特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

百聞は一見に如かず:映画『チリの闘い』と『ペルー料理』

秋の長雨の音が途切れると、今度は虫の声が聞こえるようになりました。
昨日の日曜は街でiPhoneを落としてしまい、真っ青になってました。いや、ウソです、人生が嫌になってました(笑)。伊勢丹の階段で乳母車を降ろそうとしている人を手伝った時 落としたらしい。ボクは生来のおっちょこちょいで、こういうこと良くあるんです。結局 今回は遺失物係のところで見つかりましたが、一部の方にはお騒がせしました。これに限らず、すぐモノを失くすのは自分でも判ってるんで、ボクは腕時計も持ってないし、ケータイも個人のものは持ってない。勤務先の強制で仕方なくiPhoneを持ってるだけです。電話の音は切ってあるし使い方も良くわからないので、メールとデモの写真撮ることにしか使ってないですけどね(笑)。自分が欲しいと思わないモノ、便利と思わないモノを持つのは無理があると思いました。くっそ〜。今後は首からぶらさげる紐をiPhoneにつけることにします。我ながら徘徊老人みたいです。将来の予行演習だな(泣)。



週末の土曜日 『ETV特集 アンコール▽ホロコーストのリハーサル〜障害者虐殺70年目の真実』が放送されていました。昨年放送されボクも非常に感銘を受けた番組ですが、今回 相模原の障害者ヘイト殺人事件を受けての再放送だそうです。NHKにも良心的な人がいるようです。
第2次大戦前ナチは『障害者は理想社会建設の足手まとい』、として収容所に送って殺していたそうです。『障害者虐殺がのちのユダヤ人虐殺のリハーサルになった』、『医者&医学界、それに一般の人もナチの障害者虐殺に自ら進んで協力した』ということを指摘する、見事な番組でした。昨今の日本の排他的な雰囲気が、いつそういう方向へ進んでいくか、判りません。トランプやルペンだけでなく、日本だって社会の少数派の排除を煽る政治家は大勢います。TVやネットの情報を鵜呑みにしている連中も喜んでマイノリティ排除に加わるでしょう。外国人、障害者、LGBT、沖縄、世の中に異議申し立てをするような人、少数派を排除しようとする連中は自分の生活の不満を他の誰かのせいにすることが目的ですから、対象は何でもいいんです。この番組で描かれたことは今の日本にとって他人事とは思えません。10月1日0時から教育TVで、更にもう一度再放送があるそうです。素晴らしい番組ですので、まだご覧になってない方は是非。
http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/20/2259520/
                                                                   
と、言うことで、渋谷で『史上最高のドキュメンタリー』という触れ込みの映画『チリの闘い「チリの闘い」公式サイトを見てきました。アメリカの雑誌では『世界で最も優れた政治映画の10本』にも選ばれています世界で最も優れた10本の政治映画―『チリの闘い』劇場公開決定 | シネマズ PLUS
日経の映画評でも滅多にない5つ星。3部構成、白黒の5時間(笑)。『根性』(笑)で見に行きました。

1970年、チリでは史上初めて選挙によって、左派連合による社会主義政権が平和裏に誕生しました。サルバドール・アジェンデ大統領は反帝国主義、平和革命を掲げて大企業の国有化、農地改革などを実施するが、アメリカや国内の保守層、多国籍企業は反発し、チリの社会・経済は混乱に陥っていきます。議会選挙で大統領を弾劾するだけの議席を得られなかった右派はアメリカCIAの支援を受けて、軍事クーデターを起こすのですが。


1973年、平和的に成立した政権をCIAがクーデターで転覆させたチリの話は有名です。しかもクーデター後 成立した軍事政権が民衆を弾圧、数千人が殺され、拷問などの人権侵害を受けた人が10万人、チリの人口の10%の100万人が亡命したとも言われています。またフリ ードマンなどの学者がアメリカから招かれ、弱肉強食の新自由主義が実験的に導入されたことでも有名です。『ショック・ドクトリン』とも呼ばれる、この新自由主義改革はサッチャリズム小泉改革の元ネタでもあります。この映画は何でそんなことが起きてしまったのか、を描いています。
●演説をするサルバドール・アジェンデ大統領。

                                                
映画では政権末期、73年3月の議会選挙からクーデターが起きる9月までの期間が描かれています。全然知らなかったのですがアジェンデ政権当時でも右派は議会の過半数を握っていたんですね。当初 右派とアメリカはストライキなどを起こして社会に混乱を引き起こしながら、アジェンデ大統領を弾劾するために議会の3分の2を獲得しようとします。しかし選挙では過半数は維持するものの、3分の2獲得は失敗し、それ以降は武力による政権転覆をはかります。爆弾テロを起こしたり、基幹産業である銅鉱山や交通機関のストで社会を混乱させようとするのです。

徐々にクーデターの危険が迫ってきます。でも、それは政権側も民衆も判っていました。政権側はなんとか中道政党と妥協し、クーデターを防ごうとします。民衆側は右派が起こしたストに対して自主的に交通機関を動かしたり、政府を守ろうと度々数十万人規模の集会を開きます。その最中 カメラは人々にアップのカメラで迫り、表情をあらわにします。確かに『史上最高のドキュメンタリー』と言われるだけあって、白黒の画面から人々の高揚や怒りや憎しみ、それに尋常じゃない緊張感が伝わってくるのです。

意外だったのは政権に反対していたのは資本家や大企業の幹部だけではなかったことです。上流階級の女性たちはストの参加者(経営者に同調した労働者たち)へ金銭的寄付を行います。後日 スト参加者にはCIAの資金からも日当が出ていたのが米議会で暴露されます昨年 国会前の反対運動には日当が出ているとネットで言いふらすネトウヨやバカ評論家が結構いたのを思いだしました(笑)。裕福な子弟が集まるキリスト教の大学では政権打倒の学生運動が起きます。また経営者だけでなく技術者などの中間層もアジェンデ政権に反発していた、というナレーションが入ります。

確かにそれも判るんです。確かに多くの経営層は腐敗していたようです。でも、いきなり企業を国有化して経験も知識もない労働者が全ての実権を握ったら、職場は大混乱になる。労働者の自主管理と言うと聞こえは良いですが人民裁判みたいなことも行われていたし、必ずしも良いことばかりではありません。実際 アジェンデ時代は経済が大混乱して、ハイパーインフレと物資不足に陥っていたようです。アメリカの経済制裁は汚いですけど、事情が分からない一般庶民にとっては政権が悪い、と思ってしまいますよね。今までボクはCIAとピノチェトは人殺しのクズ、としか思ってなかったんですが、チリにも、それを支持する普通の人もいた、、そういうことが良くわかりました。

                                                            
アジェンデ側が本気で 社会主義を目指していた、というのも今から見ると驚きではありました。合法的かつ平和的に成立した政権が、工場などの生産手段を国有化と言う形で民衆の管理にしていくんです。チリ経済が資本家や多国籍企業の寡占状態だったというのもあったと思いますが、こういう時代だったんですね。カメラには工場や鉱山などの職場を管理する誇らしげな労働者たちの顔が映ってますが、ボクはこれを見て、これじゃあ、一発で潰れる、と思いました。国有化や自主管理も鉱山を掘るみたいに、ただ従来通りのやり方でモノを作るだけならいいかもしれないけど、新製品を作るとかマーケティングや生産の新しいやり方を考えたり、経営戦略を立てたりするのは、国有化では絶対ムリ、に見えたからです。高度なことをやるには専門的な訓練が必要だし、全員参加の民主的な会議からは新しい発想はなかなか生まれないです。中国然り、フランスのアレバ社然り、東京電力然り、世界中探しても国有企業やそれに近い形で成功している会社なんかないでしょ。当時は国有化で生産手段を民衆のもとに帰せばなんとかなるという考え方だったのかもしれませんが、今から見ると時代を感じます。

議会、裁判所は右派につきます。いずれクーデターが起きるのは誰の目にも時間の問題です。政権はクーデターを防ぐために中道政党と連合を組もうとしますが失敗、アジェンデ大統領を支える左派連合(人民戦線です)のなかでも内紛が始まります。軍隊内の護憲派も段々勢力を削がれてクーデター派が台頭、アジェンデ大統領は徐々に孤立無援に追い込まれていきます。それでも彼は平和主義に徹して、言論弾圧などの強硬手段を取ろうとはしません。最後の手段として国民投票に訴えようとしますが、投票日の直前、アメリカの駆逐艦がチリ沖に現れると軍部のクーデターが勃発、大統領官邸に軍隊が攻め寄せます。アジェンデは亡命すれば助命するという誘いをはねつけ、あくまで合法的な大統領として官邸に籠りますジェット機空爆まで始めた軍の攻撃に対して、アジェンデは無駄な犠牲を防ぐために身の回りの警護官を解散させ、仲間たち40人で最後の時を迎えます。銃弾が飛び交う中、彼は国民に向かってラジオ放送で呼び掛けます。そして最後は、自殺した、と伝えられています。彼の悲劇的な最後がこの映画を完成させるエネルギーになった、と思います。

                                                             
映画を観て『CIAの悪辣なやり口』が良くわかりました。ストなど左派の手口をパクりながらテロや暗殺などの暴力で混乱を引き起こし、宣伝で国民を味方につけていく。それだけでなく右派や軍部も酷いが左派の社会主義路線もかなり無理があった、だからチリ国民が二つに分裂した、と言うことも良くわかりました。クーデターを起こしたピノチェトは何万人もの無実の人を殺した最低最悪の極悪人であることは間違いないですけど、そういう連中が権力を握ったのには理由があったんです。百聞は一見に如かず。何事も見てみないと判らないものです。

   
                                                                        
チリの闘い』は右派がストやテロなどを起こし始める第一部『ブルジョワジーの叛乱』(約1時間半)、軍部のクーデターを描いた第二部『クーデター』(約1時間半)、職場での自主管理や右派の妨害に対抗する民衆の自発的な行動などを描いた第三部『民衆の力』(約1時間)で構成されています。監督は軍事政権によって逮捕後、フランスへ亡命、カメラマンは軍事政権に投獄されて行方不明になっています。フィルムは奇跡的に国外へ持ち出され、キューバ政府が援助して映画が完成したそうです。取材していたアルゼンチンのジャーナリストが兵士に撃ち殺されるまで撮っていたフィルムがそのまま使われていたりもします。
                             
第一部、第二部は完璧なドキュメンタリーだと思います。左派も右派も登場する視点は公平だし、アップで取られた人々の表情が良くも悪くも非常に雄弁です。なによりも緊迫感が素晴らしい。だけど第三部は国有化や自主管理がいかに素晴らしいかを語る労働者のインタビューばかりで閉口しました。まったく面白くないクズ・フィルムでした(席を立つ人もいたくらいです)。第1部、第2部は、『史上最高』の名に恥じない素晴らしいドキュメンタリーです。第3部がなければ完璧だったんだけどな〜(笑)

      
                                                    
ついでに、映画に刺激されて(笑)、チリのお隣、ペルーの料理を食べに行きました。こんなこと言ってると頭が固いバカ左翼は怒るだろうなあ(笑)。新しいペルー料理の店が原宿にできたという話を聞いていたので一度行ってみたかったんです。と言ってもボクは疑り深いので(笑)、新しい店や商業施設には直ぐ行かないのがモットーです。この店も出来てから2、3年は経ってます。

●ペルー料理をテーマにした、こういう映画もあるくらい。インディオとラテン系、それに移民のアジア系の料理が混じったペルー料理はヘルシーで美味しいとして欧米では少し流行っているそうです。

                         
お洒落系の店は味もサービスも一切信用していないので身構えていたのですが(笑)、店に入ったら外人ばかりで、雰囲気も適度にカジュアルで、いい感じでした。一般的に外人が多い店って当たりの確率が高いと思います。彼らは気取ってないし価格も味もシビアですからね。珍しいので、主だった料理をご紹介します。
セヴィチェ:白身魚のお刺身をライムジュースと唐辛子で味をつけたもの。お皿に塗ってあるのはソース代わりの甘いお芋

カウサ・リメニャ:ジャガイモのマッシュの間にチキンの和え物を挟んだもの

プルポ・アル・オリーボ:タコにオリーブソースをかけたもの

キヌアの煮こみ 魚の鉄板焼

アヒ・デ・ガジーナ:チキンの唐辛子クリーム煮込みとお米

                             
ペルー料理とはどんなものが出てくるのかと思っていたんですが、ソフィスティケイトされた料理ばかりで美味しかったです。コリアンダーと唐辛子(あちらの辛くない品種)が強調されているのが特徴でした。一緒に行った、ボクより口の悪い友達は『未開のジャングルにリゾートホテルがあるようなもんだな』と言ってました(笑)。
百聞は一見に如かず。何事も体験してみないと判らないものです。

●これは珍しいペルーワイン。最近はこうやってワインのラベルをスマホで写すと、人工知能を使った『VIVINO』というアプリで市況価格や味の評価がすぐわかります。これじゃあ、ソムリエと言う職業も将来はなくなっちゃうかも。この店のワインの値付けは良心的(市価の約2倍)でした。