特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『立憲民主がダメな理由と山本太郎がダメな理由』と、こんな映画が見たかった!『工作 黒金星と呼ばれた男』

 関東もようやく梅雨明けだそうです。今年は日照不足とやらで野菜の値段は上がって難渋しましたけど、毎年何かしらの理由で野菜の値段が上がっているような気がするのはボクだけでしょうか(笑)。

 さて、玉城デニー沖縄県知事がフジ・ロックに出て、CCRの''雨を見たかい''とディランの’’見張り塔からずっと’’をやったんですって!
 

 古いといえば古いんだけど、現代的な選曲です。ベトナム戦争でナパーム弾が降ってくるのを雨に例えた『雨を見たかい』、そして権力の脅威を歌った『見張り塔からずっと』、新たな戦前かもしれない今にぴったりじゃないですか。ロックのリズムで、アコギでやったのも現代的です。判ってる!やっぱりボクは理屈より、こういう感性を信じちゃうんだよな。

 一方 感性がまるでダメな例がこれです。東京選挙区の立憲の候補者(次点で落選)、山岸一生のポスター。朝日新聞記者という経歴の下にわざわざ自分の中学から大学まで出身校が書いてあります。

 確かに中学、高校、大学と受験戦争を勝ち抜いた立派な学歴です。でも、それが何か?(笑)。東大だから悪いと言う訳ではないけれど、東大だから良いと言う訳でもない。
 彼の学歴なんか選挙民には関係ありません。彼が何を訴えたいか、の方が遥かに大事です。候補者の出身校なんて、スペースが限られた選挙ポスターにわざわざ書くことでしょうか。彼がターゲットにするべき無党派層がこれを見て、どう思うでしょうか。この候補者はそんなことすら判断できないのか

 ボクも街角でこれを見たとき、目を疑いました。無党派に浸透しなければ勝てないのに、わざわざ票を減らすようなことを選挙ポスターに書いている。信じられませんでした。
 山岸氏自体は演説も聴きましたけど、そんなに悪くない。立憲民主は他にもポスターに学歴を書いてある候補者がいましたから、これは組織的な発想でしょう。あの連中はどこまでアホなのか。
 それでもボクは戦略的投票で鼻をつまんで山岸氏に投票しましたけど、立憲民主のこの発想は根本的に問題がある。理屈だけでなく、感性・心の部分で国民の方を向いていないんです。

 あと、感性がダメな例をもうひとつ。貧困問題に取り組んでいるNPO『もやい』の稲葉剛氏湯浅誠氏と一緒に派遣村とかに関わっていた人です)が、落選後 自分をホームレスと称した山本太郎に対する危惧を書いています。ホームレスで選挙も行けないような人の環境を考えれば、自分をホームレスと称することなんかできないはずだ、と言うのです(↓をクリックすると本文が読めます)。

 山本は政界のアウトサイダーとして大きな得票を得たが、今は政党要件を持った政党の党首、立派なインサイダーである。今後は一人の権力者として責任を持った振る舞いが求められる、と稲葉氏は述べています。ホームレスという発言自体は山本本人からも謝罪撤回があったし、大した話ではありません。誰だって失言はある。山本太郎がダメなのは何よりも政策です。
共産党だってボクは非現実的だと思ってますけどね。

 ただ失言にしろ、政策にしろ、この無責任さはポピュリズムの典型的なダメ・パターンの一つでもあります。アウトサイダーのふりをして無責任に批判だけしているというのは山本本人も心地よいのだと思う。だけど自分の立場を考えたら無責任だし、持続可能性がある態度ではない

 そのような快感に陥りがちなのは山本太郎やその信者だけでなく、一般の有権者も同じことですけど、この国に民主主義を定着させていくためにはまだまだ時間がかかるのだと思います。国会のバリアフリー化に文句を言ってる奴が典型で、この国の国民の間にまだまだ民主主義が育ってないんです。
●逆説的ですが、こういうことです(笑)。

 安倍政権をひっくり返さなければいけないのは山々だけど、今の政界を見ているともっと酷い政権が出てくる可能性なんか、いくらでもありますからね。

●韓国で日本の輸出規制に対するデモが起きているそうですけど、あくまでもテーマは『反日』ではなく、『反安倍』です。日本の人たちに対するものではないことをどうして、ニュースはきちんと報じないのかな。




と、言うことで、新宿で映画『工作 黒金星と呼ばれた男
kosaku-movie.com
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1992年、国家安全企画室の軍人パク・ソギョン(ファン・ジョンミン)は北朝鮮の核開発の実態を調べる為、コードネーム「黒金星」という工作員として中国へ渡り、企業家のふりをして北の関係者と接触する。3年にわたる工作の末、彼は北朝鮮の高官たちと信頼関係を築き、金正日と会うことにも成功する。しかし1997年、韓国の大統領選挙で金大中が有力候補になると、彼は金大中の当選を阻止するため安全企画室から北朝鮮への裏工作を命じられる。祖国のために命がけの工作活動をしてきた彼は初めて命令に従うべきか悩むが。


 軍部独裁当時の韓国にはKCIAという悪名高い組織がありました。日本から金大中を誘拐したことで有名になった諜報組織です。民政に移管してKCIAは廃止されましたが、保守政権のもとに後継として安全企画部という組織が作られました。
 この映画はその韓国安全企画部のスパイの実話をベースにしたお話しです。2016年に逮捕されていた主人公が釈放され、やっと事実が明るみになった、そういうことのようです。
●主人公のパク・ソギョン(ファン・ジョンミン)


 ボク自身 スパイもの映画はあまり見ません。怖い映画は嫌いなんです(笑)。韓国も北朝鮮も興味ないです。敵視する気もないし、取り立てて親しみも感じない。
 ただ昨年見た映画『タクシー運転手』、『1987、ある闘いの真実』は非常に面白かったし、独裁下の国民が民主主義を手に入れる過程は我々が学ぶべき点が沢山あると思いました。マスコミを影響下に置き、国家の書類を偽造し、デタラメを抗弁し続ける安倍政権はもう、ソフトな独裁政権だと言っても良いと思うからです。昔の韓国の話は今の日本人にとって他人事ではありません。

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 今作もスパイものと聞いて少し迷いましたが、前記の映画に続くという高評価の作品でしたので、とりあえず見に行ってきました。

 この映画の背景にはこんなことがあります。
 軍が民主化を求める市民や学生を一方的に虐殺した1980年の『光州事件』、大統領の直接選挙制を求めた1987年の『6月民主抗争』を経て、1988年、韓国は軍部独裁政権から民政に移管しました。しかし、民主派陣営は分裂していたため、選挙では軍部の後を継いだ保守派が勝利を続けます。
 しかし、1997年の大統領選では民主派の金大中が有力候補になっていました。金大中はかってKCIAに日本から誘拐された過去を持っています。金大中が当選したら、当然(笑)その後継組織である安全企画部は改組されてしまう。その時 安全企画部は何をしようとしたか。

 それを描いた物語(実話)です。


 92年、北朝鮮核兵器の開発を行っているという情報が韓国 安全企画部に入ってきました。韓国の安全保障にかかわる超重要事態ですが、情報がない。今まで何人も工作員北朝鮮に潜入させていますが、正体を見破られて殺されています。
 安全企画部は軍人のパク・ソギョンを実業家のふりをしたスパイとして北京に送り出します。ミッションは北京で外貨を稼いでいる北朝鮮とコンタクトをとって、核開発をしているかどうか、出来れば国内に潜入して情報を探り出すこと。
●パク・ソギョン(右)は安全企画部の上司、チェ・ハクソン(チョ・ジヌン)に北朝鮮に潜入するよう命じられます。

 パク・ソギョンを送り出すための準備には度肝を抜かされます。軍人だったパク・ソギョンに酒におぼれさせ、同僚に借金を繰り返し、軍から追われるように除隊させる。妻とも離婚させ、家庭も崩壊させる。その後 起業させますが、周囲に借金をさせ、また人間関係を破たんさせ、ようやく事業に成功するという筋書きを3年かけて実行、貿易関係の事業家に仕立て上げるのです。
 パク・ソギョンの事を知っているのは直接の上司の部長と安全企画部のトップ、それに大統領のみ。正体がバレても当局は一切関知しない。
 北朝鮮の眼を誤魔化すために、何年もかけて、ここまで準備する。日本のスパイがどうだか知りませんが、ここまでやる。驚きです。こんな国は敵に回さない方がいいと思います。


 やがてパク・ソギョンは北京に渡り、事業家のふりをして北京で活動している北朝鮮の対外経済部と接触します。対外経済部、とは表向きで、外貨稼ぎと諜報も兼ねています。
●対外経済部の北京所長、リ・ミョンウン(イ・ソンミン)。外貨稼ぎと諜報を行う、底知れぬ人物です。

 警戒する北朝鮮側と時間を掛けながら、信頼関係を築き、やがてパク・ソギョンは北朝鮮に招待され、金正日に面会することになります。4か月かけて再現されたという北朝鮮の建物、また特殊メイクで再現された金正日はこの映画の見所の一つでもあります。眉毛を動かすだけで人を殺せる彼がいつも連れている犬が可愛かったです(笑)。
北朝鮮にPR事業を持ち掛けたパク・ソギョンは北朝鮮側に招待され、金正日に面会します。


 韓国、北朝鮮のスパイ戦の様子は本当にすごい。裏では相手の過去や家族のことまで徹底的に調べ上げる。銃で脅したり、自白剤まで使って尋問する。そこまでやった上でお互いニコッと笑って商談をするのだから(笑)、軟弱な日本人にはまねのできない芸当です。
北朝鮮の国家安全保衛部の課長、チョン・ムテク(チュ・ジフン)。防諜を担当する彼は最初からパク・ソギョンに疑いの目を向けています。男前です(笑)。

 厳しいせめぎあいの中、パク・ソギョンと北朝鮮の代表、リ・ミョンウンの間には徐々に感情のつながりが出来てきます。お互い、祖国のために血も涙もない仕事を続けている。しかも組織の命令は絶対服従。理不尽なことだらけです。
 しかし、どんな人間にだって希望、理想はあります。血も涙もないスパイであるパク・ソギョンにとっても、餓死者が道端にうず高く積まれている北朝鮮のリ・ミョンウンにとっても、です。
●この映画での北朝鮮の描写はボクには驚きでした。立派な平壌と餓死者が道端に放置されている地方部まできっちり描写していました。その描写がお話しのなかでちゃんと意味を持っているのも素晴らしい。


 この映画は政治スリラーでもあります。
 96年4月 議会選挙で野党の形勢が有利になってくると、総選挙の6日前に安全企画部は北朝鮮に国境で武力挑発を起こさせ、緊張を高めさせて与党を勝利に導きます。北朝鮮にとっても体制維持のためには保守党に勝たせた方が良い、と金正日を賄賂とともに説得したのです。その事実をこの映画は容赦なく暴露しています。
●安全企画部の上司が持っていた『核の危機から母国を救おう』とする国家への忠誠心が次第に自身の保身に変わっていくところが、この映画では良く描かれています。
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 そして97年の大統領選挙、金大中の有利が伝えられると、与党の政治家と安全企画部はパク・ソギョンに北朝鮮武力行使を持ちかけさせます。しかし、そんなことをすればパク・ソギョンが行ってきた工作が全てパーになってしまう。彼は祖国のためと思って命がけの任務について来ました。武力行使は国のためではなく、政府のため、です。彼はどんな選択をするのでしょうか。


 ここまで書いてきて、どうしても比べてしまうのは日本の映画『新聞記者』です。
 官邸が国民をコントロールしようとする世論工作の実態を描いているとして評判になったし、ヒットしたのは良かったのですが、作品としてはボク自身 かなり物足りませんでした。はっきり言ってつまらなかった。
 何故かと言うと、あの映画は人間が全然描けていないからです。主人公の新聞記者が非常に単純、類型的であるだけでなく(単なるファザコンじゃん)、周りの人物、特に世論工作を仕掛ける内閣調査室の側の人間の心中、思いをまともに描けていないし、描こうともしていない。だから説得力が全く感じられなかった。官邸のやってることも想像の範囲内だったし。

 その点、この映画は主人公のパク・ソギョンだけでなく、その上司、驚くべきことに北朝鮮側のリ・ミョンウンや敵役の情報部将校の心中、葛藤まで見事に描いています。現実を変えるために生きる人間、保身のために生きる人間、絶対服従の組織の中で命令に従うことに疑問を持った人間、出世のために生きる人間、ここには様々な人間模様があります。

 だからこそ、物語に説得力がある。そして最後に思い切り泣かされる。まさか、北朝鮮側のリ・ミョンウンにまで共感できてしまうとは夢にも思いませんでした。超感動的なお話です。ボクとしてはそれでも北朝鮮と韓国は統一してほしくない、とも思いましたけど(笑)、手段を選ばぬ激烈な闘争を続ける二つの国家の間には日本人には中々理解しがたい複雑な感情があるのでしょう。

 同じ政治に関する実話を基にした映画でも『工作』は『新聞記者』が全然ダメだったところを軽々と凌駕し、見事なドラマに仕立てています。観た人間は誰でも権力の悪辣さ、それにその中で懸命に生きようとする人間の生き様を考えさせられるでしょう。


 まさに月とスッポン。こんな(政治)映画が見たかった! 『新聞記者』の1000倍は面白くて、遥かにためになる。政治映画としても、エンターテイメントとしても素晴らしい、見事な作品です。ボクが保証します。
●映画『サイタマノラッパー』の入江監督のtweet


映画『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』特別キャラクター映像