特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『フェイブルマンズ』

 雨が続いたこの週末は久方ぶりにゆっくり過ごすことが出来ました。
 新居の片づけはまだまだですが、日曜は座椅子でのんびりしながら、整体の先生に勧められた本↓を読んでました。余命僅かの主人公が瀬戸内の小島にあるサナトリウムで過ごす話です。ボクが引っ越したのも『終活』の為ですから、親近感を覚えてしまった(笑)。

 家の住み替えを決めた11月から週末の度に雑事や掃除に追われていたので 家でのんびりと本を読む、なんて5か月ぶりです。それに普段は歴史やノンフィクション、政治や経済の本ばかりなので、小説を読んだのは数年ぶり(笑)。
 なんと素晴らしい時間の過ごし方か、と思いました(笑)。我ながら、自分自身 忙しさに紛れて大事なものを見失っている、と思わざるを得ません。

●この週末はお天気が悪すぎて、お花見という感じではありませんでした。

 統一地方選挙、札幌市のニュースを見てビックリしました。自民公明の支持する候補と立憲民主等が支持する候補の対決ですが、どちらもオリンピック招致賛成なんですね。
 ボクはネットの一部で言われている程 立憲民主が酷いとは思いませんが(他の野党が酷すぎて他に選択肢がない)、センスの悪さというか、民意とのズレは感じてしまう。地元経済界の支持を得たいのは判りますが、やはり目先のことしか考えていない。昨年の選挙で出来もしないし大した効果もない消費減税を公約に入れたのと全く一緒です。

 一方 大阪。あちらのテレビが極端な維新びいきであることは度々指摘されますけど、それだけで維新が勝てるはずがありません。対抗する側の自民にしろ、立憲民主や共産の候補の言ってることを聞いていても、彼らに投票したら政治が良くなるという感じが全くない(笑)。維新がのさばったり、NHK党みたいな連中が議席を獲得する理由は、多くの人が野党は物足りないと思っているからです。

 特に野党の側はカジノの是非より、もっと主張すべきことがあると思えてなりません。カジノなんてロクなもんじゃありませんが、代わりに『じゃあ、どうする』が聞こえてこない。
 野党やその支持者を見ていると『自分たちの主張が正しいと思い込むことこそ、危ないことはない』と改めて思います。そんなこと、60年代末の学生運動で百も承知の筈です。全員が全員、そうではないにしても、彼らもまた自民や維新同様に思考停止しているように思えてなりません。     


 と、いうことで、六本木で映画『フェイブルマンズ

 父母に連れられて訪れた映画館で映画に魅了された少年サミー・フェイブルマン(ガブリエル・ラベル)。彼は親に買ってもらった8ミリカメラを手に、模型機関車で映画のワンシーンを再現することに夢中になる。やがて家族の行事や旅行などを撮影したり、妹や友人たちが登場する作品を制作したりするなど、映画監督になる夢を膨らませていく。ダンスやピアノが大好きな母親(ミシェル・ウィリアムズ)が応援してくれる一方で、コンピューター技師の父親(ポール・ダノ)は彼の夢を本気にしていなかった。サミーは両親の間で葛藤しながら成長していくが。
fabelmans-film.jp

 スティーヴン・スピルバーグ監督の自伝的作品。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』などの名優ミシェル・ウィリアムズ、『ルビー・スパークス』などのポール・ダノ、『50/50』や尻の穴に隠した爆弾で北の将軍様をぶち殺す『ザ・インタビュー』で国際問題になったセス・ローゲン(大好き!)、ジャド・ハーシュらが出演。先日のアカデミー賞では音楽賞を受賞、作品賞、主演女優賞にもノミネートされました。


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 題名の『Fablemans』はユダヤ系の主人公一家の苗字ですが、『寓話を語る人』という意味があります。自伝的な作品ですけど、それだけのお話ではありません。寓話の魅力、魔力、強さ、悲劇性を存分に語った映画です。


 映画は主人公の少年、サミーが家族で映画を見に行くところから始まります。
●左からコンピュータ技師の父(ポール・ダノ)、サミー(中央)、歌やダンスが大好きな母(ミシェル・ウィリアムズ

 彼は列車が自動車に激突するシーンに夢中になります。今からすれば幼稚な特撮ですが、サミーには忘れがたい印象を残します。

 家に帰ってもサミーは模型機関車で激突シーンを再現しています。しかしあまり激突させていると機関車が壊れてしまう(笑)。母は8ミリカメラで激突シーンを撮れば何度でも再現できることを教えます。サミーは今度はカメラに夢中になります。

 こうやってサミーは映画撮影に引き込まれていきます。日常生活や家族の行事にはいつも、カメラを抱えたサミーがいます。

 サミーの父はまじめなコンピュータ技師、実直ですが芸術には興味ありません。一方 母はピアノや歌が好きな夢見る女性、サミーの夢を応援しています。

 ある日 家に母の叔父(ジャド・ハーシュ)がやってきます。サーカスで働いている彼はサミーに芸術の魅力、恐ろしさについて語ります。芸術は人を魅了し、人生を破壊することすらもある。しかし人間は芸術から逃れることはできない、というのです。
 そこから映画は暗転していきます。まるでマクベスみたいです。

 ある夏の家族キャンプの様子を写したサミーのカメラには、キャンプに呼ばれていた父親の部下であり家族同然の親友、バート(セス・ローゲン)と仲睦まじくする母親の姿が映っていました。カメラは人々を映すだけでなく、時には人々の人生をも破壊する。
●左から父(ポール・ダノ)、母(ミシェル・ウィリアムズ)、父の親友、バート(セス・ローゲン

 単なるスピルバーグの回想映画ではありません。主人公は映画です。映画の魅力、魔力をスピルバーグの家族を依代にして物語っている。

 『親が生きている間は作れなかった』とスピルバーグは述べているそうですが、或る意味 容赦なく描いている。スピルバーグ映画作家としての冷徹さが際立つとともに、この映画が凡庸な作品になることを防いでいます。それにしてもミシェル・ウィリアムズという人は魔性の俳優です(笑)。

 50年代から60年代、東海岸ニュージャージーから中部のアリゾナ、西部のカリフォルニアと舞台は代わり、物語も変質していきます。住んでいる地域によるのかもしれませんがド田舎のアリゾナより西海岸の方がユダヤ人差別が激しい、というのは意外でした。

 エキセントリックなカソリックである高校時代の彼女を演じるクロエ・ハーストという人も良かったです。
 それにしてもユダヤ人虐めを受けていた主人公が高校の卒業映画を撮るエピソードは凄かった。恐ろしい。

 若き日のスピルバーグジョン・フォード(演じるのはデヴィッド・リンチ!)と出会うエピソードはカッコよかったです。これ、本当なんでしょうか。本当なんだろうなあ。


 芸術の魅力に取りつかれ、傷つけられ、そして救われる。見事なストーリーテリングです。完成度が高いだけでなく、面白いです。単なる王道の映画と片付けてしまうには惜しい。アカデミー賞を総なめにした『エブエブ』のどぎつさ、革新性には霞んでしまうかもしれませんが、見逃すには惜しい、非常によく出来た映画でした。


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