特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『自販機に奢られる(笑)』と『孤独の碾き臼』

 なんだかんだで、雨が多い一週間でした。考えてみれば今週の水曜は24節気の『穀雨』。雨が降るのも当然です。
 昔の人が長い時間、自然を観察して考えたのでしょうが、暦というものは良くできている、と改めて感心します。その観察力と根気は我々がとても及ぶところではありません。今の日本人の劣化具合なんか、昔の人が見たらさぞ、お嘆きになるでしょう(笑)。


 最近 勤務先でこんなものを見かけました。新しい自販機です。

 題して、『社長のおごり自販機』(笑)。
 企業内に設置した自販機のセンサーに社員が二人一緒に社員証接触させると、無料で商品が出てくる仕組みです。

 本当は『社長のおごり』ではなく、会社の経費です(笑)。ネーミングは企業によって『工場長のおごり』とか色々あるようです。要は、人間が自販機に奢られる、ということです(笑)。
 狙いは『自販機を社員同士のコミュニケーションの切っ掛けにして社内を活性化したい』だそうです。というか、それが売り込んできたサントリーのセールストークです。良くも悪くも『ウケ』を狙ったマーケティング(例の吉野家の常務みたいな輩)の考えそうなことでもあります。
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 サントリーは飲料の補充に加え、誰と誰がいつ利用したかデータを企業に提供します(笑)。社員の人間関係まで管理しようとするヒマな会社があるとは思えませんが、普段は接触が少ない部署の人が一緒に利用してくれたら成功、ということでしょう。

 ボク自身は身体に悪い糖分入りは勿論、資源を浪費するペットボトルも嫌なので清涼飲料水の類はタダでも飲もうとは思いません。しかし、この企画はなかなか好評で、サントリーは全国展開を始めたそうです。


 面白いのは、今や企業が経費まで使って社員のコミュニケーションを活性化させようとしている。また、コミュニケーション促進を商売にする企業がある、ということです。

 コミュニケーションというものは今やそんなに貴重なものなのでしょうか。活性化させることが商売になるほどのものなのでしょうか我々はそんなに孤独なのか(笑)。


 ボクのようなオールド・ロックファンはこんな話を思い出します。
 昔 ザ・ポリスというイギリスのバンドが英米で大ヒットしていたころ、有名雑誌のニューズウィークだかタイムの表紙に取り上げられました。内容は『ザ・ポリスはスタジアムで数万人の大観衆に囲まれながら、''So Lonely''と、ひたすら孤独を歌っている』という皮肉を利かせた記事でした。
 確かに愛でもなければ恋でもない、ひたすら孤独を訴える『So Lonely』にはちょっと驚きました。こんなことが歌になるんだ、と思った。40年前の話です(笑)。
●ポリスの『So Lonely』。ビデオは言葉が通じない日本の地下鉄と香港の街頭でゲリラロケされています。

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 大勢の中に囲まれていても孤独、40年前に既にそうなっていたわけですが、今やネットやコロナで大スターでない一般人までそういう状況に陥っている。

 ボク自身は人と話すのは苦手だし、1週間くらい誰とも口を利かなくても平気ですが(笑)、今の社会はお金を出してコミュニケーションを活性化しなければならないような状況みたいです。
 我々は40年前より孤独なのか。孤独ですら商売になるほど孤独なのか。


 今週火曜日の日経に示唆に富む記事がありました。『トランプ現象に代表される、近年のポピュリズムの拡大を支えたのは大衆の孤独だ』と分析した本が、アメリカで話題になっている、と言うのです。
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 ウォールストリートジャーナルのライターが書いた『“Frankly, We Did Win This Election: The Inside Story of How Trump Lost,” 』がその本です。
トランプ支持者の多くは中高年の白人である。退職や離別といった様々な事情を抱え、社会的に孤立した人々が目立つ。彼らが選挙集会に見いだしたのは、自分の居場所や他者とのつながりだった。トランプ氏の登場で人生が豊かになった』。

 実際 近年のアメリカ人は地域などの交友関係が減り、ますます孤独になってきている。

 そしてトランプを支持した人は孤独な人が多い、という調査結果もそれを裏付けています。


 孤独が広がっているのは、アメリカだけの話ではありません。記事では『世論調査会社イプソスの2021年の報告によると、孤独を感じる人々の割合は主要28カ国の平均で33%。経済協力開発機構OECD)の20年の報告では、頼れる親族や友人がいない人々が主要37カ国の平均で10%にのぼった』という調査結果を紹介しています。しかもコロナが更に孤独、孤立を助長した。

 孤独は不安や恐怖を増幅させます。見え透いた嘘やデマも信じやすくなる。不満や怒りをため込む孤独な庶民とこれをあおる指導者が共鳴し、極端なナショナリズムポピュリズム大衆迎合主義)が勢いづく。トランプやルペン、山本太郎みたいな連中が出てくるのは同じ構造です。
●資源高とアベノミクスの副作用の円安で物価が上がりまくってますが、かって『アベノミクスで景気は良くなる』と断言し、消費税廃止を説いていた学者もいました。この、立命館の松尾は山本太郎のブレーンです(笑)。



 日本だってデマ、陰謀論には事欠きません。傾向値としては、反ワクチン≒ロシア擁護≒バカウヨか山本太郎信者くらいなもんじゃないですか(笑)。


 


 哲学者のハンナ・アレントは「全体主義運動はアトム(原子)化され孤立させられた個人が作る大衆組織だ」と言っています。孤立した個人こそがファシズムの温床、という訳です。日本会議が『家族の復権』をしきりに強調するのは人々の不安を動員して、連中の大好きな復古主義権威主義的な社会に誘導することが目的でしょう。


 孤独の蔓延自体は時代の流れだから仕方がない、と思うんです。デジタル化の進展を止めることは出来ないし、今からムラ社会に戻るなんて御免です。宗教団体ならいざ知らず(笑)、企業は勿論、組合や政党も崩壊した地域社会の代わりにはなりそうもない。組織は人間を裏切ります
 そもそも都会で地域の繋がり、といっても難しいでしょう。町内会なんて冗談じゃない(笑)。ボクも今の地域に引っ越してきて試しに入ってみたけど、会費は取るけど普段は何とか交通安全運動みたいな内容ゼロの回覧板が回ってくるだけ、呆れ果てて1年で脱退しました。


 孤独は社会へのマイナス面も大きい、ことも確かです。政策として、経済的な困窮の救済や格差対策に加えて、就業・就職機会の確保、年金・医療制度の整備に加え、メンタルヘルスケアの拡充、地域社会の活性化も想像以上に重要かもしれません。そういえば、孤独対策の大臣ってあるみたいですが、何やってるんだろう(笑)。

 孤独な個人が公的な制度や扶助にも守られないまま、むき出しで市場経済に直面させられている状況を、経済学者のポランニは『悪魔の碾き臼』と呼びました。経済的困難や格差の拡大、環境破壊、言論や自由の制限、もしかしたら戦争まで、我々の生き辛さの多くは我々個人が市場経済にむき出しにされていることから起きているのかもしれません。

 我々が孤独であること、どんどん孤立していることを自覚することは大事だと思うんです。事実を直視しなければ何も始まらない。孤独を利用してポピュリズム政治家やマスコミ、吉野家の常務みたいな)マーケッターやコンサル、広告代理店など、我々を騙そうとする連中に踊らされないためにも、です。