特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

読書『漂流 日本左翼史』と映画『百年と希望』

 とうとう辿り着きました!一年で一番楽しい時期、夏休みです。

 お休みはわずか1週間だけですが会社へ行かなくて良いというだけで、どうしてこんなに嬉しいんだろう。普段はくすんで見える世界がバラ色に見えます(笑)。とりあえず今は気分転換に東京を離れています。


 夏休みらしく(笑)、まず、読書の感想です。『漂流 日本左翼史

 72年以降 いわゆる新左翼内ゲバなどで衰退していったあと、今に至るまでの日本の左翼の歴史を佐藤優池上彰が対談したものです。60年安保までの運動を扱った『真説』、60年代末の新左翼を扱った『激動』に続く三部作の最後、3冊合わせて10万部以上売れているベストセラーです。

 本書は『左翼が弱体化し漂流する歴史』だそうです。
 将来への展望が全くなかった学生運動が崩壊したあと、70年代は革新自治体の誕生など共産党社会党の勢力はそれなりに絶頂期を迎えた、といいます。社会の雰囲気もそうだった。
 池上彰NHK時代『第一勧銀を蹴ってNHKに入社した』という新人記者を『そんな奴、NHKに来るな!』と叱ったことがあるそうです。記者と言うのは政治家や企業の悪を追求するべき職業で普通のサラリーマンであってはならない。池上彰ですら、そういう意識だったのでしょう。
 当時は国民の間で公害など高度成長への矛盾を感じる意識が高まってきたからでしょうが、70年代が社共の絶頂期であった、という見方は意外でした。

 ボク自身は左翼運動なんか詳しくないので、対談の中に出てくる70年代の『国鉄の順法闘争の意味』や『ストがそれなりに社会的市民権を得ていた』、『組合が動員するデモは大衆にとってリクレーションの意味合いがあった』という話は面白かったです。それはそうなんでしょうね。

 しかし70年代の後半から80年代にかけて、社会党内部での内部闘争(ソ連の武力を背景にした平和革命を目指す社会主義協会VS右派)や国鉄解体、国際的にもソ連のアフガン侵攻や北朝鮮への態度、ソ連崩壊などで左翼陣営は衰退していきます。

 社会党内の理論的な支柱であった社会主義協会は硬直化して時代に取り残されていきますが、社会主義協会の力が失われると社会党全体の活動家の力も失われた。結果として、佐藤優は『(結局は)社会党は東西冷戦の東側の勢力を代表する政党だった』と言っています。ちなみに佐藤は元々社会党の下部組織、社青同にいたそうです。

 一方 共産党は既にソ連や中国の影響からは脱しており、その時代に組織防衛に専念したから彼らは生き残ることができた、としています。

 現在の日本は『社会党からはマルクス主義の要素が消え去り、現実に影響を与える左翼は共産党だけになった。共産党はかっての社会党の路線『平和革命』と『平和主義』を密輸入することで生き残りを図っているが、前衛思想と民主集中制の頚城から逃れられず行き詰っている』という分析が終章に書かれています。
●終章がネットで公開されてましたので載せておきます。
news.yahoo.co.jp


 共産党にしろ、社会党にしろ、現実に対応した理想・理論を打ち出すことができなかった、のが衰退の原因とボクは思っています。70年代の絶頂期からずっと思考停止している。9条命の絶対平和主義なんかその典型です。

 社会党の中でマルクス主義を信奉していた社青同に居た佐藤優に言わせると、それは『労働者階級という階級的な視点が失われた』ということになるようです。ただ、労働者階級、と言っても今の時代、労働者と資本家ということでひとくくりに考えることはムリがある。

 階級分析で著名な早稲田の橋本教授が言うように、今の世の中 労働者と一括りで捉えるのは無理がある。労働者階級の中でも非正規と正規雇用、専門職の新中間階級と自営業など旧来の中間階級、そして正規雇用のサラリーマンと非正規雇用、また年代によっても意識は全く違います。

 佐藤の言ってることは正当な(旧来の)左翼観なんでしょうが、時代には全く即していない。
 日本だけでなく世界的な話として、上級国民と一般人だけでなく、労働者階級の中でも深刻な分断がある。その中で左翼は一般大衆と遊離して非現実的な議論に逃げ込んだ『バラモン左翼』(ピケティ)と化して、無力化している。それが現実です。
 

 また、佐藤のSEALDsへの辛い評価も面白かった。『SEALDsは組織していない運動など全く無意味なことを示して終わった』、『彼らの運動のやり方は新自由主義的だった。一部のリーダー層は名を売ったことで本来行けるはずがないレベルの大学院へ進学し、周りの学生は民青が刈り込んだ』と言っています。

 佐藤の言う『新自由主義的』というのはボクには良く判らないのですが、組織については旧来の左翼的観点から見たらそうかもしれません。
 ただSEALD'sだけでなく、その元になった再稼働反対の官邸前抗議も含めて、組織を目指していた訳ではない。むしろ組織を拒否していたと言っても良い。敢えて組織形態は持たずに参加したい人が勝手に集まるという形態だからこそ、様々な立場の人が集まることができたんです。佐藤が前巻の『激動』で肯定的に書いていた60年代初期の『ブント』もそうだったそうです。

 連合に振り回されている立憲民主党の体たらくを見ていると、組織の重要性は判りますが、様々なやり方が必要なのではないでしょうか。

 ボク自身は左翼なんかどうでもよくて、北欧流の社会民主主義的な政治を目指せばよいと思っています。社会党共産党も要らね(笑)。

 本の中には土井たか子は皇室行事・天皇大好きの尊王家だった、とか、東京選出の共産党参院議員の吉良ちゃんが池上彰のインタビューで『共産党宣言を読んだことあるか』と聞かれて『これから読む』と答えた、など面白いサイドストーリーもありました。

 左翼の失敗には学ぶべきところはあると思います。何よりもイデオロギー固執せず現実を見ること、組織は多様性を重んじ民主的に運営すること。それ以外は示唆を受けるような話はなかったですが、概要を述べた歴史書?としては面白かったです。


 と、いうことで、渋谷で映画『百年と希望

 今年7月に創立100年を迎えた日本共産党の2021年の活動を記録したドキュメンタリー。都議会議員の池川友一、衆議院選に立候補した池内さおり、赤旗の編集部、入党60年を超える党員や若い世代の支援者などを描いたもの。
100nentokibou.com


 ボクは共産党は支持できません。
 彼らの国会での政府への追及や赤旗の情報収集力は素晴らしい。ボクが行くような市民中心のデモにも積極的に参加してくる。市民目線に立っていると言う点では立憲や社民より、いいです。

 でも共産党は政策だけでなく、『消費税で輸出大企業が儲けている』とか適当な嘘をつくところが耐えがたい。また民主集中制と称した中央独裁体制は公党としてどうしても納得しがたい。
 最近 党内の一部からは『委員長公選論』が出てきているそうですが日本共産党に異変、「全会一致」にならなかった中央委員会総会(JBpress) - Yahoo!ニュース共産党を応援している人たちは、どうしてあんな嘘ばかりの独裁体制の政党を支持できるのか、ボクは不思議でなりません。映画を見に行った理由はその疑問が少しでもわかるといいな、と思ったから。

 監督は『わたしの自由について~SEALDs 2015~』が面白かった西原孝至です
『大統領選と世論調査』と映画『わたしの自由について〜SEALDs 2015〜』、それに『0506 再稼働反対!首相官邸前抗議』&『安倍政権の退陣を求める国会前抗議行動』 - 特別な1日共産党マンセーではない、まともなドキュメンタリーになっているのを期待して見に行きました。


 映画では髪型などブラック校則を追求している都議会議員の池川友一、LGBTQの権利の擁護を訴える池内さおり、二人の選挙戦が大きくフィーチャーされています。
 都議会議員が校則を取り上げるのもどうかと思わないでもありませんが、誰も異議申し立てを行わないのならやらなくてはならないのでしょう。そういうところは共産党議員の良い所。

 池内さおりはこの何年か小選挙区での挑戦を続けています。ボクはこの人は議席を取って欲しい、とは思います。しかし、小選挙区では壁は厚い。
●池内さおりの街頭演説。うしろで仁藤夢乃が心配そうに見守っています。

 大変だなーとは思いましたが、選挙戦自体は他の党の候補者と変わりません。ま、共産党の選挙には地方の顔役みたいな偉そうなジジイがいない、というのは健全ではあります(笑)。

 他にも赤旗の編集部の様子や、

 地方の共産党の活動一筋何十年(赤旗の拡売)(笑)という爺さんや東北で孤軍奮闘している党員が描かれる。
●この努力だけはすごい。ほかのやり方を考えられれば、もっとすごいけど(笑)

 共産党だけでなく、自民も創価学会も党員の高齢化が叫ばれているわけですが、若い子の活動もないわけではない。生活相談など、個人個人が善意でやっているのはわかります。だけどそれがなぜ独裁政党の共産党に結び付くのかがわからない。

 映画は共産党を賛美するようなところは全くありませんが、突っ込みもない。唯一 池内さおりを応援していた、新宿で家出少女を支援する活動をしている仁藤夢乃が『女性進出と言う面では共産党は全然ダメ。どうして比例区名簿順を男女交互にしないのか。やる気すら疑う。』と言っていたくらいでした。それこそ市井で活動している他の子が疑問を抱いていないのか、そういう突っ込みがあれば面白い映画になったのに。

 社民党よりはマシかもしれませんが、共産党の現状はこんなものです↓。参政党、れいわ、共産党とカルト政党と同列の支持率です。指導部はともかく、一般の党員は現状のやり方に希望を感じているんでしょうか(笑)。

 Twitterにこんな感想が転がってましたけど、こんなバカな話を聞かされても仕方ないんですよね。


 映画を見て、議員も市井の活動家も献身的なのは判りました。でもこの献身はどこから来るのか、なぜ彼らは中央の方針に盲従しているのか、ボクの疑問は解消されなかった。

 不快な押しつけこそ、ありませんでしたが、ドキュメンタリーとしては予定調和ばかりで物足りないです。勿論 共産党に希望なんか1ミリも感じなかった。カルト宗教みたい、とまでは言いませんが、ボクとは全く関係のない、遠い世界の話のように思えました。


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