特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

思いがけない傑作:映画『パーフェクト・ケア』

 楽しい楽しい3連休、あっという間に終わってしまいました。家の近所を散歩するくらいで無為に過ごした3日間でしたが、連休ってどうしてこんなに楽しいんだろう。会社に行かなくて良いということが自分でも不思議なくらい、楽しいです。
多摩川べりのうららかな午後


 週末 土曜日のTBS報道特集では、大阪の感染状況を取り上げていました。
 なかでも訪問医療の医師への密着取材は印象的でした。クラスターが発生した高齢者施設には行政からの支援の手が届かず、介護の人が医療的なことまでやらされて文字通り悲鳴を上げていました。まるで戦場みたいだった
 やはり記事で読むのと現場を眼で見るのとではインパクトが違います。

 なぜこのようなことが起きているのか。大阪では保健所を削減してきたことが大きな原因になっているそうです。

 その結果、こういうことになっている。大阪の人はこれでいいのでしょうか?

 まあ、東京の小池だって無為無策では似たようなものですから、大阪のことは言っていられません。

 今 イラク戦争と太平洋戦争を文化面から比較したジョン・ダワー先生の新著『戦争の文化』を読んでいます。
 第二次大戦の日本でも、米軍の空襲予告を事前に受けても疎開は禁止、B29に対して有効な防御手段が取られるわけでもなく、ただ、爆撃で大勢の人が亡くなっていきました。無為無策ということでは今と変わりません。

 戦中からアメリカの中では戦後日本の占領方針について『天皇の存続を認める条件付き降伏を認め、日本国内の良識派に政治を任せるべき』というグルーら知日派と『日本人には自治能力はなく、無条件降伏させてアメリカが指導をすべきだ』という二派の争いがあったそうです。その過程では原爆という悲劇やソ連参戦というような出来事が起きてしまいましたが、政治的には後者が正しかった。
 80年前にアメリカが喝破していたように、無能な為政者とそれを認める無責任な国民のセットこそ、この国の宿痾かもしれません。


●札幌で冬季五輪なんて言ってるバカがいること自体驚きです。そんな金がこの国のどこにあるのか。


 と、いうことで、アマゾンの配信で映画『パーフェクト・ケア

 法定後見人のマーラは判断力の衰えた高齢者に代わって資産を管理、身体のケアをする環境を整えることが仕事にしている。裁判所からの信頼も厚いマーラだが、彼女は裏で医師や老人ホームと結託して高齢者たちから資産を搾り取る悪徳後見人だった。パートナーのフランとともにビジネスは順風満帆だったマーラだったが、突如その目前に暗雲が立ち込める。新たに獲物として狙いを定めた身寄りのない中流階級の女性、ジェニファー(ダイアン・ウィースト)を老人ホームに送り込んだところ、身寄りのないはずのジェニファーの背後にはなぜかロシアン・マフィア(ピーター・ディンクレイジ)がいた。脅されるマーラたちだが「私に“負け”はない」と豪語するマーラの運命は果たして-!

 昨年12月に劇場公開された映画です。原題は’’I Care A Lot''。いっぱいお世話しちゃいます、というコメディです。
 アカデミー賞にノミネートされた傑作『ゴーン・ガール』やシリアの戦場で散った実在の碧眼女性記者を熱演した『プライベート・ウォー』のロザムンド・パイクが出ているので見に行きたかったのですが、感染が激しくなったので配信で見ることにしたのです。

 この作品でロザムンド・パイクゴールデン・グローブ賞女優賞(コメディー/ミュージカル部門)を受賞しています。

 成年後見人制度の問題点は、最近ブリトニー・スピアーズの件でも脚光を浴びたばかりです。
 10代の頃から大スターだったブリトニー・スピアーズは麻薬やアルコールで精神面で不安定になり、父親が後見人を務めていました。しかし父親は彼女の財産を私物化し、子供の養育権を奪い、彼女を馬車馬のように働かせる契約を結ぶだけでなく、盗聴や避妊リングを装着させるなど、奴隷のように搾取していたことが昨年 裁判で明らかになり、アメリカ中に衝撃を与えました。

news.yahoo.co.jp

 日本ではどうだかわかりませんが、アメリカの後見人制度は裁判所、医師、施設がグルになり、弱者から利益を得ることが合法的に行うことが出来るのです。

 ロザムンド・パイクって背筋がシャキッとしていてスタイルが良いし、深い緑色の瞳が非常に印象的な人です。ホント美しい。凄く綺麗だけど、悪人顔です(笑)。この映画でも、その悪人顔を十二分に発揮しています(笑)。

 前半30分は彼女の極悪非道ぶりが描かれます。

 ロザムンド・パイク演じる主人公のマーラは恋人のフラン(女性です)と一緒に後見人業をやっています。
 ちょっと財産がある老人、特に身寄りが居なかったり、知人が少ない老人を見つけるとグルになっている医者に認知症や身体が不自由であるとの診断書をでっちあげさせ、裁判所から後見人指名を受ける。

 そうなればこっちのもの。認知症で孤独な老人に同情するふりをして財産を処分し、高級老人ホームに押し込める。表面的には丁寧なお世話をしているけど、本人の希望や生きがいは全く無視して、携帯も取り上げて周囲と音信不通にして、死ぬまで金をむしり取る。
 合法的だけど、極悪非道、見事なビジネスです。

 ある日 マーラは独身で小金持ちの老婦人、ジェニファー(ダイアン・ウィースト)を見つけます。絶好のカモをみつけた彼女は見事な手際で、ジェニファーの家を処分して老人ホームに押し込めます。

 ところがジェニファーを押し込めたとたん、マーラの身辺には奇妙な出来事が起こり始めます。彼女とグルだった医者は殺され、老人ホームには銃を持った男たちが押しかけてくる。身寄りがない筈だったジェニファーは実は経歴を偽造していて、ロシアン・マフィアの親分の母親だったのです(笑)。


 
 主人公の極悪非道ぶりには閉口します。後見人を認定する裁判所ではビシッとスーツを着こなして品行方正、プライベートでは電子タバコをバカバカ吸いながら(吸い方が笑います)、恋人と一緒に老人を食い物にする落差はあまりにも見事です(笑)。
●右からマーラ、ジェニファー、マーラの恋人のフラン。

 しかし謎の老婦人、ジェニファーが登場すると、お話は微妙にずれ始めます。ジェニファーを演じたのがアカデミー俳優の名優ダイアン・ウィーストというのが非常に効果的です。一見 弱々しく見えますが、実は異常なド迫力(笑)。

 人を殺すことを何とも思わないロシアン・マフィアは怖いのですが、マーラたちがやっていることがあまりにも酷いので、全然怖くありません。むしろマフィアの方が正義の味方に見えてしまう(笑)。この発想の転換は最近の傑作コメディ『ドント・ルック・アップ』とも共通してますが、実にお見事です。笑えないけど、笑える

 ロザムンド・パイクのファッションも見ていて楽しいし、身体を張ったアクションもあります。

 何よりも主人公マーラの造形が素晴らしい。極悪非道だけど、勇猛果敢。男には全くこびない自然体で女を武器にしない。恋人も女性だし、こういう主人公が描かれるようになったんだな、と思いました。 
私に’’負け’’はない』なんて、これからの映画史に残るようなヒロイン像かも。銃をちらつかせるマフィアに『正々堂々とかかってこい』と挑発するところなんか笑いました。自分の方がよほど酷いのに(笑)。

 軽い気持ちで見始めたんですが、お話が進むにつれどんどん引き込まれていきます。はっきり言って滅茶滅茶面白いです。

●エキセントリックなマフィアのボス(ピーター・ディンクレイジ)もおかしい

 (ブラック)コメディではありますけど、もはや傑作の部類かもしれません。単に後見人制度だけでなく、女性の社会の進出や格差など世の中の問題点をえぐりつつ、苦い笑いが残る。ロザムンド・パイクのファッションも決まってるし、爽快感もある。とにかくお話が素晴らしくて、何よりも見ていてすごく楽しい。

 思わぬ拾いものでした。こんなに質が高いとは思わなかった。映画館や配信などで見かけたら、ぜひチェックされることをお勧めします。


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