作った名曲。

                                 
監督のピーター・ソレットは知らなかった人ですが今作が2作目。才能あります。これからDVDで前作『キミに逢えたら』を見るところです。
キミに逢えたら! [DVD]

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鼻ぺちゃが可愛い若手の演技派エレン・ペイジちゃんは2014年に同性愛者であることをカミング・アウトしました。その彼女がプロデューサーを務めています。要するにその界隈の人が勢ぞろいして、気合入りまくりで作った作品なんです。なるほど! その心意気は見ている側にも伝わりまくりです。本編が終わってクレジットを見て、そういうことだったのか、と、もう一回 泣いちゃいましたもん(笑)。
●スティーブ・カレルは同性婚の運動家役。ちょっとあざといけど、こういう有能な運動家が日本にもいればなあと思いました。


                                  
ということで、事前のハードルが滅茶苦茶高かったにも拘わらず、それを軽々と乗り越える作品でした。難病ものでもあり、自由を求める人々の話でもあり、深い愛情の物語でもある。この映画を観ると、愛情に性別なんかないって改めて思ってしまいます。これこそが誰もが心の奥底に耳を傾ければ聞こえてくる、この世の中にある普遍的なものじゃないかと思います。萌えるし、燃えてくる映画です!(笑)。