特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

Plain Living,High Thinking:映画『シュガーマン 奇跡に愛された男』

年初から日経では『とにかくアベノミクスを盛り上げろ』という指示が上層部から出ている、という話を某経済アナリストから聞いた。そんなことは大本営発表みたいな紙面を見れば誰にでもわかることだが、その理由がふるっている。『今回が日本の経済再生の最後のチャンスだから』だそうだ。日本の財政破たんがどんどん近づいていくなかで、無理やりにでも世論を作ってインフレ期待を作りだして増税しなければ、と日経に限らず多くのマスコミは考えているようだ。
それで問題が解決すると思ってんだから、底が浅いというか近視眼的だ。一時的に経済指標は持ち直す可能性はあるかもしれないが、せいぜい来年の春まで持てば御の字だろう。ちなみに今のところデフレは続いているし、銀行貸し出しもまともに増えてないし、成長率も上がってない。それどころか円安で製造業トータルの損益はかえってマイナスになっているそうだ
この何十年 ずっと金持ちへの減税をやってきてこのざまなんだから、一般への富の再分配をしなければ実体経済は回復しないって。そもそも需要が不足してるんだから。
規制に守られたマスゴミの連中なんて特権階級だからわかんないだろうけど、(消費増税に賛成したくせに、自分たちには軽減税率を主張する)新聞やTVを見るたんびに気分が悪い。


                                           
今日で楽しかったゴールデンウィークは終わり。人ごみは嫌だから、いつも通りの生活に終始した。お台場で『凛として時雨』のライブを見て、それに映画4本(『ヒステリア』、『スカイラブ』、『リンカーン』、『海と大陸*一瞬 色物にみられがちな『ヒステリア』は良かった!)、それに一回 夕ご飯を食べに行っただけだけ。
進取の姿勢は欠いているけれど(笑)、普段通りの生活、普通の生活っていうのが一番楽しいです。この連休は結構 街に人が出てたようだけど、新しい商業施設なんか興味ない。六本木ヒルズ表参道ヒルズも行ったのはできてから3、4年経ってからかな(笑)。なんとかタワーも渋谷のへんな商業ビルも、ましてやアベノミクスのバブルなんか、お断り(笑)。青山なんか人は多かったけど、買い物している人は少なかったけどな。



ちょっと前に見たのは、有楽町でドキュメンタリー『シュガーマン 奇跡に愛された男www.sugarman.jp – このドメインはお名前.comで取得されています。

今年のアカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞作品。
70年代初頭にアルバムを2作作ったものの全く売れずにアメリカの音楽界から消えてしまった、ラテン系の歌手がいた。その名はロドリゲス。ところが彼の歌は自由を求める音楽としてアパルトヘイト下の南アフリカに広がり、南アフリカでは誰でも知っている国民的歌手になっていた。だがロドリゲスは消息不明のままで、舞台の上で自殺したという噂だけが広まっていた。時が過ぎ アパルトヘイトから解放された南アで、あるレコード店の店主が謎となっていたロドリゲスを探し始める。果たして、彼は生きていた-------

これが実話だから、話としてはめちゃめちゃ面白い。ロドリゲスなんて歌手は全然知らなかったけど、映画でかかっているのを聴くとストリート系のボブ・ディランみたいな感じだ。ストリート系の黒人ロッカー、ガーランド・ジェフリーズのラテン版みたい(誰も知らないかもしれないが)。 ちなみにシュガーマンとは彼の歌の表題で、麻薬の売人のこと。それで彼の歌の雰囲気が伺えるだろう。

映画の前半は南アのレコード店主の口を借りて、彼の音楽が南アフリカで広まった経緯が描かれる。たまたま誰かがアメリカで買ってきた彼のレコードが若者の間で流行りだす。特にアパルトヘイトに反対していた『白人の若者』の間で抵抗の音楽として広まっていったそうだ。南アフリカ政府は放送禁止にしたが、ロドリゲスの歌を聴いた若者たちは自ら音楽を演奏し始め、更に広まっていったという。最終的には50万枚は南アで売れたという。人口を考えれば、一家に1枚と考えてもおかしな話ではない。
●人の好さそうな南アのレコード店主。彼がロドリゲス探しを始める

                                                                   
アパルトヘイトへの抵抗と言うと映画『遠い夜明け』やピーター・ゲイブリエルの名曲で描かれたティーヴン・ビコネルソン・マンデーラなど黒人の傑出したリーダーたちを思い浮かべるが、白人も反対したということは気がつかなかった。この映画で引用された当時のニュースフィルムを見ると、抗議する白人男女のデモが警官に滅茶苦茶な暴力で弾圧されている。それくらい、本気でアパルトヘイトに反対する白人たちも数多くいたのだ。よく考えたら当たり前かもしれないが、驚きだったし感動的だった。

映画の中盤から、レコード店主のロドリゲスの行方探しが始まる。南アのレコード会社、アメリカのレコード会社、誰もロドリゲスの行方を知るものは居ない。インタビューを受けたアメリカのレコード会社の元社長なんかは『あんなレコード、アメリカでは6枚しか売れてねえよ』と嘯く始末。また南アで売れたレコードの印税はロドリゲスには一銭も入っていないことも明らかになってくる。ちなみに映画でインタビューを聞く限りでは、その元社長が印税をネコババした可能性が高そうな感じだった。
●『あんなレコード、6枚しか売れてねえよ』とカメラの前で毒ずくモータウンの元社長(人相悪いでしょ)(笑)。

やがて歌詞に良く出てくるシカゴ周辺を探してみると、ロドリゲスは音楽を引退して、肉体労働者として暮らしていることがわかる。やっと探し当てた彼は世に出たいとか売れたいと言った世俗的な欲も薄いまま、淡々と自分のやるべきこと(肉体労働)に勤しむ、まるで現代の聖者のような物静かな男だった。 ITバブルもサブプライムもまったく関係ない、イギリスの詩人ワーズワースの''Plain Life High Thinking''を地で行く男だったのだ。
●ご本人のルックス、髪型は今一あか抜けない(笑)

                                                  
終盤は彼を見つけた南アの人たちがロドリゲスを招いて南ア公演を開く模様が描かれる。復活した男のステージを大観衆が熱狂的に迎える。30年前の彼の歌を今でも口ずさむ観衆の姿はマジで感動的だった。
●彼のレコードも復活

シュガーマン 奇跡に愛された男 オリジナル・サウンドトラック

シュガーマン 奇跡に愛された男 オリジナル・サウンドトラック


                                                
数回にわたる南ア公演を成功させたあと、ロドリゲスはデトロイトに戻る。そのあとも彼のスタンスは変わらない。公演で得た金は娘たちに分け与え、自分は元の暮らしに戻るところで映画は終わる。ちなみに、映画公開後のアカデミー賞授賞式に、彼は『自分の功績のように思われたくない』として出席しなかったそうだ。*さすがにミュージシャン活動は再開した。

ラディカルな歌を歌っている割には物静かで求道的なロドリゲス本人のキャラクターにボクは興味を持ってしまったので、彼のインタビューが少なくて人物像があまり浮かび上がってこないところは多少物足りなさもあった。しかし数奇で感動的な物語への驚きのほうが勝る。数年前の音楽ドキュメンタリーの超大傑作『アンヴィルやるしかない。:アンヴィル! - 特別な1日(Una Giornata Particolare)にも少し似ているが、本当にこんなことがあったと言う点ではもっと凄い。

普段は見過ごしてしまいそうな、市井の無名の男が多くの人に実際に勇気と希望をもたらしたのだ。こんなことが本当にあるんだから、この世の中も少しは見どころがあるってことかな(笑)。