特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

かっこ良すぎて泣けてしまう:映画『RRR』

 ドリフターズ仲本工事氏が亡くなりました。ボクはドリフにそんなに思い入れがあるわけではありませんが、昭和の大スターがまた一人亡くなってしまったのは残念です。この人は生前こんなことを言っていたそうです。


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 ボクはダウンタウンが台頭してきたころからバラエティ番組は一切見なくなりました。理由は忙しさもありますけど、不愉快な内容のものが多くなってきた、というのが大きいです。他人をバカにして笑いを取る出演者が増えてきた気がする。

 ヘタクソな芸人だけでなく、議論より相手を論破することが目的のような橋下徹やちょっと前に騒ぎになったひろゆきが持て囃されるのもこういうことですよね。ボクはああいう連中は見るだけで虫唾が走ります。

 国会もネットも似てきている。どちらも話合いと言うより相手を敵味方にわけて、ただ責め合う、そういう場になってきたような気がします。これは第2次安倍政権の時に顕著になったことではあるけれど、そう言う傾向は小泉内閣、もしかしたらその前から始まっていたかもしれません。

 それに引き換え、仲本氏が言っていることは素晴らしい。やっぱり、大事なのはこういうことなんだと思います。昔のドリフがあんなに面白かったわけがよく判りました。ボクも『人から笑われる』ようになりたい
 昔を懐かしむ気はありませんが、テレビだけでなく世の中の雰囲気自体がどんどん劣化してきている気がします。


 と、いうことで、新宿で映画『RRR

イギリス植民地時代である1920年のインドを舞台に、英国軍にさらわれた少女を救うために立ち上がった森の中の部族のビーム(NTR Jr.)、大義のために英国政府の警察官になるラーマ(ラーム・チャラン)ら、二人の英雄の活躍を描く
rrr-movie.jp

 『バーフバリ』シリーズのS・S・ラジャーマウリ監督の新作です。実在するインド独立運動の英雄であるコムラム・ビームとA.ラーマ・ラージュを元にしたフィクションです。RRRとは「Rise(蜂起)」「Roar(咆哮)」「Revolt(反乱)」の頭文字に由来しています。
 約100億円というインド映画史上最高の制作費を費やし、本国だけでなくアメリカでも大ヒット。劇場公開が本当に待ち遠しかった。

 今のところ、ボクが最も面白かった映画は『バーフバリ』です。感動したとか影響を受けたというのではなく、純粋に面白さだけでは最強の映画でした。
 古代インドの架空の王国をテーマにした話ですが、圧倒的なスケールの迫力とアクション、絢爛豪華なセットとCG、美男美女の歌と踊り、ち密に練り上げられた脚本と、とにかく単純に面白い。前後編3時間ずつ計6時間ですが全編がクライマックスで(笑)全く時間を感じなかった。はっきり言ってサイコーです。

 今作はどうでしょうか。森の中で暮らす部族の幼い娘をさらった極悪非道なイギリス軍の総督に、兄のビーム、警察官のラーマ、二人の男が立ち向かう話です。
 最初に言うと、バーフバリと同様、良い意味でメチャクチャです。どうなってるんだ、というか、少しおかしい。素手と弓矢で近代兵器を持ってるイギリス軍と戦うんだもん(笑)。だけど説得力があるんです。
●ド派手なシーンですが、こんなの序の口に過ぎません。

 3時間続く物凄い熱量のアクション、日本映画では有り得ない巨大セットに膨大な数のエキストラ、日本なんか足元にも及ばないデジタル大国らしいち密なCG、圧倒的な質と量のダンスと歌。それでいて脚本も緻密で伏線を敷きまくり、人物描写もばっちりです。絵作りもこんな画面は見たことない、と思うような場面ばかりです。火薬の量だけでも一体 何なんだ、と思いました。ハリウッド映画が裸足で逃げ出すんじゃないですか。

●妹を英軍から救い出そうとするビーム(左)と警察官のラーマ(右)

●虎にだって負けません(笑)。

 バカ映画のように見えますが、心理描写もちゃんとしています。インド人を家畜のように扱うイギリス人たち。それに対して表面上は屈従しつつも、インド人たちが何を考えていたか、非常に良く判る。

 今の世の中、誰もが共感できることって少ないじゃないですか。アメリカでもEUでも日本でも『分断』という現象が進んでいる。お互いが寛容さを失い、いがみ合う。その裏で権力者や金持ちは赤い舌を出している。
 TVしか見ないような人向けのメジャー作品からアート作品まで、今の日本映画がやたらと家族のことを取り上げるのも、今の日本では家族のことくらいしか誰もが共感できることはないからでしょう。そのこと自体は別に悪くはないけれど、往々にしてスケールがみみっちくなったり、陳腐な作品だらけなのも確かです(笑)。

 『バーフバリ』も『RRR』も誰もが共感できる価値観、想いを一貫して追求している。現代の映画らしく女性や様々な人種、宗教に対する差別を避けながら、家族や恋人だけでなく、より広い多くの人々に対する愛、特に子供や動物に対する愛情というか『慈愛』を描いている。
 『RRR』はそれに加え、『威張り腐ったイギリス人からのインド解放』というこれまた誰もが共感できる大義があるから、バカ映画とは思えないような高揚感がある。

●このエキストラの数はインド映画ならでは。とても真似できません。

 人間離れしたアクションだけでも驚きますが、それだけでなく今作の主人公たちはとにかく精神的にカッコいい。牢に入るシーン、むち打ちを受けるシーンだけでも本当に感動した。崇高な神話のようです。主人公たちがかっこ良すぎて泣いた、というのは初めてかもしれません。目に涙が浸みて困った。圧倒的です。
 

 3時間という長尺ですが、短く感じられて仕方がない。で、エンディングは登場人物たちに監督が加わって、イギリスと戦った各地方の英雄たち(女性リーダーもいます)を模した像の前でまた、超絶ダンス。
 これがインド社会の勢いなんでしょうか。我々とはエネルギーが違い過ぎる。60年代のクレージーキャッツ映画を見ると『昔の日本はエネルギーがあったなあ』と思いますが、『RRR』はその10000倍は熱い。観客に勇気を与えてくれる。

 映画が終わってしまうのが残念でなりませんでした。3時間じゃはっきり言って短い。この映画の欠点はそれだけです。一生見て居たい。そんな映画でした。できれば、もう2,3回見たいです。


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