特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

家畜系人類の恐怖(笑):映画『ドント・ウォーリー・ダーリン』

 今朝は冷たい雨が降る月曜の朝でした。
 目が覚めて居間のTVを付けたら、ニュースでワールドカップがどうのってやってました。またやるんですね。
 バカなマスコミは他の大事な事は報じない癖にスポーツごときで大騒ぎする。その一方 出稼ぎ労働者や同性愛者への迫害など人権侵害の問題を抱えているカタールでの開催で、BBCは開会式の放送をボイコットしたそうです。この意識の差。

 相変わらずの日本人の民度の低さには呆れます。政治家も悪いんだろうけど、国民自らが奴隷状態にいることを理解していない方が遥かに大きな問題だと思う。

 この1か月で3人、大臣が辞任しました。選挙の無い黄金の3年間と言われていましたが、岸田内閣自体は死に体になりつつあるようです。かといって後継が自民党内だったら高市とか茂木とかロクでもない奴が出てくるし、野党はお話にもならない。

 スキャンダルだらけの今の政治は酷いですが、スキャンダルを追求するだけでは社会は良くなりません。
 購買力平価での各国の年収を比較したこのグラフ、先週、成田悠輔氏も講演で引用していました。


低年収でも怒らぬ「不思議の国」日本、物価が1年で4%上昇も年収は20年間で3%増 | 今週の週刊ダイヤモンド ここが見どころ | ダイヤモンド・オンライン
spyboy.hatenablog.com

 こういうことは景気対策だけでなく、最低賃金、税制、産業構造、企業統治、様々な対策が必要で、簡単には解決できる問題ではありません。時間もかかる。

 相対的に見て日本だけが給与が上がらない、この現象はアベノミクスだけが原因ではありませんが、じゃぶじゃぶ金融緩和して円安にするアベノミクスが助長したことは間違いありません。
 かといって、物価高のインフレで皆が苦しんでいるのに、更にインフレを助長しかねないMMTとか言い張るバカは論外です。ましてや消費税を無くしても何の解決にならない(笑)。頭を使わない、他力本願と言う点では、まさに家畜系人類(笑)。

 今の教育が悪いのか、江戸時代から培われた日本人の奴隷根性なのか判りませんが、少しはマシな世の中にしていくには、まず社会に対する当事者意識が必要なように思えます。


 と、いうことで、六本木で映画『ドント・ウォーリー・ダーリン

 砂漠の中に企業が作った街、ビクトリーで、愛する夫ジャック(ハリー・スタイルズ)と暮らすアリス(フローレンス・ピュー)。この街では「夫はビクトリー社で働き、妻は専業主婦でなければならない」、「街から勝手に出てはいけない」といったルールが定められていた。あるとき、隣人が見知らぬ男たちに連れ去られるのを見かけて以降、彼女の周りで不可解な出来事が頻発するようになる。精神的に不安定になり周囲から心配されるアリスだったが、あるきっかけから街の存在に疑問を抱き始める。
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 『ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー』で、注目を集めたオリヴィア・ワイルド監督の長編2作目。この人は俳優兼モデルとしても有名です。レズビアンの女子高生二人の卒業式前夜のドタバタを描いた前作『ブックスマート』はアメリカでは大ヒット、青春映画の歴史を変えた金字塔、とまで言われました。実際 傑作でした。今作も非常に評価が高い。


 映画は50年代風のファッションに身を包んだ男女たちのパーティーから始まります。近所の夫婦同士が集まり楽しそうです。主人公のアリス(フローレンス・ピュー)は愛する夫(ハリー・スタイルズ)と仲睦まじいところを見せます。

 翌朝になると男たちは皆、50年代風の車で出勤していきます。女性は皆、専業主婦。家事をして、あとはバレエを習ったり。

主婦同士 昼間からカクテルを呑みながら夫たちの出世の噂話をだべったり。
●主人公の友人役のオリヴィア・ワイルド監督(左

 砂漠の真ん中の街の暮らしは平和で物質的にも恵まれています。まるでユートピアのようにさえ見える。


 
 舞台はアメリカの黄金期だった50年代のように見えますが、何か違和感がある。
 なぜ50年代なのか?なぜ女性たちは専業主婦なのか?夫たちが勤める企業はどんな企業なのか?この町は一体何なのか?

 この疑問は最後まで持ち越されます。観客は主人公と同じ立場におかれます。

 専業主婦の気楽な生活を満喫するアリス。しかし、ふとしたことからアリスは疑問を持ちます。


 
 この町への疑問を口にした友人が真っ赤な服を着た男たちに連れ去られるのを目撃したのです。

 ここからお話は心理サスペンス調になっていきます。

 大企業’’ビクトリー社’’が住民の身も心も支配する街で、アリスは孤立無援に追い込まれていく。いや、大企業が問題、というより、住民たちは自ら身も心も支配されたがっているのです。誰もが自分に対して疑問すらもたない。
 まるで家畜のような、無自覚な屈従は強圧的な独裁体制より、遥かに恐ろしい。この映画の恐怖はそこにあります。

クリス・パイン演じる’’ビクトリー社’’の社長

 凡百のサスペンス作品と違うのは表現がアート調になっていくところです。

 前衛的な画面に、フィリップ・グラスみたいな現代音楽が挿入されます。ここはカッコいい。

 そして終盤にはフェミニズム的なメッセージが強く打ち出されてきます。フェミニズムというか、ごく当たり前の話なのですが。 

 監督は最後に哀れな男たちの惨めな幻想を打ち砕いて見せる。本当に惨めだった。

 『若草物語』などの記憶も新しい、主演のフローレンス・ピュー、今作でも素晴らしいです。序盤の平凡な専業主婦から、中盤以降 徐々に目覚めていくのは同じ人が演じているとは思えない。彼女の演技力が無かったら、この作品は成り立たなかった。彼女を見るためだけに、この映画は観ても損はしない。

 お話自体は取っ散らかったところもあります。スッキリとはいかない。それでも表現としては質が高い。自らが望んで家畜系人類、奴隷状態になってしまうことの恐怖を見事に描いている。
 前作とは全く趣の異なる作品ですが、フェミニズムで一本筋が通っているのは前作『ブックスマート』と共通しています。ポリティカル・アート・スリラーと言ったところでしょうか。男社会の中に矢を撃ち込む野心作であることは間違いありません。


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