特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

 読書『これがすべてを変える』と映画『ノクターナル・アニマルズ』

今週は社外のビジネススクールで日曜まで缶詰状態なんです。朝8時からディスカッション、夜遅くまで宿題に追われています(泣)。ホテルに泊まれというスクールの指示は無視してるんですが、帰宅してパソコンを上げたら電源が立ちあがらない😅。まさにこんな時に限って故障?。参りました。
●高層ビルに軟禁状態😹



今週は簡単に更新させてもらいます。金曜官邸前抗議も今週はお休み、土曜昼に大規模集会があるそうです。
●外では色づき始めた木の葉が朝日に輝いていると言うのに😂



代わりに 話題の本の感想です。
これがすべてを変える――資本主義VS.気候変動

これがすべてを変える――資本主義VS.気候変動(上)

これがすべてを変える――資本主義VS.気候変動(上)

カナダのルポライターナオミ・クラインの『ブランドなんかいらない』、『ショック・ドクトリン』に次ぐ著作です。前作はどちらも面白かったのですが、特に経済危機や自然災害などの危機に乗じて新自由主義的な改革が押し付けられてきたとするショック・ドクトリン』(惨事便乗型資本主義)は多くの人に衝撃を与えました。
ブランドなんか、いらない―搾取で巨大化する大企業の非情

ブランドなんか、いらない―搾取で巨大化する大企業の非情

普通に生きるってことは:『ショック・ドクトリン』と『絶望の国の困ってる若者たち』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)ボクも衝撃を受けた一人ですが、反面 言ってることがあまりにもいい加減じゃないか、という思いもあります。なによりもショック・ドクトリン』という言葉はキャッチ―だし、膨大な脚注に裏付けられた著作ではあるんですが、非難している割には新自由主義という現象の定義すらできていない。そういうのはこの人だけじゃありませんが、それはちょっと違うんじゃないかなともボクは思うんです。
待望の新著ではどうでしょうか。


今回は地球温暖化現象がテーマです。
CO2の増加による地球の環境変化は予想以上のスピードで進んでおり、もう数年で後戻りできないところまで進む可能性がある。ところがBPやエクソンなどのエネルギー業界、それにコーク兄弟などの右派のおお金持ちは地球温暖化現象は存在しないと言い張り、政治に多大な影響力をふるっている。政府はもちろん、環境保護団体の多くも実効性のある対策を講じていない。ビル・ゲイツやリチャード・ブランソンなどのおお金持ちの篤志家も信用できない。なぜなら地球温暖化の真の原因は強欲な資本主義であり、資本主義を変えなければ解決できない。


内容はそんな感じです。これらの内容に関する膨大な脚注が上下巻についています。ロジックは平易ですから、読みやすいです。上下巻各600ページという大部に恐れをなしたんですが、案外ささっと読めました。


今迄の彼女の著作よりは一段 思考が深まったような気がします。今まで非難するだけだった新自由主義も(新自由主義とは)『公共部門の民営化』、『規制緩和』、『企業や資本家への減税とそれに伴う行政支出の縮小』の3つの組み合わせとびっちり定義しているところも鋭いと思いました。とくに『減税』と『公共支出の削減』のところ。減税と聞くと普通は皆 喜びます。しかし、減税で多く利益を得るのはお金持ちだし、減税があると公共支出は減り、その影響を受けるのは99%側です。減税で喜ぶのは間違いかもしれません。


著者は、『環境問題はあまりにも多くの人々に影響を及ぼす。だからこそ!環境問題は自然保護だけでなく人権や政治的自由を主張する多くの人々が共闘するチャンスである、最大の問題は資本主義と資本主義的な考え方であり、それは多くの人々が立ち上がる市民運動でしか変えられない』、と主張しています。


地球の平均気温が2度上がると環境変化はもう後戻りのできなくなる、とは言われています。現在の地球環境の変化はそこまであとわずかなのかどうか、という点については著者は詳しく論証しません。国連や政府の公的機関も含めた科学者の9割以上が認めている、に留めています。
著者は一部の企業や環境団体などが進める改良主義的なやり方は否定的です。資本主義とのバランスをとってCO2排出量を減らしていくやり方ではもう、間に合わない、というのです。


かと言って、著者がいうように大規模な市民運動が地球レベルで立ち上がることなんてことがあるかどうか、ボクは懐疑的です。著者は社会的正義を勝ち取った成功例として、ルーズベルト大統領時代の独占企業との戦い、それに奴隷制との戦いを挙げています。ま、確かにそうなんですが、市民運動がそれだけの力を持つことができるでしょうか。これから経済発展の必要な国も含めてコンセンサスが作れるか。
現実には市民、政治家、企業、さまざまな主体が話し合って、徐々に進んでいくことでしか、この問題は解決できないのではないか。著者によると、それでは間に合わない、というのですが、そのような反資本主義的なピュアな運動こそ、効果が出るまで多くの時間がかかると思うのですが。


と、まあ。話題の著者の本ですし、一読の価値はあると思います。ロジックは簡単ですからささっと読めます。図書館でいいかな(笑)。少なくとも著者は堤未果のようなインチキな嘘つきじゃありませんし、現実的選択肢になりつつある自然エネルギーの事情を知っておくのも良いと思います。日本の自然エネルギー推進派というのもインチキなやつばかりで信用できないですから。



ということで、新宿で映画『ノクターナル・アニマルズ

LAでギャラリーを経営するスーザン(エイミー・アダムス)は、会社経営の夫と大豪邸で裕福な生活をしていたが、心は空っぽだった。孤独な毎日を過ごす彼女のもとに、19年前に離婚した元夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から、彼が書いた「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」という小説が届く。




昨年のベネチア国際映画祭で『ラ・ラ・ランド』や『メッセージ』などの作品を抑えて審査員大賞(次席)を獲得した作品です。監督はトム・フォード。この人はファッション・デザイナーです。一時期落ち目になっていたグッチを立て直した人として有名で、サン・ローランも手掛けたり、今は自分の名を冠したブランドをやっています。カッコいいけど、男物のスーツが40万とかしますからとても買えません(笑)。


映画監督としてはこの作品が2作目です。前作の『シングルマン』は大好きでした。恋人が亡くなって絶望したゲイの男性(コリン・ファース)が自殺するまでの最後の1日を描いたもので、耽美的な美しい画面と厭世観が優雅に表現されていて本当に素晴らしかったんです。もちろん、監督もゲイです。

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今回のお話しはLAでのスーザンの生活、スーザンと前夫との生活の回想、それに『ノクターナル・アニマルズ』と題された前夫が書いた小説、3つの物語が展開されます。

ため息が出るようなLAでの豪奢な生活。ハイセンスなインテリアとファッション、見事な建築、その中でリッチな男女が繰り広げる豪奢で空しい生活。
エイミー・アダムスもファッションもインテリアもひたすら美しい。美しくないのは登場人物たちの心の中。


それとは対照的なNYでのスーザンと前夫の生活。貧しいけれど知的なカップルが愛を育んでいき、そして崩壊する。
●スーザンと心優しいエドワード(ジェイク・ギレンホール)はNYの街角で恋に落ちます。


そして小説の中のテキサスの荒野を舞台にしたハードボイルドな犯罪劇。前夫役のジェイク・ギレンホールが小説の中でも主人公を演じています。そのような仕掛けでLA,NY,テキサス、別の話が次第に絡み合っていく構成は見事なもんです。
●乾いた荒れ地での乾いた物語。

上流階級に生まれたスーザンは親の反対を押し切って心優しい男、エドワード(ジェイク・ギレンホール)と結婚します。しかし美しく、野心満々な彼女は穏やかな生活を望んでいるだけのエドワードに次第に物足りなくなります。そして本当に酷い仕打ちをしてエドワードを捨てる。
●『お前は絶対 彼を傷つける』と忠告した母親(左)の反対を押し切って、スーザンはエドワードと結婚します。


やがて彼女は精力的な実業家の夫と結婚し、自分もギャラリーを経営していますが、満たされない毎日を過ごしています。彼女が過去にやったことが、今 自分に降りかかってきているかのようです。そんなとき、エドワードから彼が書いたという小説が届きます。タイトルは『夜の獣(ノクターナル・アニマルズ)』。かってエドワードが彼女につけた綽名です。


小説『夜の獣たち』のお話にはジェイク・ギレンホ−ル、アーロン・テイラー・ジョンソン、それにマイケル・シャノンが出てきます。3人とも好演です。ひたすらダメダメな優男のジェイク・ギレンホール、粗野で狂気に駆られたようなアーロン・テイラー・ジョンソン、武骨で男気溢れる南部男を演じるマイケル・シャノンの乾いた犯罪劇は見ごたえがあります。マイケル・シャノン、実にいいですよ。小説の中のジェイク・ギレンホールと前夫としてのジェイク・ギレンホールが次第に重なっていくんです。
●心優しい前夫役のジェイク・ギレンホール

●サイコなホワイト・トラッシュ(クズ白人)役のアーロン・テイラー・ジョンソン(右)

●武骨な南部男の保安官役のマイケル・シャノン


スーザンを演じるエイミー・アダムスも目の保養と言っていいくらい、美しく撮られています。豪奢なドレスと意味深なメイク。しかし、彼女を描く視線は冷ややかで、まるでインテリアや現代美術のように撮られています。エイミー・アダムスベネチア映画祭で、この映画と『メッセージ』、主演作が2本上映されていたんですね。
●美しいがインテリアと同じように撮られています。意識していない彼女の内面を象徴しているかの様。


シングルマン』でもそうでしたが、トム・フォードは俗世が嫌いなんだと思います(笑)。ファッション界で大成功した彼ですが、下品な奴、強欲な奴、野心的な奴が大嫌いなんだと思います。彼が浸っていたいのは美しい衣装、インテリア、美術、美しい女性、そして優しい感情。この映画で描かれた終末感が漂う優美なLAやNYと絶望と暴力に彩られたテキサスの表情との対比。素晴らしいです。あと監督は女性が嫌いだなーと思いました(笑)。特にアグレッシブな女性は大嫌いなはず(笑)
 


この作品を見ていると監督の『俗世にいる下品な連中は大嫌いだ〜』と言う叫びが聞こえてくるようです(笑)。この世の中を静謐で美しい世界にしたいのでしょう。ラストシーンは本当に素晴らしかった。今まで俗世への拒絶をこれだけ美しく描いた画面があったでしょうか。このシーンだけでも入場料を払う価値があります。


ボクは怖がりなので犯罪劇、サスペンスものは、好きではありません。そこは個人的にはマイナスです。が、この映画はそれ以外は本当に素晴らしい、大好きな作品です。でも判る人にしか判らないかも。ボクは超共感できました(笑)。