特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

世界は理不尽である:劇場版『荒野に希望の灯をともす』

 毎度毎度の話ですが、お休みが過ぎるのは早い。また1週間の始まりです(嘆息)。
 それでも夏の暑さがひと段落してくれて、クーラー無しで眠れるようになったのは嬉しいです。今でさえ狭い家でクーラーをかけると冷えや乾燥で体調が不安なのに、もっと歳をとったらどうなるんだ、と思います。
●大岡山の夕空。もうちょっと寒くなれば富士山が見える。


 統一教会国葬の件では多くの人が納得がいかないようです。当然です。内閣支持率は下がり続けています。

 ボクとしては岸田が辞めても代わりにもっとマシな人物が出てくるとは思えないので、死に体のまま岸田内閣が続いてもいいと思います。ところが野党が弱体化しているから、統一教会のことも放置し、原発にしても国葬にしてもロクでもないことばかり始める。
 この10年間ずっと同じことを言い続けていますが、まともな野党がないから日本の弱体化が進むんです。もちろんボクの計算では維新(ゆ党)やれいわ(バカで嘘つき)は野党の中には入ってません。

 国葬にしたって法的根拠があいまいなばかりか、118回も国会で嘘をついた奴をどうして国葬にしなくてはならないのか。

 安倍晋三ではなく、本当に世の中に貢献した人、例えばあの中村哲氏の国葬だったら、全く揉めることはない筈です。


 と、いうことで東中野で劇場版『荒野に希望の灯をともす
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 アフガニスタンパキスタンで35年に渡り、病や貧困に苦しむ人々に寄り添い続けた医師・中村哲氏。戦火の中で病を治し、井戸を掘り、用水路を建設した活動を21年間継続的に記録した映像から、これまで様々なテレビやDVD(21年3月発売)で伝えてきた内容に未公開映像と現地最新映像を加え劇場版としてリメイクしたものです。

natalie.mu

 大学卒業後 病院に就職した中村氏が登山隊の一員として訪れたパキスタンの貧しさにショックを受けパキスタンへの医師派遣に応募したこと、やがてアフガンとの国境地帯にあるペシャワールハンセン病などの治療に従事するも、更に貧しいアフガン側へ拠点を移したこと。医療以前に水が不足していることが現地の衛生事情を悪化させていることを理解するようになり食糧支援や井戸掘りを始めたこと。さらに多くの人を救いたいとアフガンの砂漠に用水路を建設を始めたことが描かれます。

 映像としてはあまり目新しいものは見当たりません。今も事業が続く中村氏の死後の現地の様子などを除けば、E-TVなどで見たことがあるものばかりです。ただ、こうやって時系列でまとまっていると判りやすいし、新たな発見もありました。

 まず、時間を経るにつれて中村氏が変貌していくこと。
 最初は中村氏が神経内科医として精神科に勤めていたのは全く知りませんでした。それが現地の状況に応じて内科、外科手術、果てはハンセン病まで治療を行うようになる。必要に駆られて、とは言え、専門外の分野の治療を行うだけだって大変なことだと思います。

 次に医師から社会運動家に踏み出したばかりか、全くの専門外の井戸掘りまで始めたこと。必要に駆られた、とはいえ、ノウハウも知識もない井戸掘りに踏み出すなんて驚きです。その頃には病院はスタッフに任せるようになっており、実質的に医者以外の存在になっていました。

 そして用水路建設を始める事。広大な砂漠に用水路を掘っていくのですから、井戸掘りとは必要な人出も労力も段違いの筈です。

 もちろん最初はノウハウも知識もない。

 良く中村氏が重機を自ら操縦する映像が流れていますが、あれだって60歳を過ぎた彼が自分で覚えたわけです。

 専門外の分野も担当する医者、食糧援助、そして井戸掘り、用水路建設、中村氏の変貌ぶりは驚くべきと思いました。

●中村氏が砂漠に作った用水路でなんと60万人の人が農業に従事できるようになったそうです。 

 映画では中村氏が用水路を建設している上を米軍の攻撃ヘリが飛び交っている光景が映っています。工事中 何度かヘリの銃撃を受けたこともあるそうです。あのヘリが1機あるだけで中村氏の使っている予算の数十倍になるはずです。実にばかばかしい。

 

 中村氏は参考人として呼ばれた国会で『自衛隊の海外派遣は有害無益』と断言したことで有名です。


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 『武力を行使しないという憲法9条が自分たちを守ってくれている』という中村氏の言葉は35年の活動実績の重みがあります。と、同時に中村氏はこの映画の中で「少なくともアフガニスタンにおいては」とも言っています。非武装平和主義がどんな状況でも当てはまる普遍的な解決策だとは彼は言っていない。9条信者とは異なり、中村氏はあくまでも現実を見る人だったのも良く判りました。

 加えて思ったのは中村氏のリーダーシップの凄さ。
 素人が井戸掘りや用水路建設に踏み出すのですから、最初は日本人スタッフだけでなく、現地の人まで反対していました。その光景がフィルムに映っています。そりゃあ、そうだと思います。素人が砂漠に用水路を作れるかどうかなんて、誰にも判りません。 
 中村氏が郷里の福岡の山田堰のノウハウを使って洪水でも流れない取水口を作ったのは有名ですが、不屈の意志とクリエイティブな知恵、その二つが両立している。 

 しかし彼は日本語で、英語で、現地語で説得し続ける。並大抵のことではありません。それこそ訳の分からない異国で大勢の人を説得し、納得させ、事業化させる。こんなことは普通の人には出来ません。

 その結果 見渡す限りの乾いた大地が緑の土地に変り、60万人の人が農業に従事できるようになった。アフガンの広大な砂漠が緑の大地に変わるということがどういうことか、映像で見て初めて凄さが判りました。

 19年に中村氏が亡くなった後も現地では用水路の延長と維持のための作業は続いています。山田堰そっくりの取水口がアフガンの人たちの手によって幾つも作られている。

 今 アフガンでは洪水と干ばつ、それにタリバンの政権奪取による国際的な経済制裁で非常に深刻な状態が続いています。
 国連は2200万人以上の人が食料不足になる恐れがあると警告しています。中村氏のペシャワール会への寄付の送金も経済制裁に引っ掛かり厳しい状況が続いているようです。それでもペシャワール会が今年初めに食糧支援を行ったのが映画にも描かれています。

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 映画の中で中村氏が「自分の活動は全て、世界の理不尽と闘うためだ」と言っていたのが印象に残っています。アフガンでは今も理不尽が続いています。程度はまるで違いますが、日本でも理不尽な出来事が続いています。
 世界は理不尽です。それは変えられない。でもその理不尽に屈従するのかどうかを中村氏は生涯を賭けて問い続けた。この映画を見て初めて、それが分かりました。


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