如何にも秋らしい、さわやかなお天気の1週間でした。
立憲民主の枝野氏が代表を辞任したのはちょっと驚きました。そこまでの話ではない、と思っていたからです。選挙の詳しいことも判ってきたので、結果も含めて今後のことをもうちょっと考えてみたいと思います。
まず、事実を振り返ると、立憲民主は野党共闘の結果 小選挙区では議席を増やしましたが、比例で大幅に議席を減らした。
その大きな理由の一つは無党派層が少なからず維新へ投票したからです。今回も立憲民主は依然 無党派の最大の投票先でしたが、それだけでは足りなかった。リベラル寄りの人は自民の基礎票より少ないのだから、無党派の票を大量に取らなければ選挙には勝てない。立憲の支持者でも比例区は維新へ投票した例すらあったらしい。
身の回りを見れば誰でもわかると思いますが、特定の支持政党をもたない無党派の人の多くは中道寄りです。リベラルというほどではない。立憲民主は野党共闘の中では最も中道寄りですが、無党派層は今の立憲民主の立ち位置より右の人が多い。そこを維新がさらっていった。
立憲民主の第1の敗因は『無党派層を取り逃がした』。野党は共闘は続けつつも、無党派層(もっと右寄り)を狙っていかなければいけない。
更に今週のBS-TBS『報道1930』で田崎史郎や石破茂、福山哲郎、小川淳也など出演者が口を揃えて言っていたのは『立憲民主の地方組織はまだまだ弱い。自民党は勿論、維新と比べても弱い。維新は関西には地方議員が大勢いて活動するのに対して、立憲民主の組織は以前の民主党、民進党より弱体化している』そうです。
ボクが普段見ている限り、東京ではこの2年くらい立憲民主は国会議員(候補)と都議会議員がセットになって活発に活動していました。その結果 東京の小選挙区の議員は倍増した。逆に議席を減らした地域は確かに組織が弱いのでしょう。『組織力が弱かった』、これが2つ目の敗因。
「選挙区ごとに府議市議を責任者や事務長として配置。計約260人に上る首長と所属議員を実動部隊として総動員…期日前投票所の前に議員を張り付け、投票する直前の有権者に支持を呼びかける人海戦術を展開。接戦区には、所属議員を一運動員として集中投入」
— 太安萬侶(おおの やすまろ) (@onoyasumaro) 2021年11月3日
維新のこの物量を打破する運動を作らねばだ。 https://t.co/yhemv8O128
ただ、時系列で結果を見てみるとそんなにひどい結果とは思えない。
事実 今回は比例票だって旧立憲よりは増やしています。一方 躍進したという維新ですが数年前に戻っただけ、橋下時代のピークには戻っていない。
比例票 2012
— ツイッター政治おじいちゃんお化け (@micha_soso) 2021年11月3日
民主 962万 30議席
維新 1226万 40議席
比例票 2014
民主 977万 35議席
維新 838万 30議席
比例票 2017
立憲民主 1108万 37議席
(希望) 967万 32議席
維新 338万 8議席
比例票 2021
立憲民主 1149万 39議席
維新 805万 25議席
幹事長の福山氏なり誰かが責任をとるべきでしょうが、枝野氏が辞めるまでの話ではないと思う。敗因をもっと詳細に分析し、改善策を作る方が遥かに大事です。
立憲・共産は投票者の半分が60代以上、一方 維新、れいわ、国民は60代以上の支持は3割程度、それより40代、50代の現役世代の支持が高かったそうです。若い人たちにとっては立憲や共産は維新やれいわより保守的に見えるからです。
逆に改革のビジョンを打ち出して、この層を取れば圧倒的な勝算が出てくる(後述)。
●高齢者ばかりが立憲や共産を支持しているのは、複数のソースを挙げておきます。
news.yahoo.co.jp
古谷経衡@新刊『敗軍の名将-インパール・沖縄・特攻』 (幻冬舎新書) 重版決定! on Twitter: "10代の棄権率が59なので、正確にはこんな感じのグラフになるですね。… "
立憲民主も世代交代は必要だし、枝野氏があっさり辞めることでイメージアップを図れるかもしれませんが、立憲にも他の野党にも、そんなに人材が居る訳ではありません。
先の民主党政権のように、今度は『始めてだから』なんて訳にはいきません。行政経験と法律か経済の専門知識があって閣僚を務められる人材じゃなければ野党第一党のリーダーなんか任せられない。素人に判断力がある訳がないからです。ボクも普段 経理やシステムなど専門家に仕事を頼むとき常に体験していることですが、ブレーンや役人を使うのだって知識や経験が必要です。
振り返ると、立憲民主党は市民の間からできた政党です↓。まだまだ成長の途中です。政治家を育てていくことが大事なのに、使い捨てにするのは絶対おかしい。枝野氏の捲土重来を期待します。
●結党当初17年10/9、SEALD’Sなどが主催した街宣に参加した枝野氏と福山氏。二人とも学生たちが用意した脚立に載って演説しました。
●17年の選挙前日、10/17。珍しい白ジャンパー姿の枝野が皆の前で演説しました。組織も何もなかったこの時からまだ4年しか経ってない。
それより今回の選挙は相変わらずの低投票率、野党も含めて当選者がジジイばかり、ということの方が遥かに問題です。
今後に向けて、立憲民主はどんな社会を目指すのか、将来のビジョンをはっきりさせるべきだと思います。
今回の立憲民主の公約は非現実的な酷いものでした。『バラマキばかりの公約が酷かった』、これが立憲の敗因の3つ目ではないでしょうか。
消費税の時限減税や所得税免除など非現実的で効果がない政策を並べれば、まともな人は怪しいと思うに決まっています。立憲は共産党やれいわのアホ共に引き摺られ過ぎた。減税衆愚の連中に媚びへつらった経済政策を立案した江田憲司こそ大きな責任がある。
将来のビジョンがはっきりしていれば、共産党やアホのれいわのインチキ政策に引き摺られることもないし、自民の’’立憲共産党’’のようなデマめいた揶揄も笑ってすますことができる。野党共闘をどうするか、なんて論点じゃありません。
少なくとも選挙協力は続けていかないと選挙には勝てません。どんな社会を目指すのかをはっきりさせれば、共闘や選挙協力の形は自ずから決まってくるでしょう。野党共闘ではなく、立憲の政策が悪かった。
今の政党別のスタンスを見ると方向性はこのような感じでしょう。縦軸は福祉の充実度(大きな政府/小さな政府)、横軸は経済活動で見てみました。
敢えて言えば 今回の野党共闘の政策は左上の象限、『高福祉、経済は規制・保護』でしょう。手当など福祉の拡充や減税をするなら負担は増えるけれど、そこは頬かむりし、経済は農家の所得補償など昭和の規制・保護を維持。
バラマキをするのに財源を具体的に示さない時点でまともな人はついていかないし、福祉拡充や規制・保護は若い人には昭和に逆戻りに見える。皆 民主党政権時代の『埋蔵金』で懲りている。立憲民主のもう一つの敗因はロクでもない公約じゃないですか。
選挙の翌日に出た週刊東洋経済で、立憲民主の小川淳也氏が政治学の五百旗頭東大教授との対談で良い事を言っていました。
『政策面で「低福祉・低負担」と「高福祉・高負担」のどちらを選ぶかと聞いたら、若い人ほど「高福祉・高負担」を選ぶ。つまり、みんな負担が嫌なのではなくて、税を預ける政治に信頼が置けない』。
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山本太郎みたいな連中が言う「高福祉・低負担(消費税ゼロ)」は物理的に不可能です。あれは『政策ではなくウソ』。
それはともかく、小川氏が言うように政党や政治家を市民が『信頼する』というのはかなりハードルが高い。ボクだって立憲民主も含めて政党は一切信用していません。減税や福祉の拡充を言うのなら、増税の話も具体的でなければ信用できません。
インタビューで小川氏が言っているこのような話こそ、現実的な話だと思います。
『立憲民主党は現在、消費減税をうたっているが(中略)、長期的には法人税や所得税の累進性回復、相続税や消費税等も含め、北欧型の税制改革(*増税)を議論せざるを得ない。これは財務省的な財政収支偏重論ではなく、社会全体を持続可能なかたちにソフトランディングさせるための、政策の全体像を踏まえた取り組みだ』
少子高齢化、落ち目の経済と選挙に行かない無責任な国民、今のままでは日本は持続不可能です。トヨタや素材など一部の競争力がある輸出産業があるから何とかなっているだけで、電気自動車などで産業構造が変わったらアウトです。日本はエネルギーや食糧などの資源を輸入するカネがなければ、やっていけない。
例えば食料自給がどうのって言いますけど、日本の農業なんて石油漬けなんだから、自給なんか元々不可能です。今だって外国人労働者頼みなのに食糧自給のためにTPP反対なんてバカの極み(笑)。平和と自由貿易を守り、競争力の高い産業を維持するしか、日本の食糧自給なんかあり得ない。
じゃあ、どうするのか。上のマトリクスで言うと、方向性は4つです。
アメリカのような『低福祉・低負担/自由競争経済』、北欧のような『高福祉・高負担/自由競争経済』、フランスのような『高福祉・高負担/規制&保護の経済』、昭和のような『低福祉・低負担福祉/規制&保護の経済』(正確には中負担・中福祉ですが)。
ボクは右上の象限、北欧のように『高福祉・高負担/自由競争経済』日本には北欧型の「積極的労働政策」が必要だ | 政策 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース、この路線で行くのが良いと思います。
フランスは『高福祉・高負担』ですが、経済面では組合や資本面での規制・保護も大きいから、高失業率や経済成長では課題を抱えている。何年もかけて、彼らもだいぶ自由競争の方へ寄ってきている。
スウェーデンもフィンランドも『高福祉・高負担』ですが、経済面では自由競争です。企業が潰れても労働者個人は救うけど企業は救わない。それによって高福祉と経済の効率(財源)を両立させている。日本とは全く正反対です。
スウェーデンのサーブ(自動車)は救済されずに潰れてしまったし、フィンランドのノキアは世界1のガラケー屋でしたが、スマホが出て携帯がダメになったら通信インフラ屋へ転換しました。企業は救済されないから、無くなっていく産業から新しい産業へ人は移動していかざるを得ない。その代わり失業者は国が手厚く失業給付をして、職業訓練をする。教育費は大学まで無料だから、これからの時代に必須な高等教育を受けられる人を増やすことができる。
今の日本は企業は助けるけど、個人は助けない。日産や東芝のように政府や経産省が小狡い手で存続させることまでやるけれど、失業者が出ても非正規労働者が増えても知らんぷり。
『高福祉・高負担の福祉国家と自由競争経済を両立させた北欧型の社会』こそが戦後民主主義の次のパラダイムだと思う。
そうなったら、日本の姿は大きく変わらざるを得ません。間違いなく揉めますが(笑)、だからこそ改革です。野党はリベラルな改革政党として生まれ変わることができる。確かな変革の道を指し示せれば、現状に閉塞感を抱えている若い人の支持も取れるはずです。
北欧諸国のように福祉を充実させるだけでなく、他国と競争するためにも教育費は無料。低所得層のためにも年金保険料は税負担に変える。そうすれば年金の持続可能性も解決するだけでなく、景気回復の効果も消費減税より遥かに大きい。
そのためには20~30兆くらいかかる。所得税の累進税率アップや金融取引課税だけじゃ財源は足りないから、消費税も増税する。ホントは相続税を100%にすればいいんですが(笑)。
経済面では原則 自由競争に任せる。農業や漁業への企業参入解禁なんて当たり前。グリーンやAIなど成長産業への政策的な投資は税金も使うけど、経済効果が見込めない農家の所得補償や商店街への補助金は廃止する。大企業、中小企業を問わず潰れる企業は救済しない。その代わりに労働者個人への失業給付や転職や起業の支援を拡充する。
公共インフラや福祉・医療など公的に維持する分野と民営化しても良い分野ははっきりと峻別する。社会として必要なものは税金で維持する。赤字だからこそ税金で維持するんです。そのための財源を出すためには他の経済分野は効率化が必要です。
既得権益を抱えた層は猛反対するでしょう。旧態依然としたアホなリベラルやれいわの減税衆愚も反対する。でも無党派層と現実的なリベラルを合わせれば、それ以上の人たちがいるし、日本の将来に僅かながらの光明も見えてくる。
野党が真剣に高福祉を唱えるなら、勇気をもって消費増税も含めた増税を唱えるべきです。そして政治家にお任せでなく、当事者である市民も意見を言っていかないと改革は実行できない。小川氏が言う、市民から政治家への信頼は市民が政治参加するプロセスの中でしか生まれません。
将来の方向性はある程度見えています。あとは市民が勇気ある政治家を選べるかどうか、そして市民が政治に関心を持ち続けることが出来るかどうか、じゃないでしょうか。
余談ですが、話題の小川淳也氏が党首選に出ると言ってますが、どうでしょうか。彼の人柄や頭脳はOKだし、『立憲は共闘を維持しながら、もうちょっと右にウィングを広げるべき』や『北欧型の社会を目指す』という彼の意見はボク自身のものと非常に近い。
しかし立憲民主の中でも彼はまだ無役です。彼の組織を動かす力、それにリーダーとしてのしたたかさ、勝負勘は未知数です。まだ彼は育てる段階の政治家です。将来の日本のために、彼こそ使い捨てにされないことを望みます。